「AX時代」目前。ソフトバンクが描くビジネス変革
SoftBank World 2024 セッションダイジェスト

2024年11月7日掲載

「AX時代」目前。ソフトバンクが描くビジネス変革 SoftBank World 2024 セッションダイジェスト

SoftBank World 2024のオープニング特別セッションは、Gen-AX株式会社の砂金信一郎氏と経済キャスターの瀧口友里奈氏がMCを務め、株式会社圓窓の澤円氏とソフトバンク株式会社の平岡拓をゲストに迎えて行われました。セッションでは、生成AIの未来や「AX」時代のビジネス変革について熱い議論が交わされ、AIの社会への影響や利用者側の思考法について深掘りされました。

本記事は、2024年10月4日に開催されたSoftBank World 2024でのスペシャルオープニングセッションをダイジェストでお伝えします。

目次

登壇者ご紹介

砂金 信一郎 氏

砂金 信一郎  氏
Gen-AX株式会社 
代表取締役社長 CEO

澤 円 氏

澤 円 氏
株式会社圓窓
代表取締役

瀧口 友里奈 氏

瀧口 友里奈 氏 
経済キャスター
東京大学工学部アドバイザリーボード
SBI新生銀行 社外取締役

平岡 拓

平岡 拓
ソフトバンク株式会社
iPaaS事業開発本部
本部長

孫正義の特別講演で語られた生成AIの未来への期待

 セッションの冒頭では、ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役 会長兼社長執行役員およびソフトバンク株式会社 創業者 取締役 孫正義の特別講演を基に孫の描く生成AIの未来についての感想が語られました。

澤氏:「熱くて面白かったですね。生成AIを全く知らない人には夢物語に聞こえるかもしれないが、生成AIが浸透してきている中で、今や多くの人がその可能性を感じたのではないかと思うんですよね」

瀧口氏:「すごく分かりやすかったですよね。生活者に身近にビジョンが描けるような形で語られていましたよね」

澤氏:「ASI(人工超知能)が10年以内に実現すると孫さんは言っていて、彼はやるといったらやる人なので、これは面白くなりますね」

砂金氏:「ソフトバンクには通信事業会社のイメージがある人が多いかもしれないですが、講演はほぼAIの話で、『情報革命で人々を幸せに』というソフトバンクのビジョンに対して、昔はスマートフォンで情報武装しようという話だったけれども、今はAIを次の重要な技術とする方針が一貫して示されていますね」

平岡:「Agent to Agentの世界がやってくるという考え方は、全てのビジネスモデルに影響を及ぼしそうだと思い、その概念が好きだなと感じました」

瀧口氏:「エージェント同士が協働する世界観がかわいらしく感じられて、好ましいものだと思えるお話でした」

オープニング特別セッションの様子

AX(AIトランスフォーメーション)とは何か

 続いて、今回のセッションのテーマであり、砂金氏が代表を務めるGen-AXの社名にもなっている「AX」について、概念とビジネスへの影響について話されました。

砂金氏:「AX(AIトランスフォーメーション)とは、AIを前提として仕事のやり方を再デザインすることです。これまでソフトバンクは、法人のお客さまに対して、デジタル化という観点でご支援をしていましたが、これからはAIを導入しAIを前提とした仕事の仕方を再デザインしましょうというご支援にも取り組んでいくことからから、今回のSoftBank World 2024では、さまざまな人が「AX」について語っています」

瀧口氏:「『AX』によって今後ビジネスはどのように変革していくのかについて、澤さんいかがでしょうか」

澤氏:「インターネットがない世界から、ある世界に変わった時の世の中の混乱ぶりを見ていて、その時に日本は遅れを取ったと思っているんです。インターネットにすぐに飛びつかなかった人たちがキャッチアップするのに苦労したのも知っています。今こそAXの流れに乗ることで、その遅れを取り戻すチャンスだと思います。日本の企業にとってこの機会は非常に大きいですよ。特に、労働人口の減少が避けられない現状において、AIの力を活用することが不可欠であり、AIを『もう少し成熟してから』と待つのではなく、今すぐにでも使い始めるべきだと思います」

AIエージェント「satto」とは

 砂金氏からソフトバンクの最年少本部長との紹介を受けた平岡が、開発中の「satto」について語りました。

平岡
:「プロンプトを作成することなく、さまざまなツールやアプリケーションと連携して業務を支援する生成AIエージェントのサービスを開発しています。特徴は、専門的な知識や要件定義のスキルがなくても、誰でもAIを利用できる点です」

