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ACTIVATORS TALK【若手挑戦編】脳科学の視点で挑む通信研究──新卒エンジニアのリアルな実践

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先端技術研究所の研究員「Activators」が研究・開発や仕事観を語るシリーズ「Activators Talk」。第12弾は、生体信号処理の研究で培った“データを見極める力”を武器に、低遅延・低帯域通信を実現する新しいアプリの技術検証に挑む谷口さんにフォーカスします。大学・大学院では脳波やfNIRS(エフニルス)を用いた研究に取り組み、ノイズに埋もれたデータの中から本質的な情報を見つけ出す経験を積んできました。通信という未経験の分野に飛び込みながら、検証を通じて技術の価値を見極め、社会実装へとつなげていく——若手エンジニアとして“研究で得た視点”を新しい領域に広げていく、そのリアルな挑戦をお届けします。

<プロフィール>

脳科学への興味から始まった研究

―まず、大学・大学院ではどのような研究をされていたのでしょうか?

大学・大学院では、生体信号処理という分野を研究していました。脳波や心電図などを実際に計測して、そこから必要な情報をどう取り出すかというテーマです。

―生体工学のような分野でしょうか。工学と生物学、両方の知識が必要そうですね。

私は特に、取得した情報をどのように信号として処理するかという部分に取り組んでいたので、どちらかというと工学寄りの研究だったと思います。一方で、計測対象に関する知識がなければ、信号をただ取得するだけになってしまい考察ができないため、生物学、特に人体に関する知識も必要でした。

―その分野を学ぼうと思ったきっかけは何ですか?

もともと脳そのものに強い興味がありました。大学に進んで調べていくうちに、MRIやCTといったさまざまな計測手法があることを知ったのですが、脳波のような生体信号の計測では、どうしてもノイズや不要な情報が多く含まれてしまうことも分かってきました。
そうした余分な情報をきちんと取り除かなければ、本当に知りたい脳の状態を正しく理解することはできません。まずはデータの中から必要な情報を見極めて取り出すことが重要だと考え、この生体信号処理の分野を研究テーマとして選びました。

―脳に興味を持った背景には、何か具体的なきっかけがあったのでしょうか?

私は一卵性の双子なのですが、姉と性格やタイプが全然違うんです。同じ環境で育っているのに、どうしてこんなに違うのだろうと不思議に思っていました。そんなときに、頭がつながっている「結合双生児」の存在を知りました。その方たちはそれぞれに個性を持っていて、例えば一人が頭の中でいたずらを思いついただけで、もう一人がそれを察して「お姉ちゃん、やめなよ」と声をかけた、というエピソードを知ったんです。それを聞いて、脳の構造や仕組みはどうなっているのだろう、と強く興味を持つようになりました。

―研究ではどのようなことを行っていたのですか?

研究では、fNIRS(エフニルス)という脳機能計測の技術を用いて脳活動のデータを取得し、そのデータをどのように処理するかを研究していました。fNIRSは正式には「functional Near-Infrared Spectroscopy(機能的近赤外分光法)」と呼ばれ、近赤外光を頭部に照射して脳内の血流変化を測定することで、脳の活動状態を推定する技術です。MRIのような大型設備を必要とせず、ヘッドセット型のセンサーで比較的簡易に計測できる点が特徴です。
一方で、動きや環境の影響などによるノイズが入りやすいという課題があります。そのため私は、取得したデータの中からノイズを取り除き、本当に必要な脳活動の信号をどのように抽出するかという信号処理の手法を研究していました。

―研究で苦労したことや、工夫したことはありますか?

一番難しかったのは、「何がノイズで、何がノイズではないのか」を見分けることでした。
また、既存の計測機器だけでは不十分だったので、計測機器を自作したのですが、誰もやったことがない試みだったので、メーカーの方に聞いても「分からない」と言われてしまって…検証するまで、ずっとドキドキしていました。あと、装置が非常に壊れやすくて、実験したい時に壊れて実験できないというもどかしさもありました。

―研究を通して得た大きな学びは何でしたか?

研究を通して強く感じたのは、「本当に必要なデータを見極めること」の重要性です。生体信号にはノイズや不要な情報が多く含まれているため、それらを十分に考慮せずに解析してしまうと、実際の脳活動とは異なる解釈に至ってしまう可能性があります。
そのため、何を明らかにしたいのかを踏まえて、どのようなデータを取得し、どの部分を分析対象にするのかを慎重に設計する必要があります。解析手法や前処理の方法によって結果が大きく変わることも多いため、データの意味や信頼性を常に確認しながら扱うことが重要だと学びました。

未経験の通信分野へ──新卒1年目の挑戦

―新卒でソフトバンクに入社された理由を教えてください。

データや情報を解析して価値を見つける仕事に興味があり、データサイエンティストを目指していたことが一番の理由です。そのため、就職活動でもIT企業を中心に見ていました。
医療機器メーカーなども考えてはいたのですが、機械メーカーだと「機械そのものをつくること」が中心になるイメージがありました。私自身は、機械を作ることよりも、そこから得られるデータや情報をどう解析して活用していくかという部分に面白さを感じていたんです。
そうした視点で企業を見ていく中で、通信やデータ基盤を通じて多くの情報を扱い、さまざまなサービスにつなげている点に魅力を感じたのがソフトバンクでした。自分が学んできた信号処理やデータ分析の考え方も生かしながら、新しい技術の検証やサービスにつながる研究に関われるのではないかと思い、入社を志望しました。

―入社前から先端技術研究所への配属は決まっていたそうですね。当時の印象はいかがでしたか?

