数千兆のAI agentsが常時稼働する世界へ。孫正義 特別講演レポート

2025年7月17日掲載

数千兆のAI agentsが常時稼働する世界へ。孫正義 特別講演レポート

ソフトバンク最大規模の法人向けイベント「SoftBank World 2025」が、7月16日に開催されました(今年の臨場開催は招待制)。今年は「AX、到来。ーテクノロジーの結集で、ビジネスが加速するー」をテーマに、講演やセッションが行われました。

ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役 会長兼社長執行役員、ソフトバンク株式会社 創業者 取締役 孫正義の特別講演では、前半にOpenAIのCEO & Co-founder Sam Altmanとのディスカッション、後半にプレゼンテーションが行われました。
この記事では、後半のプレゼンテーション内容をレポートします。

目次

グループ全体で10億 AI agentsを作る

SoftBank World 2025 孫正義 講演の様子

孫は「今年2月にクリスタル・インテリジェンス(Cristal intelligence)を発表しました。これは着々と進展しています」と述べました。

「ソフトバンクグループ全体でAI agentsの作成に取り組んでおり、10億 AI agentsを作って活用していきたいと考えています。


例えば、我々の技術部門では、日本中に数十万のネットワーク機器を保有しています。今まではモニターで検知した後、人間が状況を判断し、どこを止めようとか復旧させようとか、どこをつなげようなどとキーボードを叩いて指示をするという状況でした。AI agentsを使えば、これらを常時モニターして自らの判断で行動を起こします。数十万のネットワーク機器に対して、エージェントがそれぞれ個別に判断をし、アクションをとるというわけです。
ほかにも、人事では全社員のすべての成果をそれぞれのエージェントがチェックしますし、財務は財務、営業は営業で、エージェントがあらゆることを個別にモニターし、自ら判断しながらアクションを起こし、エージェント同士がコミュニケーションを図って、さまざまなアクティビティを行っていきます。
ソフトバンクは大変ラッキーなことに、そのAIの最先端を担うOpenAIと広く深く提携をすることができています」

スターゲートの法則は1サイクルで1,000倍の進化を遂げる

今年1月に発表したStargate Projectもその一環であると孫は語り、「このプロジェクトでは巨大なデータセンターの中に数多くの最先端の半導体が入り、圧倒的な規模でスケールアップとスケールアウトを行うことで、AIの演算能力を高められる」と述べました。

スターゲートの法則

「50年ほど前に、インテルの創業者であるゴードン・ムーア氏が、大体18カ月ごとにコンピュータの演算能力は2倍になると予測しました(ムーアの法則)。歴史を振り返ってみると、ほぼそれが当たっていました。18カ月で倍、3回続くと倍の倍ですから8倍になるわけです。
しかし、スターゲートは2倍ではないんです。1回のサイクルでチップの数が約10倍に増え、チップ1つ当たりの演算能力もだいたい10倍になる。さらに、モデルの性能も10倍になるわけです。10×10×10ですから、1回のサイクルでおよそ1,000倍能力がアップするということです。2回目のサイクルでは1,000×1,000なので100万倍になり、3回目のサイクルでは100万×1,000ですから、10億倍になるということです」

孫は「自転車と新幹線のスピードの差は20倍ほどに過ぎないが、まったく別の乗り物で、見える景色も違う」と説明し、10億倍の世界では、我々の想像を超える変化となり、常識そのものが変わるだろうと述べました。

10億倍の世界

「AIの限界が見えたという人がいますが、『AIの限界が見えたのではなくて、あなたの理解の限界を超えた』と僕は言いたいですね。つまり、10億倍の世界を想像するというのは、それくらい難しいことなんです。
以前、人間と金魚の脳細胞(ニューロン、シナプス)の数には大体1万倍の差があると言いました。10億倍はそれとは比べ物にならないくらいものすごい差です。それが我々が生きてる間、たった数年でやってくるんです。そのような世界は、もはやAGIは絶対に超えてるはずだと私は思います」

