GHG排出量とは? 今、企業が取り組むべき理由と基礎知識を解説

2025年1月17日更新

2024年6月18日掲載

GHG排出量とは? 今、企業が取り組むべき理由と基礎知識を解説

気候変動をもたらす原因として世界的な問題になっている温室効果ガス(GHG)。いまやGHG排出量の削減への取り組みは、企業評価や価値を高めることに繋がるとして、非常に重要視されています。
本記事では「GHG排出量」の概要や算定方法、具体的な取り組み方を解説します。

目次

本記事を執筆いただいた方のご紹介

ゼロボード総研 所長 グローバル・サステナビリティ基準審議会(GSSB)理事 待場 智雄 氏

待場 智雄(まちば ともお) 氏

ゼロボード総研 所長
グローバル・サステナビリティ基準審議会(GSSB)理事

朝日新聞記者を経て、国際的に企業・政府のサステナビリティ戦略対応支援に携わる。GRI国際事務局でガイドライン改訂等に携わり、OECD科学技術産業局でエコイノベーション政策研究をリード。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)で世界各地の再エネ技術データのナリッジマネジメント担当、UAE連邦政府でグリーン経済、気候変動対応の戦略・政策づくりを行う。国連気候技術センター・ネットワーク(CTCN)副所長として途上国への技術移転支援を担い、2021年に帰国。外資系コンサルのERMにて脱炭素・ESG担当パートナーを務め、2023年8月よりゼロボード総研所長に就任。2024年1月よりグローバル・サステナビリティ基準審議会(GSSB)理事を務める。上智大学文学部新聞学科卒、英サセックス大学国際開発学研究所修士取得。

GHGとは?

GHGはGreenhouse gasの略で、温室効果を引き起こす気体(ガス)のことを指します。温室効果ガスは、地球の表面から放射される熱を吸収し、再放射することによって地球の温度を保つ役割を果たしています。しかし、これらのガスが過剰に存在すると、地球温暖化の主な原因となります。

GHG排出量とは?CO2排出量との違いは?

GHGには、主に二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、代替フロン類(HFCs、PFCs、SF6、NF3)などのガスが含まれます。これらのガスは、地球の温暖化を促進し、気候変動の主因となります。GHG排出量は通常、CO2の量に換算(CO2-e)され、それを合計して表記されます。

世界のGHG排出量と温暖化のトレンド

国連環境計画(UNEP)によると、2022年時点における世界のGHG排出量は年間約574億トンと過去最高値を記録、コロナ禍で一段落した後に再び増え始めています。これにより、世界気象機関(WMO)によれば、大気のCO2濃度は産業革命前の水準の約1.5倍に達しています。

EUの気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は2024年3月の時点で、地球の平均気温が産業革命前から1.27℃上昇したと分析しており、今の傾向が続けば2033年7月には1.5℃に達するとしています。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書は、経済発展に伴う化石燃料やエネルギーの使用増加、人口増加、森林破壊など、人間活動が主にGHGの排出を通して地球温暖化を引き起こしてきたことには「疑う余地がない」と結論付けています。気候変動はすでに自然と人類に対し広範な悪影響、関連する被害と損失をもたらしており、今後ますます深刻度が高まっていくとされています。

コペルニクス気候変動サービス

出典:コペルニクス気候変動サービス(2024年4月現在)

GHGの中でもCO2排出量を削減することが重要

CO2は化石燃料の燃焼や森林破壊などで大気中に排出されます。日本の総GHG排出量に占めるCO2の割合は90%を超え、これが気候変動問題の中心的課題となっています。そのため、CO2排出削減が極めて重要です。

CO2の主な排出源は以下の通りです:

産業部門: 製造業やエネルギー供給業からの排出が大きな割合を占めます。特に鉄鋼業、化学工業、セメント製造業などが主要な排出源です。

運輸部門: 自動車や航空機などの交通手段からの排出です。鉄道や船舶も含まれます。(国境を超える運輸は国ごとの排出には勘定されず、国際的な枠組みで対応しています)

家庭部門: 家庭で消費される電力やガス、暖房用の燃料などが該当します。

商業・公務部門: 企業のオフィスビルや商業施設、公的機関の建物などからの排出です。

これらの部門ごとに適切な対策を講じることで、CO2排出量の大幅な削減が期待されます。具体的な方法としては、燃料の転換(石炭から天然ガスへ、さらには再生可能エネルギーの導入)、省エネ技術の導入、資源消費の削減・効率化、植林や森林再生によるCO2吸収量の増加などが推奨されています。
企業や自治体が主体的に取り組むことが重要です。持続可能な未来を目指すために、市民・消費者も含め全員が一丸となって排出削減に取り組むことが求められます。

