AIネイティブオペレーターへの挑戦 SoftBank World 2025 講演レポート
2025年8月5日掲載
ソフトバンクは、通信とAIを融合させることで、AIそのものが社会に行き渡る次世代インフラの構築に取り組んでいます。全国に広がるモバイルネットワークにGPUを組み込み、AIの処理をリアルタイムで届けるという、まったく新しいネットワークの姿が見え始めています。本講演では、先端技術研究所 所長の湧川が、こうした技術的チャレンジとともに、「AIネイティブオペレーター」 という未来の通信事業者像、そして実証が進むユースケースについて語りました。
本記事は、2025年7月16日に開催されたSoftBank World 2025での講演を再編集したものです。
事業に直結する研究を担う「先端技術研究所」
2022年4月に設立された先端技術研究所は、ソフトバンクの技術戦略を担う先端技術開発部門として、事業に直結する研究を進めています。湧川は先進技術研究所の活動領域から熱く語り始めました。
「『技術は羅針盤』という考え方のもと、私たちは技術に裏付けられたビジョンを描き、それをどう社会実装につなげていくかを考えながら研究開発を行っています。論文を書くことや基礎研究を目的とするのではなく、2〜3年後の事業開発に直結するようなテーマを中心に取り組んでいるのが特徴です。
現在は、AIを軸に、無線・ネットワーク・センシング・自動運転・HAPS・量子暗号など、約70のプロジェクトが並行して進行中です。AI関連のプロジェクトとして取り組んでいる一つが、通信業界に特化した生成AIの基盤モデル『Large Telecom Model』の開発です。通信ログやネットワーク制御、カスタマー対応など、オペレーター業務には膨大な時系列データが蓄積されており、それらを活用して、業界固有の知識を備えたAIモデルを作っています。現在、社内ネットワークでの実運用も始まっています。
さらに、2030年に向けた6G開発の一環として、東京・銀座では7GHz帯の電波伝搬試験を開始。また昨年は、米国・サニーベールにも拠点を立ち上げ、NVIDIAと連携したAI-RANの共同開発も本格化しています」
AI-RANとAITRASが支える通信とAIの融合
「今私たちが注力しているのが、『AI-RAN』という新しいネットワークアーキテクチャーです。これは、GPU上で無線アクセスネットワーク(RAN)を動かしつつ、そのリソースを柔軟にAIの推論処理にも活用するという考え方です。従来、RANの処理は専用ハードウェア上で行われていましたが、これをソフトウェア化して汎用GPUサーバー上で実行することで、柔軟性と効率性が飛躍的に向上します。
この構想を具体的なプロダクトに落とし込んだのが『AITRAS(アイトラス)』です。
AITRASでは、1台のGPUサーバーで20セルの基地局処理を同時にこなす実証にも成功しており、従来の専用機では考えられなかった処理規模と電力効率を実現しています。
また、通信インフラというのは通常ピークトラフィックに合わせて設計されるため、深夜など利用が少ない時間帯にはリソースが余ってしまいます。AITRASでは、こうした余剰リソースをAIの処理に有効活用できるため、設備の稼働率を上げながら、通信とAIの両立が可能になります。こういった技術の進化が、ネットワークそのものの役割や意味を大きく変えつつあると感じています」
分散AI基盤とAIオーケストレーターの構想
「AIが社会のあらゆる場面に浸透していく中で、どこでAIを動かすのかという配置の問題が、今とても大きくなってきています。これに対して私たちは、クラウドでもエッジでもない第三の実行環境として、全国規模の分散AI基盤を構築しようとしています。
具体的には、苫小牧や堺に建設中の大規模データセンター、いわゆる『Brain DataCenter』に加えて、地域単位で配置される『Regional Brain』という処理拠点を組み合わせた階層構造のAI実行基盤を考えています。この仕組みを動かしていくために欠かせないのが、『AIオーケストレーター』です。これは全国に分散されたGPUの空き状況や、電力需給、再生可能エネルギーの有無などを踏まえて、AIが自律的にどこでAIを動かすかを判断していく仕組みです。
今後は、例えば再生可能エネルギーが豊富な地域に処理を寄せるといった、電力最適化の観点も取り入れていく予定です。こうした柔軟な構造があって初めて、AIを社会全体に行き渡らせるための土台が整っていくと思っています」
ソフトバンクが目指すAIネイティブオペレーターとは
「これからの通信事業者に求められるのは、単に音声やデータを届けるだけではなく、AIそのものを社会に届ける存在へと進化していくことだと考えています。
