避難所に空から「温かいごはん」が届く!?和歌山県すさみ町の地域課題をドローンと高精度測位サービスが解決

2021年12月23日掲載

ボタン1つで、ドローンが空から物資を届けてくれる。そんな時代がもうすぐそこまで来ているのかもしれません。

すでに点検分野で実績を積み上げつつある、ソフトバンクのドローンサービス「SoraSolution」。高精度測位サービス「ichimill」との併用によって正確かつ安全な運航が可能な同サービスでは、ドローン物流時代に備えたさまざまなトライアルを実施しています。

その中の1つが、和歌山県すさみ町で行われる予定の実証実験。災害発生時の支援物資のドローン輸送を想定したものです。なぜ、防災なのか。今回の実証実験の裏側には、すさみ町特有の地域課題がありました──。

目次

海と山に囲まれた美しい町の防災課題

紀伊半島の南西に位置する和歌山県すさみ町は、雄大な太平洋に面した自然豊かな町。カツオを1本ずつ釣り上げる「ケンケン漁」が盛んな漁業の町でもあり、日本のレタス栽培発祥の地という農業の町でもあります。

すさみ町観光協会会長の中嶋淳氏は町の魅力を次のように語ります。

「すさみ町の90%以上は山です。また、美しい海岸線も魅力の1つ。海水浴、キャンプ、サイクリング、カヤックとさまざまなアウトドアを楽しめるため、近年では観光業に力を入れています。ここ数年で移住者も増えていて、過去5年間で90名が新しく移住してきています」

伝統的な第一産業に加え、自然を生かした観光業を打ち出すことで、少しずつ生まれ変わろうとしているすさみ町。

一方で、山と海に囲まれた地域であるがゆえの課題があります。その1つが防災です。

岩田省吾氏

すさみ町防災対策室長

「沿岸部は台風の際には高波が生じたり、山間部では住宅のすぐ後ろに山があり地すべりの危険性もあります。また、すさみ町は広い地域に集落が散在しています。そのため、もし津波が起きれば、集落をつなぐ国道が分断され、孤立化する恐れがあるのです」(すさみ町防災対策室長 岩田省吾氏)

自然豊かなすさみ町だからこその、都市部とは異なる防災課題。南海トラフ地震発生後のシミュレーションでは、国道42号線が10ヵ所以上寸断され、複数の避難所が孤立してしまうことが想定されています。

孤立した避難所にどのように物資を届けるか。すさみ町とソフトバンクが協議する内に出てきたのが、ドローン輸送のアイデアでした。

道の駅から里野避難所へ、約5kgの物資を輸送

実はソフトバンクがすさみ町でドローンの実証実験を行うのは2度目。2021年夏にはすさみ町の漁港から道の駅のレストランまで、獲れたてのカツオをドローンで輸送するという実証実験に成功しています。

今回の実証実験は道の駅から里野エリアにある避難所までの約4kmを航行し、重さ約5kgの物資を運ぶというものです。運ぶ予定の物資は、すさみ町名物のイノブタのまぜご飯をレタスで巻いたおにぎりと伊勢海老の味噌汁、衣類、毛布など。

使用するドローンはイームズロボティクス製のLAB6155という機体で、最大積載量は9kg。

自動航行で1分以内に予定の高度まで上昇し、すさみ町の里野避難所の着陸ポイントまで運びます。

ソフトバンクのドローン担当、中村幸平は今回の実証実験について次のように語ります。

中村 幸平

ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット
ロボティクスソリューション部

「物流ドローンの難しい点は、荷物の重さと航行距離がトレードオフになることです。荷物が重いとその分バッテリーを消費してしまい、遠くまで飛べなくなってしまいます。

また、重い荷物だと落下したときのリスクも増します。今回は防災シーンを想定しているため、もっともケアしなくてはならないのが2次災害のリスクです。あらかじめ決められたルートを正しく飛行させ、正しい場所に着陸させることが一層求められます。

そのため、実証実験の検証内容としては、『ドローンの航行の精度』と『避難所まで輸送可能な物資の重さ』の2点を想定しています」(ソフトバンク 中村幸平)

ドローン輸送であれば空から物資の輸送することができます。今回運ぶおにぎりの重さは2個で150g。重さ5kgの輸送が可能となれば、単純計算で1度に30名分以上の食事を届けることができることになるのです。