世界におけるGHG削減目標

気候変動の解決のため、2015年にパリ協定が採択され、世界共通の長期目標として、「2℃目標」などに合意しました。これは、世界的な平均気温上昇を産業革命前に比べて2℃より十分に低く保つことを指します。2021年のCOP26では、1.5℃が事実上の共通目標に強化されました。この実現に向け、これまでに日本を含む120以上の国と地域が2050年までのカーボンニュートラル達成という目標を掲げています。

日本におけるGHG削減目標

日本政府も2020年10月、2050年までにGHGの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。これは、日本が気候変動対策において、国をあげてリーダーシップを発揮する意思表示ともいえます。中間目標として、2030年度において、2013年度比で46%削減を目指すこと、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けることも表明しています。

「排出を全体としてゼロ」というのは、CO2をはじめとするGHGの「排出量」から、植林、森林管理などによる「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味しています。カーボンニュートラル達成のためには、GHG排出量の削減と吸収作用の保全・強化をする必要があります。

日本におけるGHG排出量の傾向

2022年度の日本全体のGHG排出・吸収量は、約10億8,500万トン(CO2換算、以下同様)で、前年度から2.3%減、基準年の2013年度比では22.9%の減少となりました。減少の主な要因は各部門での節電や省エネ努力などの効果が大きく、全体としてエネルギー消費量が減少したことが考えられます。

一方で、2022年度の森林などからの吸収量は約5,020万トンで、前年度比6.4%の減少となっています。これは、人工林の高齢化による成長の鈍化などが主な要因と考えられます。

部門別の排出量を見ると、産業部門が約3億5200万トン(全CO2排出量の34%)、運輸部門が約1億9200万トン(19%)、業務その他部門(商業・サービス・事業所など)が約1億7900万トン(17%)、家庭部門が約1億5800万トン(15%)などとなっています。

企業もGHG排出削減努力が求められる

企業活動に関わるGHG排出が全体量の大半を占めるため、地球温暖化を回避するには、規模を問わずすべての企業に排出量の削減が求められています。大手を中心に、政府にならってカーボンニュートラルを目指す企業が増えています。1,000社以上の日本企業がパリ協定が求める水準と科学的に整合したGHG削減目標であるSBT(Science Based Targets)認定を取得、事業で使用するエネルギーを100%の再生可能エネルギーで調達する目標を宣言するRE100には86社(2024年6月現在)が加盟するなど、具体的な取り組みへのコミットメントを表明しています。

組織におけるGHG排出量の算定

企業や組織が気候変動対策を実施する際、自社をめぐるGHG排出量を算定することが最初の一歩となります。GHG排出量の算定には、特定のガイドラインに準拠することが求められるほか、その算定には詳細なデータ収集および分析が必要となります。一般的には、ISO 14064やGHGプロトコルなどの国際基準を利用し、排出源ごとのデータを精密に計測することが求められます。また、算定結果の信頼性を高めるためには、第三者機関による検証や専門的な算定サービスの活用も検討するとよいでしょう。

これにより、企業や組織は自らの排出量を正しく把握し、その後の適切な削減目標の設定や削減目標を具体的かつ継続的に行っていくことが可能となります。

GHG排出量算定の基本

GHG排出量を正確に算定するためには、企業は計画的かつ体系的な手順を踏むことが求められます。まず、排出源の特定を行います。これは企業活動のどの部分がGHGを排出しているかを明確にする作業です。次に、活動量データの収集です。ここでは燃料消費量や電力使用量、原材料の使用量、製品の生産、輸送、販売、廃棄など具体的な数値データを集めます。収集したデータに各々の排出係数(単位当たりの排出量)を掛け合わせ、それを合計してGHG排出量を算定します。

GHG排出量算定の範囲

企業や組織によっては自社のオフィスや工場での直接のGHG排出量は比較的少ない一方で、原材料や部品の製造、もしくは流通や使用、廃棄の段階でより多くGHGを排出するケースも少なくありません。このため、自社だけでなくバリューチェーン全体でのGHG排出量を把握し、削減に取り組むことが次第に求められています。

