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6G時代の周波数「テラヘルツ」を用いた屋外のエリア構築に成功
〜未来の車両通信を見据えたエリアを実現〜

#6G, #光無線/テラヘルツ, #コネクテッド

1.6Gに期待される新しい周波数「テラヘルツ」

5Gの商用サービスが開始されて4年以上が経ち、6Gは2030年頃に商用サービスが開始されるだろうと予想されています。6Gでは、5Gの3つの特長の1つとしていわれていたeMBB(高速通信)の拡張として、100Gbpsを超える最大通信速度が期待されています。
この100Gbpsを達成するためには、新しく広い周波数の開拓が必要で、6Gではこれまで使われていなかったテラヘルツ帯(100GHz - 10THz)を利用するため、世界中で多くの研究開発が進められています。

ソフトバンクの先端技術研究所では、6Gで活用が期待されるテラへルツ通信の実用化に向けた研究開発を行っています。特に、スマートフォンでテラヘルツ通信を利用できるエリアの構築を目指して、これまで屋内・屋外で電波の伝搬特性を検証する実験を行ってきました [1]

テラへルツ波はその周波数の高さから、伝搬損失が大きいことが知られています。そのため、高いアンテナ利得を持つ、ビーム状の電波による固定通信(バックホール通信)や、タッチ決済のような近距離の通信というユースケースが検討されてきましたが、ソフトバンクでは、テラヘルツ通信をこれまでのモバイル通信と同じように、広いエリアで自由に使いたいという想いでユースケースの検討を進めてきました。

これまで考えられてきたテラへルツのユースケースを示すイメージ|ソフトバンク 先端技術研究所

図1. これまで考えられてきたテラへルツのユースケース

現在でもすでに、通信をする端末はスマートフォンやIoT機器にとどまらず、ロボットや車なども通信を利用する時代です。我々は、将来この需要がさらに高まり、通信容量・通信速度もさらなる高度化が必要になると考えました。この度、将来のコネクテッドカーがテラヘルツ通信を利用するというユースケースを想定し、走行する自動車向けのテラヘルツ通信のエリア構築を行いました。

2. 6G時代の自動車向けテラヘルツエリアの構築

将来、自動運転車両やコネクテッドカーが普及すると、車自体が通信をするための高速大容量通信が必要になる可能性があり、現在の無線ネットワークでは通信が逼迫すると予測されます。例えば、自動車が取得した膨大な情報をネットワークにアップロードするための通信や、地域ごとに高精細な地図情報のダウンロードが必要になるかもしれません。テラへルツ通信を活用することで、飛躍的に通信容量を増やすことができ、これらの需要に対応した通信を実現できると考えています。
またテラヘルツ帯は電波の伝搬損失が大きいという課題がありますが、直線道路にエリアを限定することで、電波の分散を極力抑えることができるため、エリアを比較的広く取ることが可能になります。

車両向けテラへルツ通信のイメージ|ソフトバンク 先端技術研究所

図2. 車両向けテラへルツ通信のイメージ

3. テラヘルツ通信の実用化に向けた技術的課題

従来、スマートフォンのような端末には無指向性のアンテナが採用されていました。しかし、伝搬損失の大きいテラへルツにおいては、無指向性アンテナを用いると電波の広がりが大きすぎて通信に必要な電力が確保できないという問題があります。そのため、通常は電波のエネルギーを集中させたビームを端末に向けて、端末を追従することで通信を維持する技術(ビームフォーミング)が採用されていますが、周波数の帯域幅が広くなると、ビームの追従制御のために巨大な装置が必要になるという課題があります。そこでソフトバンクは、ビームを制御せずにエリアを設計するために、電力の分散を抑えつつ、なるべく広いエリアをカバーすることができるアンテナを開発しました。

テラへルツエリア設計の課題|ソフトバンク 先端技術研究所

図3. テラへルツエリア設計の課題

4. コセカントビームアンテナの開発

前節の課題に対し、我々はコセカント2乗ビーム特性(以下、コセカント2乗特性)を応用したエリア構築を検討しました。コセカント2乗特性とは、航空レーダーで利用されている技術であり、高低差のある送受信アンテナの水平距離にかかわらず、基地局および端末それぞれの受信電力が一定となる特性を指します。具体的には、基地局と端末のアンテナの利得の乗数をアンテナのなす角θに対するコセカント2乗とすることで、距離による減衰を打ち消すことができます。
従来の発想では、単にアンテナの指向性をコセカント2乗ビームにすることでこの特性を得ることができました。しかし、テラへルツ帯はその波長の短さから、無指向性のアンテナの実現が難しいため、基地局と端末それぞれのアンテナのビームパターンをコセカント1乗ビームにすることで、コセカント2乗特性をもつエリアの構築を行いました。
結果として、双方最大20 dBi程度のアンテナ利得を保持しつつ、基地局の近くからエリアの端まで受信電力がほぼ一定のエリア構築を行うことができました。

コセカント2乗特性の原理|ソフトバンク 先端技術研究所

図4. コセカント2乗特性の原理

図5は、今回我々が開発したコセカント1乗ビームのアンテナ(以下、コセカントアンテナ)です。300 GHzは波長が1mm程度とかなり短いため、アンテナサイズも小さくすることが可能で、手のひらサイズでの開発に成功しました。

Beyond5G/6G時代の周波数「テラヘルツ」のエリア化を目指した、屋外実証実験に使用された300GHzコセカントアンテナ|ソフトバンク 先端技術研究所

図5. 300 GHzコセカントアンテナ

5. 6Gの実現に向けた屋外実証実験の実施

コセカントアンテナで300 GHzの無線エリアが形成できることを確認するため、東京都港区にあるソフトバンク本社の近隣にて屋外実証実験を実施しました。今回の実証実験では、5Gのエリアを測定する機材でエリア測定を可能にするため、 5Gの変調信号を300 GHzに変換し、300 GHzの状態でエリアを構築しました。
測定車に搭載した機材でテラヘルツを5G周波数に変換し、5Gの基地局から送信される報知情報を復調することでエリアの広さを確認しました。基地局側の送信アンテナを地上から約10mの高さの歩行者用デッキに、端末側の受信アンテナを測定車の上に設置し、車で走行しながらエリアの測定を行いました。

Beyond5G/6G時代の周波数「テラヘルツ」を用いて未来の車両通信を見据えたエリアを実現しているための実験風景|ソフトバンク 先端技術研究所

図6. 実験風景

結果として、基地局からの水平距離10-140 mのエリアで報知信号の復調に成功しました。今回の実験では道路の距離の制限で140mまでの測定になりましたが、受信電力を見ると、通信限界まで余裕があるため、さらに長距離のエリア化が可能であることがわかりました。

Beyond5G/6G時代の周波数「テラヘルツ」を用いて直線道路でエリア化に成功した実験結果|ソフトバンク 先端技術研究所

図7. 直線道路でエリア化に成功した実験結果

6. まとめ

今回の実証実験で、これまで固定通信や近距離通信といった用途が多く考えられていたテラヘルツ通信のユースケースに、新たに走行する車両向けの高速通信というユースケースを提案し、その実現可能性を示しました。
我々は今後も、6G技術の実用化に向けてさまざまなユースケースの検証を行うなど、技術研究の中で多くの知見を得ることで、デジタル社会の実現に向けて貢献していきます。

参考文献

[1] Beyond 5G/6Gに向けて、テラヘルツ波を活用した屋外での通信エリア構築の検証に成功
[2] 移動通信でのテラヘルツ帯の利用に向けた取り組み

Research Areas
研究概要