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近年、「スマートシティ」が注目されており、世界中の多くの都市が実現に向けて動き出している。 この潮流は日本においても例外ではない。日本は少子高齢化を始めとした多くの課題を世界に先駆けて経験する状況にあるが、一方で、ICTに代表される高い技術力を背景とした、問題を解決する力がある。官民が連携しながら、これからの都市のあり方を実現しようとする動きがさまざまな地域で見られる。 本記事では、なぜ今スマートシティへの取り組みが必要なのか、そして実際にどのような取り組みが行われているのか、国内の10の事例を紹介する。
スマートシティとは、「都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」であると、国土交通省は定義している。 国土交通省は日本におけるスマートシティ実現に向けた先導役を担っており、上記は同省の「スマートシティの実現に向けて(中間とりまとめ)」(平成30年8月)にて定義されている。
また、野村総合研究所は、スマートシティの定義を「都市内に張り巡らせたセンサを通じて、環境データ、設備稼働データ・消費者属性・行動データなどのさまざまなデータを収集・統合してAIで分析し、さらに必要な場合にはアクチュエータなどを通じて、設備・機器などを遠隔制御することで、都市インフラ・施設・運営業務の最適化、企業や生活者の利便性・快適性向上を目指すもの」と表現している。これは同社が発表した報告書「スマートシティ報告書 ―事業機会としての海外スマートシティ―」(2019年5月)で定義されたものである。 新しい概念であるスマートシティの定義はまだ定まり切ってはいないものの「各種データやICT技術」を用いた「持続可能なこれからの都市のあり方」という意味を共通して含んでいると言える。
新しい都市のあり方であるスマートシティが注目される理由のひとつに、急速な都市への人口集中が挙げられる。世界の人口のおよそ50%が都市に居住しており、その人口は2050年には2010年の1.7倍にも増えると言われている。 都市によるエネルギーの消費が温室効果ガスの60%から70%を排出しているといわれており、都市部の効率的なエネルギー使用は急務であると言える。また、都市部への人口の集中は、交通渋滞の増加や大気汚染、犯罪の増加、環境悪化などの問題の原因となっている。 一方で、日本では今後将来にわたって労働力が不足する見通しであり、これまでの経済成長に陰りが予想されている。そのため、労働力を確保するためにも、都市における居住性がより重要な意味を持つ。 これらの急速な都市化に伴う環境への高い負荷、経済成長の鈍化は、今後の社会、環境と経済の行く末を決定付けると考えられており、この課題解決のためにIoTやセンサ、ビッグデータを始めとした技術を活用したスマートシティに期待が寄せられている。 つまり、現在から将来にかけての都市部におけるさまざまな課題を解決する取り組みとして、スマートシティが注目されていると言える。
内閣府が今後強化すべき課題、新たに取り組むべき課題を抽出し、目標の達成に向けて策定する「統合イノベーション戦略2019」(2019年6月21日 閣議決定)では、スマートシティを「Society5.0」の先行的な実現の姿として位置づけている。 Society5.0とは、1.0(狩猟社会)、2.0(農耕社会)、3.0(工業社会)、4.0(情報社会)に続く新たな社会として、情報社会にAIやIoTが加わったより生活しやすい社会と定義されている。
スマートシティ推進体制の決定
スマートシティ推進における基本方針や各府省の連携体制を決定し、内閣府、文部科学省、経済産業省、国土交通省などを中心として事業が進められている。
データ利活用型スマートシティ推進事業の支援
地方公共団体や民間企業を対象として、スマートシティ型の街づくりに対する初期投資や継続的な体制整備に対する補助事業を行っている。都市にまつわるあらゆるデータを「データ連携基盤」経由で都市の課題解決のために活用するモデルを想定している。
スマートシティ官民連携プラットフォームの発足
