生成AIの活用は現場から。マックスが挑む現場主導のDX

2025年9月12日掲載

生成AIの活用は現場から。マックスが挑む現場主導のDX

DXへの取り組みや生成AIの活用が進む中、製造業ではどのような活用が進められているのでしょうか。今回は、マックス株式会社の取り組みを通じて「生成AI活用×現場主導のDX推進」のリアルをお届けします。

目次

マックスの現場主義がDXを動かす

マックス株式会社は、オフィス機器や建築用工具、住環境設備など、幅広い機器を通じて日常を支える製品を開発・提供する総合メーカーです。特に建築工具や住環境設備などインダストリアルセグメントは、同社売上の約70%を占めており、家庭やオフィス、工場などさまざまな場面でマックスの製品が活用されています。「世界中の暮らしや仕事をもっと楽に、楽しくする」というコーポレートビジョンのもと、働く社員は、「やって、見て、考える」という行動指針による、徹底した現場主義と顧客主義の姿勢を貫いています。

「さまざまな取り組みは、失敗事例も含めてしっかりと蓄積させます。自分でやったことは全て事実。そういう行動から得た事実はみんなと共有し、同じ失敗は二度と起こさないことが大切」と、マックス株式会社でコーポレート本部 デジタルイノベーション統括部長の白井氏は語ります。

現場の実践から得た知見を積極的に共有しようという文化は、マックスの現場主義を体現するものです。一方で、こうした取り組みを組織全体へと広げていくには、まだ課題があると、デジタルイノベーション統括部でIT戦略セクションに所属し、DXに向けたデータ基盤や業務基盤を担う課長の井田氏は語ります。

「日々、継続的に業務改善に取り組んでいるものの、依然としてアナログな作業は残っているのが現状 です。特に、部門を超えた全社的な業務改革には課題があると感じていました。例えば、情報共有が個人に依存していたり、ナレッジの蓄積が難しかったり、現場で得られた知見やアイデアが自然に組織全体に広がらないといったことがあります。こうしたことについて、改革を加速できればと考えていました。それぞれの組織が関連して業務を進めていますが、全体を見て改善することは難しく、どうしても組織単位での対応にとどまってしまう と感じていました」(井田氏)

今回お話をうかがった(左より) マックス株式会社 コーポレート本部 デジタルイノベーション統括部 部長 白井啓一氏、同統括部 IT戦略SEC 課長 井田正志氏
今回お話をうかがった
マックス株式会社 コーポレート本部 デジタルイノベーション統括部 部長 白井啓一氏、同統括部 IT戦略SEC 課長 井田正志氏(左より)

白井氏もこう続けます。

「我が社は製造メーカーですから、上流の商品企画・設計段階から情報が全て整った状態で量産まで連動するのが理想です。しかし、例えば原価を抑えた設計が望ましいと言われる一方で、現実的には充分考慮できず後工程で手戻りが発生するなど、なかなか部門間の『つながり』がうまくいかないというのは、もしかして、業務プロセス上で誰も手を出したがらないグレーゾーンがあるから だと思っています」(白井氏)

また、以前はシステム統括部という名称であったデジタルイノベーション統括部でも技術継承やインフラ運用への限界を感じるようになっていました。

「我々の部門では、もともと全て内製で開発を行っており、クラウドもほとんど使わず社内にデータセンターも持っていました。技術者もたくさんいたものの、時代が変わっていく中でこれらを継承できる人を採用できるか課題もありました。加えて、サーバーの冗長化を図っても停止することがあることにも疑問を持つようになりました」(白井氏)

全社横断で推進する「DX推進プロジェクト」の全貌
グレーゾーンの業務をなくし、プロセスに落とし込む

そのような課題の中、マックス株式会社では全社横断プロジェクトである「DX推進プロジェクト」を2023年に立ち上げました。

「DX推進プロジェクトは、組織図上でも横断組織として明示されており、全社を巻き込む取り組みです。新製品の立ち上げのような関係部門だけの閉ざされたプロジェクトではなく、開発、生産から営業、コーポレートの各本部まで広くまたいだ、全社の取り組みとして、しかも管理職中心に集めて取り組んでいるのが特徴です」(白井氏)

同社では「つながるDX」という言葉を合言葉に、単なる業務の効率化にとどまらず、情報共有やナレッジの蓄積を通じたデータ業務基盤を再構築して活用することで、現場同士をスムーズにつなげ、お客さまや取引先、海外出張、市場調査などで得られた情報の共有や現場の知恵を組織全体の力に変えていこうとしています。

