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ソフトバンク最大規模の法人向けイベント「SoftBank World 2024」が、10月3日と4日の2日間にわたり開催されました。今年は「加速するAI革命。未来を見据え、いま動く。」をテーマに、AIの活用加速に向けた講演やセッションを行いました。
この記事では、10月3日に「水産業界の課題解決に向けたAIの取組み(「生産」・「流通」)」と題して行われた、トークセッションの内容をレポートします。
榎戸 教子 氏
アナウンサー
株式会社PICANTE 代表取締役
さかなクン
東京海洋大学 客員教授・名誉博士
農林水産省 お魚大使
大野 泰敬 氏
株式会社スペックホルダー 代表取締役社長
農林水産省 農林水産研究所 客員研究員
須田 和人
ソフトバンク株式会社
IT統括 IT&アーキテクト本部
アドバンスドテクノロジー推進室 室長
魚をはじめとした水産物は私たちの食生活に欠かせない存在ですが、現在、水産業界は気候変動や人材不足など、多くの課題に直面しています。これらの課題を解決するために、AI技術がどのように活用されているのか、またはどう活用していくべきかをテーマに、株式会社PICANTE代表取締役の榎戸氏をモデレーターとして、東京海洋大学の客員教授であるさかなクン、株式会社スペックホルダーの代表取締役社長である大野氏、ソフトバンクの須田を交えてトークセッションが行われました。
榎戸氏:「まずは、ソフトバンクにおける水産業界の課題解決に向けた取り組みを教えてください」
須田:「今世界で紛争やテロ、異常気象、インフレ、環境汚染などが起きています。それに伴い、食料安全保障が脅かされている状況です。さらに、日本の食料自給率は年々低下しており、今は輸入に依存しています。漁獲量もピーク時から半減しており、右肩下がりです。加えて、漁業就業者も減少の一途をたどっているのが、今の日本の実情です。
その中でソフトバンクが果たすべき役割としては、水産物の需要をまず拡大し、それに合わせてバランスよく供給できる仕組みも拡大させていくことが重要なことだと考えています。
需要の拡大への取り組みとしては、『魚の品質規格標準化プロジェクト』を立ち上げています。例えば牛や豚、果物などには品質を表す指数として『ランク』『等級』『糖度』というものがあります。しかしながら、魚には品質を可視化する指標がありません。それをテクノロジーの力で可視化することができないか、現在コンソーシアムを立ち上げて取り組んでいます」
須田:「供給への取り組みについては、養殖のスマート化による生産の拡大を計っています。愛媛県にある自社の生け簀(養殖実験拠点)で、AI技術を使った研究開発をしています。
現在の漁業においては、漁師さんのKKD(勘・経験・度胸)に頼ってしまっている部分が大きく、漁に関するデータの蓄積や可視化ができていません。そのため、生産効率が上がらず、コスト削減も計れません。そもそも不安定な漁業において、漁獲量の見通しを立てられないことで経営の不安定さにつながってしまっていることも課題の一つです。
それらをテクノロジーの力で解決するため、自社の生け簀では、AIで魚の成長を定点観測する取り組みを進めています。魚の成長を定期的に観測することで、餌の最適化や労力の軽減、コストの削減などにつなげることができます。AI技術を通して出荷時期の最適化も図られ、効率的に生産量を拡大することで、漁業全体の収益向上が実現できます。一人一人の生産者の生産量を増やし、日本全体の水産物供給量を増加させることが我々の目標です。
とはいえ、水産業界は、厳しい労働環境を指す「3K(きつい・汚い・危険)」だと言われています。こういった部分もテクノロジーの力で効率化を進めていくことができれば、「新3K(所得・休日・希望)」のイメージに変えられます。所得も上がって休日もとれて、希望に満ち溢れた労働環境へとリブランディングできれば、業界全体を再定義でき、水産業界の活性化へとつながると考えます」
