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- 2026.03.06
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ACTIVATORS TALK【博士編】博士人材が挑む、研究と実装のあいだ
#AI-RAN #その他 #社員紹介 #ActivatorsTalk #AI
<プロフィール>
博士人材としての専門性と生成AI研究の基盤──キャリアの起点となった技術背景
―まずは大学・大学院時代のお話を伺えればと思います。どのような分野を学ばれていたのでしょうか?
大学は中国の大学で、当時は電気工学を専攻していました。その後、東京大学の大学院に進学して、情報系に移り、コンピューターについて研究するようになりました。
―大学と大学院で分野が変わっていますが、大学院で情報系に進もうと思った理由は?
当時、AIの研究が盛んに行われていて、すごく魅力的に感じたんです。「これからはAIについて研究したほうがいい」と強く思いました。
―日本の大学院を選ばれたのは、何か理由があったのでしょうか。
自分の研究テーマが画像の自動生成、特に漫画の自動生成だったことが大きいです。子どもの頃から日本のアニメや漫画が好きで、AIで自動的に漫画を生成できたらすごく面白いと思っていました。そういう考えもあって日本に留学し、東京大学に合格したため進学しました。
―研究としては、具体的にどんな点に惹かれていたのでしょう?
表面的に「画像を生成する」という部分よりも、AIがどうやって“自分なりの理解の仕方”を身につけていくのか、というところに強く惹かれていました。
最初はAIがブラックボックスのように見えていたのですが、実際に使ってみると、正しい方法を教えてあげれば、自分が描いた絵などもちゃんと理解してくれる。その経験から、AIは「育てるもの」だという感覚が、試行錯誤の中で強く湧いてきたんです。
私はAIを“成長していく子ども”のように捉えています。モデルごとに得意・不得意があり、長所を伸ばし短所を補うことで、より安定した理解に近づけると考えてきました。研究で大切にしてきたのは、モデルが人のようにタスクを理解できるよう、構造を捉えた説明可能な表現へ導くことです。
―日本に来てからは、コンペやインターンにも積極的に参加されていたそうですね。
はい。日本では、企業のAI研究部門でリサーチサイエンティストとしてインターンを経験し、論文執筆や学会発表にも取り組みました。
ただ、研究を論文の中だけで完結させたくはありませんでした。実際のシステムには計算コストや運用上の制約があります。その制約の中で成果を出すことにこそ意味があると感じていました。
中国でも別のインターンに参加し、企業との共同研究に近い形で、実際にシステムやアプリケーションを開発し、プロダクトとして活用されるプロジェクトにも関わりました。
―そうした研究活動やインターンで培った専門性は、現在の業務にどう活きていますか。
自分としては、自分が作ったAIがより人間のように世界を理解することがすごく大事だと考えています。今のAI-RANの研究でも、同じ考え方で取り組んでいます。
通信の構造を“教材”としてAIに渡すことや、説明可能で再現性の高い表現を学ばせること、さらにAI-RANの学習環境や評価基盤を整えることなど、大学時代やインターンでの経験がそのまま活きていると感じています。
異分野への越境──生成AI研究者がAI-RANに挑む理由
―生成AIの研究を続ける選択肢もある中で、通信領域に興味を持った背景を教えてください。
私にとって無線(RAN)の世界は、時間・周波数・リソース配置・スケジューリングといった明確なルールで成り立つ“構造化された世界”でした。これまで私は「AIに世界の構造をどう理解させるか」を軸に研究してきましたが、通信はその問いをより具体的に考えられる領域だと感じました。見えない信号や統計的な挙動を扱う一方で、背後には一定の法則があります。だからこそ、AIに構造を教え、どこまで本質を掴ませられるかを確かめる場の一つになるのではないかと思いました。無線の理解を深めることは、私にとって自然な延長でした。
―ソフトバンク(先端技術研究所)を選んだ理由は?
リサーチエンジニアとして、実際のネットワークに近い環境で成果を確かめたいと考えていました。AI-RANは論文上の精度だけでなく、実運用でのレイテンシや安定性、再現性まで問われます。私が大切にしてきた「AIに世界を理解させる」という姿勢を、社会インフラの現場で具体的な価値に結びつけられる点に強い魅力を感じました。
―異分野へ飛び込む際、不安や期待はありましたか?
