- 01.自動運転革命:私たちが挑む社会課題と持続可能な未来
- 02.ビジネスモデルとは
- 03.既存の交通事業/物流事業の代替としての可能性
- 04.MaaSビジネスの可能性とそのチャレンジ
- 05.MaaSビジネス:本質的に解決するべきことは何か
- 06.プラットフォームビジネスとは
- 07.限界コストという考え方
- 08.App Storeの例
- 09.自動運転におけるプラットフォームビジネスのチャレンジ
- 10.社会実装における私たちの役割と研究開発
- Blog
- サービス
持続可能な自動運転サービスへの道:MaaSとビジネスモデル考察
#自動運転 #MaaS
2023.08.07
ソフトバンク株式会社


Blogsブログ
1. 自動運転革命:私たちが挑む社会課題と持続可能な未来
自動運転は、地方の過疎化や、運転免許証の自主返納による移動困難者の増加、物流業界をはじめとする労働力の不足といった課題を解決するとともに、交通事故の低減や環境負荷の軽減につながると期待されています。しかしながら、自動運転技術を実際に社会に導入する際には、さまざまな課題が存在します。ソフトバンクの先端技術研究所は、導入におけるさまざまな課題がある中で、ビジネスモデルの継続性や経済的な持続可能性を確保することも重要だと考えています。
私たちは、社会に対して持続可能な自動運転サービスを迅速に提供するために何が必要であるかという視点から、研究開発および実証実験を進めています。サービスの持続性を目指す際には、自動運転がなぜビジネス性や経済的な持続可能性を確保することが困難であるのかを理解することが極めて重要であると考えています。
ソフトバンクの先端技術研究所は、研究開発を進めるのと並行して、グループ会社であるMONET Technologies株式会社やその他企業とも連携し、事業成立における課題に日々向き合いながら、その解決策を模索しています。
本稿では、そういった活動の中から見えてきた「自動運転におけるビジネス性・経済性の確保の困難さ」と「技術開発との関係性」についての考察をご紹介します。
2. ビジネスモデルとは
ビジネスモデルという概念は、事業性を考察する上で必要な視点の一つで、事業がどのように価値を創出し、その価値をどのように取引に変えるかということを考えるフレームワークです。技術開発の領域においても、新たな技術を開発する際には、その技術がどのような市場ニーズに対応し、どのように価値を提供するのかを定義することで、技術開発の方向性を市場のニーズに合わせ、市場への適合可能性を向上させることができます。私たちは、このように技術開発とビジネスモデルの間には強い関連性があると捉えています。
自動運転という技術やそれに関連するビジネスモデルにおいて、明確な答えや確固たる信念を持つ者は世界にまだ存在しないと我々は推測しています。言い換えれば、自動運転の事業性を確立する方法を見つけ出した人はまだ出現していないということです。自動運転と聞くと、我々の脳裏には多くのビジネスモデルや事業が浮かびますが、その実現がなぜ困難なのかについて、一般的に考えられる事業の視点から考察していきたいと思います。
3. 既存の交通事業/物流事業の代替としての可能性
一つの例として、自動運転が既存の交通事業や物流事業の一部を代替する可能性について考えることができます。例えば、タクシーサービスに自動運転を導入しようとする場合、純粋に事業性のみを考えるならば、現行のタクシーサービスよりも利益を生み出すビジネスモデルを構築する必要があります(運転手の負担軽減や事故率の低下など、多くのメリットが存在しますが、ここでは単純化のために、乗客を運び、運賃収入を得るという基本的なビジネスモデルに焦点を当てます)。この場合、自動運転の価値は「省人化」にあると考えることができます。つまり、運転という業務プロセスを自動化(Automation)し、人間が行っていた業務を機械に委ねるという行為です。
例えばタクシー業界を見てみると、コロナ禍前のタクシー運送収入は約1.5兆円におよぶと言われています(出典:国土交通省「令和5年版交通政策白書」)。また、全体の原価構成のうち、ドライバーを含む人件費が全体の約73%を占めるというデータもあります(出典:国土交通省「自動車運送事業経営指標」)。