榎戸氏:「ここまで、日本における漁業の課題を見てきましたが、その中でも餌代の高騰は深刻な課題の一つです。ここからは大野さんの取り組みを教えていただきます」
大野氏:「我々日本人はお寿司や刺身をよく食べるので、世界の中でも魚を食べる国だと思われがちですが、実は、世界の人々もものすごく魚を食べるようになっています。今まで魚を食べなかったようなアジア圏やアフリカなど、今後は世界中で魚を食べる人が増えてくると考えられています。世界的には人口が増加傾向なこともあり、魚の需要が今急激に上がってきている状況です。
世界の人たちが魚を食べるようになると、ただでさえ減り続けている漁獲量が頭打ちになると言えます。そこで今、世界需要を満たすための『養殖』が進んでおりまして、漁船漁業と比べると、養殖の魚の方が多いという状態です」
榎戸氏:「養殖が漁船漁業より増えていくという、そんな歴史的な転換点にいるんですね」
大野氏:「はい。そしてやはり、この世界需要を満たすためには、今後は養殖がさらに重要になってくると思っています。ただ、この養殖を語っていく上で非常に大事なポイントが、養殖のコストの約7割が餌代ということです。現在、その餌代がものすごく高騰しており、かなり経営にインパクトを与えています。この餌をどう確保していくのかが重要です。
魚粉と言われている魚の餌は、直近15年ほどの長いスパンで見ても、2倍以上に高騰化しています。ちなみに1990年から見ると4倍に高騰していて、この魚粉価格の高騰というものが今後も継続してしまうと、養殖業者さんたちのビジネスが成り立たないところまで来てしまっている状況です。
つい2日前も、養殖大国と呼ばれている愛媛県の養殖業者が倒産したりだとか、このままだとビジネスを継続していくことが難しくなっています
大野氏:「そこで、今後やらなきゃいけないこととして、大事なポイントを3つにまとめました。
1つ目は、生産性の効率化を図っていくことです。例えば、海外では養殖船などがあり、8,000トンもの魚を養殖できるような養殖場を持っているなど圧倒的な効率化を図っています。そこに日本が対抗していくためには、生産性をいかに向上させていくのかが大切なポイントだと思います。
2つ目は魚粉が今、世界中で取り合い合戦となっています。まさに競り合っている状況において、魚粉をあまり使わない低魚粉や全く別なもので代替化を図る、ということも同時に重要なポイントになってきます。
3つ目は、価値の最大化です。生産効率をどんなに高めても、全体にかかるコストを半分以下にできるかというとなかなか難しい状況です。日本の魚の美味しさ、新鮮さなどといった世界トップクラスの魚を育てる技術の価値を最大化して、どう外貨を獲得していくのかが鍵になると思います」
榎戸氏:「生産効率の最大化、そして魚粉などの代替化によるコスト削減、そして魚の価値をどう高めていくのか。その辺では須田さんが何とかしてくださるんですよね」
須田:「そのような話も生産者の方々から伺っています。やっぱりコストの7割が餌代ということで給餌を最適化するとか、例えば無魚粉や低魚粉などの餌で育てることも重要になると思います。今、ソフトバンクの生簀でも、無魚粉や低魚粉でマダイを育てるトライアルを行っておりまして、一定の成果が出ています。
低魚粉で育てると、餌代も安くなり、価格も低価格になり、サステナブルな養殖が実現できると思ってます」
榎戸氏:「続いてのトークテーマは、『魚の品質規格標準化が実装された未来』です。皆さん魚の味が事前に分かっていたら、選び甲斐がありますよね。コーヒーやワインって産地などで選んでいませんか? 味も好みで選べますよね。でも、魚にはその基準がないというお話が先ほど須田さんからありました。そこで特別に、『お魚の味比べ』ということで真鯛の食べ比べを行いたいと思います」
会場では、餌の種類によって異なった育ち方をした3種類の養殖真鯛の実食が行われ、榎戸氏、大野氏、さかなクンそれぞれが違うタイプの魚をおいしいと評価しました。