 「satto」ではエージェントという広大な概念を分かりやすく伝えるために、「使う」「作る」「広がる」の3ステップで、みんなで集合知を作ると表現しているそうです。

平岡:「分析レポートや営業メール作成など、特定のシーンごとにプリセットされたスキルを呼び出して使ったり、スキルを自分専用にカスタマイズして作ることも可能です。できる人だけがAIを使いこなすのではなく、技術に詳しくない人でも生成AIの恩恵を受けられることをテーマとしており、その広がりを目指しています」

satto概要

澤氏:「情報共有型のコンサルタントとして長く活動していたので、以前は優秀な人材がノウハウを共有するよう求められ、その結果、本当に力を入れるべき仕事に時間を使えないという課題が多くの企業でありました。しかし『satto』では、その共有をAIが代替してくれると感じたけど認識合っていますか」

平岡
:「その通りです。先のフェーズになるが、AIがプロアクティブに『今このタイミングでこの情報が役立つ』と提案してくれることで、熟練者が直接教える必要がなくなり、効率的な知識共有が可能になります」

瀧口氏:
「なるほど。人間側からアクションしなくてもAI側が勝手に来てアシストしてくれるんですね」

平岡
:「プロアクティブなAIでなければ、多くの人々に使ってもらうのは難しいと思っています」

Gen-AXとは

 「AX」時代を作っていくという中で、Gen-AXではどんな事業を展開していくのかについて砂金氏から説明がありました。

砂金氏:「ソフトバンクの100%子会社ですが、生成AIを活用して企業内の業務効率化を図る、さまざまなSaaSの開発を行い、またコンサルティングもやろうとしています。AI自体は作らないが、AIを業務にフィッティングさせる部隊です」

 そして、お客さまと会話する中で見えてきた業務における生成AI活用の成熟度の段階について説明した上で、Gen-AXの推奨する社内展開ステップについて述べました。

Gen-AXの推奨する生成AIの社内展開ステップ

砂金氏:「まずは、AIに慣れるために社内版ChatGPTから始めましょう。次に、コールセンター自動化をすぐに実施するのはハードルが高いので、その前段階として照会応答業務を取り入れましょうというご提案をしています。最後に、特化型LLM(大規模言語モデル)を作りますが、これには膨大な学習データが必要です。そのため、照会応答業務とコールセンター自動化を進めることで、業務に必要なデータを蓄積できる点が重要となります。AIがいきなりBtoCのお客さまと直接会話をすると、間違えたらどうしようという不安もあると思うので、まずは代理店と本店との間で行われる照会応答業務において、業務のプロが知識を蓄積する段階を挟むとよいと思います」

 セッションの中では、イメージを掴みやすくするために、損害保険をモチーフとした開発中のデモ画面を使って説明が行われました。

砂金氏:「業務知識が必要な質問について、例えば、代理店からのこの条件の場合に保険を支払ってもよいかや、手続きに何が必要かなどの照会業務の中で、高度にチューニングされた検索技術を使い、結果を表示します。表示された結果を業務のプロが、この知識は正しい、正しくないという評価を行い、ラベル付けされたデータが溜まることで、業務の中で使えば使うほど賢くなる業務アプリを目指しています」

 また、コールセンターでのAI活用におけるアプローチについて、旧来の人間が作ったシナリオ通りに機械が読み上げてくれるのではなく、AIにタスク分解させ必要な情報を取りにいかせる自律思考型のエージェントの仕組みを作り、コールセンターや企業システムの裏側にいれる挑戦をしていると語りました。

 コンサルティングについても生成AIに詳しいメンバーが支援すると言います。

砂金氏:「一番重要なのはAIファーストな業務設計です。AIがあること前提の業務設計とは例えばどんなことかというと、今までの業務文書は人間が読むことに最適化されており、図表などを使用していることが多いが、AIにとっては図表は迷惑でしかありません。分かりやすく言葉で書き下してほしいというのがAIの気持ちです。我々は、AIが読みやすい文章を作り管理することを軸に、人間も読めるものを作っていく支援をしていきます」

瀧口氏:「人間にとってもAIにとっても読みやすい形にするということなんですね」

Gen-AXのコンサルティングアプローチ

澤氏:「情報共有系システム導入のコンサルをやっていた時代に、業務改善のためビジネスパーソンの仕事を観察すると、業務時間の約3〜4割が『捜し物』に費やされていたんですよ。具体的には、パソコンでファイルを探す時間が全体の1割を占め、さらにミーティングやメールでも情報を探す場面が多い。その結果、お客さまに価値を提供するための時間が減少しているという問題がありました。しかし、今の話を聞いていると、AIの活用により、この『捜し物』に費やす時間を大幅に削減できる印象なんですよね」

