挑戦と自律で進化する、
最適な人材ポートフォリオ
戦略
執行役員 コーポレート統括
源田 泰之
Q. 長期ビジョンの実現に向け、人材戦略はどのような役割を担いますか。
当社の人材戦略は「デジタル化社会の発展に不可欠な次世代社会インフラを提供する」という長期ビジョンの実現に向けて最適な人材ポートフォリオを構築し、社員の力を最大化し企業の持続的成長をけん引するという役割を担っています。
この最適な人材ポートフォリオの構築とは、生成AIを活用し生産性を高めることで既存領域を効率的に運営し、生成AI事業や国産クラウド事業といった新規領域へ人的リソースを戦略的に再配置するものです。AIエンジニアやセキュリティエンジニアのような専門人材の採用と、既存社員の再配置やリスキリングを両輪とすることで、過去2年間でソフトバンク単体の社員数をほぼ横ばいに保ちながら、約1,000名を新領域へシフトしました。
こうした最適な人材ポートフォリオを支えるのは、社員一人一人が自律的に能力を発揮できる風土と、それを後押しする人材制度です。私たちは、社員が自らキャリアを切り拓き、前向きに挑戦する姿勢を重視してきました。10年以上にわたりそのような人材を採用・育成してきた結果、この価値観は社内に根づき、新規事業への異動公募には毎回多くの応募が集まります。その背景にあるのは、制度よりも「自分ごと」として仕事に向き合う当事者意識です。こうした価値観が広がることで次世代リーダーが育ち、ソフトバンクの持続的成長につながると考えています。
Q. 人材確保や育成の具体的な取り組みについて教えてください。
成長分野の人材確保では、社内リソースを最大限活用しています。例えば国産LLM「Sarashina」の開発では、まず社内からのジョブポスティングを含む異動でコアの体制を組成し、その後、外部採用により拡充しました。こうした「社内から社外へ」の順での人材確保の仕組みは、AI領域に限らず全社で定着しています。
採用チャネルの多様化も進め、リファラル(社員紹介)、ダイレクトソーシング(企業が候補者に直接アプローチする手法)などの優秀な専門人材に直接アプローチする手法を活用しています。従来の大量一括採用やエージェント依存ではなく、柔軟かつ機動的に人材獲得を行っています。
Q. 人的資本について、経営層とどのような対話をしていますか。
「次世代の幹部人材の育成」「生成AIをいかに生産性向上に生かすか」「新しい部門にどのように人をシフトしていくか」といったテーマを中心に、経営層と定期的に議論しています。こうした対話を受けて、人材ポートフォリオの最適化に向けた配置施策や育成制度を設計しています。
その一例が「リスキリング型ジョブポスティング」です。国産クラウド事業へ公募制度を通じて異動を行った際、この事業に必要なスキルや経験を持つ社員が社内に全て揃っていたわけではありませんでした。そこで「リスキリング型ジョブポスティング」を導入し、ジョブポスティング制度により異動が決定した方に対して異動後2~3カ月の研修を実施し、必要スキルを習得してもらう仕組みを整えました。
これらの仕組みは、「外部からの採用に加えて、社内の人的資本を最大限に生かす」という経営陣との共通認識から生まれたものです。今後も短期的な補充だけではなく、中長期視点で配置の最適化を進めることにより、組織を進化させていきます。
Q. DE&Iやウェルビーイングは成長戦略や企業価値とどのように結びついていますか。
人事にとって最大の顧客は「社員」です。そのため、DE&Iとウェルビーイングを軸とし、社員が長期にわたって安心して働き続け、最大限のパフォーマンスを発揮できるような土台づくりに注力しています。
まず、社員の生活の安定と挑戦意欲を両立させるための報酬制度の見直しに着手しています。物価上昇への対処として2023年度から3年連続でベースアップを実施し、生活基盤の安定に配慮しました。併せて、業績連動型賞与のメリハリを強化することで、成果への報酬もしっかり担保しています。これにより、特に若い世代の社員のエンゲージメント向上につながっています。
また、DE&Iの推進においては、重要な経営課題として女性活躍推進に取り組んでいます。以前は、人事評価自体に性差はないものの、部長・課長への登用率に男女間で2倍近い開きがありました。これは「実力主義」を掲げながらも適材適所が十分にできていなかったことを意味します。その背景には、アンコンシャスバイアス(無意識バイアス)や自己肯定感の差などさまざまな要因が考えられますが、この実態を経営層へ報告し「グローバルで永続的に成長するには、多様性を受け入れる組織が不可欠」との認識を再確認しました。
こうしたDE&Iの取り組みは、短期的な利益への直接的な貢献が見えにくくとも、持続的成長を支える重要な基盤として、企業価値の向上に貢献すると捉えています。
Q. ソフトバンクのカルチャーの特徴と、今後の醸成方針について教えてください。
ソフトバンクのカルチャーは「非連続な成長」を遂げてきた歴史に根ざしています。多様な考え方、多様な事業への適応力、柔軟性、未来を見る力といったものを組み合わせ、常に変化し続けてきたことこそが、ソフトバンクらしさの一つです。
その中核には「バリュー(価値観)」があります。具体的には「No.1」「挑戦」「逆算」「スピード」「執念」という5つのバリューが全社員と共有されており、日々の意思決定や行動指針の中心にあります。これまでの歩みでも、新しい技術や事業への挑戦を繰り返してきた背景には、こうした価値観が根付いています。
特に「No.1」「挑戦」という価値観は重要です。「このくらいでいい」と満足せず、より高い目標を目指す姿勢は、組織の進化を後押しします。困難を苦痛ではなく挑戦として捉え、その先の景色や自己成長を求める。このように「やらされる」のではなく、自ら目指して行動していく集団を創り上げていきたいと考えています。また「逆算」「スピード」「執念」といったバリューは、不確実な環境でも成果を生む力となり、会社の根幹を成すものとして重要です。多様な価値観や柔軟性を受け入れ、さまざまな事業に取り組める文化を持ち続けることが、私たちの強みであると認識しています。
このカルチャーの原点には「情報革命で人々を幸せに」という理念があります。ソフトバンクは、本気で世の中を良くしようとする人々が集い、この理念の実現を目指しています。仲間と挑戦し続けるという価値観の共有を通じて、この本質的な企業文化を次世代へ継承していきます。




