【RAGの活用事例】4つの業界から学ぶ生成AI×自社データ連携のヒント

2024年9月4日掲載

【RAGの活用事例】4つの業界から学ぶ生成AI×自社データ連携のヒント

生成AIの登場後、アイデア出しや文書作成など個人や一般的な用途での活用から、企業のプライベートデータと連動し、どのようにビジネスに応用していくべきか、効果を発揮できるのかを考慮されている企業が増えているのではないでしょうか。
個人や一般的な用途としては、すでに生成AIの性能は実用レベルと言えるでしょう。しかし、企業がビジネスとして使用するためには特定の知識に特化し、求める情報を高精度で出力できる生成AIが必要です。それを実現するための技術にRAG(Retrieval-Augmented Generation)がありますが、各社どのように活用しているのでしょうか。
この記事では、製造、建設、金融、医療、その他の業界でRAGがどのように活用されているのかを紹介します。

目次

RAG活用が進む理由

RAGは、大規模言語モデル(以下、LLM)と検索のハイブリッド・ アプローチにつき、企業はプライベートデータを生成AIの出力に組み込むことができるため、より業務に特化した生成AIの利用ができます。LLMモデルの再学習が不要で、準備するデータも少なく、情報をLLMに参照させるだけで利用が可能です。コストを抑えた上で実装できるため、多くの企業でRAGを用いたプライベートデータの活用が推進され、生成AIのユースケースが拡大しています。

RAGは、LLMと組み合わせることで、単に検索データを要約するだけでなく、知識を処理し、より自然で文脈がつながる説明文を生成することができます。

製造業界のRAG活用事例

製造業界のRAG活用事例

製造業界では、RAGによって業務負担の軽減が実現されています。

高精度なナレッジ検索や出力を実現

製造業界ではCAD図面や現場で手書きしたメモ、画像など、単純なテキストファイル以外のデータも多く扱います。そのため、テキスト処理が基本となるLLMでは対応が難しい部分もありました。

そこでRAGを活用することにより、テキスト文書以外にも前述した図面や画像※1を埋め込み、LLMに理解させることで社内ナレッジの検索やドキュメントファイルでの出力も実現しています。

また、人手不足や熟練者の退職にともない、ナレッジやノウハウを継承することが課題となっている「技術継承」においてもRAGを活用することができます。

RAGのデータベースに不具合時の対策方法や、過去の開発事例、開発時の不具合事例などの情報を投入することで、後に問題に直面した社員がチャットを利用し生成AIに質問し、適切な回答や欲しい情報を得ることが可能になります。非熟練の社員の方でも、必要な情報や注意すべき情報を得ることができ、業務の属人化解消につながり、「技術継承」の難易度を下げることが可能です。

※1 図や画像は構造的な意味を保ったテキストへの変換を行うことでLLMによる認識が可能です。

建設業界のRAG活用事例

建設業界のRAG活用事例

建設業界では、RAGによって業務負担の軽減が実現されています。

データドリブンの施策を立案

過去の類似プロジェクトデータや地域の建設基準、気象情報などを分析し、低リスクかつコスト効率の高い建設プランの作成にRAGを活用し、「プロジェクト計画の最適化」を図ることができます。また、建設現場の事故報告や安全基準、最新の安全技術などから安全対策の提案を生成し、建設現場の「安全管理の強化」としてRAGが活用できます。

RAGは、LLMの応答品質改善に対する直接的なアプローチです。安全性や効率の向上を実現することで、働き方改革の推進にもつながることも期待できるのではないでしょうか。

金融業界のRAG活用事例

金融業界のRAG活用事例

金融業界では、融資の稟議書作成やファイナンシャルプランナーの業務支援に活用されています。

融資稟議書をAIが支援

融資を行う際は対象企業の情報はもちろん、過去の事例や業界を取り巻く外部情報、銀行内の規定などさまざまな情報を参照します。適切な稟議書を作成するためには多くの経験や知識が必要であり、負担も大きくなりやすいと言えるでしょう。

RAGにより必要となる関連情報を生成AIに埋め込むことで、稟議書の品質の均一化や作成負担の軽減、属人化したノウハウの解消にもつながります。

顧客の入力値を基にファイナンシャル・プランニングの提案を作成

ファイナンシャル・プランナー(以下、FP)は顧客のライフスタイルや家族構成、日常的な行動をヒントに具体的な金融アドバイスをする必要があります。
しかし、FP個人の能力によりアドバイス品質に差が出てしまうことや、参考にするべきノウハウが共有されないなどの課題は無視できません。
そこで、RAGを活用することによって、顧客へのヒアリング情報をデータ化し、関連情報やナレッジと併せて分析することでFPのアドバイス作成を支援できます。

