スマートシティ海外事例10選

2023年4月4日掲載

2020年3月27日掲載

スマートシティ Smart City 海外事例10選

近年、「スマートシティ」が注目されており、世界中の都市が実現に向けて動き出している。急速な都市化が進むなか、都市部のエネルギー使用の効率化は急務であり、スマートシティはその解決策として期待を集めている。本記事では海外で推進されている10の事例を紹介する。

目次

スマートシティとは

スマートシティの定義

スマートシティとは「IoTなどを通じて取得したさまざまな種類のデータを活用して、都市が持っている資産・資源を効率的に生かし、そこに住む市民が(行政サービス含め)より良いサービスを受けることができる都市」と定義することができる。次のような取り組みが行われている都市はスマートシティと呼ばれる。

  • 行政機関、公共機関・企業がIoTなどを通じてデータを収集
  • AIや専門機関がそのデータを分析
  • 行政、公共機関、企業のサービス提供時にそのデータが生かされ、市民はより過ごしやすい暮らしを手に入れることができる

アメリカのスマートシティ事例

ニューヨーク

スマートシティ事例 アメリカ ニューヨーク

ニューヨークは、2016年に「Smart City Expo World Congress」でベスト・スマートシティとして表彰されたスマートシティ先進地域だ。
ニューヨークでは、市民によるデータ活用を目的としたオープンデータプロジェクトの「NYC Open Data」と、都市の情報端末機器の設置「LinkNYC」、大規模開発の「ハドソン・ヤード再開発プロジェクト」を紹介する。

NYC Open Data
ニューヨークでは、オープンデータ法 (Local Law11 of 2012) が制定され、市民によるデータ活用を後押ししており、市民に公開されている「NYC Open Data」は1,600を超えるデータセットを提供している。データ活用の動きは、行政にも及んでおり、組織横断的にデータの公開と活用を促進するために、市役所にCAO (Chief Analytics Officer) ならびにデータナリスト数名から成るデータ解析室 (MODA: Mayor’s Office of Data Analytics) を設置している。

LinkNYC
「LinkNYC」は、既存の公衆電話をWi-Fiのホットスポットへ変えるプロジェクトだ。老朽化して使用されることが少なくなった公衆電話をLinkと呼ばれる情報端末へと置き換え、同時に無料のWi-Fiを提供するホットスポットにする。
Linkは高さ約3メートルのタワー型で、Wi-Fiを利用することができるほか、大型タッチスクリーンを通した地域情報や交通機関の確認、携帯電話の充電ステーションや、国内電話の無料通話などの機能が搭載されている。Linkの運用コストはディスプレイに表示される広告収入でまかなわれるため、公的な資金は使われていない。
市内には現在約1,200台が設置されており、約10,000ヵ所まで拡大する予定。今後、Linkに搭載される各種センサやカメラ、利用者等のデータを分析し、地域の課題解決に役立てられるものと期待される。

ハドソン・ヤード再開発プロジェクト
ロックフェラーセンター以来の大規模開発である「ハドソン・ヤード再開発プロジェクト (Hudson Yards Redevelopment Project)」でも、スマートシティ機能の導入が進められる予定だ。同プロジェクトでは各ビルと施設がネットワークでつながれ、各所に設置されたセンサからデータを集めて地域の動向をリアルタイムで分析することが可能になる。このデータの分析により、次のような機能の実現が期待されている。

  • 歩行者の流れの予測による交通渋滞や交通機関のサービス向上
  • 屋内外の大気状態のモニタリング
  • モバイルアプリを通して地域住民の健康状態や行動レベルをモニタリング
  • ごみのリサイクルが正しく行われているかの評価
  • 熱電併給システム(コジェネレーション)やマイクログリッドの使用状況の監視

コロンバス

スマートシティ事例 アメリカ オハイオ州 コロンバス

オハイオ州コロンバスは、全米で最も先進的なモビリティ構想を持つ都市を選出するコンテスト「スマートシティ・チャレンジ」で優勝し、その資金によって、2017年「Smart Columbus」プロジェクトをスタートさせた。「Smart Columbus」は、中小規模都市のスマートシティのモデルケースとして全米各都市への横展開が期待されており、次の4つのシステムの導入を目指している。