瀧口氏:「自分自身の仕事を振り返っても本当に捜しているなと思いますね」

澤氏:「以前は合っているか間違っているかが分からないから詳しい人への確認が必要で属人的になってしまい、そこでまた捜すという作業が必要でしたが、AIがお墨付きを出してくれた状態で使えるとこれはものすごく効果がありますね」

砂金氏
:「今度こそ、昔からやりたかったことが実現できるのではないかというワクワク感があります」

平岡:「Gen-AXが企業側のエージェントを作ろうとしていて、sattoが利用者側のエージェントを作ろうとしているので、sattoがGen-AXによって作られた企業エージェントと個人をつなげるAgent to Agentの実現できるのではないかと思いワクワクしています」

AIに関わる9つのキーワードからトーク

 続いて、AIに関わる9つのキーワードから気になるものを選んでのトークセッションが繰り広げられました。

AIに関わる9つのキーワード

 まず最初にキーワードを選んだ澤氏は、「メタ思考で読み解く生成AIブーム」と、「AIは人の仕事を奪うのか?」この2つを絡めて話したいと述べました。

メタ思考で読み解く生成AIブーム。AIは人の仕事を奪うのか?

澤 円 氏と平岡 拓

 澤氏はイギリスを訪れたときの話から、第1次産業革命について語り始めました。

澤氏:「当時の労働人口減少という課題を解決するために機械化は進められましたが、その結果一部の労働者が職を失い、ラッダイト運動(機械打ち壊し運動)が発生しました。機械があるから自分たちの仕事が奪われたんだと機械を壊し、警察と軍隊に制圧されてしまいました。本当は憎むべきは機械ではなかったはずだが、そこに矢印が向いてしまったことで制圧される側になってしまったんですよね。一方で、産業革命により余暇が生まれ、マンチェスターではサッカー文化が発展しました。これは機械化によって人が幸せになったことですよね。メタ思考は俯瞰して考えることで、俯瞰してみると自動化されると時間が生まれる、時間が生まれると別のことにその時間を使えると思えるはずですが、短視眼でみるとそう思えないんですよね」

 この歴史的背景を基に、議論の中で、物事を俯瞰して考える「メタ思考」の重要性が強調されました。

澤氏:「『AIの導入で仕事が奪われる』と短視眼的に捉えるのではなく、AIがもたらす時間的余裕や新たな可能性に目を向けることが大事だと思います。AIは敵ではなくパートナーとして共存し、自分のキャリアや生活を豊かにする手段として活用していきたいものです」

砂金氏:「昔、戦略コンサルティングをやっていたときに、視点を上下左右に移動させて物事を多面的に考える手法が身に付いたが、そういう環境にいないと自然と身に着けるのは難しいですね」

澤氏:「まさに『ズームインズームアウト』というやつですね。デッサンでは、例えば石膏でできたソクラテスの胸像を描くとき、物体としては白いものを黒い鉛筆で描くというちょっとした矛盾があるんですよ。その時にソクラテスを描こうとすると脳内のソクラテスを描き始めてしまうんです。だからその空間にしかない『影』を描くんです。生成AIというので自分の仕事だけを見るのではなく、目をあげてマーケットや社会、自分のキャリアがどうなっているのかを見るとその中にAIはパーツとして入ってくると思うんですよね。自分の人生を楽しむためにAIは何をしてくれるのかという視点で見ると見え方が全然変わってくると思います」

砂金氏:「生成AI時代には、メタ思考や視点の切り替えが大事というのもありますが、生成AIが身近にあることで、難しいプロンプトがなくても具体化・抽象化の作文をAIが返してくれるので、以前よりもメタ思考を実現しやすいのではないかと思いますね」

澤氏:「自然言語でできるというのがポイントですよね」

平岡:「自分の思考が具体的なことを言っているのか、抽象的なことを言っているのかを一歩引いて考える習慣がない人は、それをプロンプトに表現することもできないんですよね。これは、教育や家庭環境など何かしらメタ認知を強制させられるような環境に触れたことがあるかがティッピングポイントな感じがしていて、どうしたらできるのだろうかと思っています」

瀧口氏:「澤さんはメタ思考を手に入れるきっかけは何かあったんですか」

澤氏:「『グレートリセット』と呼ばれる時代の大転換期に敏感ですぐ動くという自分自身の特性もあるかもしれません」

 過去にインターネットやクラウドの登場、コロナ禍のリモートワークの普及といった変化にも即座に適応してきた経験について語り、澤氏は続けます。

澤氏:「何か大きな世の中のルールが変わった瞬間というのは、自分の行動やキャリアをどう変えても正解になりやすいと思います」 

瀧口氏:「まさに生成AIが来ている今、挑戦することがいい環境にあるということですね」

 続いてのキーワードに、平岡が「国産LLMは必要か?」を選びました。

国産LLMは必要か?

