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物流の未来へ。ソフトバンクの「トラック隊列走行」実用化への挑戦

物流の未来へ。ソフトバンクの「トラック隊列走行」実用化への挑戦

第5世代移動通信システム(5G)の商用化によって、あらゆる産業が再定義されるとされています。その代表例の1つが自動運転分野。2019年6月、ソフトバンクは新東名高速道路で、5G通信を使用したトラック隊列走行の実証実験を実施し、車間距離自動制御を行うことに、世界で初めて成功したことを発表しました。

世界初、高速道路で5Gの車両間通信を用いた車間距離自動制御の実証実験に成功

この実証実験が、未来の産業においてどのような活用が期待されているのか、また5Gの通信技術がどのように活用されているのか、実験内容をひも解きながら解説します。

目次

物流における社会問題を解決する次世代テクノロジー

少子高齢化に伴う労働力減少が加速し、トラック運送に従事するドライバーの年齢構成も徐々に高齢化する中で、ドライバー不足が深刻な社会問題となっています。その解決策として注目されているのが「トラック隊列走行」です。先頭車両は有人運転で、後続する車両が無人で追従することで、多くの荷物を少ないドライバーで輸送することができるようになります。

他にも隊列走行には、さまざまなメリットが期待されています。先行車からの操作制御により車間距離を短くすると、空気抵抗が減るほか、車両速度が一定になり速度変化が減少するため、単独でトラックが走った場合に比べて燃費消費の改善が見込まれます。さらには安定した車間距離で走行することによる道路の渋滞緩和や、ドライバーの労働環境改善などの効果も見込まれます。隊列を解除すれば、それぞれのトラックが独立して走行できる柔軟性も兼ね備えています。

このトラック隊列走行は、ドライバー不足を解決すると同時に、経費削減と効率化を実現できる、まさに次世代のテクノロジーなのです。

  • 先行研究によると、隊列走行による燃費消費の改善率は、車間距離2mで約25%、4mで約15%と報告されています。

「トラック隊列走行」実現のカギを握るのは “5G通信”

「トラック隊列走行」とは、複数のトラックが “協調” して走ることを指します。トラックの隊列を安定して形成・維持するためには、自動運転技術に加えて、隊列を構成するトラック同士が通信を行い、瞬時に必要な操作制御を行うことが求められます。

一般的に、前方を走る車がブレーキを踏んで減速すると、それを認識した後続車のドライバーがブレーキを踏んで減速しますが、隊列走行の場合は先頭車両が減速すれば、そのブレーキ操作が瞬時に後続車両に伝わり、人間が操作するよりも素早く減速されます。車両同士の通信をいかにリアルタイムに行えるかが非常に重要な要素であり、このカギとなるのが5Gの特長を活用した通信です。

「トラック隊列走行」の通信の仕組み

ソフトバンクが行っている実験は、総務省の平成30年度5G総合実証試験の「高速移動時において無線区間1ms、End-to-Endで10msの低遅延通信を可能とする第5世代移動通信システムの技術的条件に関する調査検討」に基づく、「公道でのトラックの隊列走行、車両の遠隔監視・遠隔操作に関する 実証」として進められており、二つのユースケース(Use Case)での活用が期待されています。

ユースケース①:後続車の車両制御と周辺映像監視

ユースケース①:後続車の車両制御と周辺映像監視

ユースケース②:車両の遠隔監視・遠隔操作

ユースケース②:車両の遠隔監視・遠隔操作

トラック隊列走行は、前述のように隊列を構成するトラック同士が互いの情報を共有しながら走行します。その通信手段には、基地局を経由して車両間通信を行うV2N2V(Vehicle to Network to Vehicle)と、トラック同士が直接通信する、V2V(Vehicle to Vehicle)の2種類あります。

ではトラックの走行中、どのようなデータがやり取りされているのでしょう?

データは大きく2種類に分けられます。一つは、車両の位置情報や加減速情報、制動情報、操舵情報などの車両制御系の通信。各車両がハンドル操作やブレーキ操作を行う際、数十バイト(Byte)から数百バイトの小容量のデータが頻繁にやり取りされます。

もう一つは、後続車の周囲を監視するなどの映像監視系の通信。後続車からドライバーがいる先頭車両へリアルタイムに映像が送信されます。ユースケース②のように遠隔監視を行う場合は、先頭車両と後続車両の両方から遠隔運行管制センターへ映像が送信され、遠隔運行管制センターはこの映像を見ながら隊列走行の監視を行います。

トラックにカメラを搭載し、リアルタイムで映像を送信

車両制御系の通信
(小容量・低遅延)

  • 数十から数百バイト(Byte)のメッセージデータ
  • 車両の位置情報や加減速情報、制動情報、操舵情報など
  • (遠隔制御時の)緊急停止命令

映像監視系の通信
(大容量・低遅延)

  • 数十Mbpsのリアルタイム映像データ
  • 後続車の周囲を監視、ドライバーがいる先頭車両へ映像を送信

さらに、基地局を経由して通信を行うV2N2Vと、トラック同士が直接通信するV2Vの二つの通信手段は併用可能です。

もし何らかの理由でV2N2Vの通信が途切れてしまったら、後続車両を制御できず前方車両に衝突し、事故につながります。そのような事態を防ぐため、V2V通信によって後続車に制御信号を送信し、安全に車両を停止させます。

他にも、先頭車両のドライバーの身に何らかの異変が生じた場合に、遠隔運行管制センターからトラックに緊急停止信号を送信することを想定して、V2N通信でのユースケースも検証して、安全な運行に備えています。

