- 01.ソフトバンクの電池の開発
- 02.どんな電池を開発しているか
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- 2023.02.22
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ソフトバンクの次世代電池開発
#次世代電池
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ソフトバンクの電池の開発
先端技術研究所では、重量エネルギー密度※が高い電池の実用化に向けた開発・研究を行っています。
- ※重量エネルギー密度(Wh/kg):単位重量当たりの電池の容量。値が大きいほど、同じ重量でより多くのエネルギーを蓄えることができる。
2018年に空気電池に関する共同研究を「国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)」と開始しました。その後、有機正極二次電池の研究を「国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」)」と、リチウム金属電池の研究を三重大学やEnpower Japan株式会社と実施するなど、多くの研究機関や企業と共同開発を行っています。
実は、私たちは初めから電池を開発しようとしていたわけではありません。
当初は「成層圏」から通信ネットワークを提供するシステム「HAPS(High Altitude Platform Station)」に適した軽量な次世代電池の調達を目的として市場の調査を行っていました。ところが、ソフトバンクが求めていた200サイクル※後に400Wh/kgのエネルギー密度を維持できる電池が市場に存在しないことが判明したため、要求する仕様を満たす次世代電池を自ら開発することになりました。
- ※サイクル:電池残量が0%の状態から100%まで充電し、再び0%になるまでが1サイクル

電池は、一般的にスマートフォンや電気自動車に使用するために寿命を長くするための開発が行われていますが、ソフトバンクでは、寿命の“長さ(サイクル寿命)”よりも“軽さ(重量エネルギー密度)”を重視した電池の開発を行っています。半年に1度の短い期間で電池交換が可能なHAPSでは、最低で半年間寿命が持つ電池があればよく、サイクル寿命より重量エネルギー密度が重視されるためです。重量エネルギー密度が高い電池の開発が完了した後は、その電池の寿命を伸ばすことに注力する予定です。
電池メーカーとの競合を目指しているわけではなく、電池の性能を向上させることにより、HAPSをはじめとした新たなサービスを提供することに主眼を置いています。そのため、高性能電池や材料の開発を推進する研究機関や企業を積極的にサポートし、必要に応じて共同研究を行うなど、外部機関と協力して電池の性能向上を図っています。

どんな電池を開発しているか
現在ソフトバンクが注目しているのは、開発や研究の事例が少なく、高い重量エネルギー密度を維持できるポテンシャルを持った電池です。その中からいくつかの電池をピックアップし、開発戦略を作成しています。

リチウム金属電池の開発
開発戦略の第一世代であるリチウム金属電池は、材料とセルレベルの開発が終了しています。現在はセルの量産とパック化に向けた検討を行っています。
これまでの研究の中で、リチウム金属電池は高い拘束圧をかけるほど寿命が向上することが分かりました。しかし、既存の電池パックの中には拘束圧を高める構成のものがないため、新規に開発が必要です。
開発に向けて課題となっているのは、金属板など重量がある部品を使用せず、拘束部材を軽量化すること。また、HAPSでの利用には成層圏環境に対応可能な断熱機構や耐圧機構などが必要です。


そして現在、材料とセルレベルの開発は第二世代の600Wh/kg以上にシフトし、「全固体電池」「有機正極二次電池」「金属空気電池」などリチウム金属電池よりもさらに次の世代の電池開発を行っています。
全固体電池の開発
全固体電池は、固体電解質の比重が重いため重量エネルギー密度が低下しますが、安全性の向上や使用可能な電圧範囲、温度範囲が広がるなどのメリットがあります。
また、安全性が向上することでパックの安全機構を簡略化でき、温度範囲を広げることで断熱材量の削減や冷却機構を不要にできるなど、部材の軽量化が可能です。
これまで液系の電池では使用できなかった、高容量材料の動作が他事例で報告されていることから、ソフトバンクも注力して開発を行っています。

有機正極二次電池の開発
有機正極二次電池は、レアメタルを使用する現行の電池に比べ、低コストかつ軽量な材料として注目されています。
一方で、サイクル性能や体積エネルギー密度、レート特性の課題があるため、開発を行う企業は多くありません。
サイクル性能の課題
有機正極活物質は、有機溶剤(電解液)に溶けやすい性質を持つため、正極が溶け出してしまい、電池容量が早期に低下してしまうといった課題がありました。しかし、産総研との共同研究で、溶解を抑制する技術を開発。また、今後全固体電池にシフトしていくことで、これらは解決できると考えています。
体積エネルギー密度の課題
体積エネルギー密度が小さな有機分子はスマートフォンや電気自動車など、電池の小型化が重視される分野には向かないとされていましたが、産総研と新規開発した材料では、既存の電池と同等の体積エネルギー密度を示すことが分かっています。
レート特性の課題
有機正極活物質は抵抗が高いため大きな電流を取り出すことができない(レート特性が低い)という課題がありましたが、産総研が開発したオリゴマー化技術※や、電極の構造を変えることで、抵抗を下げられることがわかり、レート特性を向上できる見込みが得られました。
- ※オリゴマー化技術:2~20個程の同じ分子が重合することで得られる比較的低分子なポリマー化合物。図は有機正極活物質であるフェナジンテトラオン(PTO)のオリゴマー化を示している。
上記三つの課題を解決できたことで、有機正極二次電池は実現可能な電池であると判断し、本格的に開発をスタートしました。
また、防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」に係る令和4年度新規採択研究課題の公募で、ソフトバンクが研究の代表機関となり提案した研究課題「有機正極二次電池の充放電機構の解明と高エネルギー密度化の研究」が採択されました。この研究課題への取り組みを通じて、重量エネルギー密度500Wh/kgを超える長寿命有機正極二次電池の開発を目指します。
詳細はこちら:https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2023/20230222_01/

テクノロジーを活用した新しい産業の創出や既存産業の進化に欠かせない次世代電池の開発。今後もマテリアルズ・インフォマティクスや計算科学を活用しながら、さまざまな次世代電池の開発・研究に取り組んでいきます。
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