DX銘柄への道【後編】 ソフトバンクが実践する「選定されるための」準備と工夫
2025年7月11日掲載
「DX銘柄への応募を検討するように」――。昨今、役員クラスからこのような指示を受け、情報収集を開始されたDX推進担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「聞けば、競合のA社がDX銘柄に選ばれたらしい」「B社も応募に向けて動き出しているようだ」――。そんな背景から、自社も追随しないと、というプレッシャーを感じている方も少なくないかもしれません。
しかし、DX銘柄への挑戦は、競合他社の動向に対応するためだけではなく、本質的に制度を深く理解し戦略的に活用する事で、自社のデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させ、企業価値を一層高める重要な機会となり得ます。
本記事は前後編の2部構成でお届けします。
【後編】となる本記事では、5年連続でDX銘柄に選定され、さらに今年は初のDXグランプリ受賞へと導いたソフトバンクのDX銘柄責任者である丹羽へのインタビューを通じて、選定される事のメリット、事前準備の工夫、試行錯誤から得た気づきを、DX銘柄選定に取り組む企業の皆さまに役立つ実践的なヒントとしてご紹介します。
▶前編はこちら:DX銘柄への道【前編】 応募前に知っておきたい制度概要や評価の仕組みを解説
DX銘柄のメリットとは?
まず、企業にとって、DX銘柄へ応募するメリットをお聞かせください。
「DX銘柄は、企業にとっての“健康診断”のような位置付けだと思っています。1年に1回、自社のDXの取り組みがどれくらい進んでいるのかを確認する良い機会です。業界全体の中で自分たちがどのポジションにいるのか、遅れていないかどうかなど、客観的に立ち位置を見直せる点が非常に有意義だと感じています」
ソフトバンクではDX銘柄の活動をどのように位置付けているのでしょうか。
「これはソフトバンクならではかもしれませんが、私たちは法人のお客さまのDXを支援する立場でもあります。そういった中で、ソフトバンク自身がDXに取り組んでいる事、評価されている事が、お客さまに選んでいただくための理由の一つになるのではと考えており、毎年チャレンジしています」
DX銘柄エントリーにおける「事前準備」の工夫
準備にあたり、社内の関係者との連携や、各部門との協力をどのように築いているのか教えてください。
「DX銘柄の申請の締め切りは毎年12月下旬になります。つまり、年末の一番忙しい時期に、かなりの作業量を関係者にお願いしなければならないんです。しかも協力を仰ぐのは、私たち法人部門に限らず、非常に幅広い部署にわたります。というのも、多くの企業では部門横断でDXを推進する「DX推進本部」や「DX共創本部」といった専門部署があるケースも多いですが、当社の場合、全社のさまざまな部門でDXと呼べる取り組みを推進しているからです。
最初の頃は『こんなに忙しい時期に協力してもらえるのか』という不安もありました。そこで数年間は、経営会議などの場で『ソフトバンクとしてDX銘柄にチャレンジします』と、事前に告知をしました。
また、関係各部門の上層部にも『DX銘柄とは何か』『なぜ取り組むのか』について周知した上で、『皆さんの部署にもご協力をお願いするかもしれません』と事前共有するようにしています。
こうした繰り返しによって、今ではスムーズにご協力いただける体制が整ってきたと感じています」
これからDX銘柄への申請を検討している企業に向けて、「準備段階で意識しておくべき事」があれば教えてください。
「たくさんありますが、まず確実に必要なのが経営層によるDXへの言及のエビデンスです。例えば、決算説明資料、株主総会、統合報告書、会社のWebサイトのトップメッセージなどで、経営層がDXに関してどう語っているか。その発言がどこに載っているのか、すべて証拠として提出が求められます。
実際に、DX銘柄への申請を考えて弊社にご相談いただくお客さまからも、『そういった情報が全くない』というお話をよくうかがいます。そうなるとまず、経営層を巻き込むところから始める必要があります。DXの重要性を社内で共有し、社外にも発信していく体制を整える事が、準備のスタートラインになると思います」
ソフトバンクとしては、毎年いつ頃から準備を始めているのでしょうか?