スマートシティの取り組みを官民連携で加速するため、企業・大学・研究機関(356団体)、地方公共団体(113団体)、関係府省(11団体)などを会員とする「スマートシティ官民連携プラットフォーム」を発足。民間からは建設や電気・ガス・水道・通信、金融やサービス業などあらゆる業種の企業が参画している。
スマートシティは、国や自治体だけで実現するものではない。民間企業のそれぞれの事業分野において提供できる技術やノウハウも多く、まさに官民連携で創りあげる存在だと言える。建設やインフラ、メーカなど、ほとんどすべての地域のスマートシティの推進において、民間企業が重要な役割を果たしている。 また、一部の企業には、スマートシティに関する取り組みを新たな事業機会として積極的に捉えている様子がうかがえる。 例えば東京都港区では、ソフトバンクと東急不動産がスマートシティプロジェクトに参画しており、ソフトバンクはロボティクスやモビリティを始めとした最先端テクノロジーと知見を提供することになっている。 静岡県裾野市ではトヨタが「ウーブン・シティ(Woven City)」と呼ばれる実験都市を開発するプロジェクトを計画しており、新しい都市のあり方そのものに対してトヨタが主導的な役割を果たそうとしている。
トヨタは2020年1月7日(火)、アメリカ・ラスベガスで開催された世界最大規模のエレクトロニクス見本市「CES 2020」において、静岡県裾野市に「ウーブン・シティ(Woven City)」と呼ばれる実験都市を開発するプロジェクト「コネクティッド・シティ」を発表した。 網の目のように道が織り込まれあう街の姿から名付けられたこの都市では、初期は、トヨタの従業員やプロジェクトの関係者をはじめ、2,000名程度の住民が暮らすことを想定している。
2021年2月23日には地鎮祭を行い、Woven Cityの建設が始まった。ラスベガスでの発表から1年、トヨタの東富士工場の跡地から、未来の街を生み出すプロジェクトがついに始動した。
人々が生活するリアルな環境での実証都市
このプロジェクトは、新しい技術を導入・検証できる実証都市を、人々が生活を送るリアルな環境のもとで作る。 その技術は、自動運転、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム技術、人工知能(AI)技術など、人々の暮らしを支えるあらゆるものを対象としている。 今後、サービスが情報でつながっていく社会において、技術やサービスの開発と実証を迅速に行うことで、新たな価値やビジネスモデルを生み出すことを狙いとしている。
東京都港区では、国家戦略特区である竹芝エリアにて、ソフトバンクと東急不動産が都市型スマートシティのモデルケースの構築に取り組んでいる。「Smart City Takeshiba」と称する本プロジェクトは、ビルやまちのデータを収集し、「今必要な情報」を提供する。
ソフトバンクの公式ページ:Smart City Takeshiba
最先端のテクノロジーを街全体で活用するスマートシティの実現
プロジェクトが目指すのは最先端のテクノロジーを街全体で活用するスマートシティの実現だ。竹芝地区でデータ活用やスマートビルの構築に取り組むほか、ロボティクスやモビリティ、AR(拡張現実)、VR(仮想現実)、5G(第5世代移動通信システム)、ドローンなどの幅広い領域でテクノロジーの検証を行う計画である。 また、両社の他にも様々な事業者による最先端テクノロジーの検証も予定されており、都市の課題解決を実現するスマートシティのモデルケースを目指している。
千葉県柏市では柏市、三井不動産、柏の葉アーバンデザインセンターが幹事を務める「柏の葉スマートシティコンソーシアム」により、「柏の葉スマートシティ」が推進されている。 「柏の葉スマートシティ」は、「環境共生都市」「新産業創造都市」「健康長寿都市」の3つのテーマを掲げており、公・民・学の連携によって横断的に活用できるオープンなデータプラットフォームづくりを目指している。
2020年9月から順次、IoTを活用して換気状況や在席状況、体温とマスク着用有無の可視化に取り組んでおり、安心安全なオフィス空間を実現するための新たな取り組みを進めている。
駅を中心としたスマート・コンパクトシティ
「柏の葉スマートシティ」は、柏の葉キャンパス駅を中心とする半径2km圏に大学や病院、商業施設などを集めることで、人・モノ・情報を集中させ、駅周辺に集まるデータの収集と連携を強化している。収集されたデータは、公・民・学が連携してデータ駆動型の地域運営に活用していく。
