【製造業DX】ロッテに学ぶ、自発的アジャイル人材の育成とAI戦略
2025年12月19日掲載
日本の製造業は、国内市場の成熟化や人口減少、インフレ、人件費の高騰といった構造的な課題に直面しています。厳しい現実の中で、DXはもはや業務の一部を改善するためのものではなく、ビジネスモデルや企業文化を根本から変革する生存戦略となっています。
こうした中、お菓子を通じて長きにわたり人々に愛されてきた株式会社ロッテ(以下、ロッテ)も、この大きな変革の波をチャンスと捉え、全社的なDX推進に挑戦しています。
今回は、ロッテの担当者の方に取材を行い、DXを単なる技術導入に終わらせず、社員一人一人のマインドを変え、組織を進化させる取り組みについてうかがいました。従来の「サポート部門」からの脱却、内製化と人材育成、そして生成AIを活用したこれからのビジネスについて、ロッテの取り組みの真髄に迫ります。
お話をうかがった方
サポート部門から戦略的パートナーへ:ICT部門の新たな役割
ロッテは1948年に創業し、「独創的なアイデアとこころを動かす体験で人と人をつなぎ、しあわせな未来をつくる。」というパーパスを掲げ、事業を展開しています。同社では2018年にICT中期戦略を策定し、インフラのクラウドシフトを加速させてきました。しかし、それは単なる技術的な移行にとどまりません。
「私たちICT部門は、従来の『現場から依頼されたら対応する』サポート部門から、構想段階から事業部門に入り、より良い提案を行う『戦略的パートナー』へと進化しようとしています」とロッテでDX推進を担う橋本氏は語り始めます。
ICT部門のパーパスは、「『つながる』未来へ、『すごい』挑戦を共に」。ここでいう「つながる」とは、データやデジタルを通じて全てがシームレスにつながった状態を作り出すこと。「すごい」とは利用者から「すごく便利になった」と感じてもらえる価値を提供することを意味していると言います。
「私たちのミッションは、テクノロジーとデータを活用して新たな価値を創造し、グループの収益性向上をけん引することです。そのために、レガシーシステムではデータ活用やAIが使えないため、オンプレミスからクラウド(Amazon Web Services や Google Cloud )へ移行し、土台を築いてきました。また、人々がコラボレーションしやすい仕組みやツールを提供したり、サスティナブルなデジタル化にも取り組んでいます」
橋本氏の担当領域は価値共創エンジン(攻めのIT)
3つのステップで進めるDX推進:変革のためのロードマップ
ロッテのDX推進は、変革を実現するために3つのステップで進められています。
「まず ステップ1で、データとAIの基礎づくりとリテラシー向上 を目指しました。生成AIを社員全員が使えるように環境と学ぶ仕組みを構築し、並行してクラウドに一元管理されている業務アプリケーションのデータをダッシュボード化して活用できるようにし、会議時間を短縮したり資料作成の効率を高めたりしています。
現在はステップ2として、構造化データだけではなく非構造化データも含めたデータ収集、生成AIの社内接続、AIエージェントの導入検証を進めています。例えば、お菓子の販売現場では特売や販促に関する画像など非構造化データが多く、従来はデータとして定量的に扱うことが技術的に難しい領域でした。これらを取り込むことで、より精度の高い予測ができるようになるのではと考えています。そして 最終的なステップでは、データドリブンな業務への移行、すなわちAI駆動型の変革 を目指しています」
このように、ロッテのDXは技術の導入にとどまらず、社員の行動様式や意思決定の在り方を変える「全社的変革」として設計されています。
「DX寺子屋」が生む自走する人材:アジャイル文化の定着
DXの中心にあるのは人です。ロッテでは「DX寺子屋」と呼ばれる独自の取り組みを通じて、アジャイル(計画・設計からリリースまでを短い期間で繰り返すこと)で自走できる人材の育成と内製化を推進しています。
「DX寺子屋の目的は、アジャイルでDXを推進できる人を育てることです。デジタルを手段としながら自分ごととして考え、行動できる主体的なDX人材を育成することを目指しています。なぜ内製にこだわるかというと、外部パートナーに任せきりにするとノウハウが社内に残らないことや、パートナーとの不要なやりとりが発生し時間がかかってしまうからです。自分たちで行いながら属人化を防ぎ、組織として力を高める。そのため、内製化とアジャイル型の推進にこだわっています」
このDX寺子屋の取り組みは、加速度的に社内へ広がりました。
「初めてのクラウドを使った内製化プロジェクトを完遂した6人のファーストペンギンたちが、その経験を広げるために『DX寺子屋』をはじめました。その様子を見て、『あいつがやってるなら自分もやってみよう』と仲間が増えていきました。コミュニティーが生まれ、ナレッジが蓄積し、組織を越えて人がつながっていく。そうしたつながる文化が育ち、主体的に取り組むマインドセットを生みだす土壌になっていると感じています」
データを活用できる環境を整え、DX寺子屋で人材を育成
「危機感」と「ワクワク」を両輪にしたモチベーション管理
DXを進める上で、全社的な熱量を保つにはモチベーションの管理も欠かせません。
「人が行動するきっかけは『危機感』か『ワクワク』のどちらかです。だからこそ、過去の歴史的な失敗事例を学びながら『危機感』を共有し、一方ではワクワクする未来を語る啓蒙活動を続けています。ただ、全員の熱量を同じにするのは難しいため、寺子屋などで『周りがやっているから自分も』と思える環境を作るようにしています」
ROIと人材育成の両立:アサイン管理の工夫
DX推進ではROI(投資対効果)の壁に直面することが多いですが、橋本氏は未来への投資の目線も重要であると話します。