孫は、AIの最先端のモデルは、物理や数学、化学や医学、法学などあらゆる分野で博士号の試験に合格するレベルまですでに来ていて、そこからさらに10億倍の進化を遂げるだろうと述べました。

若い世代は検索ではなく、How/WhyとしてAIを使う

「今の40~50代以上の人々はChatGPTを『〇〇を教えて』『〇〇は何ですか?』のように検索機能として使っている一方、若い人の使い方は異なる」と孫は続けます。

「若い世代は、How、Whyというように、ChatGPTに提案してもらうような使い方をします。私も毎日使ってますけども、大半の使い方は『〇〇を考えたいけど、君はどう思う? 提案してほしい』と、お互いに壁打ちしています。つまり提案合戦、思考のバウンシングですね」

また、「これからの時代では、AI agentsが単に提案するだけではなく交渉や手続きなど実際にアクションをしてくれるようになり、人が寝ている間もエージェント同士がやり取りをする」と述べました。

10億 AI agents達成に向けた3つのポイント

孫は、ソフトバンクグループ全体で10億 AI agentsを達成するには3つのポイントがあると続けました。

「10億ものAI agentsを作るのは簡単ではないです。そこで3つの段階で達成しようと考えています。
一つは、エージェントOSです。エージェントが1,000個あってもバラバラに動いたら仕事にならないので、オーケストレート(編成)して共存・協調するという形にしないといけなくなります。ですから、エージェント同士を連鎖させるOSが必要になるということです。
もう一つは、エージェントをたくさん作るための道具立てが必要になります」

SoftBank World 2025 孫正義 講演の様子

そして三つ目は、エージェント自らがエージェントを作ることだと述べました。

「エージェントが子のエージェントを作り、子のエージェントが孫エージェントを作る。しかも自動生成するわけです。社員が会議や電話、メールをしている状態をマルチモーダルでエージェントが認識しながら、社員が今、どんなゴールを目指しているのかを考えます。

例えば、何かのプロジェクトを推進する際にガントチャートを使うとします。スケジュールとゴールがそれぞれ細かく示されていて、進捗状況をチェックできます。そのガントチャートでは、自分だけではなく、プロジェクトチーム全体の進捗をチェックするのですが、問題がいっぱい出てくるたびにそれを解決しなければならない。
そこで、そうした問題を解決をするためにエージェントを強化学習していくわけです。エージェントの最先端の使い方はこの強化学習にあります。エージェントが自らを進化させて、自らそのゴールに向かって思考体系を変えていくようにするのです。その際、鍵になるのはエージェントに対して報酬を与えることです。
強化学習の基本的な考え方はゴールを明確化することに加えて、報酬体系を明確化することですが、その報酬自体もエージェントが自ら獲得するようにするのです。つまり、エージェントが自己増殖と自己進化をやっていくということです。

これを全部門に今、広げようとしています。エージェント同士がどう作用するか、どう仕事を進化させるかということを楽しみにしてます」

1人1,000 AI agents を持つ時代へ

「常時ON」で生涯記憶、思考の連鎖

「日本では世界に比べてAIの活用が遅れているという調査もある」と孫は述べました。しかしこれからは生成AIを「常時ON(使い続ける)」にし、生涯記憶を持って使う世界が待っていると続けました。

「皆さん、1日に生成AIを何回使ってますか? おそらく、20回以上使っている人は少ないと思いますが、これからは『常時ON』の世界になります。聞いたときにだけAIが答えるのではなくて、マルチモーダルAIが常に一緒に参加し、生活して、学んでいく。しかも生涯記憶になるのです。今まで交渉したこと、会議したこと、会話をしたことを全部AIが覚えています。

