ソフトバンクが挑む!HAPS航空制度
~ルール形成戦略と重要性~

#HAPS #航空制度 #ICAO #シカゴ条約

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1.HAPS実現に向けた航空制度の重要性

HAPS(High Altitude Platform Station)は、超軽量な機体構造、高性能な電動推進技術(モーター)、そして太陽光発電と高性能バッテリーを駆使したシステムです。これにより、高高度(60,000フィート/約18km以上)での長期間飛行という特殊な運航を可能とします。HAPSの独特な特性は、既存の航空ルールでは対応が困難であるため、その商用化を進めるには新たな航空ルールの制定が必要となります。この背景から、ソフトバンクは航空制度の策定に積極的に関与し、HAPSに有利なルールが制定されるように活動を進めています。これはHAPSのビジネス展開において重要な取り組みであり、世界での競争力を維持するために欠かせません。 今回は、現在の航空制度の体系と、これまでのソフトバンクの航空制度に関する取り組み状況についてご紹介します。

2. HAPSを取り巻く航空制度の状況

民間航空における最上位のルールは、1944年に締結された国際民間航空条約(シカゴ条約)です。その後、1947年に国際民間航空機関(ICAO)が設立され、国際ルールの策定はICAOを中心に各国当局が進めています。 シカゴ条約とその附属書は、すべての締約国に適用される「国際標準(International Standards)」と、適用が望ましいとされる「勧告方式(Recommended Practices)」の2つの要素から成り立っています。これらを合わせて「SARPs」と呼びます。 各国はICAO-SARPsに準拠し、国内法を整備しています。ICAO-SARPsの改訂は、ICAO会議での提案が可能な国家当局やICAO ANC Observerによって行われます。民間企業は単独で直接提案することはできません。

航空制度を変えていくためのフェーズ | ソフトバンクが挑む!HAPS航空制度

国際および国内の航空ルールには、以下の3つの柱があります。

国際および国内の航空ルールの3つの柱 | ソフトバンクが挑む!HAPS航空制度

・機体の安全性(耐空証明)
・操縦者(パイロット)の技量(ライセンス/技能証明)
・空の運航ルール

これまでの航空制度は、パイロットや乗客が航空機に乗ることを前提としたルールです。
一方、HAPSの特徴は以下の通りです。

・無人での遠隔操縦(将来的には自律飛行を目指す)
・高高度(60,000 ft/18km以上)の長期間飛行
・超軽量機体構造、太陽光発電と高性能バッテリー、高性能電動推進技術(モーター)など

この通り、HAPSは、既存の航空ルールで想定している航空機とは大きく異なる部分が多々ある為、新たなルール策定が必要とされます。HAPSに関連する動きとして、下図左に示すICAO組織内に遠隔操縦航空機システムパネル(RPASP)があります。2015年から活動が開始され、RPASPの配下には下図中央に示す各分野のWorking Group (WG)があり、SARPsの改訂作業が順次行われております。最終的に2026年までの完了を目指して改訂作業が進められています。

一方で、HAPSは広義の意味ではRPAS(Remotely Piloted Aircraft Systems)に含まれますが、RPASPの対象はIFR(計器飛行方式)で運航される遠隔操縦航空機(パイロット1名が1機体を遠隔操縦するエンジン機)であり、HAPSや高高度運航に関する作業は含まれていません。優先度の関係でHAPSに関する作業は順番待ちとなっています。

ICAO組織内の遠隔操縦航空機システムパネル(RPASP) | ソフトバンクが挑む!HAPS航空制度

3. HAPSの国際ルール形成に向けたソフトバンクの戦略

ICAOによる国際ルール策定において、各国、標準化団体、企業の取り組みや実績は重要な役割を果たします。ただし、各国や各国際機関が単独で提案するだけでは国際ルール制定の必要性が不十分な場合もあり、国際ルール策定に進むためには戦略的な関与が必要です。ソフトバンクは以下の2つのアプローチ戦略を取っています。