そしてその実現にあたって鍵になるのが「ドローンの航行精度」。そこで、ソフトバンクが提供する高精度測位サービス「ichimill」の出番です。

スマートシティにおける「未来の避難所」を垣間見ることのできる同イベント。通信事業者として通信インフラの確保はもちろんのこと、コロナ禍を想定した避難所での健康管理、支援物資の供給など、さまざまな観点からのソリューションが展示されました。

大浜 勇作

ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット
測位ソリューション部

「ドローンの運航の際にはあらかじめ飛行ルートを計画する必要があります。今回の実証実験であれば道の駅から避難所までのルートと着陸ポイントを決めて、事前に設定しておくわけです。あらかじめ設定したルートと着陸ポイントを厳密に守るため、正確な位置情報が必要になります。

一般的にGPSと言われる位置情報サービスは、単独の受信機が衛星からの信号を受信して、現在地を算出する『単独測位』を採用しています。しかし、『単独測位』では算出する位置情報に数メートル単位でズレが生じることがあります。

一方で『ichimill』は固定局と移動局の2つの受信機が衛星からの信号を受信することで、位置情報のズレを補正する『RTK測位』方式を採用しています。誤差を数センチメートルの範囲内に抑えることが可能になり、安定して低リスクの航行が実現できます」(ソフトバンク 大浜勇作)

すさみ町で行ったテストフライトの様子。小さなヘリパッドでの着陸に成功。

また今回の実証実験では、支援物資輸送の仕組みの一環として、LINEで避難所の管理者から自治体へ向けて要望を送ることのできるシステムを構築。ドローンの飛行だけでなく、災害時のオペレーションも想定したものになっています。

ドローンが日本の地域課題を解決

今回の実証実験は、行政や住民の皆さんとの対話を通じて出てきたすさみ町の地域課題に端を発するものでした。

しかし、全国にはさまざまな地域があり、そこでもまたすさみ町と同じ課題を抱えている可能性があります。

防災対策室長の岩田氏は「すさみ町のような地域はこれからも増えていくだろう」と語ります。

「近年、全国的に水害や土砂災害が頻発しています。すさみ町でもそういった可能性はゼロではありません。津波だけでなく、さまざまな災害を想定した訓練と準備を行っていきたいと考えています。

また、高齢化や過疎もそうですが、すさみ町のように集落が点在してしまう地域はこれからも増えていくだろうと思います。

今回の取り組みが、和歌山県、ひいては全国に広がっていくことで、日本の地域課題の解決に少しでもお役に立てればと思います」(防災対策室長 岩田省吾氏)

現在すさみ町は、民間事業者との協力により最先端のスマートシティを目指す、内閣府の国家戦略特区制度のスーパーシティ構想に名乗りを上げています。ソフトバンクはそのパートナー企業の1社。

すさみ町の岩田勉町長はスーパーシティ構想を踏まえ、今後のドローンの展開に期待を寄せます。

岩田勉氏

すさみ町長 兼 すさみスマートシティ推進コンソーシアム会長

「ドローンは防災に限らず、さまざまな分野に利用が可能だと考えています。例えば、アウトドアのキャンプ道具を運んだり、簡易トイレを運ぶことで観光にも利用できるかもしれません。

用途にあわせて1つずつテクノロジーを導入していくと、どうしてもお金がかかりすぎます。しかし、ドローンは物流、観光、医療とさまざまな目的に利用できる可能性があります」(岩田町長)

実際にドローンはさまざまな分野での活用実績があります。

「全国各地でインフラの老朽化が起きていることを背景に、ソフトバンクが提供しているドローンサービス「SoraSolution」は点検分野でのご利用に拡がりをみせています。その他でも、建設分野で測量に活用したり、農業分野で農薬散布をしたりとドローンの活用事例は多岐にわたっています。

今回のすさみ町での実証実験は、無人地域の目視内飛行ということで飛行レベル2にあたります。最終的に航空法が改正されて、レベル4の有人地域の目視外飛行が可能になれば、本格的な物流ドローンの時代がやってくるとともに、その他分野でもさまざまな活用が可能になるはずです」(ソフトバンク 中村幸平)

すさみ町の約3700人の人口は毎年約100人ずつ減少し、高齢化率は限界集落と言われる50%に近づきつつあります。課題先進都市とも言えるすさみ町だからこそ、ドローンの活用方法にも無限の可能性があります。

ソフトバンクは今後もすさみ町の地域課題に向き合うとともに、ここで得たさまざまな成果を日本の地域課題解決に役立てていきたいと思います。

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