 砂金氏は、ソフトバンクの100%子会社であるSB Intuitionsが日本語特有のニュアンスを理解する国産LLM(大規模言語モデル)を開発していることについて触れました。また外資系企業が膨大なリソースを投入しているのと対比して、日本語のLLMの必要性についてどう考えているか問いかけ、議論が展開されました。

砂金 信一郎 氏と瀧口 友里奈 氏

澤氏:「日本は第一次・第二次産業革命で成功しましたが、インターネット時代では言語の壁が技術の普及を妨げたと思います。日本人がAIを利用しやすくするためには国産LLMの開発は不可欠です。国産LLMがあることで選択肢が増え、全ての企業や産業において新規事業を生むために重要だと思います」

砂金氏
:「グループ会社の中にAIモデルを自分たちで作れる部隊がいることでグループ全体の技術レベルが上がります。今はコストや性能の面で他社製品を使っていますが、作り方や技術を理解した上で思考が深掘りできるという観点において、国産LLMの開発は必要だと思います」


瀧口氏
:「ノウハウの蓄積や人材育成の面でも将来的に回収できるのではないかということですよね」

平岡:「現場の人の仕事の負担を減らすためには、LLMのクオリティーが重要ですが、外資系のLLMが日本語の複雑さや多様な表現に対応できるか気になっています。日本語は英語よりも含みが多いので、日本語に特化したLLMの開発は、現場の効率化に繋がる可能性がありそのポテンシャルに期待しています」

 続いて、砂金氏はAIエージェント論というキーワードを選びました。

AIエージェント論

平岡:「『エージェント』という言葉の定義は曖昧で、『お金持ちになるために営業成績を上げたい』といった漠然とした願望から、『メールの返信文を考えたい』などの具体的なタスクに至るまで、さまざまな段階やレベルのプロセスに存在すると思います。その中で、抽象的な要望や依頼でも、とりあえず対応してくれる存在がエージェントだと思っています」

 次に、砂金氏は孫正義の講演に触れながら、強化学習の重要性を語りました。

砂金氏:「AIは、人間と同じで褒められると伸びます。つまり、人間が正しくフィードバックを与えることで、AIは人間の期待により近づくことができます。教科書的なデータだけでは、エージェントには辿り着きません。単に賢く効率的なAIを追求するのではなく、人間の感情に寄り添えるAIへのこだわりが孫正義流なのかなと思います」

 また議論は日本の文化的な背景に及びます。

平岡:「擬人化の能力において日本は非常に強いと思っていて、日本はアニミズムや八百万の神といった文化を持ち、物に魂を宿す考えが根付いているんですよね。生成AIのような技術を人間味あふれる形で包み込む能力において、日本は他国よりも優れていると思います」

澤氏:「アトムとドラえもんを生み出してますからね。映画でも他国では人類と対立をする描かれ方をしやすいですが、日本は人間側に寄せやすいかなという気はしますね」

瀧口氏:「そうですよね。その世界感をこれからどう実現していくかっていうところがまさにこの10年だっていうお話を孫さんもされていましたね」

まとめ

瀧口氏「スペシャルオープニングセッションですが、『AX』自体目前、ソフトバンクが描くビジネス変革というテーマで議論をしてきたんですけれども、皆さんいかがでしたでしょうか」

澤氏:「最先端で活躍するメンバーと鮮度の高い状態で生成AIについて議論ができ貴重な時間でした」

平岡
:「一番勉強させていただいたと思います。ソフトバンク内もその周辺にいる人たちの盛り上がりを今日改めて感じることができ、もっとやってやろうという気持ちになりました」

砂金氏
:「このセッションを見ることで、孫さんや宮川さんの講演が何倍か楽しく視聴できるのではないかと思います。ソフトバンクは、通信事業を超えてAIなどの先端技術を活用し、情報革命を通じて人々を幸せにするというビジョンの下で活動しており、SoftBank World 2024の中で、その迫力やソフトバンクが描く未来への強い決意をコンテンツを通じて感じていただければと思っています」

 議論されてきた生成AIの世界感をこれからどう実現していくかというところに期待を膨らませつつセッションは締めくくられました。

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