データ主権とは? 経済安全保障の観点から分かりやすく解説
2025年9月3日掲載
クラウドサービスの利用が一般化する中、企業のデータは国境を越えて流通する時代になりました。一方で、「このデータに適用される法律はどこの国のものか?」という法的な課題も浮上しています。この課題をめぐる考え方が「データ主権(Data Sovereignty)」です。近年では、クラウドだけでなくAIや量子技術の進展も、データ主権をめぐる新たな懸念を生み出しています。
本記事ではデータ主権の基本を整理し、日本国内の経済安全保障との関わりや、日本企業が理解しておきたいポイントについて解説します。
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記事執筆者のご紹介
データ主権とは? 基本概念と関連用語
データ主権とは「データをどの国の法律で守るか」という考え方です。つまり、自国の法制度に基づいてデータを管理・保護し、外国の規制による不当な介入や利用を防ぐ枠組みを指します。
データ主権とともに、データレジデンシーやデータローカライゼーションという言葉もよくでてきます。
データレジデンシー は「データの物理的な保存場所」、データローカライゼーション は「データを国内で保存・処理することを義務づける規制」を意味し、これらはデータ主権の実務的な側面にあたります。
データ主権が注目される背景
背景として挙げられるのが クラウド利用の拡大 です。企業のデータが複数の国に分散して保存されるようになった結果、「どの国の法律が適用されるのか」が不透明になり、企業にとっての法的リスクが増しています。加えて、国際的なデータ規制の強化 も大きな要因です。代表例であるEUのGDPR(一般データ保護規則)を皮切りに、個人データ保護を強化する流れが世界各国に広がり、企業は従来以上に規制対応を迫られるようになりました。
世界に目を向けると、「データは自国の法律で守るべき」という考えが強まり、各国が独自の制度やプロジェクトを打ち出しています。
世界各国の取り組み 例:
- 米国「CLOUD Act」
米政府当局が、米企業に対して米国外に保存されているデータの開示を義務づける法律。 - EU「GAIA-X」
EU主導でデータ主権を確保するためのクラウド・データ基盤プロジェクト。 - 中国「サイバーセキュリティ法」
中国国内で収集された個人情報や重要データは、原則として国内に保存しなければならないと定める。国外移転には安全評価が必要。 - ロシア「個人データ法」
自国民の個人データはロシア国内のサーバーに保存することを義務づけ、国外への移転を厳格に規制。
このように、各国は自国の法律の下でデータをコントロールする仕組みを強化しており、データ主権の考え方はグローバルに広がっています。そして日本でも、データは国家の経済や安全保障を左右する重要資産として位置付けられつつあり、経済安全保障との結びつきが一層強まっています 。
日本国内で高まるデータ主権と経済安全保障の重要性
データ主権が注目される大きな契機となったのが、2022年に施行された 「経済安全保障推進法(内閣府リンク)」 です。この法制は、国家の安全や経済基盤を支える重要分野を保護する目的で制定されました。特に以下の4項目が重点的に対象とされています。
- 重要物資の安定供給(半導体、医薬品など)
- 基幹インフラの安全確保(電力、通信など)
- 先端技術の育成・支援
- 機微情報やデータの保護
また、これらに加えて安全保障や産業競争力の観点から、内閣府が定める特に機密性の高いデータを扱う重要インフラ15分野(例:官公庁、金融、医療、製造など)において、データ主権の重要性が高まっています。
参考:制度の整備と運用
- 令和4年9月:基本方針と「重要物資供給」「先端技術開発支援」に関する指針を閣議決定。制度運用を開始。
- 令和5年4月:「基幹インフラの安定提供」「特許出願の非公開」に関する指針を閣議決定。政省令を整備。
- 令和6年5月:各制度の運用を本格開始。
データ主権をめぐる日本企業の2つの課題
日本企業が直面する課題は大きく2つあります。
1.ハイパースケーラーへの依存(CLOUD Actリスク)
多くの企業は利便性やコスト面から米国系クラウドを利用しています。これらは利便性やコスト面のメリットは大きい一方、ClOUD Actの影響により国外からデータへのアクセスが認められる可能性があります。不測の開示が起これば取引先や顧客との信頼を損なう恐れもあるでしょう。
2.産業データ流出による競争力低下
