問い合わせ対応を生成AIチャットで効率化:ソフトバンクの社内サポート改革
2025年10月14日掲載
社員の働き方や利用するシステムが多様化する中、社内サポート部門への問い合わせは年々増加し、その内容も複雑化しています。効率的で、かつサービス品質を維持した対応は、多くの企業に共通する課題となっています。
ソフトバンクでも、以前から従来型のチャットボットを活用して、社員からの問い合わせに対応していましたが、運用には課題があり、さらなる改善が必要とされていました。そこで注目したのが、社内で展開された生成AI環境「SmartAI-Chat」です。この環境に社内サポートの機能を載せることで、問い合わせ対応の効率化と品質向上に挑みました。
本記事では、その背景や導入のプロセス、そして得られた効果について、担当者の言葉を交えてご紹介します。
お話をうかがった方
社員4万人を支える社内サポートの現状
ソフトバンクでは、約4万人の社員がさまざまなシステムや制度を利用しており、それを支えるのが社員サポートセンターです。OA(PCや周辺機器などのオフィス環境)やERP(基幹システム)に加え、人事制度、総務サービスやオフィスファシリティ、ガバナンス、さらには法務やコンプライアンスに関する基本的な問い合わせまで幅広く対応しています。社員からの問い合わせは、電話・Webチケット・リモートサポート(Zoom)・Slack・AIチャットボットの5つのチャネルで受け付けています。
松本:「社員サポートセンターの中でも、特に問い合わせが多いのがOAサポートとERPサポートの領域です。OAサポートは11名、ERPヘルプデスクは7名体制で、OA領域は月5,000件、ERP領域は1,500件ほどの問い合わせが寄せられます。繁忙期には1万件近くに達することもあり、月曜や月末月初に集中する傾向があります」
室岡:「問い合わせの多くはスマートフォンやPCの設定、セキュリティツールの展開に関するものです。加えて、人事規定や社内申請周りの相談も少なくありません。特に設定時のエラーや不具合は、社員にとって業務が止まってしまう深刻な問題になるため、サポートの重要度は非常に高いと感じています」
従来型チャットボットの限界と運用負荷
松本:「ソフトバンクでは2018年からチャットボットを導入して、社内サポートの効率化を進めてきました。ただ、従来型のチャットボットには大きく3つ課題がありました。
①データの維持・更新が大変で、専任担当以外では運営が難しい
②完全に固定された回答しか出せない
③学習に時間がかかり、変化の多いイベント案件での活用が難しい
加えて、ユーザーの状況を1からヒアリングしないと解決できない複雑なケースも多く、FAQ形式のナレッジ作成には限界がありました」
SmartAI-Chatを基盤にした社内サポートへの転換
2023年5月、ソフトバンクは社内で最初の生成AI環境として「SmartAI-Chat(ソフトバンク版AIチャット)」の利用を開始しました。Azure OpenAI Service(以下:AOAI)を基盤に構築され、セキュアな閉域環境で全社員が安心して生成AIを活用できるようにしたものです。社内サポート部門もこの基盤に着目し、従来のチャットボットに代わる仕組みとして活用を検討しました。
松本:「従来のチャットボットは、固定された回答しかできず、運用面では更新や学習にも多くの手間と時間がかかっていました。生成AIならRAG方式(検索拡張生成)で既存のドキュメントを生かしながら文脈に応じた柔軟な回答ができます。社員が『自分で調べて、自分で解決できる』仕組みに近づけると考え、生成AIの活用を検討し始めました」
井上:「当時、『1カ月で社内向けの生成AIチャットを立ち上げてほしい』というオーダーがありました。条件は短期間で構築できること、そして外部にデータが漏れない閉域環境であること。その要件を満たせたのがAOAIベースのSmartAI-Chatでした。
そこで2023年5月に着手し、セキュリティ部門と連携して約1カ月で環境を構築しました。また、セキュリティレベルの異なる通常業務エリアと、高セキュリティエリアにも対応する必要があったため、必要な部分だけを分け、それ以外は共通化することで、余計なリソースを増やさず効率的に運用できたのもポイントです」
