HAPS向け次世代無人航空機体の開発ステップ、サブスケールモデル機の飛行試験について

#HAPS #サブスケールモデル #Sunglider

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ソフトバンクでは、成層圏通信プラットフォーム(HAPS)からの通信サービス提供の開始に向けて、HAPS向け大型機体「Sunglider」の開発を進めています。このたび米国アリゾナ州ウィルコックス・プラヤにて、HAPS向け次世代無人航空機のサブスケールモデル機のフライトに成功しました。これは2020年に成層圏フライト実証を行った機体「Sunglider」を商用化に向けて性能向上させた、次世代Sungliderプロトタイプとも呼べる機体の準備段階です。本記事では、この実験の目的と背景について説明します。

プレスリリース:成層圏通信プラットフォーム(HAPS)向け次世代無人航空機のサブスケールモデルの飛行試験に成功
https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2023/20230810_01/

1. なぜサブスケールモデル機を先に作るのか

飛行機の開発においては、実機の縮尺を小さくしたサブスケールモデル機(模型)による飛行試験や風洞試験を行うことがよくあります。模型といってもここでいう模型はプラモデルや鉄道模型のように外観を重視したものではなく、またラジコンのように操作を楽しむものでもなく、形状、重量分布や変形の程度など物理的特性の相似性を工夫して製作された模型です。この相似模型からは数々の設計のための情報が得られるため、サブスケールモデル機の製作は機体開発の重要な確認ステップ、マイルストーンになります。

2. サブスケールモデル機と大型機の関係

サブスケールモデル機であっても機体には、重力、慣性力、空気粘性力など実機と同じ物理法則が働くため、模型から大型化した時(実機)の性質が分かります。縮尺を決め、模型に働く重要な物理法則を考察すれば、実際に大きな機体を作る前に試験をすることができるのです。

ただし、機体のサイズを半分にしても、地球上で受ける重力を半分にすることはできません。空気密度も変えることはできません。材料の密度や強度も選択肢が限られます。また模型を成層圏まで飛ばすには手間がかかりすぎてしまいます。このようなさまざまな制限事項についても考察のうえ、実機の性能を検討します。

サブスケールモデル機と大型機の関係図 | HAPS向け次世代無人航空機体の開発ステップ、サブスケールモデル機の飛行試験について

3. 計算機シミュレーションとの比較

コンピューターシミュレーションが進んだ現在では、機体を計算機の中でモデル化して飛行させることで、静的な強度計算や、飛行中の動的な応答まで推し量ることもできます。一方で、HAPS向けの機体のように新しいものを作る場合、コンピューター内の計算モデルでは、どこかに前提の間違いがあっても実機の完成まで気付かない危険性もあります。サブスケールモデル機を使った飛行実験では、機体が実際の物理法則に晒されるので、設計上の間違いなどに早く気付け、誰でも一目瞭然です。さらには、サブスケールモデル機での飛行実験の結果自体をコンピューターシミュレーションに適用することで、大きな機体の結果を鵜呑みにするのではなく、計算の妥当性評価にも使うことができます。

4. サブスケールモデル機から得られる情報

サブスケールモデル機のデータからは機体のふるまいや制御上の課題など、大型機を製作する前に把握したい情報をコンピューターシミュレーションだけに頼らずに取得できます。サブスケールモデル機なら簡単に何回も機体の形状やコンフィギュレーション(形態)を変更し、最適なものを探索することが可能です。例えば分かりやすい例として、翼端の圧力変化を軽減するウイングレットについて調べたければ、ウィングレットの付け外しなどする場合、それぞれのフライト結果を比べて、効果をすぐに比較することができるでしょう。この他にも思いがけない発見や、難しい点、大型化への可能性を、サブスケールモデル機での実験で見出すことが出来ます。

サブスケールモデル機であれば、実機では実験が難しいもの、実機では行うことができない機体の限界までを調べる試験も行えます。実際の航空機による実験でインシデントを起こすと大きな問題になるため、サブスケールモデル機の実験により事前に取得するデータはとても貴重です。

5. サブスケールモデル機実験の難しさと限界

一方で、サブスケールモデル機の製作や調整、結果分析は容易ではなく、開発経験にも大きく左右されます。何分の1のサイズで機体を作るかというのも重要な課題です。風洞実験の場合は空気の流速を調整できるので、模型のサイズは小さくできます。しかし屋外の実環境で実験する場合、実際は78mもの大きさがあるSungliderの性能を検討するのに、2~3mの模型では小さすぎます。あまり小さいと機体の周りの空気の流れや変形の様子が実機と異なってしまい、確認したい制御方法を正しく把握できなくなってしまいます。そのため、今回のサブスケールモデル機は、この点も考慮した上で、大きめに作られています。

最近では国産のビジネスジェット開発においてサブスケールモデル機を用いて空気の流れを可視化し、今までにないような効率のよい機体の開発に成功しています。

6. ドライレイクベッドにおける試験状況について

今回の試験にはドライレイクベッドを用いました。ドライレイクヘッドとは、その名の通り干上がったフラットな湖底が数kmにわたって広がっている場所です。風速条件に左右されやすいサブスケールモデル機の離着陸を行うのに適した土地環境で、上空飛行中に予想外のことが起こってもどこへでも着陸できるというメリットがあります。飛行機の試験に最適なため、多くの実験機の飛行場はドライレイクベッドの中に作られるほどです。ただし雨季には水が溜まりやすいため、悪天候の年にはなかなか実験できないなどの状況が生じます。

今回の実験において、ようやく条件が揃い、初めてフライトが成功したとき、関係者は早朝冷え込むドライレイクベッドで肩をたたき合いました。工学的に計画された実験ではありますが、フライト成功を喜ぶシーンは初めて作ったラジコン模型を飛ばした子供と同じように、歓喜であふれるものでした。その後は何度もフライトを繰り返し飛行が確実であるものと確証を得ました。

7. 次世代Sungliderへの道:フライト成功のその先へ

ソフトバンクでは今回のサブスケールモデル機のフライト成功を経て、より高性能となる次世代Sungliderの技術的な実現に確実に一歩進んだと考えています。今後も、機体コンセプトの設計やフルサイズ実機の試作、サブシステムの開発、FAA型式証明取得に向けた検討など、着実な成果を目指して開発を推進していきます。

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