- 01.Inter-HAPSと衛星フィーダリンクのアプローチ
- 02.NTNで注目されるレーザー通信の利点
- 03.拡張型SDNの恩恵
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- 2023.12.06
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HAPSの潜在能力を引き出すレーザー通信技術
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私たちは、成層圏通信プラットフォームであるHAPSを用いて通信サービスを提供するために日々研究開発を行っています。今回はその中のひとつの要素である、レーザー通信(光無線通信)について紹介します。
1. Inter-HAPSと衛星フィーダリンクのアプローチ
HAPSで通信サービスを行う場合、”サービスリンク”と”フィーダリンク”の2種類の通信が必要となります。サービスリンクはHAPSとユーザーのスマートフォンなどを結ぶ一対多の通信であり、フィーダリンクはHAPSと地上ゲートウェイを結ぶ一対一の通信です。

当然ながら、フィーダリンクがなければサービスを提供することはできません。サービスリンクによってユーザーと通信したデータを、5Gコアシステムやインターネットと接続する必要があるためです。HAPSは自由に空を飛ぶことができますが、このフィーダリンクはHAPSを束縛する「鎖」のような存在であり、その自由度を制限する主な要素となっています。何もない砂漠や海、地上インフラが破壊されてしまった被災地にHAPSを展開しても、そこに光ファイバーを敷設し地上ゲートウェイを建設しなければならないとすれば、HAPSの有効性は半減してしまいます。
この課題を解決するために「HAPSとHAPSを接続する:Inter-HAPS」および「コンステレーション衛星を用いる:衛星フィーダリンク」の2通りのアプローチを検討しています。もし複数のHAPSでメッシュネットワークを構築することができれば、すでに地上インフラがある都市近郊に、少数の地上ゲートウェイのみを設置するだけで済むでしょう。また、災害時などで即座に1機のHAPSだけを展開する際には、人工衛星を介してフィーダリンクを確保することで柔軟性を持たせることができます。

2. NTNで注目されるレーザー通信の利点
私たちはこれまでに、HAPSを用いた4Gサービスを実証・実験してきました。その中で、ミリ波を用いたフィーダリンクでは、いずれ周波数帯域が不足することを認識しました。
皆様が日々利用されている4G/5G通信は、それぞれの国の主管庁から周波数帯の割り当てを受けて提供しています。4G/5G通信以外にも、ほとんどの無線通信はだれが・どこで・どのように使ってよいかが決められています。
このため、成層圏で利用するフィーダリンクの周波数帯も各国から割り当てを受ける必要があります。それがすでに他の用途に使用されているかもしれませんし、利用可能であっても、1企業にすべてを割り当てられるわけでもありません。周波数帯域は人類共通の有限な資源であるため、その利用には限りがあります。勝手に利用してしまえば混信して誰も通信することができなくなってしまいますし、割り当てられたとしても最大限有効に活用する必要がある貴重なものです。
電波資源の不足を代替しうる技術のひとつとして、レーザー通信(光無線通信)があります。レーザー通信は非常に指向性が高いため、ほかの通信と干渉することがほとんどなく、周波数帯域割り当ての制限を受けません。さらに、地上の光ファイバー通信と同様に数百Gbps、Tbpsといった圧倒的な広帯域通信が可能です。このためHAPSやLEOコンステレーション衛星などのNTN(Non-Terrestrial Network)では非常に注目されている技術です。
しかしながら、レーザー通信は極めて高度な技術を要する通信です。数百km、数千km離れた通信機を狙ってレーザーを照射し、受光レンズの先にある直径9μm(0.009mm)の光ファイバーにそのレーザーを入れる必要があります。その通信機はHAPSの機動や振動によって常に動いており、さらに成層圏の大気はわずか(地上の2~5%程度の気圧)とはいえ、その揺らぎはレーザーを常に屈折させます。これは夏の陽炎の中、山手線の揺れる車内から、名古屋上空を飛んでいる飛行機にささった針の穴をねらって狙撃するようなものです。
また、レーザーは天候によっては大きく減衰するという問題もあります。大気がほとんどない成層圏や宇宙ではその問題はほぼありませんが、地上との通信ではしばしば問題となります。地上ゲートウェイの上に雲がかかった時や雨が降った時に電波があれば、通信できる場合もありますが、レーザー通信は途切れてしまいます。容易に途切れてしまうようではフィーダリンクに使うことはできません。
3. 拡張型SDNの恩恵
これらの問題は、天候予測モデルを組み込んだ拡張型SDN(Software Defined Network)によって解決することができると考えられています。拡張型SDNは、HAPSの配備状況を把握し、天候やトラフィック量を予測して、事前に通信経路を最適化します。この技術は前述のミリ波を用いたフィーダリンクでも活用できますが、レーザー通信はより広帯域な通信ができるため、より多くのトラフィックを余裕をもって迂回できるようになり、その恩恵をさらに受けることができるのです。
成層圏での光メッシュネットワークを実現するためには、HAPSが十分な搭載重量と電力を持つことが必要です。これは私たちが開発している成層圏向け無人航空機「Sunglider」が大型HAPSである理由のひとつでもあります。一見すると実現に時間のかかる大型HAPSはコストや無線通信効率の観点からは最適であると考えています。
日本はレーザー技術、光学技術はもとより、光通信技術や制御技術、航空機用部品製造など、レーザー通信に必要な技術スタックで世界をリードしているすばらしい環境であり、実際に宇宙用レーザー通信では世界に先駆けた目覚ましい成果を上げています。私たちは研究機関や企業と協力し、成層圏用レーザー通信技術(光無線通信)の研究を進めてまいります。