「ROIを最優先にすると、目の前の緊急かつ重要案件しか実行できなくなります。私たちは、『緊急ではないが重要な案件』を未来への投資と位置付け、若手の育成の機会としています。そのためにはアサイン管理が重要です。DXのプロジェクトでは、社員一人一人のスキル、やりたいこと、長期的なキャリアプランをヒアリングしてアサインを決めています。これまで属人化していた業務も、組織的な成長を見据えたアサイン管理を行っています」
若手がけん引する現場改革:AIとデータが生みだす変化
DXの効果は現場で具体的に現れています。デジタルプラットフォームが整備されたことで、現場社員が自ら課題解決ツールを開発できるようになり、また若手も積極的に開発に取り組んでいます。
「我々の業界では、欠品が出てしまうと取引先へご迷惑をおかけしてしまいます。そのため在庫管理は非常に重要です。以前は営業担当がオフィスに電話して在庫確認を行うなど、時間がかかっていました。入社3年目の若手社員がAIを活用して開発したアプリケーションでは、外出中の営業担当者がスマートフォンでリアルタイムな注文状況、在庫状況、欠品状況(更新は10分に1度)を確認できるようになり、確認作業の削減につながりました」
在庫管理をアプリで可視化
さらに、「入社1年目の社員がAIを活用して社内食堂の需要予測を行っています。これまではベテラン担当者が天候や出社人数を見て予測していましたが、Google Cloud を使うことで誤差率が大きく改善し、食品ロス削減に貢献しています」と橋本氏は続けます。
また、スプレッドシートを使って物流パートナー向けの伝票を自動作成したり、ID-POSデータを用いてAIがチラシの配布先を選定することで、販促効果を2倍以上に向上させた事例もあります。これらは 若手や現場を理解する担当者がICT部門に加わり、内製化で生みだした ものだと言います。開発環境を整備することで工数を削減しながら、現場の課題に即したソリューションが生まれています。
生成AIが変える製造業の未来
橋本氏は、生成AIを「スマートフォン登場時と同レベルの技術革新」と位置付け、「使わない選択肢はない」と断言します。
「これまで特に課題だったのは、工場や営業現場での情報入力でした。移動が多く、PCを常に持ち歩けないため、入力の手間が発生していたのです。生成AIの登場で、音声入力をはじめとするマルチモーダル化が進み、ボイスメモのように話すだけで簡単にデータが記録されるようになっていきます。今まで手間がありデータ化されていなかった情報が蓄積されることで、製造業の業務は大きく変わるのではと考えています」
さらに、AIエージェントの登場が現場の主体的な変革を後押ししています。
「プログラミングできなくても、AIエージェントを使ってツールを作ることができるようになりました。工場や研究現場の人は『こうなればいいのに』と常に考えています。その思いを形にできる手段が手に入ったことで、現場部門が自ら課題を解決できるようになっています」
インタビューの様子
AI時代に求められる力:雑談力とストーリーテリング
AIが定型業務を代替する時代において、ICT部門に求められるのは、より人間的で戦略的なスキルになるだろうと続けます。
「ICT部門の社員には、AI・クラウドを使って『作ること』自体を業務にしないでほしいと思っています。その分、他部門の方と話し、雑談中から課題や本音を拾い上げて、それらを解決していってほしいのです」
橋本氏は続けます。
「AI時代において人間に求められるのは、アナログな対人コミュニケーションとストーリーテリング力だと感じています。例えば、商談ではAIが基本的な準備や調整を行うことで、人間は関係性を深めるためのコミュニケーションに注力する。そのような、人にしかできない仕事が重要になっていくのではないでしょうか」
日本の伸びしろと変化を楽しむ
最後に、DXやAI活用に悩む企業へのメッセージをいただきました。
「エンタープライズ領域ではツール導入が進んでも、データドリブン経営はまだこれからの段階と言われています。しかし、それこそが日本の伸びしろだと思っています。ICTの歴史を振り返ると、ERP時代はアウトソース、クラウドは自前で対応と、自前とアウトソースを繰り返してきました。日本企業は自前で行うことに強く、一度アクセルを踏むと一気に加速する特性があると思っています。AIが進化し、インフレが進む今こそ、『今までダメだと思っていたことも、実はそうではない』というマインドを持って取り組むことが大切なんだと思います」
ダーウィンの言葉を引きながら橋本氏は締めくくります。
「私は社内研修の講習の際によく偉人の言葉を用いるのですが、ダーウィンの話で『最も強いものや賢いものが生き残るのではなく、最も変化できるものが生き残る』と言われています。AIはPCやスマートフォンの登場に匹敵するゲームチェンジです。こんな楽しい時代を楽しまないのはもったいないと思います。ぜひ変化を楽しみましょう」
この変化の時代を楽しみながら挑戦し続けること。それこそが、ロッテのDXの本質なのです。
筆者として印象的だったのは、ロッテが会社としてのパーパスやミッションを非常に丁寧に設計し、それを社員一人一人が理解して行動に結びつけている点です。ここまで「目指す姿」を具体的に定義し、それを組織文化として浸透させている例は多くありません。この「理念と言葉の力」が、ロッテのDXを単なる技術導入ではなく、本質的な変革へと導いているのだと感じました。
ロッテのDXは、“変化を恐れず楽しむこと”を軸に、製造業の未来を切り拓いていくことでしょう。
AIによる記事まとめ
この記事はロッテのDX推進と自発的アジャイル人材育成、AI活用戦略について解説しています。ICT部門の戦略的役割転換、DXロードマップ、DX寺子屋による内製化と人材育成、若手主導の現場改革、AI活用とAI時代に必要なコミュニケーション力を示しています。
※上記まとめは生成AIで作成したものです。誤りや不正確さが含まれる可能性があります。
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