AXはじめの一歩:社内データ×自律思考型AIによる業務変革【講演リポート】
2025年08月04日掲載
ソフトバンク最大規模の法人向けイベント「SoftBank World 2025」が、今年も7月16日に開催されました。ソフトバンク株式会社の創業者 取締役の孫や、社長の宮川、専務執行役員の桜井による講演では、AIエージェントやASIのビジョンが語られ、どの講演も満席となるほどの盛況ぶりでした。この記事では、それらのビジョンには共感する一方、具体的な進め方が分からず現在のAI施策に悩みや不安を感じる方向けに、企業が抱える課題や乗り越えるヒントをお伝えします。
本記事は、2025年7月16日に開催されたSoftBank World 2025での講演を再編集したものです。
はじめに
本講演では、ソフトバンクグループの100%子会社であるGen-AX株式会社(以下、Gen-AX)でエバンジェリストとして活躍する鈴木と、企業内でのデジタル活用や生成AIの推進を牽引されている株式会社メンバーズ(以下、メンバーズ)執行役員の白井恵里氏が登壇し、AXに取り組むためのはじめの一歩と題し、トークセッションを行いました。
冒頭で鈴木は、同日に行われた講演の内容を振り返りつつこのように挨拶をしました。
「本日、孫や宮川の講演で、10億エージェントであったり、クリスタルインテリジェンスに向けた我々のさまざまな取り組み、仕掛けをお聞きいただいたかと思います。本日の講演内容を受けて、『うちAI活用の状況はどうなってるんだ?』『AXを進める準備や、クリスタルレディな状態は整っているのか?』という宿題がやってくるかもしれません。そこでこのセッションでは、各企業のリーダーとなる皆さま向けに、AXをはじめるために役立つ内容を、白井様とパネルセッション形式でお伝えしていきたいと思います」
(特別講演のリポート記事はこちらからご覧いただけます:孫正義 特別講演リポート,宮川潤一 特別講演リポート)
鈴木は、同日に行われた専務執行役員の桜井による基調講演の中で、Gen-AXの代表取締役社長 CEOの砂金が発表した新プロダクト、『X-Ghost(クロスゴースト)』について動画を交えながら紹介し、自律思考型のAIオペレーター を実現するコールセンター現場における新たな可能性について紹介を行いました。
続いて、メンバーズ 執行役員の白井氏が登壇。まずはご自身と所属企業についてご紹介がありました。
「メンバーズの白井恵里と申します。弊社のデータ活用支援サービスではデータ領域に特化したプロフェッショナル人材を常駐させながら、クライアント企業のデータ活用戦略や生成AI活用のプロジェクトを、戦略立案から実行、運用まで包括的に支援することで、現場の内製化と自律化を推進しています。また、一般社団法人Generative AI Japanの理事として、生成AIの社会実装と普及にも尽力しております」
同日に行われた孫、宮川による講演について意見を求められると、白井氏は次のように感想を述べました。
「特に孫さんのお話はビジョンが大きく、10億エージェントの実現など、今はまだ誰も想像できない未来の先に、あらゆる可能性を感じてわくわくしています」
トークセッションの様子
パネルセッション①:AIで成果を出すために突破すべき課題
パネルセッションは、AI導入における企業の具体的な課題に焦点を当てて進められました。
鈴木:「昨年までは、生成AIの活用推進というところがテーマとして与えられていて、1日何回使うかや、全体としての活用率が何パーセントかなどを追っていたと思います。そして今は成果の部分、いわゆるROIが問われている段階になっていると感じていますが、その点に関してどうでしょうか?」
白井氏:「ChatGPTなどの対話側生成AIを導入する企業が増え、社内浸透を進めたり活用推進する動きとしては1周した印象です。ではここから、どう具体的で有効なユースケースを出していくかというところで、うまくいってる企業と足踏みしてる企業に分かれてきてる印象を受けています」
AI導入の成果を阻む要因として、メンバーズが実施した「攻めのDX実態調査2025」の結果を交えながら白井氏はこのように続けます。
白井:「本調査で注目して欲しいのは、資料の中段『達成度認識差 20pt以上』の部分です。ビジョン・経営コミットについて、上層部と現場に認識ギャップが生じていることを示していて、この部分が成果を阻む要因の一つであると言えます」
続いて鈴木は、桜井の基調講演を振り返り、AIの活用にはデータ、セキュリティ、ガバナンスが重要であることを述べ、その中でも「データ」について白井氏と話題を広げました。
白井氏:「よくお客さまから、AI導入後、期待する精度が出ないという声を耳にします。全員で使ってみようと現場に環境を開放しても、思うようなアウトプットが出なければ次第に使われなくなってしまいます。企業独自のナレッジを反映したデータをAIに食べさせられてないっていう状況が非常に多く、それが原因だと言えます」
必要なデータに絞って収集・整備することの重要性を鈴木はこう続けます。
鈴木:「先ほど紹介したX-Boostのように、AIの回答精度を高めるには、裏側でプロセス設計が整っていることが前提です。しかし日本を代表する大企業でもきちんと整備されていないケースが意外と多いのが現実です」
白井氏:「ご支援している企業の多くで、既存のデータを整理して活用するケースもありますが、実際には“再取得した方が良い状態”になっていることが半数以上に上ります。特に、そもそも必要な情報そのものが欠損している場合には、取り直しが避けられません。
つまり、“データがある”ことと、“使える状態になっている”ことは、必ずしもイコールではないのです」
データ整備に取り組む上で重要なのは「ユースケースを先に決めること」だとし、このように続けました。
白井氏:「目的が明確であれば、必要なデータの種類も見えてきます。あちこちに手を出すのではなく、ユースケース単位でデータを集約する方法をおすすめしています」
鈴木「トップダウンで進められる会社は良いですが、そうでない場合はどうすればいいでしょうか」
白井氏「トップダウンの支援がない企業では、“人が行っていて成果が出ている業務”をAIに置き換える方法が有効です。例えばコールセンターやカードの与信審査などは、成果を変えずにAI化しやすい領域です。業務の中核でありながら、導入効果も見えやすい点が特徴です」
鈴木:「AIの導入はノンコア業務から始めるケースが多いですが、“成果を変えずに効率化できるか”という視点で見ると、むしろコア業務の方が適している場合もあると感じています」
パネルセッション②:PoC止まりを抜け出し業務変革を起こすには?
