「唯一無二の、
なくてはならない存在」へ
AIを成長機会とする
次世代社会インフラ企業になる
代表取締役 社長執行役員 兼 CEO
宮川 潤一
2024年度の総括
成長戦略への確信を深めた力強い決算
2024年度は、われわれの成長戦略が着実に実を結び、その手応えに確信を深める1年となりました。実績は、売上高6兆5,443億円(前期比8%増)、営業利益9,890億円(同13%増)、親会社の所有者に帰属する純利益5,261億円(同8%増)となり、年度途中の第2四半期決算において上方修正した業績予想をさらに上回る、力強い「増収増益」の決算でした。これにより、中期経営計画で掲げた財務目標である売上高6兆5,000億円、営業利益9,700億円を1年前倒しで達成することができました。この成果は、私が示した意欲的な目標を社員一人一人が「自分ごと」として捉え、同じ未来を見据えてくれたからこそ成し得たものです。全社で「逆算」の思考を徹底し、困難な課題に一丸となって取り組んだ結果が、この力強い成長につながったと考えています。
2025年度の展望
営業利益1兆円の目標達成と「攻めの投資」の両立
このような好調な事業の進捗を踏まえて、われわれは現行の中期経営計画の最終年度(2025年度)の財務目標を、売上高6兆7,000億円、営業利益1兆円、親会社の所有者に帰属する純利益5,400億円へと上方修正しました。この1兆円という営業利益目標には、次期中期経営計画に向けた先行投資として「その他・成長投資」1,000億円の投資枠を費用として織り込んでいます。
この利益目標に対し、一部の機関投資家・アナリストの皆さまからは「保守的ではないか」とのご指摘もいただきました。確かに、この投資枠を使わなければ、さらに高い利益予想をお示しすることも可能です。しかし、短期的な利益を追求するのではなく、あえて未来への成長に資金を振り向ける「攻めの投資」を選択しました。この投資を新たな布石とし、5年後、10年後に10倍のリターンを生むような、大きな可能性を秘めた成長領域にチャレンジしていきます。
この「攻めの投資」は、二つの規律に基づき実行します。一つは、事業基盤の安定性を揺るがさないための「財務規律」です。社債型種類株式のような資本性のある調達を行いつつ、有利子負債などを常に適切な水準にコントロールします。そしてもう一つが、企業価値を創造するための「投資規律」です。CFOが後述するように、WACCなどの資本コストを明確に上回るリターンを生む案件かどうかを厳格に見極めます。これらの二つの規律を徹底することで、持続的な成長を実現していきます。
次世代社会インフラの実現に向けた「攻めの投資」
われわれは「通信事業者」の枠組みを超え、AIとの共存社会に不可欠な「次世代社会インフラ」を構築・提供する企業へと進化を遂げようとしています。この構想の実現を加速させるため、前述の1,000億円の「攻めの投資」枠も活用しつつ、以下のような成長領域に注力していきます。
1. 「Cristal intelligence」※1
経営を「全体最適」化するAIソリューションへ
これまでのAI活用は、各部門が個別にAIを導入し、それぞれの業務を最適化する「部分最適」に留まっていました。しかし、AIが「エージェント」として人のように考え、自ら行動する段階へと進化しつつある今、われわれはその先を目指します。社内の各部門で使う「AIエージェント」同士を連携させ、あたかも「オーケストラの指揮者」のように、企業活動全体の最適化を図る「Cristal intelligence」の開発を、米OpenAIと進めています。これは、部分最適の集合体では決して到達できない「全体最適」を実現し、経営のあり方そのものを変革するための挑戦です。開発が完了した暁には、まず当社自身が徹底的に活用してその効果を実証し、クオリティを磨き上げた上で、ノウハウとともに顧客企業に提供していきます。これにより、企業の経営課題を解決するソリューションは全く新しい次元へと進化し、エンタープライズ事業の大きな成長につながるものと期待を寄せています。
「AIエージェント」同士が連携する時代を見据えて、私は社員に「AIエージェント」の開発を促しています。2025年6月の朝礼では、私自身が「AIエージェント」を短時間で作れることを実演し、「作るのは簡単。必要な環境は全部用意するので、身構えずに1人当たり100個のAIエージェントを作り、とにかく慣れてほしい」というメッセージを発しました。そうすると、たった1カ月強で100万個近くの「AIエージェント」が作成され、私も大変驚かされました。この規模の「AIエージェント」を、たった1社で作ったのは世界で初めてではないかと思います。新しいことに楽しんで取り組む、変化を恐れずに好奇心を持って自ら取り組む当社の企業カルチャーは、「AIエージェント」が本格化する時代において、大きな競争力につながっていくと自信を深めています。
