隊列走行における安定した車車間直接通信環境を提供

#コネクテッド #隊列走行 #低遅延通信 #アンテナダイバーシティ

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1. 隊列走行に必要な通信

ソフトバンクでは、高速道路でのトラック隊列走行に関する研究開発や、自動運転・隊列走行BRT(Bus Rapid Transit)に関する実証実験といった、5Gを活用した車車間直接通信技術(V2V:Vehicle to Vehicle)の実用化に向けた取り組みを行っています。
参考:「物流の未来へ。ソフトバンクの「トラック隊列走行」実用化への挑戦
参考:「JR西日本とソフトバンクの「自動運転・隊列走行BRT」開発プロジェクト、専用テストコースでの実証実験を完了し公道での実証実験を開始

隊列走行には、低遅延が求められる車両制御系の通信と、低遅延かつ大容量が求められる映像監視系の通信が必要です。車両制御系の通信では隊列制御に関わる位置情報や速度情報、操舵情報などを車両間で互いに共有し、映像系の通信では安全確認のために後続車両の周囲や車内などの複数の映像を先頭車両へ伝送します。

低遅延通信と大容量通信 | 隊列走行における安定した車車間直接通信環境を提供

2. 車車間通信の種類

車車間通信には、車載端末が5GやLTE等のネットワーク経由で通信するV2N2V(Vehicle to Network to Vehicle)と、ネットワークを介さずに直接通信するV2Vがあります。V2Vの周波数として、広帯域*1であり、低遅延かつ大容量の通信が期待できるミリ波(mmW)の活用が検討されています*2。車車間通信は安全性に関わるため、通信が途切れないように複数種類の通信手段で冗長化することが重要です。
この記事では、V2Vで発生する問題とそれを解決するアンテナダイバーシティ技術について紹介します。

*1: ソフトバンクに割り当てられている5G向けの29GHz帯の帯域幅は400MHz
*2: 「Working Party 5A Draft new Report ITU-R M.[CAV] Connected Automated Vehicles (21 Sep 2023)」ではミリ波の活用を議論中

V2N2VとV2Vの違い | 隊列走行における安定した車車間直接通信環境を提供

3. アンテナダイバーシティが解決する通信品質の低下

・路面等の反射による電波干渉

市街地における一般的な基地局-端末間通信は、基地局のアンテナとスマートフォンやモバイルルーターなどの端末のアンテナが互いに目視できない見通し外環境(NLOS)であることが多く、さまざまな箇所で反射や回折した複数の電波が届きます。さらに、基地局-端末間で物体が動くため、電波の伝搬環境は時々刻々と変化します。
一方、V2Vの通信は、端末のアンテナが互いに目視可能な見通し内環境(LOS)です。この場合、反射などをせずに届く直接波以外に、路面や道路構造物、周辺車両等で1回から数回だけ反射した強い反射波が常に届く伝搬環境となるため、電波干渉が問題です。
反射波は車間距離がある程度広くなると、直接波との到来角度差および受信電力差が小さくなるため、アンテナを設置する位置関係に基づく位相差により、直接波と反射波による合成波の受信電力が大幅に低下する箇所が生じます。その結果、合成波の受信電力が先頭車両の背面で反射面に対して垂直な方向へ周期的に変化する現象が生じます。

基地局-端末間通信とV2Vの違い | 隊列走行における安定した車車間直接通信環境を提供
V2V通信の電波干渉 | 隊列走行における安定した車車間直接通信環境を提供

・アンテナダイバーシティによるアンテナ構成最適化

電波干渉による無線通信品質の劣化を低減し、安定したV2Vの通信環境を提供するため、ソフトバンクはアンテナダイバーシティ技術に着目しました。アンテナダイバーシティは、複数のアンテナを用いて電波を送受信することで通信品質を向上させる技術であり、アンテナ構成の最適化が重要です。
合成波の近似式を解くことにより、反射面に対して垂直な方向における合成波受信電力の変動周期は、使用する周波数や車間距離、送信アンテナと反射面との距離などで決定することが明らかになり、実験でも確認できました。次のグラフは路面反射の例を示していますが、側壁や側方車による側方反射でも同じ結果となりました。