つながるDXで新たな感動を生み出す
つながるDXで新たな感動を生み出す(マックス Webページより

「DX推進プロジェクト」では、DX基盤の整備の一環として、クラウドストレージの「BOX」やグループウェアの「Microsoft 365」、さらには生成AIなどのツールを段階的に導入して取り組みが始まりました。

「今でも『先輩から言われたから行っている』というような、本当に必要なのか分からないグレーの業務が残っています。DX業務変革は、まずはこうした部分にメスを入れていきます。DX化どころか、そもそもやめてもいいプロセスって、けっこうあります。大きな業務から小さな業務まで、まずは全てをプロセスフローとして明確化 すること。現場における無駄や不要な業務をまずはやめ、残った部分の業務プロセスの難易度、重要度、かかる時間を見て、どのようなデジタル施策が打てるか、しっかりと検討することが重要だと考えています」(白井氏)

「生成AIラボ」とは? 現場48人&チームで挑む課題解決

マックスの生成AI活用を牽引する取り組みとして2024年にスタートしたのが「生成AIラボ」です。生成AIの導入に際し現場で活用することを目的に立ち上げ、全社から集まった8チーム(48名)で現場の課題解決に挑戦しています。応募は チーム単位の手挙げ制で実施され、提出されたアイデアをもとに選考 が行われました。上長の承認を必須とすることで、当事者意識と実行力の高いチームが選抜されたと言います。

「チームでの応募にこだわったのは、現場のアイデアを共有・発展させるためです。チーム内の気づきや工夫を共有しながら、活用の幅を広げていけるようにしました。それにより、生成AIの活用が一過性のものではなく、日常業務に根付いていくことを期待しました」と井田氏は語ります。年齢層も幅広く、若手の柔軟な発想とベテランの豊富な経験が融合された多様性のあるチーム構成が特徴です」(井田氏)

取り組みの大まかな流れ
取り組みの大まかな流れ

「生成AIはすでに多くの企業で導入されており、一過性の流行ではなく、今後不可欠な技術であると考えています。文書作成やデータ整理、情報検索など、日常のさまざまな場面で活用することで、業務の質やスピード向上が期待され、組織全体の生産性や競争力向上につながると思います。そういった認識で、DX推進プロジェクトの中で生成AIを重要な技術と位置づけ ています。

生成AIラボでは、単なる業務改善や効率化にとどまらず、業務プロセス自体の見直しや新たなサービスの創出も目指しています。これまで見過ごされていたような業務の改善ポイントが現場から出てきたらいいなと考えて進めています」(井田氏)

生成AIの利用に際し、「何でも答えてくれる便利なツール」みたいな印象しかなかった状態から、概要や使い方、活用方法など、ステップを踏んだ基礎研修を生成AIの導入と併せてメンバーに行うことで、現場で自ら利用できる体制と業務組み込みイメージを整えていきました。この過程で、ソフトバンクでは基礎研修のほか、RPAなどの導入支援で培ったBPR(Business Process Reengineering)の知見を生かし、業務見直しから生成AI導入や活用までの考え方のアドバイスや実装支援を行いました。

インタビューの様子

現場から生まれたユースケース:特許対策、サービス提供のリードタイム削減

生成AIラボのチーム活動を通じて、さまざまな現場課題に基づくさまざまな具体的な活用アイデアが生まれました。

その一つが 設計と知財部門の連携による特許調査 です。設計した機能、構造が既存特許に抵触していないか確認する作業は不可欠ですが、件数が非常に膨大であり時間を要し、設計者にフィードバックするのも一苦労でした。

「製造業では多くの特許を取得します。知財と相談しながら判断していくのですが、設計者も知財側も時間を要していました。生成AIを活用することで、機能や構造設計しながら、片側では関連する特許情報を迅速に分析し業務の効率化が図られています」(白井氏)

この取り組みでは、生成AIを業務フローの中に組み込み、特許文書の要約と分類分けによりチェックすべき文書の優先度・重要度をつけて作業全体の効率化を図ったほか、専門的な記載を一般的な文言で要約することで設計者との会話もスムーズになりました。

また、食品業界向けに展開しているラベルプリンターでの食品ラベル表示の診断という 実サービスでの生成AIの活用も検討 されています。

「食品ラベルの表示順序や記載内容は食品表示法で決められています。食品ラベルの写真をアップロードして、表示内容を商品表示法に基づいて診断・修正する既存サービスがありますが、OCR技術で写真から読み取った情報をもとに生成AIで診断し、適切な表示形式に変換するという検証を重ねています。この仕組みが整えば、正しい内容に修正されたラベルデータ返却までのリードタイムを、従来の4分の1まで短縮 できます」(白井氏)

