AIモデル「Sarashina」が切り拓く未来 —— 中外製薬とのパートナーシップで挑む産業変革 【講演レポート】
2025年9月29日掲載
ソフトバンク株式会社の100%子会社「SB Intuitions株式会社」では、日本語に強い大規模基盤モデルの研究開発と、日本の文化・商習慣に即したAIサービスづくりを進めています。
SoftBank World 2025では、SB Intuitions の締役兼CROである井尻が国産大規模AIモデルの開発背景や社会実装に向けた展望を語るとともに、中外製薬株式会社の参与 デジタルトランスフォーメーションユニット長である鈴木氏が医薬品開発における社会課題とAI活用への期待を示しました。
本記事は、2025年7月16日に開催されたSoftBank World 2025での講演を再編集したものです。
AI進化を支える基盤モデルとは
講演冒頭、SB Intuitionsの井尻はこう切り出しました。
「私たちが開発している国産AIモデルについて紹介させていただきます。私は25年以上にわたりAIの研究開発に携わり、事業化にも取り組んできました。近年はソフトバンク内で、大規模言語モデルをはじめとする基盤モデルの研究開発を進めています。本日お伝えするのは、私たちが取り組む“国産モデル”の強みと、その社会実装に向けた挑戦です」
「生成AIのベースになっている技術は基盤モデルという技術です。従来のAIは特定領域に特化し、限られたタスクしかこなせませんでした。それに対して基盤モデルは、多様なタスクやドメインを幅広くカバーできる汎用的なモデルです。そのため、どんな分野の質問にも一定の回答を返すことができます」
また、基盤モデルの進化の歩みについても触れました。
「まず基礎研究があり、そこから言語モデルの研究開発が進みました。2017年にGoogle の研究者らがTransformerを発表して以降、OpenAIのGPTやGoogle の技術が進化を先導してきました。Transformerは非常に強力な技術で、言語処理だけでなく音声や画像にも大きな影響を与え、マルチモーダルな方向に基盤モデルが広がっていきました。近年では、3Dや動画の生成、ロボティクスの行動生成、創薬など、応用範囲は急速に拡大しています」
さらに、性能面では“人間を超える知能”の可能性についても語りました。
「最初に人間を超えたAIは囲碁の分野でした。近年では、領域を限定しない言語や知識の分野でも、人間を超えつつある、あるいは人間と対等にやり取りできるレベルに到達しています」
井尻は、AI開発を支える計算基盤への取り組みについてもこう続けます。
「今後AIが社会の重要な基盤になっていくと見ており、ソフトバンクとしても投資を強化しています。その中核となるのがAI計算基盤です。現在は約6,000GPUを活用して研究開発を進めていますが、近く10,000GPUへと増強する計画です。ここまで拡張することで、これまで以上に大規模なモデルの開発が可能となります」
国産モデルの安心と強みを支えるスクラッチ開発
基盤モデルの進化や計算基盤の強化を踏まえ、SB Intuitionsが選んだのは“スクラッチ開発”という手法でした。井尻は海外製モデルを活用する方法との違いを次のように語ります。
「海外の公開モデルを継続学習させる方法もあります。例えば、Hugging FaceやGitHubといったプラットフォーム上で公開されているモデルを、日本語データで追加学習するといったやり方です。これは少ない計算資源でも実行でき、コスト面では効率的です。
しかし、その中で使われているデータを完全に把握・制御することはできません。不具合があったときに、中身を詳細に解析した上で、改善したり作り直したりすることが困難です。
私たちは利用するデータやアルゴリズムをすべて自社で把握し、フルコントロールを持ちながら開発するために、あえてスクラッチ開発をしています。これが国産モデルの利点であり、産業応用においてプロセスまで含めた“絶対的な安心”を提供できるのがSB Intitionsの強みです」
続いて、規模や品質についても説明しました。
「現在は最大4,600億パラメータのモデルを開発しています。性能も強化しており、現在、日本語においてトップクラスの性能を実現しています」
「また、特筆すべきは各パラメータ規模において最高の性能を出せている点です。推論コストを一定に保ちながら最高性能を発揮できるため、コスト面でも大きなメリットを提供できます。性能をリードしてきたGPTと比較しても、一般的な利用シーンではほとんど見分けがつかないレベルです。当然専門分野になると、多少の違いが出てくる場合もありますが、特に日本語に特化して考えるとGPT-4o相当の性能を実現できています。
弊社ではこのモデルにSarashina(サラシナ)と名付けて展開しています」
井尻は、扇子をモチーフにしたロゴは、
Sarashinaの基盤モデルを中心にさまざまな業界に広げていくという想いを表現していると言います。加えて、最新のDeep Research機能のデモ動画を用いて、Sarashinaの動作についても解説しました。
マルチモーダルとAIエージェントが拓く新時代
講演では、AIの進化がマルチモーダルへ広がっていることにも触れました。
「弊社ではマルチモーダルモデルの取り組みの一環として、画像を理解できるエンジン『Sarashina2-Vision』も開発・公開しています。
画像とともに質問を入力すると、その中から回答を見つけて答えることができます。例えばレシートを読み込んで金額を抽出したり、特定の解析を行ったりと、ビジネスの場面で幅広い活用が期待できます」
