- 01.次世代樹脂箔とは
- 02.積層溶接の課題
- 03.積層電池セルでの実証とサイクル特性
- 04.釘刺し試験による次世代樹脂箔の安全性評価
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次世代樹脂箔による安全性の改善
#次世代電池 #HAPS #次世代樹脂箔 #リチウム金属電池
2023.11.20
ソフトバンク株式会社


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1.次世代樹脂箔とは
リチウムイオン電池の集電体には、銅やアルミニウムといった金属箔が使用されています。電池セルの重量エネルギー密度(Wh/kg)を高めるためには、正極や負極の活物質の重量エネルギー密度(Wh/kg)を向上させることが一般的な方法ですが、集電体の軽量化も大きな効果があります。リチウム金属を負極に用いたリチウム金属電池セル(LMB)の重量比(図1)では、集電体は全重量の約20%に相当しており、集電体の重量を削減することで、電池セルの重量を削減し、重量エネルギー密度の向上が可能となります。
そこで、ソフトバンクでは、樹脂フィルムの両面に薄い導電層を形成した次世代樹脂箔(図2)の開発に取り組んでいます。

図1 タブや外装体を除いたLMBの重量比

図2 次世代樹脂箔(Cu, 負極側)の外観(左)と断面SEM(走査型電子顕微鏡)像(右)
2. 積層溶接の課題
積層電池セルでは、各層のタブ部(図3オレンジ箇所)を溶接することで集電パスを形成します。しかし、次世代樹脂箔は図2のように構造中に絶縁性の樹脂層を含むため、箔の垂直方向の導電パスがありません。さらに、樹脂と金属は、沸点・融点や強度などの物性が大きく異なるため、樹脂層と金属層の破膜をさせずに、積層タブとタブリードを溶接して導電パスを形成するのは困難です(図3)。また、絶縁性の樹脂層を含むため箔自体の抵抗が高く、仮に積層電池が作れたとしても、内部抵抗が増加し電池性能が低下する恐れがあります。
そのため、次世代樹脂箔を積層電池で活用するには、樹脂層 / 金属層が多数積層したタブ部を低抵抗で溶接する技術の確立と、次世代樹脂箔自体の抵抗を下げることが必要です。

図3 積層電池セルの溶接と次世代樹脂箔の課題
3. 積層電池セルの実証とサイクル特性
次世代樹脂箔の積層したタブ部とタブリードの溶接では、超音波溶接、抵抗溶接、レーザー溶接などの方法を検討することで、溶接抵抗の低減、溶接強度の確保、箔の破断や亀裂などの性能低下要因を抑制することができました。また、次世代樹脂箔の金属層の厚みや形成方法、微小な貫通孔の導入、樹脂の種類などさまざまな検討を行い、次世代樹脂箔自体の抵抗を低減しました。これらの技術の確立により、3Ah級の積層電池セルを実証することに成功しました。
次世代樹脂箔を金属箔の電池性能を比較するために、次世代樹脂箔と金属箔を用いた3.5Ahの積層電池セル(正極:16積層、負極:17積層)をそれぞれ試作し、各種評価試験を行いました(図4)。

図4 樹脂箔セルの外観と構成
サイクル試験を、充電:0.5C 4.2V-CCCV 0.05C cut / 放電:0.5C-CC 2.5V cut、25℃の条件で実施しました(図5)。いずれの構成においても、容量維持率、クーロン効率ともに同等の性能を示しました。また、0.1C〜2.0Cの放電レート試験においても、同等の性能であることを確認しています。

図5 積層電池セルのサイクル特性
4. 釘刺し試験による次世代樹脂箔の安全性評価
次世代樹脂箔のもう1つの特徴として、樹脂層の溶断による安全性の向上が挙げられます。リチウムイオン電池と同様に、集電体に金属箔を用いたLMBは、短絡すると局所的に大電流が流れ続け、短絡部の温度が急激に上昇し、発火や破裂に至ります。一方、低融点の樹脂層を含む次世代樹脂箔を用いた場合は、短絡しても瞬間的に樹脂層が溶断するので、発火に至る前に電流パスが切断され、安全性が向上することが期待されます。
そこで、次世代樹脂箔と金属箔を用いて試作した4種類の積層電池セルを用いて釘刺し試験を実施しました。

図6 釘差し試験結果
正極側に樹脂箔(Al)を用いた場合には、短絡した瞬間に電圧は下がるがすぐに回復し、電池セルの温度が上昇しませんでした(図6)。この結果から、正極側に次世代樹脂箔を用いることで、溶断効果により、電池セルの安全性が向上することがわかりました。
今回開発した次世代樹脂箔は、現行の金属箔を置き換えるだけで、重量エネルギー密度と安全性が向上する材料となっております。一方で改善した抵抗値やサイクル特性も十分ではなく、今後は、材料メーカーや電池メーカーに展開していくとともに性能をさらに改良し、実際の電池への採用を目指していきます。
ソフトバンク株式会社先端技術研究所では今後も材料レベルから、HAPS用重量エネルギー密度の高い電池セル開発にアプローチを続け、早期実用化に貢献していきます。