ソフトバンクは約600名のリモート新入社員研修に、どうして成功した?

2020年7月28日掲載

  • ソフトバンクでは2020年度の新入社員約600名にフルリモートで研修を実施
  • Zoom、G suite (現Google Workspace )を活用し、新規事業提案ワークショップの開催に成功
  • 新入社員研修のニューノーマルは、オフラインとオンラインのハイブリッド型

新型コロナウイルスの感染が拡大する中で、2020年度の新卒者の多くが、出社できない状況で、新社会人としての門出を迎えることになった。そんな中、ソフトバンクでは新入社員約600名に対して、入社式から新人社員研修までをフルリモートで執り行った。

対面が通例であった研修をどうやってオンラインで実施したのか。今後の研修、そして働き方のニューノーマルになるかもしれない今回の取り組みを、ソフトバンク人事本部と研修に参加した新入社員への取材に基づき、紹介する。

目次

岩月 優

ソフトバンク株式会社
人事本部 人材開発部 部長

片岡 渉

ソフトバンク株式会社
人事本部 人材開発部 人材開発2課

なぜ、ソフトバンクはフルリモート新入社員研修に踏み切ったのか

「対面でなければ伝わらないのでは?」

「もし4月にはコロナ禍が収束していたらどうする?」

2020年2月下旬。ソフトバンク人事本部では4月に予定している新入社員研修について、議論が交わされていた。新型コロナウイルスの感染が拡大し始めてはいたが、まだ緊急事態宣言は出ていないタイミング。コロナ禍がこの先どのような影響を及ぼすのか、誰もが手探りの状況だった。

議論の争点となったのは、これまでオフラインで行っていた新入社員研修を、オンラインのフルリモートで行うか否か。

ソフトバンクの2020年度の新入社員は約600名。例年であれば、新入社員を(研修)会場に集め、3週間にわたる集合研修が行われ、それから各部署へ配属されていく。

しかし、コロナ禍の拡大が予想される中で、新入社員をオフラインで集めることによるリスクをどう考えるか。そして、オンラインで実施するということが果たして現実的なのか。議論は紛糾した。

「議論のポイントになったのは2つ。

1つは、研修の効果です。研修の中にはマナー研修のように対面でなければ伝わりにくいものもあります。例えば、名刺交換やビジネス会話などは人とのやり取りの中で学んでいくものです。また、学生から社会人への意識の切り替えという意味でも、出社するという行為は重要です。

2つ目は、社員へのメッセージという視点です。4月にはコロナ禍が収束している可能性もあった状況で、それでもオンライン研修に踏み切ることが、社員の健康を第一に考えているというメッセージにつながるのではないか、という意見もありました。

オンラインとオフラインを複合的に実施する折衷案も選択肢にはありましたが、最終的には世間の状況に鑑みて、フルリモートで研修を実施することにしました」(ソフトバンク人事本部 片岡)

総勢約600名の新入社員をフルリモートで迎え入れ、自立した社会人として配属部署へ送り出す。デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するソフトバンクにとっても、異例のプロジェクトがはじまった──。

最初の壁、約600名の新入社員に在宅勤務の環境を

2020年度新入社員研修は大きく「ビジネス基礎トレーニング」「新規事業提案ワークショップ」の2つに分かれる。

「ビジネス基礎トレーニング」は、ビジネス文書/マナー研修、Excel研修など、社会人としての基本的なスキルをインプットすることを目的としている。
主に動画やWeb会議システムを利用したライブ講義を実施したが、まだ一度も出社したことのない新入社員。これらを自宅で行うことができる環境を用意することも簡単ではなかった。

「そもそも会社のネットワークに入れるPCが貸与されていない状況です。ソフトバンクでは内定時に全員に iPad を支給していたので、最初の週は iPad での学習。その間に人事本部総出で、PCの初期設定と約600名への配送を行いました」(片岡)

オンラインでの環境が整っていないために、入社と同時にほぼ休業に近い状態になってしまったり、紙の研修資料だけを渡してほったらかしにしてしまったという企業も少なくない。ソフトバンクは通信事業者のため、すべての新入社員のデバイスとインターネット環境を整えることができた。

そして、「ビジネス基礎トレーニング」は無事に修了。研修は「新規事業提案ワークショップ」へと移っていった。

Zoom漬けの1週間。最終プレゼンは約600名同時アクセス

約1週間のプログラムとなる「新規事業提案ワークショップ」では、ソフトバンクの社内起業制度「ソフトバンクイノベンチャー」のメンバーによる新規事業開発の講義の後、4名〜5名のチームに分かれ、ディスカッションが行われた。