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- ※1Cristal intelligence(クリスタル・インテリジェンス)は仮称であり、正式名称ではありません
2. ソブリンクラウド/ソブリンAI
日本のためのクラウド・AIインフラを成長機会に
「ソブリンクラウド/ソブリンAI」とは、日本が「データ」「技術」「運用」の三つの主権を保持し、自国の「法規」に則って提供されるクラウド環境と、そのクラウド環境の下で運用されるAIを指します。この取り組みは、大きな社会的意義を持つだけでなく、当社にとって非常に有望な事業機会でもあります。政府、大学・研究機関、企業などでは、機微な情報を国産の安全なクラウド環境で保管し、AIと組み合わせて活用したいというニーズが急速に高まっています。われわれはこのニーズに応えるべく、AIデータセンター(大阪府堺市、北海道苫小牧市)やソブリンクラウドの構築、日本語国産大規模言語モデル(LLM)「Sarashina」の開発、GPUをクラウド上で貸し出す「GPU as a Service」のソフトウエア開発など、AIプラットフォームの構築を進めています。
すでに「クラウド」「生成AI」は、外資系企業が日本を含めたグローバルな市場を席巻しており、投資家の皆さまの中には当社が本当に海外の競合他社に伍して戦えるかを心配される方もいらっしゃると思います。しかし、当社が国内企業であること、AIデータセンターに必要な場所と電力を確保していること、最大規模の日本語国産LLMを開発してきた優位性などを生かせば、日本におけるソブリンクラウド/ソブリンAIの提供者となり、今後の競争を有利に運ぶことができると考えています。この新たな市場を切り拓き、高付加価値なサービスを展開していくことこそが、当社の次なる成長をけん引するドライバーになると確信しています。
3. 「AI-RAN」
モバイルネットワークをAIのネットワークへ進化させる
AIが社会の隅々にまで浸透する「AIとの共存社会」において、AIの処理を東京や大阪などの巨大なデータセンターに集中させる現在の仕組みには、大規模障害のリスクや膨大な電力消費の集中という課題があります。また、現在の仕組みでは、北海道や沖縄では、東京と同じような快適なレスポンスでAIを使えないという課題もあります。これらの課題を解決するためには、AI計算基盤を、ユーザーの近くに「分散」させることが不可欠です。われわれは、全国に携帯電話基地局を展開しており、これをAI時代における分散型コンピューティング基盤へと進化させていきます。ユーザーに最も近い場所でAIの計算処理を行うこの構想を、「AI-RAN」と名付け、米NVIDIAと共同で推進しています。この実現により、低遅延で障害に強いAIサービスが提供可能となり、電力消費の平準化という社会課題の解決にも貢献することができます。さらに、携帯電話基地局付近に配置されたAI計算基盤の計算リソースに余剰がある場合には、それをAIアプリケーションの推論用リソースとして外部へ販売し、新たな収益源とする予定です。
「AI-RAN」や「Sarashina」「GPU as a Service」といった次世代社会インフラに不可欠な製品・サービスを自ら開発して提供していくことは、当社にとって大きな転換点です。ソフトバンクという会社は、世界中の優れた製品・サービスをいち早く取り扱い、消費者・企業に広げていくことを得意として成長してきました。引き続きこの強みは生かしていきますが、より高みを目指すためには、自ら商品を作る力、すなわち「ものづくり」の力を磨いていくことが不可欠です。なぜなら、「ものづくり」を通じて、利益率の高い製品・サービスを生み出すことができるだけでなく、一から製品・サービスを作る経験そのものが、目利きの能力を育むからです。この経験こそが、人的資本・知的資本を社内に蓄積し、企業としての競争力を高め、中長期にわたる持続的な事業成長を可能にします。そして、それは次の利益を創出する基盤(財務資本)として還ってきます。この好循環を創り出すことこそが、グローバルに戦える企業になるための必須条件だと捉えています。
AIの進化を追い風に各事業の成長を加速
成長領域での中長期的な取り組みのみならず、既存事業でもAIの進化を追い風に、さらなる成長を目指します。
コンシューマ事業
「選ばれる理由」の進化。経済圏、ネットワーク品質、そして「AIで選ばれる」未来に向けて
