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空飛ぶ基地局「HAPS」の早期実現に向けた取り組み

#HAPS

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スマートフォンやタブレットなどに加え、高性能なIoTデバイスが急増する現在、より広範なネット接続を実現するために5Gの普及などが進められています。しかしながら、世界的にはまだインターネットがつながらない、不安定といったネット接続性の悪い地域が多く存在しています。

その原因として、地上基地局の増設に必要な地理的な制限や、衛星通信におけるキャパシティーの限界などが挙げられます。

そこでソフトバンクは、ジェット旅客機が飛ぶ高度よりさらに上、 高度約20kmの成層圏に着目し、成層圏の定点滞空を目指す空飛ぶ基地局「HAPS(High Altitude Platform Station)」の技術研究に取り組んでいます。

HAPSとは?

HAPSとは、成層圏を長期間飛び続ける飛翔体のことで、理想的には太陽エネルギーのみをエネルギー源とします。そして通信機を搭載したHAPSは現在使われている移動通信システムである5Gの次の世代となる「Beyond 5G/6G」の実現に向けた「非地上系ネットワーク/NTN(Non-Terrestrial Network)」のひとつに位置づけられています。

  • 飛翔体:高空を飛翔する人工物

HAPSには気球や飛行船など空気より軽く、浮力を使用して飛行を維持する「LTA(Lighter Than Air)型」と、飛行機などのように揚力を持って滞空する「HTA(Heavier Than Air)型」の2種類があります。

LTA型のひとつである気球を使用した「Loonプロジェクト」では、AI予測による高度一方向制御を可能にし、フリート(複数機)によるHAPSを実現しています。

  • Loonプロジェクト:Googleの親会社Alphabet社傘下のLoon社が取り組んだプロジェクト。成層圏を浮遊する気球に搭載されたネットワーク機器を通じて地上へ通信を提供。Loon社は2021年1月に解散。その後、Loon社が所有していたHAPSに関する特許約200件を取得するなど、その豊富な知見がソフトバンクに受け継がれている。

しかし、LTA型は強い季節風に流されてしまうなど、通年の運用には向かないというデメリットが存在します。

一方で、HTA型は飛行時に十分なスピードを保つことで、風に流されることなく旋回しながら定点滞空します。これまで基地局を配置することができなかった離島や山間地の上空を飛行させることで、より多くの場所で通信の利用が可能になります。

こうしたHTA型のメリットに着目したソフトバンクは、Loon社から受け継いだ知見を活用しながら、HTA型HAPSの開発に取り組んでいます。

ソフトバンクが行っている
研究・開発

ソフトバンクは、2017年からHAPSに関わるプロジェクトをスタートし、AeroVironment社との協業でプロトタイプ機(サングライダー)の開発を行いました。

その後、「NASAアームストロング飛行研究センター(AFRC)」でテストフライトを実施。2020年9月には「スペースポート・アメリカ(Spaceport America)」で、成層圏でのフライトと成層圏からのLTE通信の実証実験を行いました。

実証実験により、成層圏からの通信システムに十分なポテンシャルがあることを示しました。一方で、機体構造の軽量化やモーターの高性能化など、商用化に必要な条件も明らかになったため、現在は後継機の開発に取り組んでいます。

HTA型HAPSに必要な
エネルギー

HTA型のHAPSはソーラーパネルを搭載し、太陽エネルギーを動力にプロペラを回し、大気中を移動することで揚力を得ます。

飛行に必要なエネルギーが大きいことから、ヘリウムガスの浮力で滞空するLTA型に対し、HTA型のHAPSの実現はより難しいと言われています。

そこで必要なのが、機体のエネルギー効率の向上です。具体的には翼が横に長く軽量で、ソーラーパネルを多く取り付けることができる大型機は有利、空気抵抗が少ない無尾翼機が理想の形だと考えられています。

この形状のHAPSは、1980年代にNASAが積極的に実験機を開発。その後、シリーズ化された機体の成層圏フライトが行われました。NASAの機体をレンタルした「NICT(情報通信研究機構)」によるモバイル端末向けCDMA通信実証は2002年に日本で実施されました。

上の図は通信基地局として成立するHAPSのエネルギー収支を図式化したものです。HAPSは飛行に必要なエネルギーと通信サービスの提供に必要なエネルギーを一定量消費します。雲に遮られることがない成層圏では、確実に太陽光でエネルギーを得ることができます。

一方で、夜間は太陽エネルギーを得ることができないため、日中に夜間分のエネルギーを充電しておきます。充電率の赤い線を見ると、日没時に100%になった状態から夜間に残量が減っていきますが、翌日の日照が得られるまでエネルギーを維持できれば、持続的な飛行と通信サービスの提供が可能になります。

HTA型のHAPSは、飛行機単体であれば機体の大きさに関わらず上記のエネルギー収支を成立させることができるレベルに到達しています。しかし、商用化に必要な性能を備えた機体を使用する場合は、現状からさらに機体の軽量化やエネルギー効率の向上などの改善を行う必要があります。

機体メーカーや
規制当局との連携

世界的なHAPSの取り組みを見ると、Airbus社が開発した小型HAPS「Zephyr」は世界最長記録である64日間の飛行を達成(2022年8月時点)。他にも、ジェットエンジンを備えた「環境対応型先進無人飛行機(UAV)」や燃料電池型の機体など、高度な技術の実現に向けた研究を行う企業が多くあります。

また、HAPSの実用化には技術の向上だけでなく、運用上の制度的な課題を解決することも重要です。

成層圏を長期間飛ぶ無人飛行機は、航空機の歴史上前例がありません。世界的な安全基準を定めている「FAA(米国連邦航空局)」にコンセプトや安全性を示すなど、機体メーカーや関係者を集めたアライアンスを通じて各国の規制当局との対話、連携を行っています。

今後もHAPSの早期実現に向けて機体の研究・開発、そして成層圏のルール作りにも取り組んでいきます。

移動通信でのテラヘルツ帯の利用に向けた取り組み

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