各チームはディスカッションにより新規事業の内容を詰めていき、資料を作成。そして、最終プレゼンへ向けた準備。これらすべてを新入社員約600名全員が同時参加したZoomによるフルリモートで行った。

最終プレゼンで優勝したのは、佐々(さっさ)、佐々木、古谷、村田チーム。ロボットを活用したロボット手術の難易度の高さに着眼し、4本のロボットアームのうち執刀医の補佐をする役割を担う2本をAIで自動化する、という提案を行い、その具体的かつ実現可能性の高いアイデアを高く評価された。

左上)佐々 日向子 右上)佐々木 昴 左下)古谷 彰崇 右下)村田 雅人

「1週間の時間の使い方はほぼ新入社員である私たちに任されていました。朝の9時から夕礼のある17時30分まで、ずっとZoomをつないで話し合っていました。

リアルの場よりも会話のテンポが悪くなってしまうこともありましたが、Zoomは資料を画面共有しながら話せるので、むしろオンラインの方が効率的だと感じることもありました」(村田)

ほぼ初対面のメンバーによるフルリモートでの新規事業のディスカッション。意外にも参加者の感想としては、それほど抵抗感はなかったようだ。ディスカッションはZoomで行われ、プレゼンテーション資料はGoogleスライドを使い、リアルタイムで共同編集をしながら作成したという。

優勝チームの提案書の一部。これらの資料はすべてクラウド上で共同編集し、作成

「G Suite (現Google Workspace )はメールアドレスを知っているだけで、簡単に資料を共有できます。担当を分けて同時に資料を作成できたのがとても効率的でした。Zoomのようなツールに関しては講師よりも生徒の方が先に慣れてしまったこともあって、それは面白かったですね。みんな、本当に順応が早いなと思いました」(佐々)

研修を終えての感想は?という問いに対して、チームリーダーの古谷は次のように答えた。

「実は、まだチームの3人にも、他の同期にも対面で会ったことがないんです。それはやっぱり残念だなと思います。でも、研修という意味ではリモートでも足りる部分は多いと思います。

研修の中には統計学の西内啓先生などの著名な方の講義もありましたが、オンラインであれば対面の講義よりも多くの質問が可能だったり、むしろ良い面もあるように思います。

あと、プレゼンテーションも自分にとってはZoomで良かったです。約600人の前での発表も、Zoomならば全員の顔は見えないので、あまり緊張しないで済みました(笑)」(古谷)

2020年入社組がニューノーマルな働き方をリードする

新入社員研修の運営を担当した人事本部 片岡 渉(左)、岩月 優(右) 取材はオンラインで実施

異例の約600名のフルリモート新入社員研修を、人事本部 岩月は次のように振り返る。

「オンラインで新入社員研修を行うことが決定してから、約2週間での準備。人事も本当に大変だったのですが、その中で新入社員だけでなく、私たちも成長させてもらったように感じます。

まず約600人という規模の新人研修でも、オンラインでここまでできるということがわかりました。ただ一方で、新入社員同士の横のつながりが作れなかったり、社員一人一人の状況を把握しにくいなど、課題もありました。

研修の中で内省を促したり、新たな課題に気づいてもらうといった点では、まだ対面でのコミュニケーションは有効です。

今後は、研修はオンラインとオフラインのハイブリッド型になっていくのではないでしょうか。有名講師の講義などはオンライン。そして、ワークショップは最初のチームビルディングや相互理解だけは対面で行い、後のディスカッションはオンラインで、など。

ソフトバンクでは場所にとらわれない柔軟な働き方を推奨していますが、研修においてもこれからのあり方を考えていきたいと思います」(岩月)

今回、新規事業提案ワークショップで新入社員が実施したZoomやG Suite (現Google Workspace )を活用した業務フローは、以前からソフトバンクが推し進めているITを活用した働き方改革の実践と重なる。

優勝チームの佐々木は取材の中で次のように語った。

「これからもしばらく在宅勤務が多くなると思いますが、こういった働き方をどう受け取るか、私たちと先輩方で意識が異なる部分があるかもしれません。

そういう意味では私たちはファーストランナー。この経験を後輩に伝えていったり、今後の新しい働き方の礎になれればと思います」(佐々木)

2020年度新卒社員は、日本初のリモート入社組となる。彼ら「リモートネイティブ世代」がニューノーマルな働き方を牽引していくことになるのかもしれない。

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