「プレスリリースや決算資料などは、事前に読み込んでおきます。正式な募集要項が出るのが11月初旬なので、まずは昨年の設問との違いを読み解くところから始まります。その上で、どんな構成・ストーリーにするのかを検討し、どのトピックを盛り込むかを整理します。この準備に2週間ほどかけてから、各部署への依頼に入るので、依頼のタイミングはだいたい11月下旬頃になります」
依頼先の関係部門と良好な協力体制を築くために、意識されている事がありますか。
「年末の多忙な時期に依頼する事になるので、できるだけ負担がかからないように心がけています。例えば、記載してほしいトピックスを自分たちであらかじめピックアップしておいて、具体的にどんなことを記載してほしいのかを依頼時に伝えたり、翌月に新サービスのリリースを控えているような多忙を極める部門には、公開情報をもとにベースとなる文章をこちらで作成し、依頼先には内容の確認や“プラスアルファ”の要素の追記だけをお願いするようにしています」
情報収集や調整は、何人くらいのチームで動いているのでしょうか。
「基本的に通常業務と並行して、有志で進めています。毎年6〜7名体制で、1人あたり3〜4部門を担当します。
各自が担当部門にヒアリングを行い、回答案を作成。その後、私がチェックをして、日本語表現を整えたり、内容に説得力を持たせるために要素の追加をお願いしています。全体を通して“読みやすく・伝わる形にする”事を重視しています」
一次評価(選択式)への向き合い方
一次評価では選択式の回答が求められますが、社内での解釈や情報整理の進め方について教えてください。
「数年前に新しく加わった設問に『スキルマトリックスを公表していますか?』というものがありました。スキルマトリックスとは、経営陣が保有するスキル(例えば財務・営業・技術などの知識や経験)を一覧化して見せる、いわば“スキルが可視化されたマップ”のようなものです。
当時、社内で調べたところ、ソフトバンクにはスキルマトリックス自体が存在しておらず、当然公開もしていない。つまり評価は“3(未対応)”しか付けられない状況でした。でも、せめて“2(準備中)”で出したいと考えて、人事部門に相談し、『作る方向で検討いただけませんか?』と依頼しました。
調整の結果、“今はまだないが準備中”という扱いで“2”を選択できるようになり、翌年には実際に社外公開されて“1”に評価を引き上げる事ができました」
参考:ソフトバンクのスキルマトリックス(一部抜粋)
※ソフトバンクのスキルマトリックス全体はこちら
二次評価(記述式)で伝えるべき事
記述式は、多くの企業でどう書くか迷われるところかと思いますが、気をつけているポイントはありますか?
「どの評価委員の方もおっしゃっていますが、やはりストーリー性がとても重要です。『あれをしました』『これもやっています』という羅列ではなく、まず会社としての経営戦略を起点に構成していく事が大切だと思います。
例えば『こうしたビジョン・戦略を掲げており、その実現に向けて三カ年計画でこういう戦術を進めています』といった上位概念を示し、その一環として『このような取り組みを行いました』とつなげていく。そして最終的には、企業としての課題解決だけでなく、業界全体や社会全体への貢献にもつながっているという全体のストーリーを描く事が大事です。
DX銘柄で聞かれる内容は、個々のプロジェクトの取り組み以外にも、人材戦略やガバナンス、グループ会社の連携、セキュリティなど非常に幅広いため、それぞれの施策がバラバラに見えないように、会社としてのビジョンや中期経営計画、社長の対外発言などを軸にして一貫性を持たせて書くよう意識しています。逆に言えば、経営ビジョンがDXとつながっていない企業の場合は、そこから見直す必要があるかもしれません」
実際に記述していく中での表現上の工夫はありますか?
「回答作成に協力してもらっている各部門の担当者は、その領域について詳しい人たちなので、専門用語が多くて私たちですら理解しづらいという事が結構あります。自分たちで分からない事は、評価委員の方も分からないだろうと考え、専門用語はできるだけ平易な言葉に言い換えたり、難しい場合は注釈を入れるなど、たとえデジタルに詳しくない方が読んでも分かりやすい日本語にこだわっています。
また、原稿を読んでいる中で『これはどういう意味?』と疑問が浮かんだら、それを放置せず、再度ヒアリングして情報を補います。ほんの少しの違和感を見逃さず、一手間かけて整える事で、読みやすく納得感のある文章になっていきます」
読み手(評価委員)への配慮として、工夫している事はありますか?
「提出は Excel 形式なのですが、別途、質問と回答を Word に貼り付けて、読みやすいようにレイアウトしたPDFも作成して添付しています。内容は同じなので、加点要素にはならないと思いますが、読みやすさは確実に上がりますし、翌年またエントリーするときに、自分たちで振り返る際にも、前年に何を出したかを探しやすいです」
ソフトバンクは過去の結果を次年度にどう生かしているか教えてください。
「DX銘柄に選出されたかどうかに関わらず、DX調査に回答した企業にはフィードバックが行われます。毎年いただく評価委員からのフィードバックは、本当に丁寧に読み込んで書かれていると感じます。内容を見ても、前年の提出内容やリンク先まできちんと確認された上でのコメントだという事がよく伝わってきます。このフィードバックが大変参考になっています。
この中で、注目するべきは“辛口コメント”です。そこに改善のヒントがあります。
DXの取り組みに関して、自分たちではどうしようもできない問題も中にはありますが、あまり踏み込んで書けていなかった事が原因の場合には、翌年はそこを改善するようにしています。
例えばDX銘柄2023のフィードバックでは『新規事業の記述は充実しているが、コア事業である携帯キャリア事業の進展が見られない』というような指摘がありました。たまたま私たちの所属部門が法人部門のため、どうしても法人部門寄りの情報、特に新規事業に偏ってしまっていたのですが、そのコメントで“会社全体”としての記述が不足していたと気付かされました。
翌年は携帯キャリア事業についてもしっかり書き込み、その結果、フィードバックの内容も一転してポジティブなものになりました。過去の反省点をきちんと生かす事が、本当に大事だと思います」
KPIやKGIに関する設問への対応や、社外秘の情報に関してどう書くか悩みどころだと思うのですが、どうされていますか?
