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コロナ禍において、売り上げが減少した事業者に対して実質無利子・無担保で融資を行った「ゼロゼロ融資」。2023年7月以降、ゼロゼロ融資への返済が本格化している中、業績回復が遅れている企業が目立ち、返済に不安を感じている経営者も少なくありません。本記事では、ゼロゼロ融資の現状やその対応策について辻・本郷 ITコンサルティング株式会社の菊池氏に解説いただきました。
辻・本郷 ITコンサルティング株式会社
取締役
菊池 典明 氏
税理士。2012年辻・本郷 税理士法人大阪支部に入社。
株式会社のほか医療法人、社会福祉法人、公益法人等の税務・会計に関する業務を中心に、法人の事業承継や個人の相続コンサルティングも担当。
2015年より経営企画室に所属し、クライアントのクラウド会計の導入やDXの推進などに携わる。2021年よりDX事業推進室担当。
同年12月辻・本郷 ITコンサルティング株式会社 取締役就任。多くのセミナー講師も務める。
ゼロゼロ融資とは、コロナ禍で売り上げが減少した事業者に対して実質無利子・無担保で融資する仕組みを言います。新型コロナウイルスの感染拡大初期は日本政策金融公庫や商工組合中央金庫などの政府系金融機関が手掛けていましたが、利用が相次ぎ政府系金融機関では対応が間に合わなくなったため、民間金融機関も融資できるようになりました。コロナ禍が始まった2020年から開始され、民間金融機関は2021年3月まで、政府系金融機関は2022年9月まで新規貸付の受け付けをしていました。
中小企業庁によれば2022年6月末時点の融資実績は全国で約234万件、42兆円とされています。このコロナ関連融資の返済を開始する事業者の返済開始時期が2023年7月~2024年4月に集中しており、返済に向けた収益力の回復や借換保証制度の活用を含めた資金繰りの検討が課題になります。
ゼロゼロ融資と呼ばれるのは、実質無利子・無担保で融資を受けることができるからです。このうち無利子については、特別利子補給制度により、国(中小企業基盤整備機構)が利子を負担するため、無利子での融資が可能になります。
しかし、ゼロゼロ融資といえども、融資期間中ずっと無利子というわけではありません。ゼロゼロ融資においては、貸付を受けた日から最長3年間は無利子ですが、それ以後は基準利率が適用されます。
なお、ゼロゼロ融資には5年以内の据置期間があるため、この期間中は元本を返済する必要もありません。さらに、元本は信用保証協会によって保証されることから、事業者が融資の返済をできなくなった場合には、信用保証協会が立て替えてくれるというものです。
ゼロゼロ融資のうち、政府系金融機関のゼロゼロ融資(日本政策金融公庫及び商工中金)の概要をまとめると、以下の表のようになります。
なお、コロナ禍の影響が本格化した2020年3月に始まったゼロゼロ融資ですが、民間金融機関では2021年3月、政府系金融機関では2022年9月をもって受け付けが終了しています。
出典:中小企業庁「中小企業活性化パッケージ(関連施策集)」
ゼロゼロ融資は、2022年9月までに各金融機関による受け付けが終了しており、利子補給によって利払いが実質免除される融資実行から3年目を区切りに返済がはじまる企業が増えてきました。しかし、急激な物価上昇や人手不足により、業績回復が遅れている企業が目立ち、返済に不安を感じている経営者が少なくないのが現状です。
帝国データバンクの「新型コロナ関連融資に関する企業の意識調査(2023年8月)」によれば、新型コロナ関連融資について、「借りていない」企業は44.0%、「すでに全額返済」した企業は7.5%だった一方、「現在借りている」企業は45.4%となっています。
また、「現在借りている」企業のうち、2023年8月時点で返済が「3割未満」の企業は41.5%、「未返済や今後返済開始」の企業は17.6%となっています。2023年2月時点と比較すると、「5割以上」返済している企業は6.0ポイント、「3割~5割未満」は3.1ポイント、「3割未満」は2.8ポイント増加している一方で、「未返済や今後返済開始」は11.9ポイント減少しており、新型コロナ関連融資の返済が着実に進んでいる様子がうかがえます。