  • CCTN(Columbus Connected Transportation Network):各移動手段や各種サービス、利用者が互いにデータで連携しあって結合されたネットワーク
  • IDE(Integrated Data Exchange):各種データを統合してさまざまな問題を解決するためのオープンなプラットフォーム
  • EHS(Enhance Human Services):高齢者や貧困層、障がい者を含むあらゆる住民や旅行者が容易に各種交通機関を使って移動できるサービス
  • EVインフラ(Electric Vehicle Infrastructure):EVの普及のために、公共・民間の充電インフラの充実、シェアリングサービスの拡充

「Smart Columbus」のリアルタイムデータは、「Smart Columbus Operating System」と呼ばれるWebベースのプラットフォームに集められ、それらのオープンデータは、各プロジェクトから食品関連や医療関連にいたるまで幅広く活用されている。

シカゴ

スマートシティ事例 アメリカ シカゴ

シカゴでは、全米で最初の取り組みとされるIoTを活用したスマートシティ・プロジェクト「Array of Things (AoT)」が進められている。
2015年にシカゴで始まった「Array of Things」は、科学者、大学、地方自治体、市民の協力により、都市環境、インフラ、都市活動についてのリアルタイムデータを、研究と公共利用のために収集する、ネットワーク化されたセンサ群活用の試みだ。
このプロジェクトでは、プログラム可能なセンサを組み込んだセンサ装置を街中に設置し、天気や大気、ノイズといった都市環境に関するデータをリアルタイムで収集する。街中に設置されるセンサ群には次のような種類がある。

  • 環境センサ群(温度、湿度、気圧、振動、音圧、磁気)
  • 大気センサ群(二酸化窒素、オゾン、一酸化炭素、硫化水素、二酸化硫黄)
  • 光・赤外線センサ群(光強度、赤外線、カメラ)

「Array of Things」によって、リアルタイムで公開されるデータは、大気汚染やヒートアイランド現象、騒音、渋滞などさまざまな問題への解決に役立つことが期待されている。

サンフランシスコ

スマートシティ事例 アメリカ カリフォルニア州 サンフランシスコ

カリフォルニア州サンフランシスコでは、都市部のデータをスマートシティへつなげる試みとしてデータの可視化とオープン化を進めている。同市では公共サービスの向上を目的として、行政情報のデータを無償で提供する「DataSF」とよばれるオープンデータサービスを提供している。
「DataSF」は、471のデータセットが公開(2020年3月時点)されており、データセットの分野は、市行政管理、地理情報から、交通、インフラ、住宅、文化、経済、エネルギーと環境、治安、健康と社会に至るまであらゆる分野に及んでいる。
オープンデータをポータルサイトから発信することで、分析や研究、パフォーマンスの可視化、活動の評価、Webあるいはスマートフォンアプリの開発が進み、データ主導のエコシステムが発展する。「DataSF」のオープンデータ発信により、市民生活の質の向上、サービス提供の効率化、正しい判断、新規ビジネスの創出といった好循環が生まれることが期待されている。
公開された行政オープンデータの分析事例としては、乳幼児栄養プログラム、文化財保護、地価評価といった市の行政活動状況といった例が紹介されている。また、オープンデータを活用したアプリケーションとしては、市内のビルの3次元地図、住宅政策とデータ、土地情報などがある。

【2】カナダのスマートシティ事例

トロント

スマートシティ事例 カナダ トロント

カナダのトロントでは、「Sidewalk Toronto」と名付けられたプロジェクトが推進されている。
トロントは北米4番目の都市で、今後25年間で都市部の290万人の人口は32%増、メトロエリアの670万人の人口は42%増が見込まれており、人口の51%が海外で生まれ、140の言語が使用されているなど、世界で最も多様性を持つ都市といわれている。
「Sidewalk Toronto」は、住民の行動データをはじめとするさまざまなデータを収集し、それらのデータをもとに住民や環境にとってよりよい暮らしをつくり上げていくことを目標とする。
プロジェクトには、Googleの持株会社Alphabetが所有するSidewalk Labs社が参画しており、ありとあらゆる場所、ヒト・モノの動きをセンサで把握し、ビッグデータを活用した街づくりを目指すとしているが、収集したデータの利活用やプライバシー問題などをめぐり議論が繰り広げられている。