不安はありました。通信の知識体系は広く、物理層からプロトコルまで一貫した理解が求められます。画像は可視化できますが、信号は直接見えません。最初はどこから掘り下げるべきか迷いました。
それでも、AIに構造を理解させるという自分のアプローチが通信でも通用するかを確かめたい気持ちのほうが強かったです。説明可能で再現性のあるモデル設計を通信に持ち込むことで、より大きなスケールで社会に貢献できるのではないかと考えました。その期待が一歩を後押ししました。
AI-RANを支える技術基盤──性能検証とモデル最適化の挑戦
―今までの研究経験が活きていると感じた場面はありますか?
構造を整理してからモデルに向き合うと、結果が大きく変わることがあります。そのときに、「ああ、これまでやってきたことは無駄ではなかった」と素直に思えました。経験が別の分野でつながる感覚は、とても印象に残っています。
―現在取り組んでいる業務について教えてください。
AI-RANの研究をチームで進めています。あるプロジェクトでは、モデルが通信の特徴を自然に捉えられるよう、入力の考え方や設計を見直しました。何度も議論し、試し、また見直す。その繰り返しでしたが、少しずつ成果が形になっていきました。
難しかったのは、モデルを改良すること以上に、自分が通信の仕組みをどこまで理解できているかという点でした。曖昧な理解は、必ず結果に現れます。だからこそ、基礎に立ち返りながら、一つひとつ確認していきました。
―成果を社外に発信した際の反応はいかがでしたか?
入社前は学術の環境にいることが多く、論文としての完成度が重視されていました。しかしリリース後は、「どうやって検証したのか」「再現できるのか」といった質問を多くいただきました。想像以上に実際の成果そのものに関心を持っていただけたことは、意外でもあり嬉しい驚きでした。研究室の中だけでなく、現実の中でどう受け止められるかを強く意識するようになりました。
―特許出願もされたとか。
特許出願は初めての経験でした。これまで研究の中で積み重ねてきた工夫が、会社の技術として整理されていく。その過程を通じて、自分の取り組みが組織の資産として残っていくことを実感しました。研究が実装や事業と結びついていることを、あらためて感じた出来事でした。
学術×産業を横断する研究者像──共同研究・国際会議から見えるキャリアの広がり
―東京大学との共同研究や国際会議への関わりも続けていらっしゃいますね。
はい、研究室と連携しながら学生の研究をサポートする一方で、国際会議の査読者として論文レビューにも関わっています。世界中の研究者の成果に触れながら、学術ではどのような視点が重視されているのかを知ることができますし、産業ではそれをどう実装し社会に届けるかを考える機会にもなっています。その往復が、自分の研究を見直すきっかけにもなっています。
―産業界と学術界を横断して働く魅力は何でしょう。
理論と実装を往復できることだと思います。アイデアが現場でどう機能するのかを考え直すことで、研究の解像度が上がっていく感覚があります。
―今後はどのように専門性を広げていきたいですか?
AI-RANの構造理解をさらに深めたいと考えています。通信の本質的なルールを整理し、AIに教えられる形で体系化していきたい。そして、それぞれのモデルの特性を踏まえながら、最適な組み合わせを設計できる研究者を目指したいです。
―研究者として大切にしている価値観はありますか?
研究が実際に役に立つことを大切にしています。論文として終わるのではなく、社会の中で意味を持つ形にしたい。成果が見える形で届き、少しでも社会が良くなる方向に寄与できればと思っています。
―AIと通信が融合する未来に、どのように貢献したいですか?
AIが単に結論を出すだけでなく、通信の構造そのものを理解できる存在になってほしいと考えています。そして、運用の中で学び続け、成長していく知能を実現する。その仕組みづくりに関わっていきたいです。
【コラム】理想のActivatorsとは?
―最後に恒例の「理想のActivators」についていかがですか。
はい、用意してきました。「AIに世界を理解させる」と「通信を理解させる」で少し迷ったのですが、やはり今取り組んでいるテーマを考えると「通信を理解させる」のほうがしっくりくると思いました。
―この言葉を書いた理由を教えてください。
単に大きく複雑なモデルを作るのではなく、通信の構造や法則をきちんと整理して、AIが理解できる形にしていきたいと考えています。いわば“教科書”のように、学ぶ土台を整えるイメージです。
ブラックボックスとして扱うのではなく、なぜその判断に至ったのかを説明できる知能として育てていきたい。その思いを込めました。