好調な純増とARPUの下げ止まりを背景に、当社は2021年春の通信料値下げという業界全体の逆風をいち早く乗り越え、2024年度にはモバイルサービス売上を2期連続で増収させ、営業利益も2期連続で増加させることができました。「LINE」「Yahoo! JAPAN」「PayPay」「ZOZOTOWN」といった国内有数のB2Cプラットフォームを抱える当社の経済圏の強みに加えて、価格競争力のある「ワイモバイル」ブランドで顧客基盤を広げつつ、「ソフトバンク」ブランドの魅力を強化し、アップグレードを促す戦略が功を奏しています。
競合他社が2025年6月に実質的な値上げを実施する中、われわれはお客さまの反応や市場動向を慎重に見極め、9月に「ワイモバイル」ブランドの新料金プランを発表しました。基本料を見直すことで収益性の向上を図りつつ、「PayPayカード」での通信料の支払いや光回線サービスの利用による各種割引を提供することで、顧客獲得を強化します。さらに、サービスの魅力を高める新たな一手として、2025年11月以降、普段の買い物での「PayPay」の決済回数に応じて翌月のデータ容量を増やすキャンペーン※2を導入する予定です。これは、国内のコード決済市場で圧倒的なシェアを誇る「PayPay」をグループ内に持つ当社だからこそ実現できる、他社にはないユニークな価値提供であり、差別化戦略になると考えています。また、この取り組みは、PayPay経済圏のさらなる拡大にも大きく貢献するものです。なお、「ソフトバンク」ブランドについては、引き続き市場の動向を慎重に見極めながら、最適なタイミングで適切な施策を講じていきます。
他社が先に動いた後に、われわれが大局的な観点から最適な一手を柔軟に選択できる。この戦略的なポジションを確保できたことこそ、数年前までの当社では考えられなかった最大の変化であり、現在のわれわれの強さの証しです。かつて当社は、ネットワーク品質で他社に劣後していたため、その競争力の差を価格で補ってきました。しかし今やその状況は一変し、当社のネットワーク品質は他社と肩を並べるレベルに到達しています。このような状況を、競合他社に比べて少ない設備投資で実現できたことに、大きな意味があります。その背景にあるのが、われわれの「ネットワーク設計思想」です。5Gの展開においては、ノン・スタンドアローン方式※3で、まずつながりやすい700MHz帯や1.7GHz帯を展開し、「5Gにつなげること」を最優先としました。その上で、3.4GHzや3.9GHzなどのキャパシティを確保する周波数を展開するという戦略を取りました。この思想の違いこそが、効率的かつ質の高いネットワーク構築を可能にしたのです。ですが、私は「勝った、負けた」というレベルの競争に満足するつもりは毛頭ありません。ネットワークに関する会議では、今も現場に「いつまでも横並びでいてはいけない。ぶっちぎりで勝とう」と発破をかけ続けています。足元では、スタンドアローン方式※4の5G展開を他社に先駆けて進めており、ユーザー体感で「圧倒的No.1」のネットワークを目指して引き続き知恵を絞っていきます。
われわれの目指す「圧倒的No.1」のネットワークは、それ自体がゴールではありません。来るべきAIエージェント時代において、お客さまに最高の体験を提供するための、いわば「土台」です。これからは、あらゆるデバイスにAIエージェントが入る時代になるため、お客さまは単に「ネットワークがつながりやすいキャリアはどのキャリアか」という視点で選ぶのではなく、「AIエージェントを最も快適に、そして最大限に活用できるのはどのキャリアか」という視点で選ぶようになると考えています。われわれはこの来るべき未来を見据え、最高のAI体験を創出するための準備を着々と進めています。
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- ※2本キャンペーンの条件及び内容は変更される場合があります。
- ※3ノン・スタンドアローン方式:4Gのコア設備と、4G基地局および5G基地局を組み合わせたシステム
- ※4スタンドアローン方式:5G専用のコア設備と5G基地局を組み合わせたシステム
エンタープライズ事業
AIトランスフォーメーションとグローバル展開で成長を加速
2024年度は、中核となるソリューション等売上が12%成長(新規連結影響を除いた実力ベース)し、この2年間の営業利益は2桁の成長率(中期経営計画の開始からの年平均成長率)となりました。2024年9月には、豊富なエンジニアリソースと高い技術力を有するSBテクノロジー(株)の完全子会社化が完了し、クラウド・セキュリティ・AI領域での成長に向けた体制を強化することができました。