現在、AIの推論処理は主にクラウドかエッジデバイスで行われていますが、クラウドは物理的な距離があるため、どうしても遅延や障害リスクがついて回ります。一方で、エッジデバイスには処理能力や電力面での限界がある。さらに、5Gネットワークが登場したとはいえ、高速化されているのは無線区間のみで、その先にあるクラウドまでの経路には200ミリ秒ほどの遅延が発生します。結果として、ユーザーが『5Gのすごさ』を体感できていないという課題があります。
そうした構造的な課題に対して、私たちは『AI-RAN』という新しいアーキテクチャーに取り組んでいます。全国に広がるモバイルネットワークの拠点にGPUを分散配置し、AIの推論処理をネットワークのすぐそばで実行する。そうすることで、まるでその場でAIが動いているようなリアルタイム性が実現できます。クラウドにもエッジデバイスにも依存しない、『第3のAI実行環境』を作るというのが私たちの狙いです。
こうした取り組みの先にあるのが、『AIネイティブオペレーター』という次世代の通信事業者の姿です。通信インフラを基盤に、AIをあらゆる社会シーンに届けていく。そこに、ソフトバンクとしての使命と挑戦があります」
AI-RANアライアンスによる業界連携
「AI-RANやAITRASの取り組みを加速するために、私たちは2024年にNVIDIAやArmをはじめとした企業とともに『AI-RANアライアンス』を設立しました。現在では100社を超える企業・大学・研究機関が参加し、通信とAIを融合させた新たなネットワークインフラの共創に取り組んでいます。
このアライアンスは標準化を前提とせず、あくまで実装ベースで高度化を目指すというのがポイントです。従来の通信業界では、標準化には数年以上もの長い時間がかかりますが、それでは進化が追いつきません。だからこそ『非標準』というアプローチをとり、イノベーションのスピードを保つようにしています」
AITRAS実現を可能にした技術的背景
「AI-RANやAITRASの構想が、今まさに実現へと進み出している背景には、GPUアーキテクチャーの大きな進化があります。近年の設計では、GPUとCPU間のメモリ転送を必要としない統合処理が可能になり、通信インフラに求められる高速性や低遅延性を飛躍的に高めています。
実際、慶應SFCキャンパスでの実証実験では、1台のGPUサーバーで20セルの基地局処理を同時にこなしています。これは従来、専用ハードでしか実現できなかった処理規模であり、設備コスト・電力効率・処理性能のすべてにおいて高い競争力があるという結果を示しています」
社会実装に向けたユースケースの広がり
「AI-RANはさまざまなユースケースが考えられます。またいくつかのケースでは実証実験も開始しています。
例えば工場でのロボティクスや物流の最適化。AIによる高速・高精度な処理が求められる環境では、クラウドだと遅延がネックになりますが、AITRASを使えばエッジ側で推論処理を完結できる。これはまさにその場でAIが動いているような使い方ができるということです。
また、インフラ点検では、橋やパイプラインといった老朽化した設備の点検にAIを活用しています。スマートフォンやカメラで撮影した映像をAIで即時診断し、通信が不安定な場所でも処理を現地で完結できる。こうしたユースケースにもAITRASのアーキテクチャーは適しています。
都市の見守りや自動運転の分野では、文脈理解が重要になります。『道路上に人がいる』という情報だけでなく、『バスを待っている』『スマホを見ながら立ち止まっている』といった状況をAIが読み取れるようになると、自動運転車の安全性や都市の見守りシステムの精度が格段に上がります。
さらに、無線センシングを活用すれば、電波の揺らぎから屋内での人の姿勢や行動をAIが推定できるようになります。カメラを使わずに見るということができるので、プライバシーに配慮した見守りインフラとしても注目されています」
通信から社会インフラへ
湧川は、講演の最後にこう締めくくりました。
「AIネイティブな社会を実現するには、AIそのものが社会基盤になる必要があります。ソフトバンクは、通信インフラにAIを融合させることで、あらゆる領域でAIの社会実装を支える存在を目指しています」
AI-RANを軸とした新たな通信インフラのかたちは、すでに実証・実装のフェーズへと入り始めています。ネットワークがAIを届ける存在となる未来は、もはや遠くありません。社会のあらゆる場面でAIが自然に機能する、そのインフラの実現に向けて、ソフトバンクはAIネイティブオペレーターとして着実に歩みを進めています。
AIによる記事まとめ
この記事は、ソフトバンクがAIと通信を融合させて次世代インフラを構築する「AIネイティブオペレーター」構想を解説しています。AI-RANやAITRASにより、通信網上でAI推論処理を実行する仕組みを実装し、分散AI基盤やAIオーケストレーターと組み合わせて、複数の社会実装ユースケースに展開しています。
※上記まとめは生成AIで作成したものです。誤りや不正確さが含まれる可能性があります。
講演の内容をYouTubeで配信中
レポートではお伝えしきれなかった講演の様子を動画でご覧いただけます。ぜひご視聴ください。