EBPMの重要性を語る:自治体職員による対談
2025年3月28日掲載
EBPM(Evidence-Based Policy Making)という言葉を、皆さんも一度は耳にされたことがあるかもしれません。しかし、「EBPM」という言葉は知っているものの、具体的にどう活用すれば良いのか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
本記事では、現在ソフトバンクに出向している現役の自治体職員同士の対談を通じて、EBPMの基本的な考え方と、その実践方法について探っていきます。
EBPMとは何か?
Nさん: 最近、「EBPM」という言葉をよく耳にしますが、具体的にどのようなことを指すのでしょうか。
Kさん: EBPMは、Evidence-Based Policy Makingの略称で、データや客観的な証拠に基づいて政策を立案・評価する手法のことです。しかし、この言葉の定義だけではあまりピンとこない方もいらっしゃるのではないでしょうか。私自身、きちんと理解するまでに少し時間がかかりました。
Aさん: そうですよね。直訳するだけでは理解できない難しい言葉であり、考え方だと思います。一言で言うと、経験や勘だけでなく、しっかりとした根拠を持って政策を作るということです。例えば、統計データやアンケート結果、過去の実績データなどを分析して、政策の効果や必要性を客観的に判断することがEBPMを活用した事例として挙げられます。
Kさん: 自治体は人口統計や観光統計など数多くのデータを保有していますが、そのデータを活用することができればより客観性を持った政策の立案につながりそうですね。
Aさん: そうですね。データに基づき、客観性を持った政策を立案することができれば、行政の信頼性向上にもつながります。従来の勘や経験に頼った政策立案では、担当者の主観が入りやすく、効果が不透明な施策が生まれる可能性があります。主観的な判断だけでは、無駄な施策にリソースを投じてしまうリスクもありますが、客観的なデータに基づいて政策立案することで、住民の皆さんにとっても納得感の高い政策が生まれるのではないでしょうか。
Kさん: たしかにそうですね。それに加えて、自治体では限られた予算や人員で政策を実行しています。それらを効果的に活用するためには、どの施策が本当に効果を発揮しているのかを明確にする必要があります。EBPMは、施策の効果を数値で示すことで、限られた予算の配分を検討する際の良い判断材料となります。だからこそ今、自治体ではEBPMを取り入れ、客観性を高めることが求められているのですね。
データ活用における課題
Nさん: EBPMを行えば、効果的かつ信頼性の高い政策立案ができるということですね。ただ、その一方で、多くの自治体においてはデータ活用が十分に進んでおらず、前例通りに事業を実施したり、実施後の効果検証が不十分なことが少なくないように感じます。その理由としては何が考えられるのでしょうか。
Kさん: 目の前の業務を円滑に進めることが目標になってしまい、そもそもの施策の目的や効果検証に意識を向けられていないことが挙げられるのではないでしょうか。私自身もですが、実務においてはエビデンスよりも前例を根拠にしている場合も多い気がします。
Aさん: とても分かります。自治体では前任者から引き継ぎ書というものを渡されることが多いのですが、データよりも引き継ぎ書を重要視している職員が多いように感じます。EBPMと聞くと難しそうな印象ですし、自分の担当業務には関係ないように感じる人もいるかと思いますが、具体的な事例や実践方法のヒントがあれば、実務に取り入れやすいのではないでしょうか。
EBPMを実務で活用するために
Nさん: EBPMを実務に取り入れるためには、具体的な事例がヒントになるとのことでしたが、参考となる事例はありますか。
Aさん: はい。実は知られていないだけで、EBPMの活用事例は多くあります。その中でも、総務省統計局が運営するサイトでは、基本的なEBPMの知識や進め方の手順を学べるほか、先進事例も紹介されており、BIツール(ビジネスインテリジェンスツール)を活用している事例も取り上げられています。
Kさん: たしかにBIツールを使うと、大量のデータを分かりやすく可視化して分析することができますね。例えば、ダッシュボードを作成して、リアルタイムで数字を確認することも可能です。私のいた部署でも、データを集計するのにエクセルを使っていましたが、エクセルでの作業には限界があると感じていました。 BIツールなら、エクセルよりも大規模なデータを効率的に処理できます。さらに、グラフやチャートで視覚的に情報を捉えられるので、意思決定がスムーズになりますね。
Nさん: 具体的に、どのようなデータをBIツールで分析できるのでしょうか。
Aさん: 例えば、現在は毎日市民から寄せられる多くの問い合わせの内容や件数を、担当課でエクセルなどを使って集約・管理しています。それらのデータをBIツールを使って可視化させることができれば、リアルタイムで市民の声を把握し、地域別・年代別などで課題を分析することもできます。これにより、それぞれの地域が抱える課題や問題が一目瞭然となり、重点的に対応すべきことが明確になります。
Kさん: ほかにも、職員の時間外勤務や休暇取得状況を可視化することで、効率的な人員配置が検討できたり、職員のメンタルヘルスケアも可能になります。自治体が保有するデータでBIツールが活用できる事例をマトリクスにまとめた図がこちらです。
自治体保有データのBIツール活用事例
この図に入りきらなかった業務もたくさんありますが、今後データ活用を行う上でどのようなデータを優先的にBIツールで可視化していけば良いかを検討する指標になるかと思います。
Aさん: とても分かりやすいですね。BIツールで収集・可視化したデータを、さらにPPDAC※などのフレームワークを用いて分析・活用することができれば、より体系的にEBPMに基づいた課題解決が進められるのではないでしょうか。例えば、小・中学校の児童生徒の学力向上を目指すとします。BIツールで各学校の成績データや出欠状況を可視化し、PPDACで低下傾向にある科目や時間帯を分析します。そこで、問題点を明確にすることができれば、補習授業の実施や教育方法の改善などの施策を立案できるというわけです。施策を実施した後も、BIツールでデータをモニタリングして効果を検証し、次のアクションにつなげられます。
Kさん: フレームワークとBIツールの掛け合わせはとても効果的ですね。
Nさん: なんだかEBPMを実践する具体的なイメージが湧いてきた気がします。まずは、BIツールを使ってデータの可視化から始めてみようと思います。
Aさん: いいですね。小さな一歩からでも始めることが大切です。一緒にEBPMを実践して、より良い行政サービスを提供していきましょう。
Nさん: お二人とも本日はありがとうございました。
※PPDACサイクルとは、P(problem、問題)、P(plan、計画)、D(data、データ収集)、A(analysis、分析)、C(conclusion、結論)の頭文字をつなげたもので、海外や統計教育でもよく使われる統計的探究プロセスです。
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