事業全体の売上として1兆円が視野に入る中、エンタープライズ事業はさらに進化していきます。これまでは、企業の「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を支援することで成長してきましたが、これからは、AIを活用して顧客企業の事業構造そのものを変革する「AIトランスフォーメーション(AX)」も推進していきます。その象徴的な事例が、自社開発したAIコールセンターソリューションです。これは、AIがお客さまとの会話の文脈を瞬時に理解し、途中で発言を遮られても人間のように自然に応対ができる、極めて高度なAIエージェントです。すでに一部の法人顧客への納品を間近に控えた段階に到達しており、ほかにも多くの引き合いが来ています。また、お客さまの業界・業務別の課題やニーズに即した生成AIの導入を進めており、多くの法人顧客や自治体で業務効率化やサービス高度化の成果が現れ始めています。これまで投資を続けてきたAIがいよいよ収益化フェーズに入ってきたと受け止めています。
さらに、中長期的な成長の柱として期待しているのが、グローバル市場への進出による事業成長の取り組み「Beyond Japan」です。その重要な一手として、2024年3月にCubic³(キュービック、本社:アイルランド共和国ダブリン)を子会社化しました。同社は、コネクテッドカーおよびSDV※5向けにIoTプラットフォームをグローバルに展開する企業です。子会社化を発表した際には1,700万台の車両が接続されていましたが、足元ではすでに2,500万台の車両が接続されており、急成長を遂げています。しかし、われわれが見据えるのは、単なるコネクテッドカーの市場ではありません。自動車がソフトウエアで制御される時代、そしてその先の自動運転社会においては、ソフトウエアをグローバルに管理・展開できるプラットフォームは、極めて重要な価値を持つことになります。このユニークなプラットフォームを持つCubic³は、中長期的にわれわれのエンタープライズ事業に大きく貢献してくれると期待しています。
Cubic³のようなグローバルプラットフォームへの投資は、「Beyond Japan」の取り組みにとって重要な一歩です。しかし、この取り組みは単に海外企業に投資をすればそれで終わるというものではありません。その真の狙いは、労働力不足や地域間格差といった社会課題を抱える日本で、それらを「DX」や「AX」によって解決するソリューションを作り上げ、グローバルプラットフォームを通じて迅速に世界展開することにあります。「社会課題先進国」と言われる日本で実績を積み、磨かれたソリューションを世界へ展開する、この成長モデルの形成こそが中長期的に当社が成長し続けるための布石になると信じています。
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- ※5SDV(Software Defined Vehicles):主にインターネットに接続されたソフトウエアを通じて機能を更新することができる車両のこと
メディア・EC事業
役割分担の明確化で、シナジーを最大化する
LINEヤフーは、2023年10月のグループ内再編を経て、出澤CEOの強力なリーダーシップの下、非常にうまく機能しています。事業の効率化に加えて、想定以上にビジネスが好調に推移した結果、2024年度は一時益を除いても2桁の増益を実現しました。2023年11月にLINEヤフーが発表した不正アクセスによる情報漏えいインシデントに対する再発防止策についても、出澤CEO自らが陣頭指揮を執り着実に進めています。当社のCISOも、LINEヤフーの「グループCISOBoard」に参加し、実効的なセキュリティガバナンスの確保に向けて協力しています。
AIというパラダイムシフトが起ころうとしている今、グループシナジーを最大化するため、LINEヤフーと当社は「最高のパートナー」として密に協議し、明確な役割分担を行っています。例えば、今後の社会基盤として不可欠となる日本語のLLMの開発は、次世代社会インフラを目指す当社が主導しています。一方で、国内9,900万人※6の月間アクティブユーザー数を持つ「LINE」を有する同社は、LLMを自ら開発することなく、お客さまにとって最も身近な「AIエージェント」を提供する役割に注力しています。LINEヤフーは独立した上場企業として、常にサービスに最適なLLMを選択する方針ですが、当社のLLMもその選択肢となるよう引き続き研究開発を進めています。このように、重複投資を避け、それぞれの強みを最大限に生かすことで、AI時代をリードする革新的なサービスをともに創出していきたいと考えています。