自動運転を利用してタクシー事業を行うためには、全体的な運用コストが現行のドライバーの人件費を下回る必要があります。自動運転を可能にするためには、車両の運行だけでなく、自己位置推定のための高精度地図の作成、自動運転ソフトウェアの開発、センサー機器の導入など、さまざまな初期費用が発生します。それらをトータルで考えたとき、人間による運転と比較してコストが低くなることが求められます。ここで出てくるのが、複数台監視という考え方です。これは、例えば10台の自動運転タクシーを1人が監視するといった運用形態を指します。もし1台の無人タクシーを走らせるのに1人の人間がずっと見張っていなくてはいけないという状況であれば、人間のドライバーが運転すればいいということになります。これが100台の自動運転タクシーを1人が監視している(実際には1000台を10人で監視など)となるとどうでしょうか。ドライバーの人件費だけでいうと、コストが1/100になります。1台当たりドライバー0.01人でタクシーを操業できることになり、それにより経済的なメリットが生じる可能性があります。
一方で、収入側の観点から見るとどうでしょうか。市場規模(Total Addressable Market:TAM)は普通のタクシーであっても自動運転タクシーであっても基本的には変わりません。したがって、収入を増大させるためには、既存市場のシェアを奪う以外に選択肢はなく、そのためには、自動運転の導入により何らかの競争優位性を獲得する必要があります(例えば、サービス価格の削減など)。さまざまなレギュレーションもある中で、提供価値としては既存のタクシーと本質的には変わりません。収入側は伸ばしにくく、経済合理性を担保するためには大幅なコストダウンが必要です。これが「既存の交通事業/物流事業の代替」としての自動運転ビジネスの困難性を示しています。ターゲットとなる交通モードが路線バスであれ、コミュニティバスであれ、運ぶ対象がヒトであれモノであれ、提供エリアが地方であれ都市部であれ、その本質は変わりません。また、運賃収入が消費者から得られるモデルであれ、税金や補助金に依存するモデルであれ、支払い元が異なるだけで、本質的には同じ構造となります。経済合理性という観点での課題を解決する必要があり、持続可能なビジネスを担保するのは簡単ではありません。
そこで出てくるのが、MaaSという考え方です。

4. MaaSビジネスの可能性とそのチャレンジ
"MaaS (Mobility as a Service)"は、広義には既存の交通手段およびその代替となる手段を「サービスとして提供する」ことと理解されています。この概念の範囲は広く、移動する医療サービスやコンビニエンスストア、自治体の手続きセンターなども含まれます。これらも「既存の交通事業/物流事業の代替」と同じく「既存のある種のサービスの代替」とみなすことができます。
ビジネスという視点から物事を単純に観察したとき、やはり我々は既存のサービスよりも経済的な効率性を向上させる必要性に直面します。そういった中で「移動式のサービス」という考え方は、市場規模の拡大の可能性を示唆しています。具体的には、サービス自体が顧客のところまで移動することによって、これまで到達できていなかった顧客層にリーチ可能となるという点です。この点が、MaaSビジネスの良い点のひとつです。
しかしここで注意しなければならないことは、市場拡大を実現する要因が「自動運転」であるかどうかという問題です。もし単純に「移動式のサービス」ということであれば、人間のドライバーでも同様の価値を提供することが可能です。
では、MaaSビジネスにおける自動運転の活用にはどのような意義があるのでしょうか。一つは前章で述べた省人化によるコスト低減、もう一つは労働力の確保です。サービスが顧客のいる場所まで移動し、そこでサービスを提供する。しかし、その移動を可能にする労働力が不足している。自動運転であれば、その不足している労働力を補うことができるという考え方です。
MaaSビジネスは新たな市場を創出する可能性があると考えています。一方で、「さまざまな移動式のサービス」を検討する上でベースとなるのは、他の一般的なサービスと同様に供給と需要のバランスです。この点について、事業視点ではどういった課題が見えてくるのか、少し深堀りしていきたいと思います。
「ある移動式のサービス」を考えたときに、魅力的な市場が潜在しているとします。例えば過疎地における高齢者の買い物ニーズなどです。①高齢者向けの移動式のスーパーやコンビニなどの「十分な」ニーズがあるが(需要)、②労働力が十分に確保できないことが課題であるため(需要を満たす上での課題)、③自動運転の技術を使い、無人の移動式スーパーを提供することで(解決手法)、④過疎地における高齢者向けの移動式スーパーという新しい市場を作る(新たな市場の形成)、といった例になります。
シナリオとしては「三方よし」のビジネスに見えますが、具体的にリサーチや事業モデルの検討をしてみると課題が見えてきます。どういった課題が見えてくるのでしょうか。
