- 01.6G用新周波数の実装に向けた新たなステップ
- 02.5Gで見えてきた課題
- 03.世界は7GHz帯に注目
- 04.国内通信事業者初の屋外実証実験 ─ 実環境での挑戦
- 05.持続可能な電波利用へ
ソフトバンク先端技術研究所は、7GHz帯(通称、センチメートル波)での屋外実証実験を行い、有効性を実証しました。
屋外実証実験に関するプレスリリースはこちら
https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2025/20251119_01/
それに伴い、2025年11月19日に報道関係者向けの説明会「ギジュツノチカラ センチ波編」および「6G技術に関するカンファレンス」を実施しました。
報道関係者向け説明会では、先端無線統括部 6G準備室 室長 矢吹歩が登壇し、「7GHz帯を用いた屋外実証実験について」と題して技術説明を行い、実際の実証エリアを回るバスツアーを行いました。
また、総務省や国内MNO、通信機器ベンダーなどの関係者を招待して、ノキアと共同で実施した6G技術に関するカンファレンスでは、所長 湧川隆次が登壇し、「AI社会を支えるネットワーク」と題してセンチメートル波の有効性を説明し、6G用の周波数帯としての採用を呼びかけました。
また、当日は以下の方々にもご登壇いただき、センチ波の有効性について掘り下げつつ、6Gがもたらす未来についてご講演いただきました。
講演名:通信とAIの融合が創る未来社会
登壇者:東京大学大学院工学系研究科 教授 中尾 彰宏
講演名:AIを活用した7GHz帯での6G
登壇者:ノキア モバイルネットワークス事業部 シニアバイスプレジデント & CTO アリ キナスラティ
講演名:AI社会を支えるネットワーク
登壇者:ソフトバンク株式会社 先端技術研究所 所長 湧川 隆次
本記事では、なぜ6Gの実装にセンチメートル波が注目されているのかを踏まえつつ、実証実験の具体的な内容をご紹介します。
1. 6G用新周波数の実装に向けた新たなステップ
次世代通信システム「6G」の研究が世界各地で進んでいます。
以前にご紹介した6Gのコンセプトの記事において、ITU-Rによると、6Gでは5Gの3つの特徴である「超高速・大容量」「超低遅延・高信頼」「超多接続」の拡張に加えて、新たな3つの特徴である「AIの融合」「センシングの融合」「ユビキタス接続」が追加されています。
2025.11.27
Blog
6Gとは? 次世代通信技術の解説とソフトバンクの取り組み
6Gが普及すると期待されている2030年代の社会は多くの場所で様々なAIが活用されていると予測されており、特に生成AIを使ったサービスのための映像やプロンプトの送信によって発生するトラフィックが急激に増えてくると予測されています。
将来のAI社会において安定してサービスを提供するため、ソフトバンクでは様々な取り組みを行っており、その中でも周波数資源の逼迫は避けられない課題です。
そのため、新しい通信トラフィックへの対応が必要となり、6G向けの新しい周波数帯の検討が重要となります。
ソフトバンクではこれまで、6Gで求められる通信速度である100Gbpsを超える通信速度の実現のためにテラヘルツ帯(サブテラヘルツ帯)の実用化に向けた研究を行ってきました。しかし、現在モバイル通信に使われている周波数帯(Sub6、ミリ波を含む)と比べると、どうしても通信できるエリアが限られてしまうという課題がありました。
現在、世界を中心に6G向けの周波数帯に関する議論が行われています。その議論の中で、通信速度を求める意見の他に電波の使いやすさを求める意見が出てきており、Sub6とミリ波の中間となる周波数帯が注目されています。この周波数帯はミリ波よりも波長が長いことから、便宜上、センチメートル波と呼ばれています。
※モバイル通信の規格では、図1のように周波数区分(FR1〜FR3)が定義されており、Sub6帯はFR1に、ミリ波はFR2に、センチメートル波はFR3に分類されます。
図1. 5Gで定義されている周波数区分