【3】イギリスのスマートシティ事例

マンチェスター

スマートシティ事例 イギリス マンチェスター

イギリスのマンチェスターではスマートシティを強力に推進しており、2025年までに世界のスマートシティTop20に入ることを目標としている。
Manchester Corridorと名付けられた世界規模の研究所、大学、医療機関等が集中するエリア(243ヘクタール)では、2015年~2017年に「CityVerve」プロジェクトとして、「医療・健康」「輸送・交通」「エネルギー・環境」「文化・コミュニティ」の4領域に特化した実証実験が行われた。

医療・健康

  • バイオメトリックセンサネットワークにより、呼吸器疾患患者の健康を向上
  • 個人やグループによる運動や活動の状況を把握・記録し、利用者に提供することで、運動を推奨(コミュニティウェルネス)

輸送・交通

  • センサ、電子看板、アプリ等を組み合わせ、利用客が待っていることを運転手に告げる「Talkative bus stops(おしゃべりバス停)」の設置
  • Manchester Corridorの主要道路を自転車・バス専用道路化。自転車にIoT無線タグを付け、安価な自転車シェアリングを推進

エネルギー・環境

  • 街灯や道路上の各種設備などにIoTタグを設置し、異なる場所や高度で大気質を把握(大気質モニタリング)
  • 従来の街灯の補完的なサービスとしてスマート街灯を導入

文化・コミュニティ

  • 公共および商用サービス、文化イベントの情報にアクセスできるWi-Fiホットスポットの設置

ブリストル

スマートシティ事例 イギリス ブリストル

イギリスのブリストル市では、市と大学によって立ち上げたジョイントベンチャーが 主体となり、民間企業を巻き込みながらオープンデータとその活用に関する取組を進めている。
「Bristol is Open」は、都市にネットワーク環境を構築し、収集したさまざまな情報をオープンにすることで、各協力団体のビジネスを促進することが狙いだ。
希望参加者のスマートフォンやGPS装置にセンサをつけ、都市生活におけるあらゆる情報(エネルギー、大気質、交通に関する情報等)を収集するテストベッド(実環境における試験用プラットフォーム)を用意し、収集したデータは、渋滞緩和などの交通領域、廃棄物管理、大気汚染対策、エンターテインメント、エネルギー供給・管理など、幅広いサービスに活用する。

【4】デンマークのスマートシティ事例

コペンハーゲン

スマートシティ事例 デンマーク コペンハーゲン

デンマークのコペンハーゲンは、スマートシティの取り組みにおいて「World Smart City Awards」を受賞(2014年)するなど、国際的に高い評価を得ている。
IT立国であるデンマークは、2050年までに「脱化石燃料社会」を実現するという高い目標を掲げており、コペンハーゲンはスマートシティ戦略の核となる目標として、2025年までに「カーボン・ニュートラルを達成する世界で最初の首都」(2025コペンハーゲン気候変動適応計画)になることをビジョンとして掲げている。
こうしたなか、エネルギー消費、エネルギー生産、モビリティ、市当局における効率化の四つを重点分野として、スマートシティをはじめとする以下のプロジェクトに取り組んでいる。

Copenhagen Connecting
「Copenhagen Connecting」は、市内のセンサやWi-Fiを通じて収集したデータを分析・利活用したり、スマートシティに関連するさまざまな技術やソリューションを開発するプロジェクトである。
データの活用、インフラの整備、さまざまな地域の機関のコラボレーションにより、「健康」「モビリティ」「エネルギーと気候」「市民」「教育」といった分野に注力しながら、都市全体の効率性の向上を図ることが目的だ。

CITS(Copenhagen Intelligent Traffic Solutions)
「CITS」(コペンハーゲン・インテリジェント交通ソリューション)は、交通渋滞の改善と二酸化炭素排出量の削減、市民の安全性向上を目指すプロジェクトだ。
各種センサから収集されるデータを分析し、交通渋滞の予測・改善、交通規制への活用、排気ガスの削減、市民の安全確保等を実現する。
ITの知識が乏しい市の担当者でも、ダッシュボードから簡単に交通予測ができるシステムなどが提供されている。