多くの情報から適切なものを抽出し、応答を生成する動作はRAGの効果が出やすいと言えます。

医療業界のRAG活用事例

医療業界のRAG活用事例

医療業界では、オンラインでの診療や服薬指導、医療従事者を支援するアシスタントに活用されています。

オンライン診療や服薬指導にRAGチャットボットを活用

近年ではオンラインによる診療や服薬指導も展開されており、医療サービスを自宅で受けられる機会も増加しています。
医療従事者は患者への適切なアドバイスが求められ、そのための医療知識はもちろん提供サービスの理解度や円滑なコミュニケーション能力が必要となり、難易度の高い業務と言えるでしょう。

あるプロダクトでは、RAGを利用してサービスマニュアルやナレッジを集約したチャットボットを作成しました。医療従事者はまずチャットボットから情報を得て回答できるため、RAGの活用がサービス品質の向上・均一化につながっています。

医療従事者の専門的なアシスタント

匿名化された退院時の臨床記録を活用することで、患者の全体的な臨床コンテキストを保持しながら質問に適切な回答を生成できるプロダクトが開発されています。
このアプローチにより、医療従事者はより正確で信頼性の高い情報を迅速に得られ、臨床判断の品質向上や判断ミスの抑止につながっています。臨床的意思決定が改善されることで安全に医療を提供でき、患者側の安心感も向上が期待できます。

人材不足や厳しい労働環境が課題となる医療業界でも、RAGにより負担の軽減や医療品質の標準化が実現されつつあります。

特定業界に限定されないRAG活用事例

特定業界に限定されないRAG活用事例

RAGを活用したLLMは非常に柔軟であり、多くの業界で活用できます。

社内コンサルタントの業務支援

社内コンサルタントが在籍するある企業では、業務に関する調査やドキュメントの内容確認を社内コンサルタントが行っていました。
本来、コンサルタントには価値の高いコンサルティング業務を行ってほしいはずですが、ドキュメント確認の業務に工数が割かれてしまっていたのです。
そこで、同社は全従業員が生成AIを活用できる環境を構築し、調査やドキュメント確認の一部を生成AIに任せることに成功しています。これにより、コンサルタントは対顧客や社内変革など、本来のコア業務に集中しやすくなりました。

一般公開されている生成AIでは精度に不安が残りますが、RAGを活用して生成AIに情報を埋め込むことで、正しい回答を得やすくする工夫をしているようです。

サイト内検索の品質向上

記事やQA情報を提供しているサイトでは、従来ユーザーがキーワードを入力し、サイトコンテンツに含まれる文字列と比較して情報を抽出する「全文検索」と呼ばれる検索機能を実装しています。
検索機能としては全文検索でまかなえていましたが、ユーザーの検索体験をさらに向上させるため、RAGを用いた「ベクトル検索※2」の検証も進めました。
従来の全文検索では、キーワードの誤字や曖昧な文章表現の検索に対して適切な情報を抽出することが難しい面がありましたが、ベクトル検索ではユーザーの意図を汲み取って検索結果を生成することに成功しています。

同社は、固有名詞の検索に強い全文検索と、曖昧な文脈でも意図を汲み取るベクトル検索の複合的なアプローチも検討しているようです。
RAGを用いることで生成AIを幅広く活用できます。

※2 ベクトル検索:LLMを用いて質問文と検索対象をそれぞれベクトル化し、分散表現を用いた検索手法です。単語だけでなく、単語の意味や文脈を考慮した検索が可能になります。

RAGの活用によりビジネスは大きく進歩する

生成AIは膨大な知識を有しており、多くの質問に対して応答することが可能です。
しかし、その回答は事前に学習されたデータやWeb上のデータを基にしていることが多いため、企業固有の情報を回答できず業務活用するには不十分なケースが多くあります。

RAGはこのような課題を解決するための有力なアプローチです。特定の知識を生成AIが参照することで、自社サービスに特化した応答や特定分野の知識に精通した応答を得られます。
RAGは生成AIに意図通りの動作をさせる有効な手段ではあるものの、ただ構築をしただけでは期待通りの回答精度を出すことができないケースが多いです。使用したい自社データは前処理(構造化)を行い、適切に生成AIがデータを検索・参照できるようにする必要があります。

ソフトバンクは、RAGの回答精度を向上させるための支援サービスを複数提供しており、お客さまのRAG活用状況に応じた適切なサポートが可能です。RAGの回答精度に関するお困りごとがありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

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ソフトバンク TASUKI Annotationチーム
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