2023年にドバイで開催された ITU-R 世界無線通信会議(WRC-23)では、FR3の中でも7,125 MHz〜8,400 MHzおよび14.8GHz〜15.35GHzをモバイル通信で利用するための議論が進みました。これらの周波数は、次回の無線通信会議(World Radiocommunication Conference-27)にて、正式に6G候補周波数として指定される予定です。
ソフトバンクでは、このセンチメートル波を使った6Gの展開を見据え、Sub6のようにビルの屋上や鉄塔に基地局を設置する"マクロ局"としての利用方法が適しているのか、ミリ波のようにスモールセルを多く設置する利用方法が適しているのかといった疑問に対して、実際に屋外に基地局を設置することで検証を行っています。
2. 5Gで見えてきた課題
5Gでは、4G(LTE)までに利用されてきた周波数帯(3.6GHz以下)の他に、「Sub6(3.9GHz帯など)」と「ミリ波(29GHz帯など)」の電波が通信に使われています。
Sub6は、4Gで使われている周波数帯の電波と近いため、「4Gと同等のエリアをカバーできる」「4Gと5Gとでアンテナを一体化できる」「同じ部品を使うことができる」などの利点がありました。
しかし、Sub6の電波の割り当て状況は、1社当たり100MHz〜200MHz幅となっており、6G時代の社会に求められる通信性能を考えると、対応しきれない可能性があります。
一方で、ミリ波の電波の割り当ては、1社あたり400MHz幅と、Sub6よりも広い周波数幅が割り当てられているため、超高速通信が実現可能です。
しかし、ミリ波の電波特性として、直進性が高く遮蔽物に弱いという性質があるため、従来の4Gのように広いエリアをカバーすることが難しいという課題があります※1。 また、ミリ波に対応したスマートフォンも機種が限られており、期待していたほど使われていないということも課題の1つです。
※1:総務省:令和6年度 携帯電話及び全国BWAに係る電波の利用状況調査の調査結果
https://www.soumu.go.jp/main_content/000983898.pdf
3. 世界は7GHz帯に注目
センチメートル波(特に7GHz帯)を利用する場合、Sub6の延長で電波を利用することが可能であり、7GHz対応端末の開発もミリ波に比べて容易であると言われているため、先述したようなミリ波の課題を解決しつつ、Sub6よりも広い帯域を確保することで超高速通信も実現でき、さらに端末の普及も期待できるということで、6Gの普及に重要な役割を担うと期待されています。
また、既存の通信インフラと同じ方法で6Gを実装できる点も大きな特徴であり、この“実装しやすさ”こそが、7GHz帯が持つ最大の魅力といえます。
このように、センチメートル波はSub6とミリ波の良いとこどりの周波数であるとされ、世界的にも6Gの実用化に向けた需要が高まっています。
世界で議論されている具体的な周波数は、7,125MHz 〜8,400MHz ですが、5Gでも使える周波数※2 として、6,425MHz〜7,125MHz の帯域がすでに指定されています。これらの2つの周波数帯は連続しており、次回の世界無線通信会議において、7,125MHz〜 8,400MHzが6G候補周波数として正式に指定されると、6,425MHz〜8,400MHzという広い周波数が5G/6G向けの周波数候補となります。
この6,425MHz〜7,125MHz(Upper6)については、モバイル利用に向けた議論がすでに進んでいます。中国、香港、ブラジル、インド、ベトナムではすでに5G用の割り当てが決定されていて、一部の国ではすでにモバイル通信事業者への周波数割り当てまで完了しています。
しかしアメリカではすでにUpper6はWiFi向けに利用することが決定されており、実際にモバイル通信で利用できるのは7,125MHzよりも上の周波数となります。また、ヨーロッパでは、7.5GHz付近を公共業務で利用しているため、現状ではモバイル通信で利用することができません。このように、世界各地で状況が異なるため、この周波数帯を6Gで利用するためには、世界と連携しながら実用化に向けた議論が必要となります。
※2:3GPPの仕様では、6,425MHz〜7,125MHzはすでに n104 というバンド番号で定義されています。