隊列走行における通信の要求条件

隊列走行における通信の要求条件

トラック同士の通信課題を解決する二つの技術。− ① 5G-NR Sidelink

V2V通信を実現する、車載アンテナを搭載したトラック

5Gの新たな無線方式として検討が進められている、さまざまな技術仕様の中で、5G独自の技術を「5G News Radio(5G-NR)」と呼んでいます。

従来、5G-NRの実験で用いられる装置は、基地局から端末へのダウンリンク(Down Link:DL)と端末から基地局へのアップリンク(Up Link:UL)の基地局を経由した通信しかありませんでした。そのため、端末同士が通信するには、必ず基地局を経由して通信することになります。

そこで、基地局を経由せずに、端末同士が直接通信できるようにするため、2018年に5G-NR実験用試作機(5G-NR Sidelink実験用試作機)を開発しました。本試作機は4.5GHz帯の周波数を用いており、5G-NR Sidelinkは、先頭車両から後続車両に対する通信(Back Link:BL)と後続車両から先頭車両に対する通信(Forward Link:FL)の2方向で構成されています。

世界に先駆けた取り組みに成功!

2019年に行われた5G-NR Sidelink実験試作機の屋外フィールド実験では、基地局経由での通信(DL・UL)と車両間の直接通信(FL・BL)の双方で、無線区間の伝送遅延が1ms(ミリ秒)以下となる超低遅延通信による、車間距離の自動制御に世界で初めて成功しました。

車両間直接通信の計測結果 Sidelink FL/BL

基地局経由の通信の計測結果 Uu UL/DL

  • 5G-NR Sidelink は、3GPP Release 16として2020年3月以降に標準化予定ですが、標準化前に世界に先駆けて実証試験用の試作機を使用して実験を行い、成功しました。

トラック同士の通信の課題を解決する二つの技術。− ② ヌルフィル化技術

隊列走行中はトラック同士が移動しながら無線通信を行っています。移動しながらの通信となるため、トラックに取り付けられた送受信アンテナの位置関係は、刻々と変化していきます。

特に28GHz帯のような非常に高い周波数を利用する場合には、4.5GHz帯での周波数帯とは異なり解決しなければいけないアンテナ技術の課題がありました。

ここで少しだけアンテナから送出される電波の特徴について知っておきましょう。

アンテナのタイプにもよりますが、28GHz帯のような伝搬損失の大きな高い周波数帯で一般的に用いられるアンテナは狙った方向により強く電波を送出するために指向性を持っています。しかし、このような指向性を持つアンテナは、一部の方向で信号の送受信レベルが極端に低下してしまう「ヌル点(null)」と呼ばれる方向が存在します。例えば、携帯電話の電波の受信強度が急に弱くなる場所があるという表現だとイメージしやすいでしょうか。

一定の距離・スピードを維持した状態でまっすぐ隊列走行しているときには安定した通信が行われていたとしても、カーブ時や車線変更時に、トラックに取り付けられたアンテナの位置関係に変化が生じてしまいます。このときの位置関係によってはヌル点同士の通信になる場合があり、その結果として受信レベルが大幅に低下し、通信が遮断する可能性があります。通信が途絶えると、トラック同士の連携ができず、事故につながってしまう可能性が大いに考えられます。

そこで、カーブ時のヌル点による影響を回避・低減するため、2017年度はデジタルビームの形成による試験を行い、成功しました。しかし、実際の車両に実装することを考えると、消費電力や装置規模、コストといった実用面での問題があったため、さらに検討を重ねて、より簡易で低コストの技術として、2018年度はアンテナの方向によって電波の強度が変化しにくい「ヌルフィル化技術」を活用したアンテナを独自に開発しました。カーブや車線変更におけるデータの送受信でも、安定した通信品質が維持できることを確認しました。

「トラック隊列走行」の実用化に向けた取り組み

これまで、日本自動車研究所城里テストセンターのテストコース、新東名高速道路で実証実験を行いました。

自動車会社の車両性能評価実験でも使用される日本自動車研究所の城里テストコースでは、後続車監視のための映像伝送試験を実施。4G/LTEに比べて、低遅延でよりリアルタイムな映像伝送ができることを確認しました。さらに、アンテナ実装上の課題を解決するために、送受信アンテナの位置関係が問題となる車線変更とカーブにおける試験で、ヌルフィル技術を搭載したヌルフィルアンテナの適用効果を検証。結果、従来アンテナでは車線変更時に通信の瞬断が発生する一方で、ヌルフィルアンテナではカーブ区間・車線変更時に通信の瞬断を防止できることが確認できました。

2019年2月には、5G-NR Sidelink(4.5GHz帯)を通信回線として、車両間制御信号の伝送を実証。新東名高速道路での実証実験では、5G-NR Sidelink は 4G/LTE に比べて、End-to-Endでの到達時間を約50ms前後短縮できることを確認しました。

そして2019年2月 、一般車両が走行する高速道路(公道)という実用的な環境下で、試験区間でのCACC(Coordinated Adaptive Cruise Control、協調型車間距離維持制御)による隊列走行を実証。新東名高速道路の試験区間(約14km)を時速約70kmで走行する、3台のトラックの車両間で、5Gの車両間通信(4.5GHz帯使用、無線区間の伝送遅延1ms以下)を用いて、位置情報や速度情報などを共有し、CACCによる隊列維持に成功しました。

隊列走行技術は、実証実験を重ねるごとに進化し続けています。2020年には、高速道路での無人後続車無人による隊列走行の成功に向けて、自動運転に関連する研究開発が進められています。

(掲載日:2020年3月6日)
文:ソフトバンク株式会社 先端技術開発本部
編集:ソフトバンクニュース編集部