それは、上述の例の場合、「①の需要」が必ずしもそのまま市場にはならないという点です。具体的にどういうことかと言うと、高齢者向けの移動式のスーパーという需要があり、かつドライバーの成り手がいない、という状況である必要があります。移動式スーパーという十分な需要があったとして、その需要にアクセスできる手段は「人間のドライバー」と「無人の自動運転」という2つの手段が考えられます。このうち、事業として獲得できるのは「無人の自動運転」の方が優位であるという一部の市場だけとなります。
これは、ビジネスにおけるTAM(Total Addressable Market)、SAM(Serviceable Available Market)、SOM(Serviceable Obtainable Market)という考え方です。TAMとは「ある事業が獲得できる可能性のある『全体の市場規模』」、SAMとは「ある事業が『獲得しうる』最大の市場規模」、そしてSOMとは「ある事業が『実際にアプローチできる』顧客の市場規模」を意味します。
先ほどの例の場合、「無人の自動運転」がアプローチできる市場を「SAM」とするのか「SOM」とするのかは、考え方によって変わりますが、少なくとも、自社が獲得できる市場規模というのは「高齢者向けの移動式のスーパーという需要」よりも小さくなります。
当然、前提として「人間のドライバー」よりも競争優位な点が「無人の自動運転」にあることが必要です(サービス提供価格やコストが低いなど)。
つまり先ほどの例の場合、需要に加えて、「無人の自動運転」が「人間のドライバー」よりも競争優位であるという前提があり、かつその市場の中で一定数以上のユーザーを経済合理性を担保した状態で獲得できる、ということが必要となります。
自動運転というものは「クルマ」に関わる技術であるため、市場という視点から見るとユースケースが多く非常に複雑です。私たちは、これまで当社が培ってきた通信事業に関する考え方や、さまざまな新規事業の検討で得たマーケティングやビジネスモデルの知見を活用し、自動運転に関する経済合理性をどう担保していくべきかという課題に取り組んでいます。

5. MaaSビジネス:本質的に解決するべきことは何か
前章では「移動式のサービス」という点でMaaSビジネスを考察してきましたが、自動運転を活用してなるべく多くの顧客を獲得するという点で考えると、MaaSビジネスは他の交通モードからユーザーを獲得する可能性を持つとも考えられます。これには多くの場合自家用車も含まれます。
自動運転の提供する価値は本質的に「移動」であるため、他の交通モードよりも自動運転を活用したMaaSビジネスが優れていれば、ユーザーを増やせる可能性があります。例えば事業計画を作成する際に、さまざまな交通モードから顧客を獲得する前提で数字を積み上げていくと、一見合理的に見える市場規模が作れることもあります。
しかしここで考慮しなければならない問題は、「移動」という観点で市場を考えたとき、結局は既存の市場のパイを巡る競争になるという点です。自社のサービスを「他の交通形態一つひとつ」と比較したときに、顧客から見て「それぞれが」優れているということが必要です。交通や物流というのは、ある種成熟したサービスです。一般的には、成熟した市場における競争優位性は、サービス提供価格であることが多いです。自動運転に関わる事業を検討する際に、どういった形で市場を捉えようとも、本質的には「人や物を移動させるためのコスト」を解決する必要があります。
ここで言う「コスト」というものは、自動運転による自律走行を確立させるためのコストだけではありません。運用やメンテナンスなどサービスをする上で、さまざまなコストが掛かってきます。私たちは、市場という観点から見た時に、どういったコストが必要で、それを低減させるためにはどういった技術開発が必要かという視点で、研究開発に取り組んでいます。
長くなりましたが、最後に「プラットフォーム」という考え方についての考察をご紹介します。
6. プラットフォームビジネスとは
「プラットフォームビジネス」というのは、これまで紹介したビジネスモデルとは根本的な考え方が異なります。では、どこが異なるのでしょうか。
これまで紹介したビジネスモデルの例に共通することは、全て「直線型のビジネスモデル」であるという点です。「直線型のビジネスモデル」というのは、企業Aが製品を製造し、それを企業Bに販売し、企業Bが付加価値を付けて企業Cや顧客に販売するという流れのことを指します。製品がソフトウェアであろうとサービスであろうと、基本的な概念は変わりません。
例えば、無人タクシーでいえば、自社はA社からADS(Autonomous Driving System)を調達する、その後、ADSや車両やその他必要な機能をインテグレートして自社のサービスにする、最後にそのサービスをB社やエンドユーザーに提供するといったものです。MaaSの場合も同じです。何かを調達/製造し、顧客にサービスとして提供します。