須田:「今食べていただいて分かったように、3人違うものが好みであることもあります。食べる前に数値データで、『触感』『味の濃淡』『匂い』などが表示されていれば、自分の好みに合う魚を選ぶことができるようになると思います。将来、品質規格標準化が実装されれば、例えばスーパーに並んだ魚から、好みに合う魚を値札の隣に貼られた数値データなどを見て選べるという未来も実現できます。また、料理に合わせて、魚を選ぶことができるという消費者のメリットもあります。
このようにして、今よりも魚を食べる機会が増えてきたら、需要も拡大してくると思います。需要が拡大すると単価もアップし、生産者も品質の良い魚を作ることへのモチベーションにつながると考えています。安心安全で美味しいジャパンクオリティーの魚がどんどん生産できるようになり、結果として、世界中の食卓に届けることができるようになります。日本の美味しい魚の価値を最大化することで、外貨を獲得して国力もアップし、日本の成長につながるというような未来を作りたいと思っています」
榎戸氏:「私自身も1年間かけて世界を回った経験があるんですけれども、アフリカや南米ではほとんど魚を食べません。でも、こんな美味しさをもし世界の人が知っていたら、もっと需要は拡大する。かなりビジネスチャンスがあるんだなと改めて感じます」
大野氏:「先ほど海外市場のマップがありましたが、特に日本よりも海外の方がものすごく魚の市場が伸びていて、約50兆円の市場規模になってきています。今後も右肩上がりになっていくので、海外をどうターゲットにしていくのかというのはすごく重要なポイントですね」
榎戸氏:「ありがとうございます。最後に会場の皆さまに一言ずついただいて、このセッションを終了したいと思っています」
さかなクン:「本日はたくさん学ばせていただきまして、しかもこんなに美味しいマダイのお寿司をいただき、ギョ馳走さまでした。とても貴重な経験をさせていただきました。ありがとうギョざいました」
大野氏:「本当に色々な企業さんが食の課題を解決しようと取り組んでいます。恐らくこれからさまざまな課題が出てくると思いますが、実はここにいらっしゃる魚を実際に食べる消費者の皆さまが一歩踏み出すことが大事になってきます。企業や国だけの努力では、この問題は解決できないんです。
これからスーパーに行った時には、例えば『国産の物』『地元の物』などを若干高いかもしれないけれども買っていく、ということを本当に1カ月に1回でもいいので、ぜひやっていただければと思います。その積み重ねが、この日本における食の危機を救えるきっかけになるんじゃないかと思ってます。この講演を聞いた後、ぜひスーパーで物を選ぶときの参考にしていただければなと思います」
須田:「ソフトバンクは、引き続きAIを駆使して養殖のスマート化に取り組んでいきます。ただ、ここ5年くらい養殖のスマート化に取り組んできて感じている事としては、社会実装をするためにはソフトバンク1社では限界があり、なかなか進まず壁に当たることもあります。さまざまな企業と情報交換をしますが、専門の技術を持ってるよい企業がたくさんあります。
専門の技術を持ってる企業や自治体の協力、研究機関の支援などが必要なこともありますので、ぜひ連携しながら社会実装を共に推進していければと思っております」
榎戸氏:「私もお話を伺っていて、魚の味の標準化規定が決まって、それがもし実装されたら、日本の食文化を守ることや食料安全面、そしてそれが輸出につながっていくということで、ビジネスチャンスもまだまだあるんだな、そんな希望ある未来を描くことができたと思います」
ソフトバンクグループでは、経営理念として、「情報革命で人々を幸せに」を掲げています。一見、テクノロジーとは遠い存在と思われがちな水産業においても、情報革命により人々を幸せにするため、多様な取り組みを行っています。水産業界を持続可能なものにし、明るい未来へとつなげるためには、私たち一人一人の選択が重要になってくるのではないでしょうか。
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