正直、最初は「先端」のことをあまりよく知らなかったんです(笑)。志望書を出すタイミングで、HAPS、ネットワーク、次世代電池、自動運転などの分野から選ぶ形だったのですが、当時はネットワークくらいしか言葉が分からず、他の分野は何をしているのか想像もつきませんでした。

通信アプリ検証のリアル──新卒1年目の実践

―入社後はどのような業務を担当されましたか?

最初は「リアルコミュニケーション」というアプリ開発に向けた技術検証を担当しました。スマートフォンの通信遅延を抑えながら、より自然なコミュニケーションを実現することを目指した技術です。
従来のアプリでは、送信側が画像を圧縮して分割送信し、受信側がそれを復元・再生する方式が一般的です。一方、本アプリは1枚の写真から「口の開閉」「目の開閉」「黒目の移動」「顎の上下動」といった表情をAIで生成し、約300万枚の画像を事前に作成して受信側端末にダウンロードしておきます。通信時には、送信側がカメラから顔の特徴を抽出し、対応する画像のインデックス番号のみを送信します。受信側はそのインデックスに基づいて画像を表示するため、通信中は数値データのみとなり、低遅延・低帯域通信を実現できます。

低遅延・低帯域化には、①事前生成した画像を用いる「画像インデックス送信方式」と、②URSP(UE Route Selection Policy)を用いた経路最適化の2つのアプローチを採用しています。
私は主に「通信検証」と「リアルさ検証」を担当していました。通信検証では、URSPを適用した環境と商用網を比較し、pingやTracerouteで遅延や通信経路を測定・分析しました。取得したログはグラフ化し、遅延の安定性を評価していました。また、時間帯や条件による変化も確認し、実際の利用に近い状況でも問題がないかをチェックしていました。こうした検証を通じて、ユーザーが快適に使える通信品質かどうかを確認していました。
リアルさ検証では、生成動画とスマートフォンで撮影した実動画を比較し、不足している表情や改善点を分析しました。口や目の動きなどをスコア化して比較することで、表情の再現性や自然さを定量的に評価していました。

―通信分野は未経験だったそうですが、最初はどのように理解していったのでしょうか?

ネットワークの知識はゼロからのスタートだったので、端末から端末に通信が届くまでの仕組みも、最初はほとんど分かっていませんでした。コアネットワークを経由する仕組みや、ソフトバンク特有の仕様などもあり、先輩に教えていただきながら少しずつ理解していきました。
実際に検証を進めながら学ぶことも多くて、「この結果はなぜこうなるのだろう」と考えながら調べていくうちに、少しずつ仕組みがつながっていく感覚がありました。

周囲のサポートと柔軟な働き方──1年目から実感する研究所の環境

―周囲のサポートや働きやすさはどうですか?

ネットワークの専門家が多く、分からないことがあっても、企画の進め方から機材の扱い方まで幅広く教えていただけるので、とても働きやすい環境だと感じています。

―働き方の面で感じていることはありますか?

午前は在宅、午後は出社といったように、柔軟な働き方をしている先輩も多いです。通勤ラッシュを避けて働けるのもありがたいですね。

―1年目から裁量を持って働けている感覚はありますか?

他社の友人の話を聞くと、まだ研修中という人も多いのですが、ここでは1年目からしっかり仕事が振られます。計画書を書いて進捗を説明する必要もあり、新卒であっても一人の「メンバー」として扱われていると感じます。社会人として何が求められているのかを肌で感じられる環境だと思います。

―将来的に取り組んでみたいことはありますか?

BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)です。脳の機能を補う装置のようなものに興味があります。
例えば、うつ病などの患者さんに対して電気刺激を送って、脳の神経の働きを正常に戻すような活用に関心があります。ソフトバンクですぐに実現するのは難しいかもしれませんが、いつか事業性を伴って提案できればと思っています。

―これからどのようなキャリアを築いていきたいですか?

どこへ行っても、どんな状況でも生きていける能力を身につけたいと考えています。技術面だけでなく、働き方やノウハウも含めてさまざまなことを吸収し、「この人に任せれば大丈夫」と思ってもらえるような社会人として自立していきたいです。

【コラム】理想のActivatorsとは?

―最後に、理想のActivators像を教えてください。

私は「日々アップデート」できる人だと思っています。社会人になると、大学の頃とは違って求められるスキルも増えますし、新しい技術へのキャッチアップも常に必要になります。自分自身もアップデートし続けながら、周囲の人たちの多様な意見や考え方を取り入れて成長していく。そうした姿勢を持ち続けることが、理想のActivatorsにつながるのではないかと思っています。

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