DOLL Living Lab
「DOLL Living Lab」は、オフィス街や住宅街の一角を実証実験場とし、情報ネットワークをメッシュに張り巡らせ、国内の照明関連企業の最新照明ソリューションを設置、現地の温度や汚染物質の分布について計測するセンサを搭載して、路上の温度や大気汚染物質の濃度といった情報を計測。当該ネットワークを通じて、屋内外で賢く機能する最先端の照明ソリューションの開発などに取り組む。
また、LEDを利用した高速無線通信技術のLiFi (Light Fidelity) が導入され、スマートシティの基盤としての活用も視野に入れられている。

【5】オランダのスマートシティ事例

アムステルダム

スマートシティ事例 オランダ アムステルダム

オランダのアムステルダムは、地域住民、中央・地方政府、企業、教育・研究機関などが連携して、2025年までにCO2排出量を1990年比で40%削減するという目標を掲げている。これに加え、持続可能な生活、持続可能なモビリティ、持続可能な公共空間、持続可能な職場の各領域にフォーカスする「アムステルダム・スマートシティ・プログラム(ASC)」を2009年に開始した。
アムステルダム・スマートシティ・プログラムは、スマートグリッドとあらゆる最新技術を組み合わせ、首都の持つ情報や資本、都市のインフラの効率的活用を可能にすることで、持続可能で質の高いエコロジカルな生活と新たな経済成長を同時に実現することを目指している。環境・エネルギー事業に加えて、公共サービス、健康医療、農業などにスマートシティの領域を拡大させると同時に、ビッグデータの活用による社会課題の解決を図るのが狙いだ。 アムステルダム・スマートシティ・プログラムでは、エネルギー消費やCO2排出量の削減を中心に、生活、仕事、モビリティ、公共施設、オープンデータの5テーマについてスマートグリッド等の技術を活用した多数のプロジェクトを展開している。

  • 生活エネルギーのスマート化:一般家庭にスマートメータを設置し、エネルギー使用量を見える化。また住民を対象に、省エネセミナーやアイデア募集を行うなど、地区全体で電力消費を削減
  • 住民向けサテライトオフィス:交通渋滞に伴うCO2排出緩和を目指し、地域住民が使えるサテライトオフィスを住宅地区の近くに設置
  • スマートパーキング:駐車場の空き情報をスマホで入手し、事前予約を可能としたシェア駐車のシステム
  • 商業地区のスマート化:施設内にスマートメータおよびディスプレイを設置し、エネルギー使用量を見える化。LED等高効率な照明も設置
  • データのマッピング化:各地域のエネルギー使用量や都市インフラの状況など、さまざまな情報がオープンデータ地図上で公開。マップを通じて現状と課題が見える化され、政策立案にも活用

【6】エストニアのスマートシティ事例

スマートシティ事例 エストニア

エストニアはIT分野において先進的な取り組みを行っていることで知られており、その代表的な例として「電子政府」が挙げられる。これはITを用いて政府が提供するサービスや政府の機能そのものを効率化・改善していくもので、あらゆることがオンライン上で完結できる点にメリットがある。例えば、国政選挙で世界初の電子投票が行われたことや、「e-residency(仮想住民)」という仕組み等が挙げられる。
また、このような電子政府を構成している要素の一つに、国民IDがある。2002年から始まったこの制度は、国民やエストニアへの移住者に対して、国民IDを「eIDカード」の形で発行するというもので、現在、エストニア人の98%がこのeIDカードを所有している。eIDカードはパスポートや国民健康保険証として機能するほか、電子投票の本人確認やオンラインで可能なあらゆる行政手続に利用されている。

