- 01.テラヘルツ通信のための通信規格
- 02.テラヘルツ通信の実現に向けた世界の動向
- 03.テラヘルツ通信のユースケース
- 04.次回予告:ソフトバンクのテラヘルツ通信への挑戦
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テラヘルツ 連載シリーズ:第2回 テラヘルツの通信規格とそのポテンシャル
#6G #光無線/テラヘルツ #テラヘルツ
2024.12.06
ソフトバンク株式会社


Blogsブログ
前回の記事では、テラヘルツとは何か?テラヘルツの過去の使われ方とこれからの応用についてご紹介しました。
本記事ではテラヘルツを使った通信技術について、詳しくご紹介しようと思います。

2024.09.19
Blog
テラヘルツ 連載シリーズ:第1回 テラヘルツとは何か
#6G #光無線/テラヘルツ
1. テラヘルツ通信のための通信規格
将来、通信技術を実用化する上で欠かせないのが通信規格です。モバイル通信の世界ではLTEや5G-NRなどの規格がモバイル通信業界の団体である3GPPで標準化され実用化されています。
また、テラヘルツに関する通信規格としては、2017年にいち早くIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)というアメリカの技術標準化機関で 802.15.3D規格が作られました。通信事業者が集まる3GPPでは、セルラーネットワーク全体の標準化を進め、コアネットワーク、アクセスネットワーク、端末のアーキテクチャーにわたる詳細な仕様が策定されます。一方、IEEEのワーキンググループでは、デバイスメーカーや大学と連携し、物理層、データリンク層、アクセス制御などの技術仕様の標準化が早期に進められています。3GPPとIEEEは相互に影響を与えつつ、連携して活動しています。
IEEEが標準化した通信規格としてよく知られているのが、無線LANの規格である、Wi-Fi® です。802.11ac、802.11ad など高速無線通信の規格が、IEEEの802ワーキンググループで制定されました。
今般の802.15.3Dは、300GHzの周波数帯をターゲットにしており、高速・高容量通信の実現に向けた具体的な規格を提供しています。IEEE 802.15.3Dの主な特徴には、広帯域チャネルの確保と高効率なデータ伝送技術があります。この規格は、短距離通信における高速データ転送を主眼に置いており、最大100Gbpsに近い速度を目指して2017年に制定されました。
さらに、この規格の標準化プロセスでは、多くの技術的課題が議論されています。例えば、300GHz帯の高周波数特性に伴う信号減衰の問題や、指向性アンテナとビームフォーミング技術の必要性などです。まだ802.15.3Dは規格段階であるため、これらの課題に対応してテラヘルツを実用化するために、研究者たちは新しい材料技術や回路設計、エネルギー効率の改善策などを模索しています。

図1. IEEE 802.15.3Dで定義されているチャネル定義
2. テラヘルツ通信の実現に向けた世界動向
2019年の世界無線通信会議(WRC-19)は、テラヘルツ帯域の利用について重要な決定を下した場として注目されました。WRCは国際電気通信連合(ITU)が主催するもので、世界中の規制機関や通信業界の代表が集まり、無線通信の規格や政策を協議する場です。WRC-19では、特に275GHz以上の周波数帯に対する利用規則が制定されました。先に説明した3GPPやIEEEなどの取り組みも、WRCで各国の主管庁が合意した上で使えるものになるのです。
会議では、テラヘルツ帯の具体的な周波数レンジの割り当てや、異なるサービスが干渉しないようにするためのルールが議論されました。例えば、天文観測とテラヘルツ通信が共存するための技術的なガイドラインが設定されています。また、各国の周波数割り当て方針や商業利用に関する規制も明らかにされました。
結果として、100GHzから450GHzの間の周波数のうち、合計 234.5GHzもの周波数幅が通信用途として特定されました。2024年11月時点で日本のモバイル通信事業者に割り当てられているサービス用の周波数幅は、4社合計でも3GHz幅程度であることを考えると、その80倍もの周波数を使える可能性が現れたことになります。