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- ※62025年6月末時点
ファイナンス事業
PayPayを中心としたグループ再編と上場準備の開始
2024年度は、決済取扱高が15.4兆円(前期比23%増)※7へと拡大し、PayPayの営業利益※8は通期で初の黒字化(300億円超)を達成する記念すべき年となりました。PayPayの成長をさらに加速させるため、2025年4月にはファイナンス事業の再編を行いました。これまで当社の子会社であったPayPay証券(株)、LINEヤフーの子会社であったPayPay銀行(株)を、PayPayの子会社として集約したのです。私は「できる人間に、できる道具を与える」ことが重要だと考えており、今回の再編を通じて、力強いリーダーシップを持つPayPayの中山CEOが最も動きやすくなる体制を整えました。2025年6月には私自身がPayPayの取締役になりましたので、さらに緊密に連携してシナジーを拡大していきます。
この営業黒字化と事業再編を契機とし、PayPayは上場準備を開始しました。正直なところ、私自身は少し早いのではないかという思いもありました。しかし、「今後の成長に不可欠な優秀な人材を獲得するためにも、上場準備を進めたい」というPayPay経営陣の強い意向を聞き、最終的にその決断を後押しすることにしました。かつてわれわれ自身がそうであったように、上場は企業を大きく成長させる絶好の機会です。また、上場は同社の企業価値を顕在化させることにもつながります。PayPayにもこのチャンスを生かして大きく飛躍してほしいと願っています。
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- ※72025年4月にPayPay銀行(株)を子会社化する前の定義
- ※8PayPay(株)、PayPayカード(株)、クレジットエンジン(株)
持続的成長を支える経営基盤
ESG経営
「持続可能な社会の実現」と「企業価値の向上」の両立に全力で取り組む
前任の宮内から社長を引き継ぐ際、「ESG経営は重要だから、よく見ておいた方がよい」という助言を受けました。今後の経営・ビジョンを考える上で実際に学んでみると、「持続可能な社会の実現」と「企業価値の向上」の両立を目指すというESG経営の考え方は素晴らしく、これを語らずして企業価値の向上は語れないと考えるようになりました。
そして、「一度やると決めたからには、徹底的にやる」のが、ソフトバンクという会社です。当社のESGへの本気度を内外に示すための客観的な指標として、国内で最も権威ある賞の一つである「日経SDGs経営大賞」で大賞を受賞することを、具体的なマイルストーンとして掲げました。そして、目標達成のためにあらゆる課題を洗い出し、一つずつ解決していきました。
その結果、2023年に大賞をいただくことができましたが、私はそれで満足するのではなく、授賞式のスピーチで「来年も必ず大賞を取ります」と宣言しました。そして、この宣言を現実に変えるべく、さらに取り組みを加速させた結果、2024年には史上初となる2年連続の大賞の獲得と、殿堂入り(プライムシート企業に選出)を果たすことができました。当社の「逆算」のカルチャーが、このESGの分野でも生かせたと捉えています。
こうした取り組みはグローバルにも評価されており、世界の代表的なESG指数である「Dow Jones Best-in-Class World Index(旧Dow Jones Sustainability World Index)」の構成銘柄にも3年連続で選ばれ、国内の通信企業では当社だけが選定されています。
私たちにとってESG経営は、流行り廃りの問題ではなく、当社が社会における存在意義を示し、企業価値を高め続けるための経営の根幹であり、信念です。だからこそ、その進捗を客観的に測るために権威ある外部評価をマイルストーンとすることはあっても、その時々の世の中の声に流されてこの信念が揺らぐことは決してありません。
Environment(環境)の取り組み
延べ3億人に、環境保護に向けた行動変容を促す
当社は、持続可能な社会の実現に向けて、気候変動問題の解決に貢献することを企業としての責務だと捉えています。中期経営計画では、自社の使用電力※9に占める再生可能エネルギー※10の比率を2025年度までに50%、2030年度までに100%(うち、半分以上を再生可能エネルギー由来の電力※11で調達)にするという目標を掲げています。2024年度には、この比率はすでに54%となっており、目標に対して前倒しで進捗しています。この順調な進捗を受け、2025年度の目標を60%に引き上げました。