さらに井尻は、「すでにAIエージェントの時代に突入している」と強調しました。
「我々もAIエージェント時代に向けたモデル開発を進めています。従来のモデルに推論能力を加えたリーズニングモデルを構築し、企業が持つさまざまなデータと組み合わせることで、よりユーザーの指示に沿った結果を導き出すシステムを目指しています。
このAIエージェントを活用すれば、業界ごとに最適化したモデルを構築できます。金融・法律・Eコマース・製薬・公共など、幅広い分野で業務効率化が可能になります。従来では難しかった全数チェックや高度な解析も実現できます」
中外製薬と挑む医薬品開発の変革
講演で紹介された専門分野への応用事例の1つが、中外製薬株式会社(以下、中外製薬)との取り組みです。
2025年で創業100年を迎える中外製薬は、独自のバイオ医薬品研究開発と抗体エンジニアリング技術を強みとする研究開発型の製薬会社で、革新的な医薬品の創出を目指し、デジタル技術の活用にも積極的に取り組んでいます。
講演では中外製薬の鈴木氏が登壇し、医薬品開発における社会課題とミッションについて語りました。
「私たちは社会問題を解決し、それを通じて患者さんを救いたいと思っています。
医薬品開発の社会課題には、大きく三つあります。第一に、難病や希少疾患など有効な治療法が存在しない未充足ニーズ(アンメットメディカルニーズ)。第二に、地域や経済格差による薬へのアクセスの不平等。第三に、新薬開発にかかる莫大な時間と費用です。
製薬業界としても深刻な課題だと感じています。新薬として承認される成功確率はわずか0.003%と低い上、膨大な費用が必要で、市場に出るまで9〜17年かかる点です。特に臨床開発は医薬品開発期間全体の半分を占め、最も時間がかかるプロセスであり、膨大なコストもかかっています。ここを変革できれば、大きなインパクトを与えられるのです」
https://www.mhlw.go.jp/content/10807000/001036959.pdf
鈴木氏は、課題解決に向けた取り組みについて続けます。
「臨床開発では膨大な英語論文の調査や臨床データ分析、規制対応などに高度な専門知識と多大な時間が必要です。
この業務の生産性や品質を高めるために、私たちはソフトバンクと提携し、生成AIやAIエージェントを活用して臨床開発プロセス全体を根本から革新する取り組みを進めています。特に開発計画立案の段階で情報収集や分析を効率化し、より迅速に臨床試験を進められると考えています。さらに、構造化データに加え非構造化データや画像などマルチモーダルな情報を活用し、AIエージェントとの協働を段階的に発展させることで、より効率的で高度な臨床開発の実現を目指しています」
鈴木氏は、これは単なるAIやAIエージェントの導入ではなく、臨床開発そのものを変革する大きな挑戦だと強調しました。
「この取り組みは1社だけでは実現できません。ほかの製薬会社や異業種企業など、パートナーエコシステムの存在が不可欠です」
また、ソフトバンクやSB Intuitionsとのパートナーシップについては次のように述べました。
「『共に社会課題を解決し、社会基盤を作っていこう』という観点で強く共感しました」
最後に鈴木氏は、3社のパートナーシップによって医薬品開発のスピードを何倍にも加速させ、一日でも早く革新的な薬を世界中の患者さんに届けたいと力強く語りました。AIの力でビジネス・業界・社会をより良くしていきたいと結びました。
AIが拓く社会課題解決への展望
最後、井尻が未来への展望を力強く語り、講演を締めくくりました。
「私たちSB Intuitionsとソフトバンクは、グローバルなリーダーシップの確立に向けて研究開発を進めています。特に重視しているのは、新しい革新技術を生み出すこと、そしてそれを社会に普及させることです。
AIについては、”人がAIを作る”段階から”AIがAIを作る”段階へ進むことを目指しており、これこそが大きなシンギュラリティだと考えています。また、”人がAIを使う”世界から”AIがAIを使う”世界への移行も重要です。膨大な数のAIエージェントが生成され、実際に活用される未来を想定しています。さらにコード生成などの実用的な活用に加え、将来的には身体性を持ったAIが道具を使いこなし、物理的な作業を担う時代も到来すると考えており、その分野に向けた研究開発も進めています」
井尻は続けます。
「私たちが持つ国内最大規模のAI計算基盤を背景に、大規模モデルの開発とAIプラットフォームの構築を進め、産業全体の変革を後押ししていきたいと考えています。その最初の一歩として中外製薬様との取り組みを紹介しましたが、今後も他分野において多様なパートナーシップを結び、AIによる社会課題解決を進めていきたいと思っています」
AIによる記事まとめ
この記事は、SB Intuitionsが開発中の国産LLM「Sarashina」の技術的背景と社会実装に向けた展望を紹介しています。計算基盤の拡充を伴うスクラッチ開発により、日本語に特化した高性能AIを構築しています。さらに、マルチモーダルモデルやAIエージェントなど、幅広い産業応用に向けた開発が進められています。中外製薬との連携では、臨床開発における情報収集や分析の効率化を通じて、医薬品開発の高度化を目指す取り組みが進行中です。
※上記まとめは生成AIで作成したものです。誤りや不正確さが含まれる可能性があります。
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