出店戦略にデータの裏付けを生かす~勘や経験にひそむ3つのリスク~

2025年7月10日掲載

出店戦略にデータの裏付けを生かす~勘や経験にひそむ3つのリスク~

小売業における店舗の出店戦略は、事業成長の要でありながら、常に大きなリスクと隣り合わせです。近年の物価高騰、初期投資の増大、そして予測困難な市場の変化。これまでの「勘」や「経験」に頼った出店はもはや通用しません。本記事では、小売・飲食業界の出店戦略に潜む主なリスクを深掘りし、それらを乗り越えるためのデータに基づいたアプローチをご紹介します。

目次

小売・飲食業界における出店戦略のシビア化

近年、小売・飲食業界を取り巻く環境は、かつてないほど厳しさを増しています。特に顕著なのが、物価高騰による店舗建設費や土地代の上昇です。建材費や施工費、人件費の高騰に加え、立地確保にかかるコストも年々増加しており、出店にかかる初期投資の負担は増す一方です。国土交通省の令和6年都道府県地価調査によれば、全国の地価は全用途平均で3年連続上昇し、特に三大都市圏ではその上昇幅が拡大しています。

参考)令和6年 都道府県地価調査(国土交通省)

特に飲食店では回転率やメニュー単価を大きく変えにくいという業態特性から、このような状況下で売り上げを伸ばすためには店舗数の拡大が実質的な選択肢とされてきました。また、多くの小売業においても、限られた商圏需要の中で収益を確保するには、出店の巧拙が経営の成否を大きく左右するようになっており、前述のようなコストの高騰や市場の不確実性と相まって、出店判断にはこれまで以上に高いハードルが課されています。

かつては「ダメなら撤退すれば良い」という柔軟な出店戦略も成立していましたが、現在ではその失敗が経営全体に与える影響を軽視できなくなっています。 特にインバウンド需要やトレンドの変化が急激かつ予測しづらくなっている中、それらに依存した出店では、現場での対応が追いつかず、大きなリスクにつながります。

こうした環境のもと、経営層からは「出店の確かな根拠」や「納得できる投資判断材料」がこれまで以上に求められています。 しかし、既存店舗との顧客の奪い合いを避けつつ収益性の高い立地を見極めるには、これまでの「勘」や「経験」だけでは限界があり、データに基づいた客観的な判断が不可欠です。

小売・飲食業界の出店戦略に潜む主なリスク

1.出店までのリードタイムの長期化によるリスク

出店戦略において、立地選定は極めて重要です。しかし現在、売り上げが見込める好立地や競合が少ないエリアの多くはすでに埋まっており、空きが出ても即決できるとは限りません。出店可否の判断には、さまざまな情報を集めて評価する必要があり、そのプロセスが長引く事で、他社に先を越されるリスクが高まります。

この判断をさらに難しくしている一つの要因が、社内に点在する情報のサイロ化です。売上予測は店舗開発部、顧客データはマーケティング部、戦略情報は経営企画部といった具合に、必要な情報がバラバラに管理され、部門間の連携が取りにくい状態が顕在化しています。加えて、売上予測の精度が低かったり、評価基準が統一されていなかったりする事で、意思決定に時間がかかるケースも少なくありません。

こうした課題に対して、最近では「人流データ」や「地理情報システム(以下、GIS)」の活用が注目されています。人の動きや属性を地図上で視覚的に捉え、出店候補地を客観的に評価する事で、判断のスピードと精度を大きく向上させる事ができます。結果として、機会損失の回避やリードタイムの短縮につながります

2.不採算店舗の出店によるリスク

出店にかかる莫大なコストは、売り上げが小さい店舗では回収が困難となり、不採算店舗化するリスクをはらんでいます。さらに、深刻化する人手不足の状況下で、不採算店舗に人的資本を投入する事は、企業の成長を阻害する要因にもなりかねません。

実際に、大手小売企業の中には、不採算店舗の撤退に年間数十億円規模の特別損失を計上する事例も見られます。撤退費用もまた、出店時と同様に大きな負担となるのです。このような事態を避けるためには、出店前の段階で、より精緻な収益予測とリスク評価が不可欠です。人流データやGISを活用した多角的な分析は、出店後の売上ポテンシャルをより正確に予測し、不採算店舗となるリスクを未然に防ぐ上で有効な手段となります。人流データからは「顧客が集まりやすい場所」だけでなく、「店舗に合ったビジネスモデル」に合致する立地を見極める上で重要な情報を取得する事ができます。

※売り上げよりも費用の方が多く利益が出ていない店舗

3.システム難解さによるリスク

出店戦略をデータに基づいて進める上で、システムの使いづらさも大きな障壁となっています。多くの売上予測ツールやGISは、専門的な知識を前提とした玄人向けの設計になっており、操作に習熟するまでに時間がかかります。その結果、導入しても現場で十分に活用されない「使いこなせないリスク」が顕在化しています。

売上予測に用いられる 「ハフモデル」(Huff Model:店舗の魅力度や距離などをもとに、顧客がどの店舗を選ぶかを確率的に推定するモデル)というものがありますが、一定の条件下では有効ですが、すべての業態や立地条件に適用できるわけではなく、精度にばらつきが出るケースもあります。システムやモデルがどれほど高機能でも、現場での判断や日常業務にうまく結びつかなければ、実質的に活用されないという課題もあります。こうした背景から近年では、誰でも直感的に操作できる、分かりやすさを重視したツールが求められています。画面の見やすさや操作のしやすさが「データ活用の実現」に直結するとも言えます。

持続的な成長に向けた出店戦略とは

小売・飲食業界の出店戦略は今、物価高騰、リードタイムの長期化、不採算店舗のリスク、そしてシステムの使いにくさといった複数の課題に直面しています。 しかしこれらは適切なデータ活用と組織的な連携によって、十分に乗り越える事ができます。人流データやGISなどのテクノロジーを活用し、社内に分散する情報を統合する事で、立地の精度ある評価や売上予測が可能になります。

勘や経験に依存せず、データに裏付けられた出店判断を行う事で、事業の再現性と成長性を高める事ができるのです。持続的な出店戦略の実現に向けて、今こそ出店プロセス全体を見直してみてはいかがでしょうか。 ご興味・ご相談がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。

本記事の執筆者紹介

ソフトバンク 青木霞穏

法人統括 法人事業戦略本部 法人事業戦略統括部 事業戦略2部 事業戦略2課
青木 霞穏

2021年ソフトバンクに入社し、法人マーケティング本部へ配属。2023年に法人事業事業&戦略本部へ異動し人流ビッグデータ事業を推進、当事業のプロモーション領域を主管。現在は人流ビッグデータ事業の推進を行うとともに、小売業界の業界戦略の策定および顧客支援に従事。

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