バリューチェーン全体を考えるにあたり、GHGプロトコルが定義するScope 1(直接排出)、Scope 2(エネルギー調達に伴う間接排出)、Scope 3(その他の間接排出)の算定範囲を理解し、それぞれの排出量に応じて具体的な対応策を組み立てることがカギとなります。

Scope 1:自社が直接排出するGHG

Scope 1は、自社が所有または管理する施設や車両から直接排出されるGHGを指します。具体的には、施設のボイラーや自社所有の車両からの燃料燃焼、化学反応、廃棄物の処理などによる排出が含まれます。これは、企業や組織が自ら管理できる範囲での排出量であり、排出削減のための最重要な対象です。

Scope 2:自社が間接的に排出するGHG

Scope 2とは、企業や組織が間接的に排出するGHGを指します。具体的には、購入した電力、熱、蒸気の使用に伴う排出が含まれます。これらのエネルギーはほかの企業や施設で生成され使用者に供給されますが(つまり、エネルギー製造者にとってのScope 1)、その生成過程での排出量は使用者のScope 2としても計算されます。

Scope 3:自社の活動に関連した他社のGHG

Scope 3は、自社のバリューチェーン全体で発生するGHGの間接排出を指します。これは、生産から廃棄までのライフサイクル全体の排出を含み、最も広範な算定範囲となります。

まとめると、Scope 1~3は以下の内訳になります。

SBT等の達成に向けたGHG排出削減計画策定ガイドブック

企業が取るべきGHG削減方法

企業や組織がGHG排出削減を目指すためには、いくつかの具体的な方法があります。まず、エネルギー消費の最適化や再エネの導入などが考えられます。次に、サプライチェーン全体でのGHG排出量の管理が求められます。これには取引先企業との連携を強化し、共通の環境目標を設定することが重要です。

国際標準に基づいた報告手順を遵守し、サプライチェーンの各段階でのGHG排出量を詳細に把握し、データ収集と分析の一貫性を保つことで、効果的な削減戦略の策定が可能となります。また、透明性を確保することで、取引先企業や投資家、ステークホルダーへの信頼性を高めることにもつながります。

具体的な削減方法と事例

GHG排出量の削減には、多角的なアプローチが必要です。主な方法を以下に紹介します。

エネルギー効率の向上:

エネルギーを効率的に使用することで、GHG排出量を効果的に削減できます。例えば、工場設備を最新の省エネ機器に更新し、オフィスの照明をLEDに切り替える施策などが考えられます。

再エネ・クリーンエネルギーの導入:

再エネの活用や、燃焼してもCO2を排出しない「クリーンエネルギー」の活用も注目されています。風力発電や太陽光発電のほか、将来的にはグリーン水素の活用も期待されています。グローバルなIT企業はすでに、データセンターなどでの使用電力を100%再エネに切り替えるプロジェクトを進めています。

サプライチェーンの最適化:

サプライチェーン全体でのGHG排出を見直し、最適化することで大きな効果が期待できます。輸送手段の見直しや物流効率の改善、原材料調達先を低炭素なものを供給できる相手に切り替えるといった例があります。

自社削減が困難な場合

自社でのGHG排出削減が困難な場合、排出分を相殺(オフセット)し、実質的に排出量をゼロにするため、他者によるGHG削減分をカーボンクレジットとして購入したり、電力において非化石証書や再エネ証書を調達したり、植林プロジェクトに参加したりする方法も選択肢となるでしょう。ただし、安易に相殺手段に頼るのではなく、自社での削減努力がまずは求められます。

算定サービスを活用する利点

上記プロセスを実行するにあたっては、GHG排出量算定サービスを利用するのが有効です。サービスを利用することで、専門知識とツールを駆使して、正確な排出量データを取得し算定するのが可能となります。また、算定されたデータは国内外の規制基準や報告基準に準拠しているため、算定結果そして企業の信頼性も高まります。サステナビリティ担当者や経営層にとっては、GHG排出量算定の工数を削減し、より戦略的な意思決定に自社のリソースを投入することを手助けしてくれるでしょう。

まとめ

企業や個人が具体的な行動を通じてGHGの排出を減らすことは、持続可能な未来を築くために不可欠です。再エネの利用、エネルギー効率の改善、サプライチェーンの最適化など、さまざまな取り組みを組み合わせることで、効果的な削減が可能となります。長期的なビジョンを持ち、詳細なGHG排出量の算定をもとに具体的な削減計画を策定し、順次実施していくことが今後重要になってくるでしょう。

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