・パートナー企業との個別活動
・民間団体を通じた共同活動

ソフトバンクの航空制度に対するアプローチ戦略 | ソフトバンクが挑む!HAPS航空制度

どちらのアプローチにおいても、自らが積極的に関与することで、ビジネス展開をスムーズに進められるルール形成がされるよう活動しています。

前述の「3つの柱」に沿った具体的なルール形成戦略は以下の通りです。

■機体の安全性(耐空証明)

ポイント①:オペレーターとしてメーカーに関与し、FAAとの会議やテスト、審査に参加する

HAPS大型固定翼機で正式な耐空証明を取得した機体はまだ世の中に存在していません。ソフトバンクの開発パートナーであるAeroVironment社はアメリカ連邦航空局(FAA)に型式認証を申請し、ソフトバンクはオペレーターとして協力して型式認証の取得を目指しています。ソフトバンクとAeroVironment社の関係は、機体メーカーのBoeing社とオペレーターのANAがB-787で協力して取り組んだ「Working Together」のアプローチに似ています。
※Working Together:機体メーカーとカスタマーが協力関係を構築し、お互いの強みを活かして設計の初期段階から共同で開発する新たなアプローチ手法。

耐空証明書の必要性 | ソフトバンクが挑む!HAPS航空制度

ポイント②:新たな基準策定の取り組みは今後のHAPS大型固定翼機の基準となる重要な部分

Certification Basis (適用基準 - 耐空性等)
超軽量機体構造、太陽光発電、高性能バッテリー、高性能電動推進技術(モーター)、長期間飛行など、既存の基準には含まれていない要素については、新たな基準の策定が必要です。そのため、G-1 Issue Paper(適合性見解書)を作成し、FAAと基準の整備に取り組んでいます。基準の策定に伴い、適合性証明方法であるMoC(Means of Compliance)やPSCP(Project Specific Certification Plan)の策定を行い、その内容に従って実機製造や地上・上空での各種試験を行い、安全性に問題がないことを証明し、型式認証を取得することを目指しています。

Certification Basis (適用基準 - 耐空性等) | ソフトバンクが挑む!HAPS航空制度

ポイント③:CS-HAPSはJARUS加盟国がHAPS向けの航空法を自国内で作るための重要なルール

無人航空機関連の耐空性に関する適用基準策定活動では、近年はJARUS(Joint Authorities for Rulemaking on Unmanned Systems)がICAOの対応しきれない分野を担っており、国際的なルール策定が進行しています。ソフトバンクもJARUSの活動に重点を置いており、現在CS-HAPS(Certification Specification for High Altitude Platform Systems)のルール策定作業に参画しています。

ポイント④:無人航空機(ドローン)や空飛ぶクルマのルール策定はHAPSにも一部影響あり

無人航空機(ドローン)や空飛ぶクルマの国際的なルール策定はHAPSよりも前進しており、世界中で進行しています。HAPSとは一部共通する要素もある為、こちらの動向を把握することも重要です。ソフトバンクは日本航空宇宙工業会(SJAC)に加入しており、国際委員会ではICAO/ICCAIAの国際動向に注意を払い、次世代空モビリティ検討委員会では、官民協議会や次世代空モビリティの社会実現プロジェクト(ReAMO)、ISO/TC20/SC16(無人航空機の国際標準化を担当する専門委員会)の動向を追跡し、HAPSに影響を及ぼす要素に対応しています。

■操縦者(パイロット)の技量(ライセンス/技能証明)

現在、テスト飛行を行うパイロットは既存の民間航空機の操縦技能証明を持っており、HAPS専用のトレーニングも受けています。将来的にはHAPS向けの正式な操縦ライセンス制度の確立に向けた活動に参画する予定です。