これに対しプラットフォームは、主に「取引を円滑にする」ことによって価値を生み出します。例えば、一般的な直線型のビジネスモデルは「商品やサービスを作り出す」ことで価値を生み出すのに対し、プラットフォームは何かと何かの繋がりを作り「取引を作り出す」ことで価値を生み出します。General Motorsは自動車を「生み出し」ますが、Uberはドライバーと乗客間の取引を「生み出し」ます。こういった考え方のもと、自動運転におけるプラットフォームビジネスモデルを形成することは、簡単ではありません。なぜでしょうか。
一般的に成功したと言えるプラットフォームビジネスモデルは、価値の創造がプラットフォームの外部で行われています。この「外部での価値創造を『上手』に作れるか」が自動運転のプラットフォームビジネスモデルの難しさです。
プラットフォームに関してはさまざまな考え方がありますが、私たちは、ポイントは3つあると考えています。一つ目は、先ほど申し上げたプラットフォームの外部で価値創造ができているか。二つ目は、その外部での取引は大規模であるか。三つ目は、限界コストが低いビジネスモデルか、です。限界コストという言葉が出てきましたので、まず限界コストについて説明します。
7. 限界コストという考え方
プラットフォームというのは取引の場であるため、限界コストの低いビジネスモデルであることが多いです。限界コストとは「新たに1つプロダクトを生産するために追加で必要なコスト」のことを指します(限界コストと限界費用の違い、管理会計の考え方などは専門書に譲ります。ここでは分かりやすいように単純化して説明しています)。
自動車の製造を例にとってみてみましょう。自動車工場で車を作るとき、限界コストとは「1台の車を追加で作るために必要な費用」のことを指します。
ある工場ですでに100台の車を生産しているとしましょう。顧客の需要があるので生産台数を200台に増やしたいと思います。その際、1台追加するごとに必要なコストはいくらになるのかを知る必要があります。
その1台を追加製造するために必要なコストが「限界コスト」です。この場合、限界コストは追加の部品、労働時間、電力なども含みます。
しかし、101台目の車を製造するために必要なコストは、必ずしも100台目の車を製造するために必要だったコストと同じではありません。例えば、生産ラインがすでに最大能力で動いていて、新たに1台の車を製造するためには追加の労働者を雇う必要があるかもしれません。または、部品が大量に必要になり、部品の供給者から追加の割引を受けられるかもしれません。これらの要素はすべて限界コストに影響を与えます。それらを全て鑑みた時に、100台の車を作っているところに、101台目を作るためにどれだけ追加でお金が必要になるか、それが限界コストです。
一般的に、限界コストが高いモデルは、規模が大きくなっても利益「率」は上がりません(ここでは話をシンプル化するため営業利益率などの言葉は使わずに単純に「利益率」として説明します)。生産するプロダクトの数が増えると、それに比例してコストも増えるという構造になります。一方、限界コストが低いビジネスモデルは、規模が大きくなると利益率が上がります。売上は増えるがコストはあまり増えないという構造になります。
話をプラットフォームビジネスに戻します。
プラットフォームビジネスは、この限界コストという考え方も大事です。なぜならプラットフォームというのは、外部での「取引」量が増えても、プラットフォームそのものに必要なコストが大きく増えることはありません(正確にはそのようにデザインすることが重要です)。もちろん保守運用のコストやサーバーを動かすための電気代などプラットフォームの内容によって影響を受けるコストはありますが、いわゆる「直線型のビジネスモデル」と比較して限界コストは低いです。ある程度の限界はありますが、規模が大きくなればなるほど、利益率が上がっていきます。
具体的な例で考えてみたいと思います。
8. App Storeの例
先ほど、プラットフォームビジネスで大事なことは、①外部で価値創造ができているか ②その外部での取引は大規模であるか ③限界コストが低いビジネスモデルか と説明しました。例えば、プラットフォームの代表とも言えるApp Storeの場合はどうでしょうか。
App Storeはユーザーとアプリ開発者を繋げるプラットフォームです。ユーザーはさまざまなアプリをダウンロードし、開発者はアプリを販売します。売上の一部をAppleが手数料として収入とし、これがApp Storeの収益源となっています。
①外部で価値創造ができているか:
App Storeが創出する価値も、App Store自体の内部ではなく外部で形成されています。App Storeは、日々の問題を解決したいユーザーとその解決策を提供するアプリ開発者との間での「取引」を可能にする場です。課題解決という価値はプラットフォームの外部で生み出されてきました。これまで眠っていた「潜在的な需要と潜在的な供給」がApp Storeにより生み出され、スマホのアプリが世界中の一人ひとりの困りごとを解決するという「新たな市場」を作り出しました。