国民IDカード・データベースの連携(X-Road)・e-Residency

  • エストニア国民の個人情報は全てIDに紐づけられ、ポータルサイトによりアクセス可能。医療サービス情報なども参照可能
  • 政府各省庁や民間企業の保有データをセキュアに連携させることが可能なネットワーク (X-Road) を整備
  • 外国からの企業誘致等促進のため、e-Residency(仮想住民)を導入。外国人も国外から電子政府システムを使用可能

e-Business Register

  • 「e-Business Register」により、オンラインで法人登記ができるようになった結果、世界で最も素早い登記が可能(最短で十数分)
  • 企業やNPOなどの情報を集積・公開しており、ビジネスに伴う調査への活用や、犯罪抑止の効果も発揮

mobile parking

  • 「mobile parking」は、オンラインで料金支払いや空き状況検索が可能なほか、混雑が予想される場合には、事前に料金変更をして混雑緩和をするシステムを整備

【7】シンガポールのスマートシティ事例

スマートシティ事例 シンガポール

シンガポールでは、ICT技術を積極的に導入し「Smart Nation(スマート国家)」の実現を目指しており、このために首相府に「Smart Nation Program Office」が新設された。 優先テーマは「国家センサネットワーク設置(SNSP)」 「デジタル決済の普及」「国家デジタル身分証(NDI)システムの構築」の3つだ。

国家センサネットワークの設置

  • 監視カメラやセンサを多数設置し、人や車等の交通、気象や都市インフラの状況等の各種データを収集、便利で安全な公共サービスを目指す
  • センサから収集された情報等を国民に広く活用してもらうため、ポータルサイト等で情報を公開

デジタル決済の普及

  • 2017年7月、携帯電話番号または身分証明番号のみで銀行口座間の送金が可能になるモバイル送金サービス「PayNow」を開始。シンガポール銀行協会が開発した本サービスは、地場系・外資系の7銀行が提携しており、他行への送金も無料で即時行うことができる。 PayNowは、サービス開始から5週間で50万人が登録した。
  • QRコードを用いた送金サービスにも対応し、永住権取得者や国内居住外国人も使用可能

国家デジタル身分証明システム(NDIシステム)の構築

  • 法人向け身分証明番号サービスの新設など

【8】中国のスマートシティ事例

杭州

スマートシティ事例 中国 杭州

中国ではアリババをスマートシティの担当企業としている。同社の「ETブレイン」はEvolutionary Technology Brainの略称で、高度な技術をもって、都市問題や環境問題、社会格差問題といった社会とビジネスにおける難題を解決するための総合的なAI(人工知能)プラットフォームである。そのプラットフォームを使って行われているのが、杭州の「ETシティブレイン計画」だ。
道路ライブカメラの映像をAIでリアルタイムに分析、状況に応じたさまざまな対応を自動化させ、次のような効果を実現した。

  • このシステムのAI経由で警察に寄せられる交通違反や事故情報は多い日で500件
    (出典:「スーパーシティ」構想にかかる各国現地視察等報告)
    交通状況に応じて信号機を自動で切替えることにより、救急車の到着時間が半減、一部地域では自動車の走行速度が15%上昇
    (出典:Alibaba Cloud
  • 蓄積データを元に渋滞要因を分析、新たに信号機や右折・左折レーンを設置して、一部区間で通過時間が15%短縮
    (出典:「スーパーシティ」構想にかかる各国現地視察等報告)

【9】アラブ首長国連邦のスマートシティ事例

ドバイ

スマートシティ事例 アラブ首長国連邦 ドバイ

UAE(アラブ首長国連邦)のドバイ政府は2014年、UAE第2の中心都市であるドバイをスマートシティ化するために2021年までのロードマップを示した「Smart Dubai 2021」を発表した。ドバイでは「世界一のスマートシティ」を目指すため、都市全体をICTインフラで整備し、官民問わずあらゆる情報をインターネット上で利用できる「スマートシティ化」による都市の活性化を急速に推進している。

電子政府の推進

  • スマートフォンなどのモバイル端末から24時間365日、 休日や夜中でも行政サービスが利用可能
  • 「ePayment」「eSuggest」「eComplain」「AskDubai」「mPay」などが既に導入されおり、2021年までに公共サービスの完全なペーパーレス化の実現が目標

