ソフトバンクは日本通運(以下、日通)と合弁企業「MeeTruck」を2020年4月に設立。同年10月に配車管理サービスの提供を開始した。
プレスリリース:ソフトバンクと日本通運、物流DXを支援する新会社を設立~物流事業者向けにトラック配車支援サービスを提供~
「MeeTruck」は、ソフトバンク法人事業統括 デジタルトランスフォーメーション本部の新規事業開発の取り組みから生まれたものの一つだ。次々と新規事業をリリースするデジタルトランスフォーメーション本部。事業が生まれるまでには、どのようなプロセスがあるのか。
MeeTruck代表取締役社長 兼 CEOでありソフトバンク法人事業統括 デジタルトランスフォーメーション本部 部長でもある横井直樹氏に話を伺った。
横井直樹 氏
MeeTruck株式会社
代表取締役社長 兼 CEO
ソフトバンク株式会社
法人事業統括
デジタルトランスフォーメーション本部 部長
2017年10月、約3,000名の営業職を中心に選ばれた120名が集まり、ソフトバンクのデジタルトランスフォーメーション本部は発足した。少子高齢化、労働人口の減少、自然災害──。山積(さんせき)する日本の社会課題をテクノロジーとビジネスモデルの力で解決し、ソフトバンクの新たな柱となる事業を創る。それがデジタルトランスフォーメーション本部のミッションだ。 これまで、ソフトバンクの法人事業は顧客企業の事業をサポートする立場だったのに対して、デジタルトランスフォーメーション本部は自らが事業の主体となり、新規事業開発を手がけることになる。営業から事業開発へ、企業の課題解決から業界、ひいては社会の課題解決へ。そこに少なからぬ混乱や戸惑いがあっただろうことは想像に難くない。
横井氏は次のように当時を振り返る。
「私自身は新規事業の部署を経験していたのですが、当時のデジタルトランスフォーメーション本部は営業出身のメンバーを中心に構成されていたため、事業開発の経験が豊富な人材は多くなかった。そのため、さまざまなやり方を試し、模索していました。
最初は「0→1」でスタートアップするようなことも試しました。もうマラソンのように、とにかくアイデアを出し合いましたね。しかし、そう簡単に新規事業の種が見つかるものではありません。
数ヵ月して、やはり法人事業で培った企業や官公庁とのリレーションを生かして、事業を創造する形が自分たちにとって一番良いのではという結論に至りました。「0→1」のスタートアップはどうしても時間がかかったり、成功確率が低くなりがちです。
さまざまな企業や官公庁と、ソフトバンクの持っているアセットをかけ合わせてやっていこう。その上で、今の日本の社会課題にアプローチしていこう。徐々に『共創型』『社会課題解決型』というソフトバンクの事業創造のスタイルが確立していったように感じます。
取り組むべき業界の課題も、最近では『小売・流通』『不動産・建設』『サービス・観光』『ヘルスケア』などに集約されてきています。
そして業界を横断する課題として、さらに『物流』『社会インフラ』『金融・保険』『スマートシティ』の4つがある。
そこに対して、ソフトバンクの『通信』やPayPayの『決済』やYahoo! JAPAN、そしてソフトバンクグループや投資先企業のアセットでシナジーを生み出していく。それが私たちの新規事業創造の勝ち筋であり、今の基本的な戦略です」(横井氏)
副社長 今井康之氏の「社会課題の解決に向けた新たな事業を生み出す」という号令の下に始まったデジタルトランスフォーメーション本部は、発足から約3年が経過。そして今、さまざまな事業が生まれ始めている。
物流業界のDXを手がけるソフトバンクと日通の合弁会社「MeeTruck」もその1つだ。横井氏は4月に発足した「MeeTruck」の代表取締役社長兼CEOを務める。
法人化した「MeeTruck」が最初に提供するサービスはトランスポートマネジメントシステム、つまり配車管理だ。人手不足が深刻化する物流業界では、業務効率化が求められている。紙や電話、FAXなどをデジタル化し、ウェブアプリケーション上で適切な配車管理を行えるシステムを提供することで、業界の課題解決に寄与していく。
「日通様とは2018年9月頃から話し合いを進め、両者で共創の可能性を探ってきました。物流業界は、人口減少やライフスタイルの変化に伴い様々な問題を抱えており、テクノロジーの力でそれらの課題解決に貢献したいという想いが一致し、新会社設立に至りました。
事業立ち上げの段階では、運送会社の課題を知るために何度も現場に出向き、2年間で数え切れないほどのユーザリサーチを重ねました。
私たちが最初に提供する配車支援システムという分野はすでに先行している企業が数多くいます。
一方で、現場でお話を聞いているとそれらのシステムをあまり使いこなせていないという声が多く聞かれたのです。そこでプロダクトの指針としてとにかく使いやすいことを第一に、開発を進めることにしました。
『MeeTruck』はそういった現場の声一つ一つに向き合いながら、アジャイルで開発を進めています。
2020年7月にはα版のプロトタイプを現場の方に試していただきました。実際に操作する様子を見ているとやはりまだ操作に迷ってしまう部分もあり、開発側が想定していたことと現場の受け取り方は差があるのだなということを感じます。
ここで浮き彫りになった課題を一気に改修。そして2020年10月にサービスローンチをすることができました」(横井氏)
配車管理サービスをローンチにこぎ着けた「MeeTruck」には、現在36名の社員が在籍している。「MeeTruck」は法人化したが、デジタルトランスフォーメーション本部の全てのプロジェクトはその限りではない。なぜ「MeeTruck」は法人化したのか?