従来取り組んでいる基地局使用電力の再生可能エネルギー化に加えて、今後見込まれるAIデータセンターの電力消費の増加にも対応していきます。2026年度中に50メガワット規模での開業を目指している「北海道苫小牧AIデータセンター」では、北海道電力(株)およびSBパワー(株)※12から再生可能エネルギー由来の電力供給を受けることを予定しています。このデータセンターを、電力の「地産地消」のモデルケースにできるように進めていく考えです。
これらの取り組みに加えて、2025年7月には「日本森林再生応援プロジェクト」を発表しました。これは、「企業版ふるさと納税制度」を活用し、全国47道府県市※13に総額40億円超を寄付することで、2025年から2040年までの15年間にわたる森林保全活動を支援するプログラムです。さらに、グループ会社と連携し、消費者参加型植樹貢献プログラム「NatureBank」を展開することも発表しました。これは、当社やグループ企業が提供するサービスの利用などの全16のエコアクションが対象で、消費者の日常のエコ行動を可視化して、促進するものです。そして、それらの行動により削減できたCO2排出量に応じて、当社が同等のCO2吸収量に相当する植樹を行います。延べ3億人超の顧客接点を有する当社グループが、環境保護に向けた消費者の行動変容を促すことの意義は非常に大きいと受け止めています。
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- ※9ソフトバンク(株)およびWireless City Planning(株)の合計
- ※10再生可能エネルギー指定の非化石証書の使用を含む
- ※11風力や太陽光などの再生可能エネルギーにより発電された電力
- ※12ソフトバンク(株)の完全子会社で小売電気事業を運営
- ※1346道府県および東京都八王子市
Social(社会)の取り組み
HAPSを基幹インフラに仕上げ、デジタルディバイド解消を推進
高度約20kmの成層圏から通信を提供する「HAPS※14(空飛ぶ基地局)」は、私が長年、その大きな可能性を信じ、情熱を注いできたプロジェクトです。この度、空気より軽いヘリウムガスを利用するLTA(Lighter Than Air)方式により、当初の計画より3年早い2026年からのプレ商用化に目処が立ちました。このLTA方式の機体自体は出資先のものを用いますが、そこに搭載する無線機、太陽光パネル、電池、モーターといった核となる部分には、われわれが長年研究開発を続けてきた独自技術を活用する予定です。これまでの地道な取り組みが、今回の早期商用化という成果に結びついたのです。
この着想を得たのは、私が米Sprint(2013年にソフトバンクグループ(株)が同社の子会社として買収)の経営の立て直しに携わっていた時代に遡ります。米国の広大な国土でのネットワーク構築に苦心する中で、「携帯電話基地局から発射する電波は20kmくらい飛ぶ。それなら、上空20kmの成層圏から電波を飛ばせば通信できるのではないか。もし実現できれば、衛星電話のような専用のデバイスを用意せずとも、既存のスマートフォンで通信できるのではないか」と考えました。このアイデアの実現に向け、米国からの帰国後にHAPS事業の立ち上げを提案し、2017年から開発を続けてきました。
このHAPSは、災害対策として役立てることはもちろん、ドローンや空飛ぶクルマが飛び交う未来の三次元通信を支える基幹インフラとして、大きな役割を担うだろうと手応えを感じています。さらに、これまで通信環境の整備が困難だった国内外の山間部や離島のデジタルディバイドを解消し、全ての人に平等な情報アクセスを提供するという、大きな社会的意義もある事業です。
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- ※14HAPS(High Altitude Platform Station):成層圏を長期間飛び続ける無人航空機を通信基地局のように運用し広域エリアに通信サービスを提供するシステムの総称
Governance(ガバナンス)の取り組み
「親子上場」に対する考え方
当社は、LINEヤフーなどの上場子会社を持つ親会社の立場であると同時に、ソフトバンクグループ(株)という親会社を持つ上場子会社の立場でもあります。この「親子上場」の構造について、私の考えを明確にお伝えしたいと思います。