■空の運航ルール

ポイント:オペレーターとして参画し、ビジネス展開に不利なルールを未然防止

世界的には60,000 ft/18km以上を境にした高高度の空域設定および運航ルールが存在しますが、国によって異なる空域設定が行われています。例えば、アメリカでは60,000 ft/18km以上の空域を「Upper Class-E」として設定しています。ソフトバンクは高高度での運航者間の協調的な運航ルールの確立を目指し、アメリカを中心に活動しています。アメリカ連邦航空局(FAA)やNASAの活動に参画し、ETM Working Groupやm:n Working Groupに関与し、航空業界全体と連携しています。

  • ※ETM:Upper Class E Traffic Management

ETMが実現するまでの空域管理(予約)方法について、FAAのCentral Altitude Reservation Function (CARF)による高度予約(ALTRV:Altitude Reservations )の活用を提案されており、今後、HAPSに適用範囲を拡大する取り組みが進められる予定です。
また地上から高高度まで到達する際には民間航空機が飛び交う対流圏の空域を通過する必要があります。ソフトバンクは民間標準化団体であるRTCA(旧名称:Radio Technical Commission for Aeronautics)に参加し、無人航空機システムの性能要件を検討するSpecial Committee (SC) SC-228に参画しています。HAPSを含むDAAやC2リンクの標準化規格の策定に関与しています。

  • ※DAA:Detect And Avoid、C2リンク:Command and Control リンク
HAPSの運航ルール | ソフトバンクが挑む!HAPS航空制度

日本では、HAPS大型固定翼機は無人航空機ではなく無操縦者航空機(RPAS)に分類されます。これまでの取り組み状況は、国土交通省航空局と共有し、相談を行っています。国土交通省航空局では、無操縦者航空機の環境整備を貨物輸送の分野から推進しています。無操縦者航空機の環境整備を支援する民間団体としてAIDA-JRPAS(航空イノベーション推進協議会-日本無操縦者航空機委員会)が存在し、ソフトバンクは2018年の発足時から参画しています。JRPASでは産官学よりRPAS技術・運用・法整備に関する国内の有識者を集め、高い専門知識を活用しながら具体的な運用の想定を踏まえて体系的に議論を行っています。また航空交通管制協会(ATCA-J)にも加入しており、航空交通管制の専門家の視点からHAPSの安全飛行に適した空域や飛行方法、航空管制内容に関するアドバイスを得ながら、体系的に議論を進めています。

あわせて「HAPS航行の安全を支える運航管制技術の展望」についても御覧下さい。

HAPS航行の安全を支える運航管制技術の展望

2023.12.06

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HAPS航行の安全を支える運航管制技術の展望

#HAPS

4. 今後の展望

各国、団体、企業の取り組みや実績を踏まえ、ICAOではHAPSの航空ルール策定が進行しています。2023年8月のICAO Air Navigation Worldにおいて、ソフトバンクが設立発起人のHAPS Allianceから高高度空域活用のコンセプトと経済的価値について、各社実績と共にパネルディスカッションを行いました。

またICAOからはHAPSに関連する以下の取り組みが発表されました:

・Highe-Level GAP Analysisの取りまとめ
・HAO CommunityのWeb開設と各国当局、ステークホルダーへの招待
・State Letterの発行

  • ※HAO:Higher Airspace Operations

前述の通り、HAPSは作業の優先度の関係で順番待ちとなっていましたが、いよいよ具体的な実施フェーズに進んでいます。2023年12月18日には高高度空域における民間航空機の運航に関する規則整備についての国際民間航空機関(ICAO)の取組への支援を表明する日本、米国、英国、カナダ及び欧州連合(EU)による共同ステートメントが発表されました。
ソフトバンクは今後も各国や標準化団体などの基準策定活動に積極的に関与し、HAPSの商用化を目指して航空制度活動を進めていきます。これまでのソフトバンクの航空制度活動は少人数で行ってきましたが、認証・標準化活動を通じた世界に通用する人材の育成も欠かせません。ビジネス上の重要性から、世界で競争力を維持するためにも、ソフトバンクは先頭に立って世界初かつNo.1のHAPS商用化を目指して取り組んでいきます。

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