北海道札幌市ではICT活用戦略の目標のひとつとしてイノベーション・プロジェクトを推進している。データ活用によるイノベーションの創出をねらう分野横断的な取り組みであり、現在の都市課題の解消だけでなく、新たな価値の創造が期待されているプロジェクトでもある。
地域で発生したデータを地域で生かす
このプロジェクトの中核となるのが、官民データを協調利用するためのデータ連携基盤「札幌市ICT活用プラットフォーム」(「DATA-SMART CITY SAPPORO」)である。 「DATA-SMART CITY SAPPORO」は、データ登録、蓄積・管理、提供といったデータ関連機能、データ利活用の普及促進を図るためのダッシュボード機能、アカウント管理機能を備えており、地域で発生し、官民が保有しているデータを協調利用する、いわゆる「データの地産地消」を実現する。
Webサイトでは、区別の人口データと生活関連データを掛け合わせたマップや、動植物マップ、新型コロナウイルスやインフルエンザの感染者数のデータなどのオープンデータを公開しており、データ活用や市民への情報公開が進んでいる。
兵庫県加古川市では、加古川市まち・ひと・しごと創生総合戦略にもとづき「子育て世代に選ばれるまち」の実現に向け、都市の安全・安心を中心とする情報通信技術利活用基盤を活用した事業「加古川スマートシティプロジェクト」を推進している。 事業の狙いは、市民の満足度や生活の質(QOL)向上を目指し、地域課題の解決を図ることにある。
データの活用による安全・安心のまちづくり
加古川市では、複数分野のデータを収集し分析などを行う基盤(プラットフォーム)の整備や、多様な主体が参加できる取り組み体制の構築などを目的とする、安全・安心のまちづくりに係るデータを活用したスマートシティのあり方検討事業を推進している。 収集したオープンデータは、行政情報ダッシュボードやスマートフォン(Android、iOS)向けの行政情報アプリ「かこがわアプリ」などで活用されている。
香川県高松市では、産学民官の多様な主体との連携を通じ、ICTを使った地域課題の解決と地域経済の活性化を図ることを目的に「スマートシティたかまつ」を推進している。
データ活用による地域経済の活性化
官民に散在するリアルタイムデータを「IoT共通プラットフォーム(基盤)」上に集約し分野横断(クロスドメイン)的に利用することで、行政の効率化と地域経済の活性化を図るのが狙いだ。 高松市のIoT共通プラットフォーム上にはすでに、防災分野では13ヵ所の水位センサと潮位センサからのデータが、観光分野では50台のレンタサイクルの移動履歴データが収集されている。さらに、福祉分野においても高齢者の呼吸や心拍等のバイタル情報の収集など、ICTを活用した地域包括ケアシステムの構築を計画している。
福島県会津若松市のスマートシティプロジェクト「スマートシティ会津若松」は、2011年3月11日の東日本大震災を受けた復興プロジェクトとしてアクセンチュアの参画により始まった。その後、会津若松市を「全国の先端を行く地方創生のモデル都市」とすることを目標に、スマートシティ領域における連携協定をオランダのアムステルダム市と締結したり、全国からデジタル活用の実証事業を誘致するなどの取り組みによって進展してきた。
まちづくりにおける3つの視点
「スマートシティ会津若松」は、産業振興を含めた「地域活力の向上」を図っていくこと、「安心して快適に生活できるまちづくり」を進めること、「まちを見える化」してまちづくりに役立てていくこと、の3つの視点でまちづくりを進めている。 スマートシティ会津若松による事業や成果は様々な領域にわたっている。市民向けには、スマートフォン向けのアプリ「あいづっこプラス」やWebサイト「会津若松+(プラス)」などにより、情報を提供している。
神奈川県横浜市では、「横浜スマートシティプロジェクト」が進められている。横浜市のプロジェクトは、2010年に経済産業省の「次世代エネルギー・社会システム実証地域」に選定されたことから始まり、2014年までの実証実験によりCO2排出量29%削減、省エネ率17%の成果が得られた。
(出典:横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)の取組と今後の展開について)
