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全固体電池で高エネルギー密度化の技術を確立!
ー300Wh/kgの実証に成功ー

#次世代電池

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1.ソフトバンクが目指す高い重量エネルギー密度の電池

 ソフトバンクでは、ドローンや成層圏通信プラットフォーム(HAPS)など軽量化が重要視されるデバイスに適した重量エネルギー密度(Wh/kg)の高い軽量な次世代電池の研究・開発を行っています。(引用:https://www.softbank.jp/corp/technology/research/story-event/007/)。

2020年には、リチウム金属電池(LMB)で世界初となる450Wh/kgの実証に成功し、その翌年度にはそれをさらに上回る520Wh/kgの実証にも成功しました。

 一方で電池の重量エネルギー密度と寿命特性の両立は難しく、とりわけLMBに用いられるリチウム金属負極は、負極容量でみると現行のリチウムイオン電池に使われる黒鉛負極(381mAh/g)の約十倍となる3681mAh/gと、大幅な容量増加が見込める一方で、電解質の分解、充放電中の大きな膨張収縮、デンドライトによる容量減衰や短絡など、多くの課題があります。その結果、LMBの寿命特性はリチウムイオン電池より大幅に悪くなる傾向があります。

 この状況を打開するために、より安定な電解質が求められており、近年、固体電解質の著しい進歩のもと、リチウム金属を負極に使った高い重量エネルギー密度の全固体電池が着目されています。

2.全固体電池について

 全固体化は、リチウムイオン電池の安全性や出力特性などを向上させる事ができる技術です。電池では正極と負極との間に電解質と呼ばれるイオン伝導体が配置され、電解質を通してイオンのやり取りを行います。全固体電池では、リチウムイオン電池で用いられている可燃性の有機電解液を使用せずに、安定な固体電解質のみを使用します。
 固体電解質は熱や電位に対して安定であるため、電池の温度上昇による電解液の発火・破裂の抑制や高電圧の正極活物質を使用することができ、安全性の高く、高エネルギー密度の電池を実現できると期待されています。
 また、近年、固体電解質の中には、化学安定性や低温・高温環境での安定性、イオン伝導度などの面でも電解液より優れた特性を持ったものが発見されています。これらの発見により、全固体電池では、長寿命化、作動温度範囲の拡大、高い出力特性を実現できる可能性が高まり、多くの研究機関や企業で研究開発が行われています。

 メディアなどでは、しばしば、「全固体電池」と「固体電池」や「疑似固体電池」(以下、固体電池に統一)といったワードが混同されていますが、実は全固体電池と固体電池は異なる電池です。固体電池は固体電解質と有機電解液のハイブリッドの電池です。有機電解液の添加は、電池の早期実用化を促す一方で、全固体電池に比べ、作動温度範囲や作動電圧範囲の広さ、長寿命化などの利点が薄れてしまいます。ソフトバンクでは前述の通り、全固体電池の開発を行っています。

図1 リチウムイオン電池と全固体電池

3.全固体電池の課題

 全固体電池への期待が高まる一方、多くの課題もあります。その課題の1つとして、固体粒子間の良好な界面形成や膨張収縮するリチウム金属負極に追従して界面を保持させることが難しいことが挙げられます。電解液は流動性があるため、複雑な表面形状を有する正極活物質とも良好な界面を形成することが可能です。一方で固体電解質の場合は、固体電解質(固体粒子)と正極(固体粒子)を上手く密着させなければ、イオン伝導が十分に行われません。界面制御が十分でない場合、界面抵抗が大きくなり、電池の容量や出力の減少、寿命特性の低下などが起こります。
 負極界面においても、リチウム金属負極の表面制御が不十分の場合、リチウムデンドライトが固体電解質層の粒界に沿うように析出・成長し、正極と負極が短絡することが挙げられます。短絡すると電池の発熱や寿命低下の原因となります。
 これらの課題に対し、ソフトバンクでは、正極活物質の表面に固体電解質を薄くコーティングする技術、リチウム金属表面にナノオーダーの人口被膜を形成する技術、パックでのセルの拘束圧力を高める技術などを開発しており、すでにいくつかの技術で、これらの課題に対して改善効果があることを確認しています。

4.300Wh/kg達成と今後の取り組み

 ソフトバンクと米国企業Enpower Greentech Inc.傘下のEnpower Japanは、共同研究を通して、正極活物質と固体電解質の組成と構造の最適化、正極活物質の表面処理技術、電池製造プロセスを検討し、正極-固体電解質層の界面制御技術の確立に成功しました。
 また、正極合剤に含まれる固体電解質の重量比率の削減や、固体電解質層の薄膜化など軽量化技術の開発にも成功し、全固体電池セルで重量エネルギー密度を300Wh/kgまで向上させることに成功しました。
 この数値は従来のリチウムイオン電池セルの最高値と同等の値となります。

図2 全固体電池セルの仕様

図3 全固体電池セルの放電容量

 今後は本技術の最適化により、さらに全固体電池の軽量化を図るとともに、サイクル特性の向上、作動温度や作動電圧範囲の拡大など、重量エネルギー密度を高めながら、長寿命・高出力も検討し、400Wh/kg以上の全固体電池の早期実用化を目指します。

Research Areas
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