②その外部での取引は大規模であるか:
App Storeに登録されているアプリ開発者の登録人数は2022年時点で約3,700万人、毎週平均37億321万1396のユーザーアカウントがApp Storeで何らかのアプリを探していると言われています(出典『2022 App Store Transparency Report』)。グローバルベースでの取引が行われているため、非常に大規模です。
③限界コストが低いビジネスモデルか:
取引をする人たちは世界中の各ユーザーと各アプリ開発者(または企業)ですが、App Storeに並んでいるアプリの数が100から200に増えても、App Storeのコストが2倍になる訳ではありません。App Storeの外側で行われる「取引」(もちろん商流としてはApp Storeを介して取引は行われます)の数が、増えれば増えるほどApp Storeがもらう手数料の売上だけではなく、利益「率」も上がっていきます。
プラットフォームビジネスの分かりやすい例と言えると思います。GitHubやECモールも構造的には同じです。
9. 自動運転におけるプラットフォームビジネスのチャレンジ
自動運転におけるプラットフォームも、過去のプラットフォームビジネスを参照するならば、その外部で価値を作り出し、限界コストの低いモデルで、規模を拡大する必要があります。
例えば、自動運転のプラットフォームがその外部で生み出せる価値にはどんなものがあるのでしょうか。
アプローチの仕方は2種類あると考えられます。第一に、提供しているものの数が爆発的に増えるというものです。これは自動運転を使った何かしらのサービスが「移動」というものであった場合、そのプラットフォームが存在することにより、日本全体の「移動の総数」が劇的に増加するなどが考えられます。自動運転のプラットフォームがあることにより、国民の日々の「移動」や国内外の旅行客による「移動」が増えるなどです。逆に自動運転プラットフォームの出現により日本国内の「移動」の総数が変わらない場合、既存の移動手段とのパイの奪い合いになり、プラットフォームが追求できる規模には早い段階で限りが出てきます(参照 4.で説明したTAM/SAM/SOMの考え方)。
第二に、「移動以外」の全く新しい価値をプラットフォームの外部で生み出すことです。例えば、センシングのデータを使ったデータ事業などがそれに当たります。プラットフォームに接続することで、データを必要としている人とデータを提供する人両方にメリットがあり、プラットフォームの外側で何かしらの新しい取引が大規模に行われるというものです。
これに関しても、データの所有権であったり、マネタイズの手法であったり、さまざまな課題がありますが、各社さまざまなアプローチを検討していると思われます。
自動運転プラットフォームで経済合理性を担保する難しさは、「外部で具体的な価値を創造し、その価値を結びつけて取引を生み出す具体的なモデルを形成すること」にあります。自動運転技術はその性質上、具体的な価値創造を明確にすることが難しく、この価値創造の課題を解決するためのビジネスモデルを構築することが大きなチャレンジになると私たちは考えています。

10. 社会実装における私たちの役割と研究開発
自動運転技術をビジネスモデルに取り入れるためには、技術そのものだけでなく、市場ニーズ、コストと収益のバランスなど、多くの要素を考慮する必要があります。これらの要素は互いに複雑に関連しており、うまく組み合わさったときに初めてビジネスが成立します。
複雑な状況の中で、私たちはひとつひとつの要素を丁寧に分析し、構造化しています。そして、「自社の技術が具体的に市場のどの部分に貢献するのか」を明確にしていくことが重要だと考えています。
文中でも述べたとおり、私たちの場合は、これまで当社が培ってきた通信事業に関する考え方や、さまざまな新規事業の検討で得たマーケティングやビジネスモデルの知見を活用し、自動運転をどう経済的に成功させるかという課題にも取り組んでいます。
将来的には、自動運転が広く実装されるにあたり、どの企業が何を提供し、どの範囲で責任を持つべきか、何がコアコンピテンスになるのかという問題への解答が求められます。
その中で、私たちは、自社の強みや能力が何であるか、そして日本全体として克服すべき課題は何かを考慮に入れ、技術開発とビジネスモデルの検証を両輪で進めています。
私たちはこれが最終的には日本の社会全体への自動運転の実装につながると信じています。
参考:「自動運転運用プラットフォーム」を活用した自動運転社会の実現に向けた取り組み