「車間距離」対「合成波受信電力の周期」と「送信アンテナと反射面との距離」対「合成波電力の周期」 | 隊列走行における安定した車車間直接通信環境を提供

“車間距離” 対 “合成波受信電力の周期”  “送信アンテナと反射面との距離” 対 “合成波電力の周期”

その結果、アンテナダイバーシティに用いるアンテナ間の最適な離隔距離を求めることが可能になりました。最適なアンテナ離隔距離の一例として、車間距離が一定の場合は、変動の1/2周期(半周期)の奇数倍とすることで、一方のアンテナでの無線品質劣化をもう一方のアンテナで補うことができます。車間距離が変化する場合は、その範囲で別途最適化*3が必要になります。

*3: ソフトバンクが特許取得済みの技術を活用

車間距離一定時における垂直方向の合成波受信電力の例 | 隊列走行における安定した車車間直接通信環境を提供

車間距離一定時における垂直方向の合成波受信電力の例

4. アンテナダイバーシティ構成の実験結果と有効性評価

・V2V実験構成

実験では、路面反射波と側壁や側方車両による側方反射波を考慮し、斜め配置の2アンテナダイバーシティ構成としました。車間距離が変化するため、15±5mの範囲で、各アンテナの直接波と反射波の位相差が負の相関となるよう、アンテナの離隔距離を最適化しました。
先頭車両には、車内に車載無線機と、2アンテナダイバーシティ構成のミリ波アンテナを、後続車両には、車内に車載無線機と、車外に2アンテナダイバーシティ構成のミリ波アンテナを設置しました。ミリ波アンテナについて、先頭車両は複数のビームから最適なビームを選択するアンテナ、後続車両はビーム選択機能のない一般的な指向性アンテナを用いています。
2台の車両は、有人による手動運転でカーブを含む約1.1kmのルートを走行しました(速度は20km/h)。

2アンテナダイバーシティ構成 | 隊列走行における安定した車車間直接通信環境を提供

2アンテナダイバーシティ構成

実験構成概要 | 隊列走行における安定した車車間直接通信環境を提供

実験構成概要

走行ルート概要 | 隊列走行における安定した車車間直接通信環境を提供

走行ルート概要

・実験結果

片道伝送遅延時間(One-Way Latency)について、CCDF(相補累積分布関数)1%値で比較すると、アンテナダイバーシティなしの場合(凡例赤色)は送信エラーに伴う再送により約2.5sと大きくなりますが、アンテナダイバーシティありの場合(凡例青色)は約6.3msという結果が得られました。統計処理前の遅延データと併せて見ても安定的かつ低遅延なV2Vの通信環境を提供できることが確認できました。
スループットについて、CDF(累積分布関数)1%値で比較すると、片道伝送遅延時間と同様にアンテナダイバーシティありが優位で、約52.5Mbpsという結果が得られました。実験では、装置の出力制約等によりMCS(Modulationand channel Coding Scheme)を低く設定し、1CC(Component Carrier、100MHz)のみの使用としましたが、受信電力が十分に高く、より高次の変調方式で複数CCを束ねることで、複数の高精細映像やセンサーローデータの伝送も可能な数百Mbps~Gbps級の大容量伝送も可能と考えています。

片道伝送遅延時間の比較 | 隊列走行における安定した車車間直接通信環境を提供

片道伝送遅延時間の比較

E2Eスループットの比較 | 隊列走行における安定した車車間直接通信環境を提供

E2Eスループットの比較

以上のように、アンテナ構成を最適化したアンテナダイバーシティ技術を用いることにより、無線品質の劣化を抑制し、安定したV2Vの通信環境を実現できることが実証されました。この技術により、物流・運送業界で起こる2024年問題の解決手段として注目されている自動運転トラックやバスの効率的な運行を実現することが期待されます。
ソフトバンクは、今後も次世代モビリティ社会の実現に向けて、車車間通信をはじめとするさまざまな技術の研究開発を推進していきます。

Research Areas
研究概要