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5G基地局の「仮想化」に向けた取り組み

#AI-RAN

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高速・大容量通信や低遅延通信などが期待されている5G(第5世代移動通信システム)。先端技術研究所では、5G基地局の物理的な機能をソフトウエアによって分離する「仮想化」を目指した研究開発を行っています。

仮想化のメリットと課題

これまで、スマートフォンなどの通信サービスを提供するための無線アクセスネットワーク(RAN:Radio Access Network)やモバイルコアを製造するメーカーの製品は、専用のハードウエアと専用のソフトウエアがセットで販売されていました。

しかし、仮想化の技術が発展したことで、ハードウエアは一般的な汎用サーバーを使用できるようになりました。

仮想化のメリットは、ハードウエアを汎用的な製品に揃えることで保守性の向上が図れることに加え、コスト削減、ソフトウエアの柔軟性の向上などがあります。

そのため、電気通信事業でも基地局を仮想化する流れが生まれています。

一方で、基地局の仮想化に向けて懸念されているのが計算量の膨大さ。基地局のベースバンド装置「BBU(もしくはDU/CU)」は信号処理をリアルタイムに行っており、その計算量は周波数の帯域幅やMIMOのレイヤー数に応じて指数関数的に上昇するため、高い計算性能が求められます。

また、仮想化によってハードウエアとソフトウエアを分離することで起こる「オーバーヘッド」(より高い計算コストが必要な作業)による課題もあります。

膨大な計算量をこなすには
「アクセラレーター」が必要

こうした仮想化の一般的な課題を回避しながら、基地局で懸念される重い処理要件を満たし、パフォーマンスの改善を期待されているのが「アクセラレーター」です。

アクセラレーターを使用し、重い処理をハードウエアにオフロードすることで、ソフトウエアの処理性能を改善することができます。

先端技術研究所は、端末の近くにサーバーを分散配置する「エッジコンピューティング」に応用するという観点で、GPUを使用した仮想化の検証を行っています。

GPUの特徴には下記の2つがあります。

①汎用性が高い
GPUを用いたソフトウエア開発は一般的なプログラミング言語で利用できるCUDAというSDKが提供されるため、一般的に使用されている「FPGA/Field Programmable Gate Array」での開発に比べて開発サイクルを短くすることが可能。プログラミングでよく利用される機能がまとめられたライブラリーも豊富なため、基地局などのRAN以外の用途での利用も簡単に行うことができます。

②仮想化によるリソースの有効活用が可能
一つのGPUを分割して複数のプロセスや仮想マシンに割り当てる技術を有しているため、リソースを柔軟に使用することが可能。例えば、RANの負荷が高くない時にほかのリソースを割り当てるなど、計算資源の有効活用が期待できます。

過去の検証

GPUがRANを仮想化した「vRAN」(仮想化無線アクセスネットワーク)のアクセラレーターとして適切かどうかを評価するために行った検証では、一般的に処理が重いと言われている「L1ブロック」において、遅延時間や消費電力などの分析を行い、十分な性能で処理できることが確認されています。

  • L1ブロック:5GのRAN機能の一部。信号の符号化/復号化や物理層の多重化、エラー検出などの機能を担う。

また、2022年7月にオープンした研究施設「AI-on-5G Lab.」での研究では、無線通信によるデータの送受信を行う「OTA(Over the air)技術」を活用し、通信を行う二者を結ぶ「E2E(End to End)」接続に成功。動画を5G経由でAIアプリにアップロードし、AIアプリでリアルタイムに映像の解析を行うことができました。

今後、仮想化した5G基地局の商用化が進むと、RAN専用のハードウエア基盤が不要になり、既存の店舗や施設で使われているAIアプリ用のハードウエア基盤を活用して、エンタープライズ向けのプライベート5Gの提供が可能になることが期待されています。

先端技術研究所は、その実現に向けて、仮想化無線アクセスネットワークの研究開発に引き続き取り組んでいきます。

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