4. 国内通信事業者初の屋外実証実験─実環境での挑戦
ソフトバンクではこの7GHz帯について、実際の都市部の環境でモバイル通信エリアを構築する実験を行いました。
電波の特性として、周波数が高くなるほど直進性が高くなるだけでなく、距離に対する減衰が大きくなります。これは伝搬損失(自由空間伝搬損失)と呼ばれ、周波数の2乗に比例して電波が弱くなることが知られています。
一方で周波数が高くなると、電波の波長が小さくなるため、アンテナを小さくすることができます。そのため、Massive MIMO基地局を用いる場合、周波数が高いほど多くのアンテナを利用することができるようになり、アンテナ利得を上げることができます。
7GHz帯は、Sub6で使われている周波数のおよそ2倍の周波数であり、基地局からの距離が同じとなる場所では、7GHz帯対応の端末が受信する電波の強さは、Sub6に比べて1/4の強さになります。一方で基地局の送信アンテナは、同じ大きさのMassive MIMO基地局を使った場合、4倍の数のアンテナを搭載することができます。このとき、距離に対する電波の減衰(伝搬損失)と、アンテナが増えたことによる効果(アンテナ利得の向上)が釣り合うことで、7GHz帯によるエリアカバレッジはSub6と同じか、それに近いエリアが実現できる可能性があります。
しかしこの考え方は、高いビルなどの障害物がない見通し内での計算であり、実際の都市部環境において建物の影になるような場所(見通し外、NLOS環境)ではSub6よりも7GHz帯のほうが不利になってしまうため、エリアが小さくなることも同時に予想されます。
机上計算による検討
ここでは、エリア設計時にシミュレーションを行うときに用いられる伝搬モデルを使って、Sub6(3.9GHz帯)と7GHz帯の電波の減衰特性(伝搬損失)を比較してみます。
伝搬モデルを用いた伝搬損失の計算結果を図2(見通し内の伝搬損失)、図3(見通し外の伝搬損失)に示します。図2によると、見通し内における3.9GHz帯と7GHz帯の伝搬損失の違いは、当初の想定通り約6dB程度の違い(7GHz帯がSub6の1/4程度の強さ)となりました。しかし、見通し外を想定した計算結果(図3)によると、その違いはおよそ 9dB程度となることがわかりました。つまり、見通し内では伝搬損失の増加をアンテナ利得の向上で補うことが可能ですが、見通し外になると伝搬損失の増加をアンテナ利得の向上だけでは補うことができず、全体的にエリアが狭くなるという予測となりました。
図2. 見通し内エリアの伝搬損失の比較(自由空間伝搬損失)(3.9GHz帯、7GHz帯)
図3. 見通し外エリアの伝搬損失の比較(Extended Hataモデル)(3.9GHz帯、7GHz帯)
屋外実験
シミュレーションの結果によると、見通し内は伝搬損失の増加とアンテナ利得の向上が釣り合っていて、Sub6と7GHz帯のエリアはほぼ変わらない。見通し外は伝搬損失のほうが大きくなるため、7GHz帯のほうがエリアが狭くなるという計算でしたが、実際の環境において机上の計算と同じ結果が得られるのかを確認するため、屋外の実証実験を行いました。
実際の環境でのエリアカバレッジの広さとその通信品質を検証するため、図4に示すように7GHz帯に対応した基地局を3.9GHz帯の基地局と並べて設置し、周辺の道路を車で走行しながらそれぞれの電波の受信強度と信号品質を測定することで、エリアの広さやその通信品質を検証しました。
図4. 設置した実験用基地局の写真(左に見えるのは3.9GHz対応基地局)
表1に実験の諸元、図5に実験を行ったエリアの地図と実験局の設置場所、図6に測定の様子を示します。
表1. 実験用基地局の諸元
図5. 実験用基地局の設置場所(東京都港区銀座4丁目〜8丁目付近の地図)
図6. 実験の様子(測定車で測定している様子)
電波伝搬特性の検証
基地局が設置されている建物の通り沿い(見通し内)と、それ以外の路地(見通し外)において、それぞれの基地局からの距離に対する端末の受信電力のデータを基に、電波伝搬損失(どの程度受信電力が低下するか)を評価しました。
図7、図8に、見通し内における測定結果、見通し外における測定結果をそれぞれ示します。図では3.9GHz帯、7GHz帯ともアンテナ利得などの値を差し引いて、伝搬損失の値のみで比較しています。