画像を読み込んで文字起こしする部分と、ルールに基づいた正しい記載内容になっているかをチェックする部分で生成AIを活用し、業務フローに組み込んでPower Platformによる自動化を進めています。

生成AIの活用は現場から。マックスが挑む現場主導のDX
検証が重ねられているラベルプリンターでの食品ラベル表示(マックス Webページより)

開発や生産設備など、部門間におけるナレッジ共有 の取り組みも進められています。

「生産技術と生産設備などの製造現場でのナレッジシェアや蓄積は必要不可欠です。いかにコストをかけずにスピード感を持って実用化させていくかは、メーカーにとって非常に大事です。独自の部品には金型が必要ですし、工程設計では効率的な生産プロセスの検討も必要です。ライバル会社もいるわけですから、そういったところで手戻りなく、リードタイムをかけず進めることは非常に重要で、過去のナレッジをためて次に生かす生成AI活用を行っています」(井田氏、白井氏)

さらに、問い合わせ対応の効率化や、英語文書の要約・翻訳といった日常業務への応用 も広がっており、それぞれのチームが、定型・日常業務への生成AIのプロセス内実装にこだわり、業務目的に即した形で取り組みを進めています。

事務局としての立場、社内文化の醸成

これまで内製でシステム開発を行っていたデジタルイノベーション統括部が事務局を務めていることも、大きなポイントです。

「従来は、現場から情報システム部門に依頼があり、こちらで要件定義を行っていました。これからは基本的にはチーム主導で考えて構造化していただくのがスタンスです。生成AIの活用を現場で進めていく際に、成功までのシナリオが描けるチームが絶対に波に乗っていくだろうということは今までの経験から想定できていました。そこにプラスして、事務局が業務改善の視点を忘れないようにバックアップしていたことが、成功の鍵の一つだったと考えています」(白井氏)

こうした支援体制のもと、生成AI活用の社内文化が徐々に醸成されつつあります。プロジェクトに参加していない社員からも「使ってみたい」との声が寄せられるなど、全社的に生成AIのパッケージ導入を進める計画も具体化し始めています。

「ツール導入」ではない、プロセス再設計の重要性

生成AI導入では「思ったよりうまくいかない」「精度が低い」といった課題の声や予算の制約もありましたが、それらの声が次の改善につながっています。

「改善や改革は、やはり現場からのアイデアがなければ進まず、成果にもつながらないと感じています。現場の担当者が、自分の業務にどう活用できるかを考え、実際に使ってみて初めて価値が生まれる のです。現場の人が興味を持ち考えることが定着の第一歩です。ツールはあくまでも手段で、どう使うかっていうところが本質になってくるので、まず試して、現場の声を起点にすることで、その先に新しい価値が見えてくるのではないかと思います」(井田氏)

生成AIを活用するには、ツールそのものよりも、それをどう生かすかの「プロセスの描き直し」が重要だと白井氏も続けます。

「DXや生成AIを特別視する必要はありません。全ての仕事はプロセスでできあがっています。そのプロセスをどうあるべきか考え、まずは自分の中で描き直してみるところが最も重要だと考えています」(白井氏)

生成AIなどのツールを前提とするのではなく、あるべき業務プロセスの再設計こそが重要であり、それを「自分ごと」として捉え、業務変革の武器として活用していく。マックスの取り組みは「現場の声」を原点に、組織の在り方そのものを見つめ直す試みといえるでしょう。

インタビューの様子

AIによる記事まとめ

この記事は、マックス株式会社が取り組む「生成AI活用×現場主導のDX推進」について紹介しています。全社横断プロジェクトや生成AIラボを通じて、現場主導で業務プロセスの見直しと改善を進め、知見共有や効率化により企業全体の競争力強化に取り組んでいます。

※上記まとめは生成AIで作成したものです。誤りや不正確さが含まれる可能性があります。

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ソフトバンクビジネスブログ編集チーム 辻村 昌美

ソフトバンクビジネスブログ編集チーム

辻村 昌美

ソフトバンクで新規事業立ち上げなどを経験後、法人向けマーケティングに従事。中小企業や既存のお客様向けマーケティングを担当し、2022年よりコンテンツ制作に携わる。
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