「ここは悩まれる方が多いのではないかなと思います。
DX銘柄の事務局から展開される募集要項にも「回答内容は許可なく公表することはない」「情報の取り扱いは厳重に管理し、評価委員会事務局及び評価委員以外の目に触れることはない」と案内されているため、まずその点を社内に共有した上で、可能な限り積極的に情報を記載してもらうようお願いしています。
それでも難しい場合は、例えば『ユーザー数をKPIとしていますが、実数は非公開です』というように、“何を指標としているか”だけでも記載するようにしています。何も書かないと“KPIを設定していない”と誤解されるリスクがあるので、情報の粒度は工夫しています」
DXグランプリに向けての工夫や、力を入れた点があれば教えてください。
「熱意が決め手だったのではないかと思っていますが(笑)、例年から大きく変えたのはストーリー構成です。以前は経営理念・長期ビジョン・成長戦略・サステナビリティ戦略など、複数の枠組みを複合的に使ったストーリーの作り方をしていました。
例えば、サステナビリティ寄りの取り組みには、サステナビリティの戦略『すべてのモノ、情報、心がつながる世の中を』に紐付ける形で回答を書いていたのですが、情報が多すぎて伝わりにくくなるという懸念があり、長期ビジョン『デジタル化社会の発展に不可欠な次世代社会インフラを提供する企業へ』という一つに軸を集約し、その傘のもとに各取り組みを位置付ける構成に変えました。
結果として、ソフトバンクが“何を目指しているのか”が一層伝わりやすくなったと思っています」
ストーリー構成を変えようと思ったきっかけはありましたか。
「連続でDX銘柄に選定されたのは誇らしい事ですが、やはりソフトバンクとしては『DXグランプリを狙いたい』という想いが強くありました。出すトピックの量や質は年々高めてきましたが、さらに一段上を目指すには何を変えるべきか。行き着いたのが“原点回帰”、つまり“ストーリーが重要”というところに立ち返る必要があると感じて、全体像を再構成しました」
全体像を表現する上で、補足資料などは提出されていますか。
「毎年、新たに資料を作るのはなかなか難しいので、既存資料を集めて添付しています。ただ、資料頼みにならないように、あくまで『補助的なもの』という位置付けです。文字だけでもしっかり伝わる構成や書き方にこだわり、必要に応じて“見ていただければ理解が深まる”資料を添えるようにしています」
DX銘柄選定による対外的な反響と波及効果
DX銘柄に選定された後の社内外への展開、そしてそこから得られた効果について教えてください。
「ソフトバンクの場合、やや特殊かもしれませんが、DX銘柄への選定がきっかけでお客さまから新たな提案依頼をいただいた事があります。また、営業の現場からは『提案時の説得力が増して助かっている』『お客さまからの信頼度向上にもつながっている』というフィードバックも受けています。
意外に多いのが採用面接で『学生からDX銘柄に関して聞かれました』といった声も。学生からの注目度も高いんだなと実感しています。
営業活動・企業ブランディング・採用活動と、いろいろな場面でポジティブな影響が出てきています」
おわりに:応募で悩んでいる企業へのメッセージ
今、応募について悩んでいる企業の方にメッセージをお願いします。
「DXの取り組み自体、着手したばかりや道半ばという場合は、担当者だけで悩まず、できるだけ経営層を巻き込むのが良いと思います。
特に重要なのは、経営層がどれだけDXにコミットしているか、その姿勢を社内外にどう発信しているか。こうした点を問う設問が多く、現場だけで完結するには限界があります。
『DX銘柄を目指すには、当社としてこのような準備が必要です』と経営層に共有し、理解と協力を得るところから始めるのが良いと思います。
始めはDX銘柄に選定される事が目的になりがちなのですが、いざ準備を進めていくと『現状ではここが不足している』といった課題が見えてきます。そこを改善していくことが、企業のDXレベルを引き上げる事につながります。仮に選定されなかったとしても、DX銘柄へのチャレンジをきっかけに社内の意識や体制が変わっていく事の方が、企業にとっての大きな成果、本質的な価値になるのではないでしょうか。DX銘柄の結果だけを成果とするると良いんじゃないかなと思います」
AIによる記事まとめ
ソフトバンク丹羽は、DX銘柄挑戦のコツとして、経営層の巻き込みや事前のエビデンス収集、年末の多忙期を見越した依頼工夫を挙げる。一次評価は満点を狙い解釈差を調整、二次評価は経営戦略を軸にストーリー性を持たせる。結果よりも挑戦過程での課題発見と改善がDX推進の真価だと強調する。
※上記まとめは生成AIで作成したものです。誤りや不正確さが含まれる可能性があります。
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