「日通様は国内物流の大手で高いシェアを誇っていますが、ビジネスを持続可能なものにするためには、業界全体が効率化しなければなりません。もし、ソフトバンクが日通様にソリューションを提供したとしても、それでは業界全体の課題解決にはならないだろう、と。
そこで、サービスの提供元として、ソフトバンクとしても資本を入れて会社を立ち上げることになりました。新しい会社を立ち上げることで、ソフトバンクと日通様が両者のノウハウを持ち寄りって密に連携し、機動的に事業を推進することができると考えたのです。
『MeeTruck』を日本の物流業界全体を支援する会社にしたい。最初は配車管理のサービスをリリースしますが、それだけで業界が改善されるとは思っていません。今後も継続的に物流業界を支援する新しいサービスをリリースしていきたいと考えています」(横井氏)
ソフトバンクのデジタルトランスフォーメーション本部からは「MeeTruck」の他にも、オンライン医療健康相談サービス「HELPO」や、社会の安心・安全を実現するための防犯テクノロジー「SecuLight」など、さまざまなサービスが生まれている。
横井氏は「まだ成功したわけではない」と語るが、世の多くの新規事業が頓挫し、日の目を見ないまま終わるのに対して、なぜデジタルトランスフォーメーション本部の事業は順調に立ち上がっているのか?
「新規事業開発にあたり、ソフトバンクのデジタルトランスフォーメーション本部が最も大事にしているのが、グロース※です。経営層が、自身のグロース経験に基づいて非常にシビアな目で事業をレビューします。
※事業を成長させること
本当に顧客のためになるのか。必要なアセットは揃っているのか。計画の段階から厳しく見られるので、中途半端な企画は最初から淘汰されていく。今、日の目を見ているプロジェクトはそういったレビューを乗り越えてきたものです。
初期段階のレビューに対して「やってみないと分かるわけない」「そんな細かいこと、今、必要なのか」と感じることもありました。しかし、今になるとその言葉の裏には、これまでのさまざまな成功や失敗の経験が潜んでいたことがわかります。
また、特徴として目標設定にもソフトバンクの文化が反映されていると感じます。ソフトバンクの5つのバリューの中に「挑戦」「逆算」という2つがあるのですが、目標を高くストレッチさせて、その目標に対してアクションを決めてく。普通に計画したら、絶対に達成できないような数字目標からディスカッションが始まることもあります。
現場としてはつらいこともあるのですが……(笑)、でもその視点に立つことで今まで思いつかなかったアイデアが出てきたり、そもそもこれまで問題だと思っていたことが大したことじゃないと分かったりもする。
そういった現場への問いの立て方の上手さは、ソフトバンクの魅力だと思います」(横井氏)
新規事業はスタートアップ企業の専売特許にように語られる。実際、「0→1」の事業開発は大企業がチャレンジするには不確定要素が多く、スタートアップだからこそ取り組めることなのかもしれない。
しかし、ソフトバンクはスタートアップの作法に右に習え、で従うのではなく、模索しながら「ソフトバンクだからこそ」の勝ち筋を見出した。
「先ほども申し上げた通り、営業で培った企業や官公庁とのリレーションを生かした共創型。そして社会課題の解決に向けて目標をストレッチさせるスケールは、ソフトバンクの新規事業の特徴だと思います。
そして、ソフトバンクで新規事業を行う強みは、何よりも人材だと思っています。スタートアップの段階では採用するのに苦労するような優秀な人材がソフトバンクにも、そして共創する企業にも多く在籍しており、彼らのマンパワーを結集させて事業をつくっていくことができる。
新規事業は考えなくてはならないことが多く、やはり大変です。まずそのこと自体を楽しめる人材かどうか。そして日々変わっていく状況に対して、順応してく柔軟性も必要です。このような新規事業開発にあたっての素養を持ちつつ、これまでソフトバンクで培った経験を有する人材。こういったメンバーは新しいプロジェクトでも輝きます。
『MeeTruck』のプロジェクトが開始して約2年。これまでプロジェクトが頓挫しそうになったことも何度もありました。その度に検討し直し、なんとかあきらめずにやってきました。そうするといつのまにか状況が好転していたりするものです。「勝つまでやめない」と良く言いますが、結局はやり抜くという気持ちが、新規事業開発では一番大切なのだと思います」(横井氏)
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