もう一つの課題は、産業データや知的財産の国外流出です。製造業や医療分野では研究成果や特許関連データが競争力の源泉であり、流出すれば模倣品や技術優位を許す可能性があります。「いかに重要データを守るか」は企業存続を左右する経営課題となっています。
データ主権リスクに備えるための実務的な5つの視点
データ主権と経済安全保障の観点から、企業が意識して取り組むべきポイントは以下があげられます。
1. 自社データの棚卸し
どのデータが国内にあり、どのデータが海外に存在するのかを正確に把握し、リスクを可視化して評価する。
2. クラウドベンダーの選定
利用しているクラウドサービスのデータセンターの所在地や、適用される法規制(例:米国法の影響など)を契約書ベースで確認する。
3. 継続的な規制モニタリング
国内外の法改正や規制動向を常にチェックし、法務部門とIT部門が連携して迅速に対応できる体制を整える。経済安全保障政策や個人情報保護法の改正を注視し、必要に応じて契約や運用を見直すことが重要。
4. ソブリンクラウドや国内データセンターの活用
データ主権リスクを低減するためには、国外法の影響を受けにくいソブリンクラウドや、国内に設置されたデータセンターの利用を積極的に検討することが効果的です。これにより、法的リスクを最小化しつつ、安全で柔軟なデータ管理体制を構築できます。
5.データガバナンス体制の整備(ルールづくりと責任分担の仕組み化)
データ主権のリスクに対応するには、テクノロジーやインフラ整備だけでなく、社内での明確なルールづくりと責任分担の仕組み化が欠かせません。具体的には、データを分類(機密・業務重要・一般など)し、それぞれの取り扱いルールや保存先を定めることなどです。
その上で、アクセス権限を役職や業務内容に応じて段階的に管理し、監査ログを定期的に確認することで、不正利用や漏洩リスクを低減できます。さらに、法務部門・IT部門・経営層が一体となってデータポリシーを策定し、組織全体に浸透させることが重要です。
今後の展望
データ主権を取り巻く環境は、特にAIや量子技術の進展で今後さらに大きく変化していくと考えられます。
AI時代のデータ管理
生成AIが普及する中で、学習データや出力結果の取り扱いにも「どの国の法律が適用されるのか」というデータ主権の問題が発生します。特に海外のAIエンジンを経由して生成された新たなデータや国外サーバーを経由する場合、個人情報や知的財産の管理体制が問われます。
国際的なAI規制の動向
データ主権に深く関わるのが、AI規制の枠組みです。EUではAI Act(AI規制法)が策定され、AI利用に伴う透明性・安全性・人権保護の要件が定められています。一方、米国ではAI Bill of Rights(AI権利章典)が公表され、利用者の権利や公平性を重視する姿勢が示されています。これらの規制は、グローバルに事業を展開する企業にとって無視できない要素となっています。
これらの変化に備えるには、単に現行法に従うだけでなく、未来を見据えた柔軟なデータ戦略を持つことが欠かせません。
▶関連記事:AIの法規制をめぐる各国の動向と日本企業への影響
量子コンピュータ時代の暗号技術とデータ保護
量子コンピュータの登場により、従来の暗号技術が破られる怖れが議論されています。これに備え、各国では「ポスト量子暗号」と呼ばれる新しい暗号技術の標準化が進んでおり、データ主権の観点からも導入のタイミングや対応戦略が求められます。
まとめ
データ主権とは「データをどの国の法律で守るか」という基本的な考え方であり、日本では経済安全保障推進法により国家的課題として明確化されています。企業にとっては法令遵守だけでなく、事業継続や取引先からの信頼確保のためにもデータ主権は欠かせない要素です。
ソブリンクラウドや国内データセンターの活用、マルチクラウド戦略を組み合わせ、AIや量子技術の進展を見据えたなか長期的なデータ戦略を経営課題として位置づけることが重要です。
AIによる記事まとめ
この記事は、データ主権の基本概念と日本における経済安全保障との関係を詳しく解説しています。クラウドの普及により、データが国境を越えて保存・処理される中で、法的リスクが増加しています。日本を含む各国が自国の法律でデータを保護する体制を強化しており、企業は対応を迫られています。特に日本では経済安全保障推進法により、重要インフラや先端技術に関わるデータの保護が政策課題として明確化されています。
※上記まとめは生成AIで作成したものです。誤りや不正確さが含まれる可能性があります。
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