アリババ流DX「数字中台(デジタルミドルオフィスプラットフォーム)」
2020年7月27日掲載
2018~2019年頃の中国では「数字中台(デジタルミドルオフィスプラットフォーム)」という言葉が話題となりました。それ以来、デジタルミドルオフィスプラットフォームは、中国デジタルトランスフォーメーションのアプローチの一つとして考えられています。今回は「デジタルミドルオフィスプラットフォーム」について解説します。
数字中台(デジタルミドルオフィスプラットフォーム)とは
2014年にアリババグループではデータテクノロジー(DT、Data Technology)のコンセプトを提唱し、「すべてのデータを業務化する」という理念を全面に打ち出しました。
また2015年にジャック・マー氏がフィンランドのゲームメーカー「Supercell」を訪問した際に、小規模ゲーム開発チームが強力な共有型データプラットフォームをもとに、次々と世界的ヒットタイトルを作り出していたことが判明。それが契機となり、アリババグループはビジネス環境の変化に速やかに対応できる管理構造「Big Middle Office & Small Front Office」への移行を決定しました。
Big Middle Office & Small Front Officeのイメージ
さて、改めて「デジタルミドルオフィスプラットフォーム」とは一体何なのでしょうか。アリババグループのミドルウェア事業を担当するAliwareチームでは、
- 企業の中核能力をデジタル化方式でシェアリングと再利用を図り、サービスとして提供するプラットフォームのこと。
- 目的は、効率的なエクスプラレイション(探査)とイノベーション(技術革新)を実現し、デジタルアセットをベースとした企業の中核となる強みを構築すること。
- 構成は、「ビジネスミドルオフィスプラットフォーム」と「データミドルオフィスプラットフォーム」の両方を含むこと。
と定義しています。
デジタルミドルオフィスプラットフォームの考え方
デジタルミドルオフィスプラットフォームは、「ミドルオフィス」の名の通り、フロントオフィスとバックオフィスの間に位置しています。一般的にミドルオフィスは、ビジネスミドルオフィスプラットフォームとデータミドルオフィスプラットフォームで構成されています。
アリババが考えた一般的なデータテクノロジーシステムの構成は、フロントオフィス・ミドルオフィス・バックオフィスと明確に分けられています。
アリババ自社の場合、ビジネスミドルオフィスプラットフォームではすべての業務活動を記録します。対してデータミドルオフィスプラットフォームでは、すべてのデータを業務化するのを目的としています。
共通化・共有化・再利用化できるものをどんどんミドルオフィスに集約すれば、「Big Middle Office」の実現に近づきます。この「Big Middle Office」をベースに、個別製品は「Small Front Office」で個性を伸ばすことに注力できます。
アリババグループのミドルオフィスプラットフォーム
デジタルミドルオフィスプラットフォームの例
ここまでは、デジタルミドルオフィスプラットフォームの考え方や位置付けなどを見てきました。続けて、デジタルミドルオフィスプラットフォームのイメージを見てみましょう。
ビジネスミドルオフィスプラットフォームは、ビジネスにおける共通型業務機能を集約し、個別のフロントビジネスにシェアリングする仕組みです。新しいフロントビジネスは、シェアードサービスをそのまま利用することにより、開発の重複を徹底的に排除し、コストも大幅に削減することができます。
たとえば、電子商取引領域でよく利用される会員センター、商品センター、店舗センター、取引センター、決済センター、マーケティングセンター、オーダーセンターなどがこれに該当します。
電子商取引のビジネスミドルオフィスプラットフォーム
データミドルオフィスプラットフォームは、データにフォーカスすることでデータの収集・処理・可視化・知能化を実現し、業務領域にデータを提供します。
電子商取引の場合は、たとえば消費者プロフィールデータ・店舗運営データ・商品データ・マーケティングデータなどを分析して業務に提供することで、業務の改善に役立つと考えています。
データの収集から利活用までの機能も備えられているのです。
電子商取引のデータミドルオフィスプラットフォーム
キープレイヤーのソリューションについて
アリババが2015年に「Big Middle Office & Small Front Office」戦略を発表した後、大きな反響を呼びました。デジタルミドルオフィスプラットフォームの概念が浸透することに伴い、これをキーワードにした会社・製品・ソリューションが次々と誕生しているのです。
2018~2019年頃には、デジタルミドルオフィスプラットフォームがホットワードとなり、2019年は「デジタルミドルオフィスプラットフォーム元年」と呼ばれるようになりました。
デジタルミドルオフィスプラットフォームを中核事業としているトップクラスの会社は、アリババのほか、大きくアリババ系元社員が設立した会社、それ以外に分けられます。
たとえば「数瀾科技(ディーティーウェーブ/DTWave)」「袋鼠雲(ディーティースタック/DTStack)」「奇点雲(スタートディーティー/StartDT)」はアリババ元社員が起業したベンチャーであり、アリババとの繋がりが強いです。
それ以外の会社では、インターネットビジネスに強い「網易(ネットイース/NetEasy)」・マーケティングインテリジェンスに強い「明略科技(マイニングランプ/MiningLamp)」・デジタルマーケティングに強い「雲徙科技(ユンシー/Yunxi)」などが挙げられます。
どちらでも基本的にアリババが提唱した「デジタルミドルオフィスプラットフォーム」のコンセプトを踏襲しており、「アリババ流DX」と言えます。ユンシーを例にしてみましょう。
ユンシーは、2016年に設立され、「インテリジェントビジネスを駆動するミドルオフィスプラットフォームプロバイダー」として、ビジネスミドルオフィスプラットフォームとデータミドルオフィスプラットフォームの両方を含めた以下のプロダクトポートフォリオに取り組んでいます。
ユンシーのプロダクトポートフォリオ
上記のうち、ユンシーは、エンタープライズクラスの業務機能を共有するビジネスミドルオフィスプラットフォーム(i-DE Biz)の能力マップを公開しており、デジタルアプリケーションの迅速な構築と、持続的なインテグレーションをサポートします。
ユンシーの「ビジネスミドルオフィスプラットフォーム(i-DE Biz)」の能力マップ
データミドルオフィスプラットフォーム(i-DE Data)は、データ研究開発マネジメントやデータアセットオペレーション、及びその利活用(コマース、マーケティング、サービスなど)において、それぞれの機能を集約しています。
ユンシーの「データミドルオフィスプラットフォーム(i-DE Data)」
デジタルミドルオフィスプラットフォームをベースに、そのほかのサービスも徐々に展開する形で、デジタルトランスフォーメーションのプロダクトポートフォリオが形成されています。
最近も、ニューリテール(New Retail)・ニューチャネル(New Channel)・ニューダイレクトセリング(New Direct Selling)・ニューリアルエステート( New Real Estate )・ニューオートモービル(New Automobile)などの分野に向け、Alibaba Cloudと組み合わせてクライアントにトータルソリューションとして提供する動きが加速しています。
世の中では今も新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、ビジネスシーンでの非接触化が求められています。日々変化するビジネス環境にいかに迅速に対応できるかは、会社の存続に関わる極めて重要なファクターです。
デジタルミドルオフィスプラットフォームは、お客様との接点としてのフロントを「よりアジャイル、より迅速へ」と実現するアプローチとして今後も進化していくことでしょう。今後もその動きには、注目した方がよさそうです。