図2. WRC-19の結果の周波数マップ
世界各国において、6Gに向けたテラヘルツ帯の商業利用の期待から、テラヘルツの通信利用に向けた研究開発が盛んに開始され、日本でも総務省やNICTの研究開発支援により多くの研究開発が進められてきました。
ソフトバンクでは、特にテラヘルツ帯をモバイル通信で活用する未来を目指して研究開発を進めてきました。
2024年に開催されたWRC-23では、他の周波数帯の喫緊な実用化要請があったことから、100GHz以上の周波数帯のモバイル利用に向けた議論は4年後のWRC-27以降に行われることが決定され、モバイル利用としてのテラヘルツ通信の実用化時期は多少延期された状況となっています。
しかしながら、将来の超高速通信を実現するためには、テラヘルツ帯の開拓は不可欠と考えられており、モバイル利用に限らず、広い分野でのテラヘルツ通信の研究は引き続き行われています。
3. テラヘルツ通信のユースケース
通信速度の理論値はシャノンの定理で計算することができ、信号の電力、雑音の電力と周波数帯域幅によって決定されます。例えばBにテラヘルツ帯で利用可能な帯域幅10[GHz]を代入し、デジタル通信で十分なS/N比=10(=10dB)程度があったとすると34.6Gbps程度、通信環境が良好な場所(S/N比=1000(=30dB))では49.5Gbps程度の通信が可能となり、加えてMIMO技術やビームフォーミング技術、符号化技術などを適用することで、さらに高速なデータ通信が可能となります。
2章で紹介したように、テラヘルツ帯は広い周波数を確保しやすいため、今までにない超高速のデータ通信を可能にします。将来的に、テラヘルツ通信は1Tbps(テラビット毎秒)を超える速度を実現することができると期待されており、これは現在の5G技術をはるかに凌駕するものです。

式. シャノンの定理
また、テラヘルツ通信が実用化されると、これまで無線化できていなかったものが無線化できるようになる可能性もあります。例えば生活の中では、テレビやモニターのHDMIケーブルやLANケーブル、USBケーブルまで全てのケーブルをエコにワイヤレス化することも期待されます。
産業分野では、データセンターにある束になった通信ケーブルの削減や、基地局の建設に必要な光ファイバーの無線化など、あらゆるケーブルの削減が期待できます。
現在、実験ではテラヘルツ通信は100Gbpsを超える通信速度が達成されており、将来的にはさらなる高速化が予想されています。ただし、高周波数帯ゆえの信号減衰や空間伝搬の問題、また高コストな機器の導入といった課題も存在します。それでも、テラヘルツ通信がもたらす可能性は非常に大きく、次世代の通信技術としての期待が高まっています。
また、前回の記事でご紹介したように、高い周波数の特徴として、通信だけでなく無線センサーとしても利用されており、すでに海外の空港のセキュリティーチェックでは、テラヘルツ帯の電波を使ったボディースキャンが行われている事例があります。将来的にテラヘルツ帯で通信をしながら環境モニタリングをするなど、新しい電波の使い方が期待されています。
4. 次回予告:ソフトバンクのテラヘルツ通信への挑戦
テラヘルツ通信は、従来の通信技術では到達できなかった領域を開拓しつつあります。高周波数帯域の利用により、超高速かつ大容量のデータ通信が可能で、私たちの生活や産業に大きな変革をもたらす可能性があります。
しかし、その実現にはさまざまな技術的な課題が存在します。例えば、周波数帯域幅を増やすとその帯域に含まれる雑音・ノイズの量も増えることになります。このため高い信号電力が必要となりますが、高い周波数は空気中を伝わる際の減衰が大きいことや、アンプの効率が低いことから信号電力を上げることが、既存の周波数に比べて困難です。
この電力の低さを補うために、Massive MIMOやビームフォーミングなどのアンテナ技術の研究が多く行われていますが、電波の波長が短く、素子が非常に小さいという特徴があるため、アンテナ一つにしても、高い加工精度が求められます。
これらの観点から、テラヘルツ通信は非常に近距離(人体の周辺程度)でしか実用化が難しいと言われてきました。ソフトバンクでは、テラヘルツのモバイル利用に向けて、これらの課題を解決する取り組みを行っています。
次回の記事で、ソフトバンクの取り組みについてご紹介します。