ブロックチェーンの導入

  • 品物や各種代金、学費などを 仮想通貨で支払い可能

先端技術の活用

  • ドバイ警察が空飛ぶバイクや警察ロボ隊を導入

ドバイ政府は先端技術の活用について特に積極的だ。ドバイのスマートモビリティ戦略を立案しているのが、交通当局であるRTA(Roads and Transport Authority)であり、RTAは、2030年までにドバイにおける交通手段の25%を自動運転とする戦略「Dubai Autonomous Transportation Strategy」を策定した。
これを実現するため、RTAは複数の自動運転車の検討を進めている。そのうち、ファースト・ラストワンマイルの自動走行車の候補として有力視しているのが、米Next Future Transportation製の自動運転EV(電気自動車)バス「pods」で、2018年からドバイ市内でテスト走行をスタートしている。 このほか、自動飛行するマルチコプター(複数のロータを搭載したヘリコプターの一種)を使った「空中タクシー」である「Autonomous Air Taxi(AAT)」サービスの導入や、100Pa(パスカル)程度に減圧したチューブ内を車両が空中浮上して時速1,220kmで進む「Hyperloop」の採用も検討している。
また、ドバイ警察は2017年6月、ドローンを搭載した自動運転車「O-R3」をパトカーとして導入すると発表した。
自動運転パトカーには、高精細カメラや赤外線画像装置、レーザスキャナ、光検出測定装置などを搭載しており、100m先の物体も認識可能で、容疑者を検知したら、追跡する。車両が入れない路地や自動車で逃走した場合には、ドローンを飛ばしてさらに追跡する仕組みだ。ドバイ警察はこれを2020年までに100台導入する計画を掲げている。
ドバイ警察では2017年6月からロボット警察「ロボコップ」も導入しており、2030年までにドバイ警察の仕事のうち、パトロールや道案内といった警察の定型業務はロボットや自動運転パトカーに置き換えていき、警察業務の25%を自動化する計画としている。

【10】巨大IT企業のスマートシティへの取り組み事例

Google

Googleは米国でスマートシティの事業化を進めている。Googleは傘下のSidewalk Laboを通じてカナダのトロントで、ありとあらゆる場所、ヒト、モノの動きをセンサで把握し、効率化・快適化を追求する街づくりに着手している。
トロントで進められる新しい都市は「Innovative Development and Economic Acceleration(革新的開発と経済促進)」の頭文字を取って「IDEA」という名が付けられている。 同社の計画の根幹を支えるのは、あらゆるデータの収集という基本哲学だ。都市には街中にセンサが設置され、住民の行動はすべて記録に残される。公園でどのベンチに座ったか、道を横切る際にどれだけの時間を要したかまで追跡される。
しかし、このデータ収集が、開発計画で最大の問題にもなっている。交通渋滞や大気汚染、騒音といった問題を解決し、快適な都市空間を創造していくにはデータは必要不可欠だと同社は主張しているが、民間企業がどのようにして、これだけのデータを管理していくのかという懸念の声が、国内外から上がっている。

アリババ

「ニューリテール」は2016年にアリババが発表したリテールの新しいコンセプトだ。ニューリテールは、テクノロジーとデータを駆使し、オフラインとオンラインが融合したリテールビジネスによって、より優れた顧客体験を届け、同時に小売事業者のビジネス課題も解決する。消費者体験が中心にあり、「顧客」「商品」「店舗」間のビジネスモデルを再構築し、事業を成長に導くというものだと言える。
すでに中国ではニューリテール現象が現実のものとなっており、新型スーパーマーケット、無人店舗、デジタルコンビニ等が登場している。アリババの新型スーパーマーケット「盒馬鮮生(フーマー)」では、スーパーで鮮度を確認し、購入はアプリで行い自宅まで宅配してもらう仕組みになっている。

まとめ

本記事では、海外におけるスマートシティの事例を紹介した。世界中で都市化が進むなか、エネルギーの効率化や、交通渋滞の緩和、CO2排出の抑制などの課題に対し、新しい技術で解決しようとする取り組みが進んでいる。
また、多くのグローバル企業がスマートシティに対して新たな事業機会を見出し、野心的に取り組みを進めている。スマートシティは社会的な課題解決の場であると同時に、先端技術の開発・実用化にとって大きなチャンスでもある。
スマートシティの発展に伴い実用化される、新しい技術にも目が離せない。

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