※ ただし100m未満の場所は、基地局を設置している建物自体による遮蔽の影響があるためデータを省略しています。
図7によると、見通し内では3.9GHz帯と7GHz帯の伝搬損失はほぼ同じ値となっており、統計的に見ても中央値の差分は1dB未満という結果となりました。先に示した机上計算の結果では、7GHz帯が3.9GHz帯よりも6dBほど伝搬損失が高いと予想されていましたが、実測の結果によると机上の計算よりも伝搬損失が低い(想定していたよりも減衰が小さい)という測定結果になりました。これは、銀座の環境として、通り沿いに高いビルが立ち並んでおり、電波が分散しにくい、いわゆる”キャニオン効果”によって、想定よりも電波が減衰しなかったものと考えられます。
また、路地などの見通し外の測定結果の統計的な結果では、データの中央値で9.7dB程度の7GHz帯の伝搬損失が大きいという測定結果となりました。これは机上検討の結果に近い結果となりました。
図7. 見通し内のエリアの伝搬特性の比較
図8. 見通し外のエリアの伝搬特性の比較
通信エリアとしての検証
試験エリア(図9、図10に示す赤枠、200m x 500mの区画)および、その周辺エリアにおける電波の受信電力(RSRP)と通信品質の測定結果を図9、10に示します。5Gの通信限界である-120dBmを基準に評価をすると、試験エリアにおける99%の場所で -120dBm以上の受信電力が確認できており、全体として3.9GHz帯と同じマクロ局によるエリア構築手法でも十分に、7GHz帯によるエリアカバレッジが構築できていることを確認しました。
また、通信品質を示す指標であるSINR(信号対干渉雑音比)の測定結果では、全てのエリアで0dB以上となり、安定した通信が可能であることを確認しました(-5dBを下回ると通信が切れてしまうことが多い)。全体的に見ると、SINR測定値の中央値は5.9dBであり、良好な通信品質でエリア全体をカバーできていることを示しています。これは、7GHz帯の電波はビル影への電波の回り込みが少ない特性によって、見通し外では隣り合う基地局同士の干渉が発生しづらくなっており、結果として高い信号品質が維持されていると考えられます。
図9. 受信電力(RSRP)マップ
図10. 通信品質(SINR)マップ
5. 持続可能な電波利用へ
本記事では、7GHz帯を用いたモバイル通信エリアの構築と実際の実験結果について解説しました。7GHz帯は将来的に6Gでの利用が期待されていますが、一方でモバイル通信以外のシステム(レーダーや衛星通信、放送事業など)が既存事業で利用している周波数帯でもあります。
また、無線LANの次世代規格である Wi-Fi ® 7(IEEE 802.11 be)も、6,425MHz 〜7,125MHzまでの拡張が検討されています。
通信事業者が6Gで7GHz帯を利用するには国からの周波数の割り当てが必要となりますが、過去の周波数割り当ての方法では、モバイル通信用に新しく周波数を割り当てる際に周波数を再編することで、その周波数を使っている既存システムを別の帯域へ移行していく「排他的な電波利用」が一般的でした。しかし、システム全体の周波数移行には多くの費用と時間がかかります。
もし、今後も通信技術の世代が進化するたびに周波数の再編が必要となる場合、最終的に周波数が使い果たされてしまい、移行先の周波数がなくなってしまうという問題や、周波数変更に伴う設備の更新に莫大な費用が発生し、本来の事業を圧迫してしまうなどの問題が継続的に発生することになります。
これらの問題を解決し、限られた電波資源や既存設備を効率的に使うためには、これまでの「排他的な電波利用」ではなく「共存・共用を前提とした電波利用」が重要であると考えています。
このような周波数観点での既存システムとの共存問題は、日本だけでなく世界における共通課題であり、将来の効率的な電波利用のためにも、周波数共有技術が必要であると考えられています。
ソフトバンクでは6Gの実用化に向け、今後も7GHz帯の電波としての有効性検証の他、「共存・共用を前提とした電波利用」のための研究開発を進めていきます。