また、同調査によれば、新型コロナ関連融資を「現在借りている」企業に対する今後の返済見通しについて、85.7%は「条件通り、全額返済できる」と考えていますが、「返済に不安」を抱いている企業は12.2%と1割を超えています。その内訳をみると、「返済が遅れる恐れがある」(4.8%)や「金利減免や返済額の減額・猶予など条件緩和を受けないと返済は難しい」(5.6%)、「返済のめどが立たないが、事業は継続できる」(1.0%)、「返済のめどが立たず、事業を継続できなくなる恐れがある」(0.8%)となっており、返済に不安を感じている企業は2022年8月の調査以降、横ばいが続いているようです。
出典:帝国データバンク「新型コロナ関連融資に関する企業の意識調査(2023年8月)」
業種別にみると、新型コロナ関連融資の返済に不安感を抱く企業の割合が最も高い業種は、仕入価格の上昇に直面している「飲食料品小売」(35.1%)であり、次いで「教育サービス」(34.8%)、「飲食店」(32.4%)となっています。また、総合スーパーなどを含む「各種商品小売」については、2022年8月時点では5.9%でしたが、2023年2月時点で14.3%、2023年8月時点で20.8%と徐々に先行きへの不安感が高まってきている印象です。その一方で、新型コロナによる影響を大きく受けた「旅館・ホテル」は25.0%と、2022年8月時点(39.7%)、2023年2月時点(39.3%)より10ポイント以上低下しており、改善の兆しが見られます。
このように物価高騰等の影響もあり先行きに不安を覚えている企業が少なくない中、中小企業庁によれば、コロナ関連融資の返済を開始する事業者の返済開始時期は2023年7月~2024年4月に集中するとの見通しが示されており、収益力の回復はもとより、返済に向けた資金繰りにより一層注視する必要があります。
いよいよ返済が本格化するゼロゼロ融資ですが、返済にあたっては以下の点に注意する必要があります。
借入金の返済は、利益から行われます。少々大雑把ではありますが、返済が可能な金額は「税引後利益+減価償却費」よりも小さい金額となります。これよりも大きな返済額になると資金不足になってしまうため、売り上げや利益、キャッシュ・フローなどの現状をタイムリーに把握することが重要です。これらの現状を把握するために月次決算は非常に有効です。返済に悩む企業は、月次決算が後回しになり、タイムリーな現状把握ができていない傾向にあります。
また、借り入れにあたっては、返済計画を立てることが一般的ですが、むしろ計画通りに行くケースの方が少ないと言えるでしょう。タイムリーに現状把握を行うことで、借入時に見込んでいた返済計画の進捗を確認することができ、また、必要に応じて適切な見直しを行い、あるいは、後述するコロナ借換保証の利用などを検討することができます。
コロナ支援策の縮小に加え、物価高や人手不足等によるコスト増に耐え切れなくなった中小企業の倒産が相次ぎ、2023年の企業倒産件数は2年連続で前年を上回りました。たとえ借入金などの債務が適切な範囲にとどまり、自社の経営状態が良好だったとしても、取引先が急に倒産し、その影響で自社の経営が悪化するということも考えられます。そのため、取引額が適切な与信の範囲内にとどまっているのかをあらためてチェックするなど、取引先に対する債権の管理にもより一層慎重に取り組む必要があります。
コロナ借換保証とは、新型コロナウイルス感染症の影響の下で債務が増大した中小企業者の収益力改善等を支援するため、借り換え需要に加え、新たな資金需要にも対応する信用保証制度のことを言います。制度の概要は下記の通りです。
保証限度額 | 1億円
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保証期間 | 10年以内 |
据置期間 | 5年以内 |
金利 | 金融機関所定 |
保証料(事業者負担) | 0.2%等(補助前は0.85%等) |
要件 | 売上または利益率が5%以上減少 など |
その他 |
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取扱期間 | 2024年3月31日まで(予定)※信用保証協会に保証申込がなされたもの |
出典:中小企業庁「民間ゼロゼロ融資等の返済負担軽減のための保証制度(コロナ借換保証)を開始します。」
コロナ借換保証を利用するためには、下記①~④のいずれかに該当する必要があります。
①セーフティネット4号の認定
売上高が20%以上減少していること。最近1ヵ月間(実績)とその後2ヵ月間(見込み)と前年同期の比較
②セーフティネット5号の認定
指定業種であり、売上高が5%以上減少していること。最近3ヵ月間(実績)と前年同期の比較