続いてパネルセッションの2つめテーマとして、AI導入における大きな課題である「PoC(概念実証)」で検討が止まってしまうことについてディスカッションを続けました。
鈴木:「PoCをはさんだものの、検証の段階で疲弊してしまい、その先に進めないケースを多く見ています。失敗するパターンや成功事例の違いはありますか?」
白井氏:「PoCは本来“ビジネス的に有効かどうか”を検証するものですが、技術的な検証だけに終始してしまうと意味がありません。ROIが出るのか?という観点で見られなくなり、設計段階でつまずいてしまうケースが多くあります」
さらに、「必要なデータがそろわない」「社内ルールがボトルネックになる」などの実務的な障壁も挙げ、その間にPoC期間がタイムアウトしてしまうケースも少なくないと述べます。こうした”PoC止まり”を回避するために、普段どのようなアドバイスをされているのか、白井氏に問いかけました。
白井氏:「3カ月で成果を出すことを前提に、テーマ選定をすることをおすすめしています。経営層の判断や指示内容は、状況や優先度の変化に応じて柔軟に見直されることも少なくありません。だからこそ、限られた期間内で確実に成果が期待できるテーマをPoC段階で選定することが、PoC止まりを防ぐための重要なポイントだと考えています」
また現場の実態にも触れ、こう続けます。
白井氏:「そもそも現場の担当者は、現状の業務が問題なく回っているため、新しいツールの導入に対して緊急性や必要性を感じにくい傾向があります。そのため、経営層からのトップダウンの指示があっても、現場での具体的な動きにつながりにくいケースも見受けられます」
鈴木:「アーリーアダプター※的な存在を配置して、小さな成果をつくるのが有効ですね」
白井氏:「はい。そういう人たちを中心に、まずはチーム内で事例を作ってもらい、それを横展開していくのが良いと思います。ボトムからの草の根の動きと、トップからの支援、両方を組み合わせていくことが重要です」
※新しい商品やサービスが市場に登場した初期の段階で、積極的にそれを試す立場の人
小さな成功からはじめる、AXの現実解
トークセッションの最後には、これからAXに取り組もうとする企業に向けた「具体的な第一歩」について話が及び、鈴木は自身の考えを交えながらこう語りました。
鈴木:「いきなり“このツールを使ってください”といった『What』から話しはじめると、現場の方から“自分たちの課題を本当に分かってるの?“と不信感を持たれることがあります。やはり『Why=なぜやるのか』からはじめ、『How=どうやるのか』、そして最後に『What=何を使うのか』という順番で説明することが重要だと感じています」
白井氏:「仕事は上から命令された瞬間、“こなすもの”になってしまいます。でも、“それを達成するとどうなるか”という目的が共有されていれば、仕事が“自分ごと”になります。組織の中で夢を描くことも大切だと感じています。孫さんの講演のお話のように、大きなビジョンを語る姿勢はとても重要だと思っていて、それがたとえ現場の目線からは少し遠く感じられるようなスケールの話であっても、『自分たちはこうなりたい』という未来像を示すことが、組織を動かす力になると思います」
最後に、お二人からAX推進を志す企業へのメッセージが送られました。
鈴木氏:「今年のSoftBank World では孫の講演に始まり、壮大な話が続きました。現場の皆さまには途方に暮れるような感覚もあるかもしれませんが、いきなり全てでなくていいので少しずつ成果を出し、着実に進めていくことをおすすめします」
白井氏:「いきなり大きくはじめたり、全社展開を目指す必要はありません。まずは環境を区切り、小さな成功体験を積み重ね、仲間を増やしていくことが大切です。最初から完璧を目指すのではなく、まずは“やってみる”そこから変化が始まります」
AXは遠くにある未来の話ではなく、今いる現場から少しずつ形にできるテーマです。完璧を求めるよりも、『できるところから一歩踏み出す』それが成果の積み重ねを生み、組織に前向きな変化をもたらす起点となり、やがて企業の未来価値を大きく動かしていくことにつながるはずです。
AIによる記事まとめ
この記事は、2025年7月に開催されたSoftBank Worldの講演を編集したものです。生成AIを活用した業務変革(AX)の始め方や、成果を出すための工夫について紹介します。
※上記まとめは生成AIで作成したものです。誤りや不正確さが含まれる可能性があります。
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講演の内容をYouTubeで配信中
レポートではお伝えしきれなかった講演の様子を動画でご覧いただけます。ぜひご視聴ください。