まず、上場子会社を持つ親会社としての立場から申し上げると、子会社が上場していることは、グループ全体の成長を加速させる有効な手段だと捉えています。当社自身も上場以来、株式市場からの声を踏まえ、機動的かつ自律的な経営を行うことで、力強く成長してきました。子会社がそれぞれ独立した上場企業であることで、迅速な意思決定が可能となり、株式市場からの声を直接経営に反映できます。これにより、各社の企業価値が最大化され、その成長の成果は、グループシナジーや保有株式の価値向上として、最終的に当社の企業価値の向上にもつながります。
ソフトバンクグループ(株)の上場子会社としては、親会社と当社少数株主の間の利益相反の懸念に対して、真摯に向き合っています。まず、取締役の過半数を独立社外取締役とし、当社の少数株主にとって不利となる意思決定を防止できる仕組みを構築しています。さらに、一定基準を超えるソフトバンクグループ(株)との重要な取引については、取締役会に先立ち、独立社外取締役のみで構成される「独立社外取締役会議」を実施し、少数株主の利益保護の観点から事前検討を行う体制を整えています。
このような少数株主の利益を守る体制を整えつつ、親会社・子会社とのシナジーを生み出しながら成長を実現できるのであれば、「親子上場」は必ずしも否定されるべきものではないと考えています。
未来をともに創る、新世代株主層の拡大
昨年、私は「10年、20年後の当社の未来をともに考えてくれる若い世代の株主を増やしたい」という想いから、株式分割と株主優待の新設を決断しました。この狙いは、着実に成果となって表れています。2024年10月の株式分割後、個人株主数は86万人※15から136万人※16へと大幅に増加しました。特に40歳以下の株主数※17は2.4倍※18に、その構成比も27%※15から41%※16へと大きく拡大しています。このように、将来の日本の経済を動かす若い世代に当社の株主になっていただけたことを大変心強く感じています。今後も株主の皆さまとの対話を大切にし、長期的な視点で企業価値の向上に努めていきます。
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- ※152024年3月末
- ※162025年3月末
- ※17一部証券会社からの提供データを基に当社推計
- ※182024年3月末と2025年3月末の比較
成長投資と株主還元の最適なバランスの追求
インフレ環境下において、1株当たり配当金※19を維持することは実質的な減配ではないかという自問自答を重ねました。しかし、現在の当社は、AIという成長分野に恵まれ、将来の企業価値を大きく高める絶好の投資機会に向き合っています。このタイミングでの「攻めの投資」を優先することが、中長期的に企業価値を最大化することであるとの結論に至り、2025年度も1株当たり配当金※19を8.6円に維持する予想としました。まずは先行投資を実行し、その上でさらに業績が上振れるようであれば、増配や自己株式の取得といった追加の株主還元を検討していきます。
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- ※19普通株式
最後に
唯一無二の、なくてはならない企業を目指して
2025年度は現行の中期経営計画の最終年度であり、社長就任時に立てた10カ年計画の折り返し地点でもあります。これからの5年間は、これまでの5年間で仕込んだいくつもの成長の種を実らせ、企業価値をさらに高める期間にしたいと考えています。2026年5月には、次期中期経営計画を発表する予定であり、それに向けた議論を社内で深めています。その際には、成長戦略と株主還元に関する考えをより具体的にお示しします。
私の経営における目標は、AIとの共存社会の中で、当社が「唯一無二の、なくてはならない存在」になることです。社会の中で確固たる存在意義を示し、その発展に貢献し続けること。そして、挑戦を通じて企業価値を高め、生み出された価値をステークホルダーの皆さまと分かち合うこと。この両方を成し遂げることが、社長としての私に課せられた責任です。
私が「企業としての存在意義」を重要視するその原点には、私の実家である1200年以上続く禅寺の存在があります。1200年以上も続いてきたのは、時代ごとの人々に寄り添い、社会に対する存在意義を示し続けたからにほかなりません。企業もまた同様に、社会の中で確固たる存在意義を示し続けることで、初めて持続的な成長が可能になります。私は、このソフトバンクを「AIとの共存社会において、唯一無二の、なくてはならないインフラ」を提供する会社にしたいという一心で、さまざまな挑戦を続けています。 株主・投資家の皆さまにおかれましては、当社の中長期的な成長にご期待いただき、引き続きのご支援を賜りますようお願い申し上げます。