また、強化学習するエージェントは報酬を与えることでどんどん勝手に進化します。思考の連鎖です。今までの三段論法では、ほぼ当てられても完全ではないですね。しかし、思考の連鎖(Chain of Thought)が100段階くらいになると、ほぼパーフェクトに外れない。だからこれは検索ではなく、思考の知恵なんです」

思考の連鎖

「しかもそのエージェントが自己増殖し、子や孫エージェントが自動的にエージェントを生成していく。この自己増殖と自己進化、2つのメカニズムを、我々ソフトバンクグループは、クリスタル・インテリジェンスとして世界で初めて実現しようとしている。社内では10億エージェントを自己増殖、自己進化させて作っていく。そのためのエージェントOSとエージェントの自己増殖の仕組みを今、開発しています」

グループ総力でAI agents を徹底活用

AI agentsは人間の品質を超えていく

続いて孫は、実際にAI agentsを使うとどのように変わるのか、コールセンターでの活用事例を動画で解説しました。

「今までもコールセンターで、応対を機械的なテープのようなものに置き換えたものがありました。しかし人間のオペレーターより劣っていて、品質は改悪するわけです。ところが、AI agentsを使ったコールセンターでは、人間のオペレーターよりも、素早く、深く、細やかにアクションを起こしてくれて、しかも相手が話している内容を全部理解できる。もはやスーパーヒューマンです。新しいキャンペーンなどのリアルタイムの状況なども全部把握した上で応対できる。今回は開発中のデモ動画を見ていただきましたが、近いうちにあらゆるコールセンターで人間が応対するのはおかしいという時代がやってくると思います」

また、後半ではYahoo!ショッピングのやりとりをAI agentsに置き換えるとどうなるかという解説も行いました。

SoftBank World 2025 孫正義 講演の様子

「買い物をする際、今までは商品のカタログを集めたりいろいろなWebサイトを訪問したり、価格の比較も人間がすべてやらなければなりませんでした。AI agentsを利用すれば、自分の好みや購買履歴を照らし合わせながら、AIがどんどんあなたに合った提案をしてくれる。エージェントはあなた専用エージェントなので、あなたの残高だとか好みだとか購買履歴とかに基づいて提案をしてくれる。なんなら購買のアクションまでやってくれるということです」

数千兆のAI agentsが常時稼働する世界へ

「これからは、ソフトバンクグループの社内だけでなく、いろいろな企業の中でそれぞれ何億・何千万ものAI agentsが作られ、使われるようになってくる。ありとあらゆるシーンで使われるようになると、何千兆など考えられないほどの数のAI agentsが作業をするようになる世界が来る」と孫は続けました。

SoftBank World 2025 孫正義 講演の様子

「工場でも銀行でもお店でも、会社の中でも家庭の中でも学校でも、ありとあらゆるところでさまざまなAI agentsが仕事をするようになって、我々と一緒に働くようになる。我々のパートナーや相談相手として、友達として、仲間として一緒に参加し、仕事や生活をする。

私自身が参加している会議では、AIが会議の内容をどんどん収集し始めています。AIに『あのときの会議の話題は何だったか』と聞くと、数カ月前に会話した内容が生涯記憶として残っていて、リアルタイムのニュースとマッチングさせながら答えてくれる。そうすると、もうAIはなくてはならない存在です。

こうした進化を真正面から捉えて、進化に食らいついて、進化を自ら取りに行こうと参加する。それが僕は今の日本に一番必要なことだと思いますし、各企業の皆さんは、自らの会社でそういう文化を作ることがとても大切なのではないかと思います。そのための道具は世の中にたくさん生まれてきていて、我々もいっぱい提供したいと思っています。しかし、その道具がいくらあっても、自ら進化を否定する会社あるいは人間は、自らの未来を制限することになるのではないかと思います。我々はそういう議論の場、そういう機会も提供していきたいと思います」

講演の内容をYouTubeで配信中

レポートではお伝えしきれなかった講演の様子を動画でご覧いただけます。ぜひご視聴ください。

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