また、スマート関連ビジネスの活性化などを目的とし、2015年には「横浜スマートビジネス協議会」を立ち上げており、精力的にスマートシティ化を推し進めている都市と言えるだろう。
エネルギーの最適化によるサスティナブルなスマートシティ
「横浜スマートシティプロジェクト」は、この実証実験で培ったノウハウを生かし、防災性、環境性、経済性に優れたエネルギー循環都市の実現を目指している。プロジェクトにはいくつもの事業者による事業が並行して進められている。 港北区綱島地区にあるパナソニックの事業所跡地を活用し、横浜市の他に国内外の民間企業を含め10団体によって開発が進められている「Tsunashima サスティナブル・スマートタウン」では、再生可能エネルギーや水素などの利用率を30%まで高めるほか、IT技術を活用したサービスも提供される。街全体の電力需要を見える化し、エネルギーを最適に融通していくことで、省エネな街の実現を目指している。
「北九州スマートコミュニティ創造事業」は、経済産業省が「次世代エネルギー・社会システム実証事業」として採択し、2011年から2016まで行われた実証事業だ。福岡県北九州市は、経済成長を担う新たな産業として本事業を位置づけ、新しい交通システムの構築、ライフスタイルの変革など、市民生活の向上や地域の課題解決につながる新しいまちづくりにつながる取り組みを目指してきた。
電力のダイナミックプライシングによる豊かな社会の創造
本事業のメインはスマートグリッド(次世代送電網)である。地域内のすべての需要家に、スマートメータと呼ばれる次世代の電力メータを設置、需給状況に応じて電力料金を変動させるダイナミックプライシングを実現した。この狙いは需要家が参加するエネルギーマネジメントであり、実際に10%程度の省エネ効果を実現した。 現在は、2018年に改定された北九州市都市計画マスタープランに従い、様々な領域において、実証から実装へのフェーズが進められている。
埼玉県さいたま市では、理想とする都市の縮図を「スマートシティさいたまモデル」とし、市民生活を構成するすべての分野を対象に「網羅的」にプロジェクトを展開している。 さいたま市の“副都心”の1つ「美園地区」において、新たなまちづくりを推進する情報発信・活動連携拠点となる「アーバンデザインセンターみその(UDCMi)」を起点に、 「公民+学」の連携による各種まちづくりプロジェクト・事業が進行している。この美園地区でのプロジェクトは「スマートシティさいたまモデル」の実現に向けた先導モデル地区として期待されている。
また、さいたま市は「SDGs国際未来都市・さいたまスマートシティさいたま2030モデルプロジェクト」を掲げており、その一環としてスマートシティさいたまモデル」の構築を位置づけている。ゆくゆくは東日本の中枢都市にふさわしい環境未来都市を目指す意向だ。
「まちのデータ」の一元化による生活支援サービス提供のワンストップ化
「スマートシティさいたまモデル」では、デバイスやメーカを問わず、さまざまな「まちのデータ」の収集・管理・活用を可能とする情報共通基盤(「共通プラットフォームさいたま版」)を中心とする。各種生活支援サービスをワンストップで提供することで、ライフスタイルやライフステージに応じた生活環境の実現と社会コストの最適化を図る。 また、サービス提供者が、事業規模を問わず本システムに参画できるオープンなシステムとし、新たなビジネス・コラボレーションの創出、地域経済活性化を目指している。
本記事では、スマートシティが注目される理由から、日本の政府・省庁・自治体・企業の取り組み、国内の代表的な10の事例まで、スマートシティについて幅広く紹介した。 これらの事例は、スマートシティに取り組んでいる地域や団体のごく一部であり、検討中や準備中の地域を含めれば、多くの地域でスマートシティに関する取り組みが進められている。 地域が抱える課題に対する解決策のひとつとして、スマートシティは今後さらに注目を集めていくことだろう。日本のスマートシティへの取り組みが実を結び、便利で、豊かで、持続可能性の高い社会が実現されていくことが期待される。
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