※①②について、コロナの影響を受けた方は前年同期ではなくコロナの影響を受ける前との比較でも可。
③ 売上高が5%以上減少していること
最近1ヵ月間(実績)と前年同月の比較
④売上高総利益率/営業利益率が5%以上減少していること
③の方法による比較に加え、直近2年分の決算書比較でも可
コロナ借換保証の申し込み手続きのイメージは、下記の通りです。
出典:中小企業庁「民間ゼロゼロ融資等の返済負担軽減のための保証制度(コロナ借換保証)を開始します。」
申し込み手続きにおけるポイントは、経営行動計画書の作成です。
経営行動計画書を作成する際は、自社の現状認識や財務分析を行い、計画終了時点の将来目標やそれを実現するための具体的なアクションプランを立てます。具体的な資金使途を明確にすることも重要です。これらの項目をもとに収支計画及び返済計画に落とし込みます。赤字の場合であってももちろん申請可能ですが、この計画を通して黒字化することを目標に、収支計画及び返済計画を立てましょう。
とは言え、経営計画書を一から作成することはなかなか困難です。中小企業庁が経営行動計画書の様式や具体的な記載例を公開していますので、経営行動計画書をどのように書けばよいか分からない場合は、中小企業庁のサンプルを参考にして作成しましょう。
ここまで、いよいよ返済が本格化するゼロゼロ融資の概要やその返済のポイント、そして返済が困難な場合のコロナ借換保証について解説してきました。一方で、今後の収益力の回復や事業の拡大のために返済を要しない補助金や助成金を活用するという選択肢もあります。代表的な補助金・助成金の種類をいくつかご紹介します。
・ものづくり補助金
ものづくり補助金は、正式名称を「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」と言います。生産性を向上させるためのプロセス改善及び設備投資などを支援するための補助金です。「ものづくり」という名前が付けられていますが、製造業に限らず幅広い業種で申請が可能です。
・事業再構築補助金
事業再構築補助金は、新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売り上げの回復が期待しづらい中、ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応するために中小企業等の新分野展開、事業転換、業種転換、業態転換、または事業再編という思い切った事業再構築を支援するための補助金です。
・IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者等の業務効率化や労働生産性の向上を目的として、自社の課題やニーズに合ったITツール(ソフトウェア、サービス等)の導入を支援する補助金です。
・キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金は、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といったいわゆる非正規雇用の労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善の取り組みを実施した事業主に対して助成するものです。
コロナウイルス感染症の拡大以来、上記以外にもさまざまな補助金・助成金が準備されています。中小企業への支援の軸足が「コロナ禍の資金繰り支援」から「経営改善・事業再生支援」に移行しつつあると言われる今、今後は安易な返済猶予や借り換えを繰り返すことが難しくなると考えられます。自社の課題やニーズに合った補助金や助成金の活用により、収益力の回復や経営改善に取り組むことが重要です。
「補助金コンシェル」は、中小企業や小規模事業者を対象に、経済産業省が推進する「IT導入補助金」の申請業務を支援サービスです。お客さまの課題に合わせて、ソフトバンクが抱えるITツールの提案から補助金の申請までをワンストップで提供します。
『補助金コンシェル』は、IT導入補助金2023支援事業者「ソフトバンクコンソーシアム」が運営しております。「ソフトバンクコンソーシアム」とは、IT導入補助金2023において支援事業者として、ソフトバンクソフトバンク株式会社、株式会社ライトアップ、HTMコンサルティンググループ株式会社の3社によって構成された事業団体です。
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