実効性のあるガバナンスと、
スピード感のある経営を両立し
企業価値を最大化
当社 社外取締役
三浦法律事務所 パートナー弁護士
OnBoard(株) 代表取締役CEO
越 直美
Q. 社外取締役にはどのような役割が求められているとお考えですか。
会社法が定める「執行の監督」に加え、企業価値の向上を図ることも社外取締役に求められる重要な役割であると認識しています。当社は「Beyond Carrier」戦略を掲げ、AIのリーディングカンパニーとしての成長加速を取締役会の重要課題と位置付けています。社外取締役を含む取締役会は、AIをはじめとする新規領域の戦略を議論し、その戦略を株主へ分かりやすく提示する役割を担います。加えて、当社は親会社を有していることから、少数株主利益の保護も重要な役割です。
Q. 社外取締役が過半数を占めたことにより、取締役会はどのように変化しましたか。
2024年6月に社外取締役が取締役会の過半数となり、多様性が一段と高まりました。現在の社外取締役は、グローバル経営、AI・テクノロジー、会計、金融、法務、女性活躍推進など、幅広い分野の専門家で構成されています。この多様なバックグラウンドにより、AIガバナンスやセキュリティといった専門的かつ最先端で解の定まっていない課題においても、多面的な視点から活発な議論が行われています。これは、リスクをとってビジネスを進める上で、非常に重要なことだと考えています。
Q. 親子上場について、少数株主保護や利益相反の観点からどのような点に留意されていますか。
親会社であるソフトバンクグループ(株)との関係は、当社に米OpenAIとのパートナーシップをはじめとする戦略的機会をもたらしています。一方で、親子ともに上場していることにより、ソフトバンクグループ(株)との取引を実施する際には、当社の少数株主保護に資するガバナンスの徹底、具体的には利益相反に特に留意しています。ソフトバンクグループ(株)が関与する案件では、ソフトバンクの成長やリスクという観点から契約条件等を交渉する必要があります。また、特に米OpenAIに関する案件については、利益相反だけでなく、AIのようにビジネスモデルが確立されていない領域においても、リスクとリターンの関係を慎重に検討し、ソフトバンクの企業価値最大化のために最善の判断を行う必要があると考えています。
LINEヤフーとの関係においては、当社が親会社となりますが、LINEヤフーとして自らの少数株主に対して果たすべき責任があるため、そこへの配慮が必要です。私が社外取締役に就任してからも、同社の情報セキュリティ問題で、株主のみならずお客さまにご心配をおかけすることがありました。この点について、親会社としてグループ会社のセキュリティ確保・強化に対する責任があると考えています。また、ビジネス面ではAIへの取り組みなど、一緒に進められることは進めていくのがよいと考えています。
当社では、親会社との取引やM&Aなど、利益相反が想定される重要案件を社外取締役のみで審議する場として特別委員会を設置していました。2024年6月より社外取締役が取締役会の過半数を占めたことから、コーポレートガバナンス・コードに基づきこの機能は取締役会で十分に果たせると判断し、特別委員会を廃止しました。しかし、私は、独立社外取締役のみで少数株主の利益について検討する場は非常に重要だと考えていたため、そのような独立した場の維持を提案しました。そして、その結果として「独立社外取締役会議」が新設されました。この会議は、実質的に特別委員会の役割を引き継ぐものであり、社外取締役によるガバナンス機能を一層強化する仕組みとなっています。
Q. DE&I推進における課題と、その対応策について教えてください。
私は、社外取締役に就任以来、当社の女性活躍推進委員会のアドバイザーを務めています。当社は、2035年度末までに女性管理職比率を20%以上へ引き上げる目標を掲げています。目標達成に向けては、経営トップによる強力なコミットメントが極めて重要です。当社では、宮川社長が女性活躍推進委員会の委員長を務めており、明確なメッセージを発信しています。また、当社はデータやアンケートを詳細に分析し、それを基に課題を洗い出している点が特徴的だと感じています。データ分析の結果、人事評価そのものに性差はないにもかかわらず、管理職への登用率に差があるといった課題も特定されており、対策につながっています。
さらに、当社に限らず日本社会全体に共通して見られる構造的な課題として、管理職を志望する女性の割合が男性より低いことが挙げられます。家事・育児などの負担による時間的制約に加え、「自分には務まらないのでは」という不安が要因と考えられます。これに対して当社では、メンター制度を強化し、管理職になる前の女性が、管理職のメンターを通じて仕事の進め方ややりがいを具体的に知る機会を設けています。こうした取り組みの成果として、これまで女性の管理職が少なかった職種でも子育てをしながら昇格を目指す女性が出てきています。そして、働き方改革とともに、上司がアンコンシャスバイアスをなくし挑戦的な業務へのアサインとサポートができる意識改革を進めれば、目標達成は十分可能だと確信しています。
Q. 社外取締役の視点から見たソフトバンクの企業文化の特徴は何でしょうか。
当社の企業文化には、二つの特徴があります。一つ目は「目標に対する経営陣のコミットメントと、それを支える現場の営業力」です。中期経営計画の目標は、厳しい外部環境下でも必達であるという経営陣の強固な意志の下、取締役会で進捗状況が確認されています。この「目標をやり切る力」は、社員一人一人に浸透しており、それが主体的な行動を促しています。この実行力を支えているのは、顧客課題を的確に捉え価値を提供し続ける現場の営業力です。私が参加したコンシューマ事業の年度初頭の会議でも、取締役会で議論した全社目標が部門別目標へ落とし込まれ、背景と意義まで共有されています。その結果、社員は単に目の前の数値目標を追うのではなく、経営者視点と当事者意識を持って行動しています。
二つ目は「スピード感」です。変化が激しい事業環境の中、好機を逃さないためには迅速な意思決定が不可欠です。当社は、大企業でありながら、スタートアップ以上のスピードで意思決定を行う体制を構築しており、変化に対応できる機動性を強みとしています。一方で、リスク評価をおろそかにしない仕組みを併せ持つことも重要です。私は、取締役会開催前にリスク情報を含む十分な情報提供を求め、議論を前倒しで行えるよう働きかけています。スピード感のある意思決定と監督機能を両立させ、リスクテイクとリスク管理のバランスを最適化することが、企業価値の向上につながると考えています。
Q. 次期中期経営計画への期待についてお聞かせください。
2026年度以降の成長に向けては、成長戦略「Beyond Carrier」の本格推進、特にAI関連事業の拡大に期待しています。AI領域は依然としてビジネスモデルが確立していないため、収益化への道筋を株主に具体的に示すことが重要です。また、多額のAI投資は収益化まで時間を要する可能性があるため、成長投資と株主還元の適切なバランスを継続的に検証する必要があります。私は弁護士としての専門性を生かし、AIガバナンス、セキュリティ、契約条件など法務・リスク管理の観点から、当社がリスクを取りながら新規事業を果敢に推進できるよう社外取締役としての職責を果たします。