松本:「環境構築後は動作や回答精度を重点的に検証し、2カ月後の7月には社内展開をすることができました。従来のチャットボットで蓄積していた数万件規模のQAデータをそのままRAGに取り込めたことで、短期間で立ち上げられたのも大きかったですね」
回答精度を高めるための取り組み
松本:「社員に積極的に使ってもらうには、役立つ答えがきちんと返ってくることが欠かせません。サービス開始以降は回答精度を高めることに特に注力して取り組んできました。
当初はGPT-3.5を利用していたので、ハルシネーション(誤回答)が多くて苦労しました。細かな対策を試しましたが限界がありました。GPT-4になってからは誤答が大きく減り、やはりLLMの進化が一番効くという結論に至りました。
ただ、モデルの精度だけに頼るわけにはいきません。『RAGの仕組みをどう設計するか』が効果を大きく左右するポイントです。そこでTASUKI Annotationを使って複雑な社内規程を構造化しました。表や段落が入り組んだ文書をテキストとして整理し、AIが理解しやすい形に変換することで、正しく検索・参照できるようになりました」
室岡:「プロンプト設計も工夫しました。『出典元を必ず表示する』ようにしたことで、利用する社員にとって安心感につながりました。検索方式も、キーワード検索だけでは不十分だったので、ベクトル検索やハイブリッド検索を組み合わせることで関連ドキュメントを引き当てやすくしました。
また、結果として質問が解決できたかどうかが一番大事なので、強制的にフィードバックをもらう仕組みも入れました。とは言え、現状の回答率はまだ10%程度で、それ以外は実際の質問と回答を人が目でチェックして、都度チューニングを続けています。正誤判定までAI化するのはまだ難しいですが、今後はそこにも取り組んでいきたいと思っています」
使わせる工夫が生んだSmartAI-Chatの効果
室岡:「社内では、2024年12月から翌年2月にかけて大規模なPCのリプレイスがありました。そのタイミングに合わせて、『まずはSmartAI-Chatを使ってから問い合わせてもらう』流れを強制的に作りました。会社として生成AI活用に前向きだったからこそ実行できた施策で、これまで並列だった問い合わせチャネルの中でSmartAI-Chatを一歩前に出すことができました」
松本:「PCリプレイス関連の問い合わせのうち、約4割(約2,100件)は、SmartAI-Chatで自己解決され、有人サポートの対応件数を大幅に減らすことができました。通常なら増員が必要な規模でしたが、追加人員ゼロで乗り切れました。体感的には約3人分の工数を削減できたイメージです」
室岡:「人に直接聞けた方が早いという声もありましたが、営業時間外の夜間でも自分で解決できて便利という声も多かったです。有人問い合わせの前に必ず使ってもらうことにしたことで利用が一気に増えました」
松本:「社内サポートのチャネル自体は今も複数ありますが、最初の入口にSmartAI-Chatを置くことで自己解決が増える手応えを得ています。今後は、事前利用の範囲を広げながら、問い合わせ状況を継続的にウォッチし、体制見直しは来年度以降に検討していくつもりです」
まとめ
本取り組みを通じて見えてきたのは、生成AIの環境を「完璧に整えてから展開する」のではなく、「ある程度の状態で提供し、実際の利用を通じて改善を重ねていく」というアプローチの重要性です。技術やニーズが日々変化する中では、走りながら調整していく柔軟な姿勢こそが、生成AIの定着と価値創出を左右します。
SmartAI-Chatも、まずは現場で使える状態を早期に整え、利用者からのフィードバックをもとに継続的な改善を進めてきました。こうした小さな成功と学びの積み重ねは、やがて大きな業務改革へとつながっていきます。ソフトバンクは、こうした変化をこれからも加速させていきます。
AIによる記事まとめ
この記事は、ソフトバンクが生成AI「SmartAI-Chat」を社内サポートに導入し、従来型チャットボットの更新負荷や回答精度の限界を克服して対応効率を向上させた事例です。Azure OpenAI基盤の閉域環境を活用し、RAG方式や文書構造化、プロンプト設計により精度を高めました。PCリプレイス対応では約2,100件の自己解決が実現し、約3人分の工数削減につながりました。
※上記まとめは生成AIで作成したものです。誤りや不正確さが含まれる可能性があります。
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