Topicsトピック
- 2025.08.01
- Blog
- -
Activators Talk【グローバル編】グローバル連携を牽引するAI-RAN研究者の視点
#AI-RAN #その他 #社員紹介 #ActivatorsTalk #AI
<プロフィール>
研究者として歩む理由 ― 技術に導かれたキャリアの軌跡
―技術、とりわけ通信に興味を持ったきっかけを教えてください。
高校生の頃、私の母国・韓国では「日本の技術は韓国より10年進んでいる」と言われていました。
そんな日本で学びたいという思いがあり、高校卒業後に日本の大学へ留学しました。
そして2011年、iPhone 4Sが登場した当時、私は家族と離れて暮らしており、メッセンジャーアプリが大切な連絡手段でした。
しかし、地下鉄に乗ると通信が途切れ、メッセージが送信されないまま数秒が過ぎる――その短い時間が、驚くほど長く感じられたのを今でも覚えています。
この「つながらない」体験が、通信技術への興味を芽生えさせました。
「なぜ通信は止まるのか」「どうすればもっと快適につながるのか」――そうした疑問が、通信の仕組みをもっと知りたいという気持ちにつながり、気がつけば、それが研究を始めるきっかけになっていました。
―大学ではどんな研究に取り組まれていたのでしょうか。
学部2年生の頃から通信工学に興味を持ち始め、3年生になると通信分野の研究室に所属しました。
大学院では、モバイルシステムの省電力化をテーマに、基地局を構成する装置同士を効率よく協調させて制御する手法について研究を進めました。
従来は、基地局の各装置がそれぞれ独立に省電力制御を行っていましたが、両者を連携させて動作させることで、より無駄のない省電力制御が可能になるのではないかと考えました。
こうした協調制御の仕組みを設計・検証することで、通信システム全体としての消費電力を効果的に抑えることを目指しました。
―ソフトバンクへ入社した決め手は何でしたか。
韓国での兵役を終えた後、本格的に就職活動を始め、ソフトバンクに入社しました。給与や福利厚生、勤務地といった条件ももちろん考慮しましたが、日本での留学経験も活用しながら、視野を広げてグローバルな企業にも目を向けていました。
その中でも特に惹かれたのが、ソフトバンクの企業理念である「情報革命で人々を幸せに」です。私は、誰かを支え、その人が喜ぶ姿にやりがいを感じるタイプであり、この理念には自分の価値観と通じる部分があると感じました。
また、大学院で取り組んできた通信分野の研究を活かしながら、社会に貢献できる場を求めていたこともあり、通信系の企業や研究機関を中心に応募を進めていました。そうした中で、ソフトバンクから最初に内定をいただけたことも、入社の後押しとなりました。
―先端技術研究所へはどんな印象を持っていましたか。
大学院では、通信インフラに関する基礎研究を行っていましたが、実社会での応用までにはまだ距離があると感じていました。
そんな中で、ソフトバンクの先端技術研究所について調べるうちに、研究と社会実装との距離が非常に近いことを知り、自分のアイデアが実際のサービスとして形になる可能性があるという点に、大きな魅力を感じました。
AI-RANの中核を担う ― 技術開発の現場から
―入社して1年が経ちました。職場の雰囲気はいかがですか。
入社前に抱いていたイメージと大きな差はなく、働きやすい環境だと感じています。
垂直文化ではなく水平な組織文化で、上司とも気軽に意見交換ができます。
本社ビルの快適さも、日々のモチベーションを高めてくれます。
―現在、主にどのようなテーマに取り組んでいますか。
現在は、AIを活用してRANの性能を向上させる AI for RAN に関する研究プロジェクトに取り組んでいます。
中でも、「サウンディング参照信号の予測(SRS Prediction)」が主なテーマです。これは、基地局が端末に向けて正確にビームフォーミングを行うために、チャネル状態をAIで予測する技術です。
ユーザー端末(UE)の数が増えると、参照信号(SRS)の送信周期が長くなり、特に移動中の端末ではビームフォーミングの精度が低下してしまいます。
そこで、AIを用いてチャネルの状態を予測し、ネットワーク全体の性能向上を図るのがこの研究の目的です。
プロジェクトは、主に5名ほどのメンバーで進めており、私はNVIDIAとの連携窓口として、デモ展示に向けた計画立案やタスク調整、要件定義などを担当しています。
また、SRS Predictionの効果を評価するため、システムレベルのシミュレーションにも取り組んでいます。
さらに、大学との共同研究にも関わっており、会議や質疑応答などの対応も行っています。
―外国企業ともやりとりをすることがあると思いますが、国際連携において苦労した点はありますか。
一番の壁は、時差と英語でした。
日本・欧州・米国という3つのタイムゾーンをまたいだ会議の調整は、時間帯の都合が合わず、スケジューリングだけでも一苦労です。
また、英語でのやりとりでは、ちょっとした表現のニュアンスの違いから誤解が生じることもありました。
現在は、オンライン会議ツールに加えて、ChatGPTでの翻訳も活用しながらやりとりを進め、認識のズレを最小限に抑えるよう工夫しています。
―これまで海外への出張はどれくらいありましたか。
年間でおよそ4〜5回、海外への出張がありました。
主な目的は、AI-RAN Allianceのメンバーミーティングへの参加や、共同研究先である海外大学への訪問です。
Allianceの会合では最新の技術ロードマップを共有し、現地の研究者たちと直接ディスカッションすることで、プロジェクトを加速させています。
大学訪問では教授や学生と共同研究について議論し、進捗確認や研究内容の把握をしています。
対面での議論はオンラインとは違う気づきをもたらし、帰国後の研究開発にも良い刺激になっています。
―プロジェクトを円滑に進めるために心掛けていることはありますか。
「返事は早く返す」ことです。
回答に時間がかかる場合でも、まず「確認します」とひと言返し、相手を不安にさせないようにしています。
会議招集も先に候補時間を提示し、都合が悪ければ調整する方式で主導権を持って進めています。
―AI-RANの研究開発を進める立場から、AI-RANが社会にもたらす価値をどう見ていますか。
10年後には、創業者 取締役の孫が提唱するASI(Artificial Super Intelligence)が実現し、通信の切断や不安定さといった課題は、もはや過去のものになっていると考えています。
AI-RANによって、単に通信が速くなるだけでなく、「いつでも・どこでも・途切れることなくつながる」という、通信の“当たり前”の品質が一層高まっていくでしょう。
たとえば、自動運転や遠隔医療のように、わずかな通信の遅延や断絶が命取りになるような分野でも、AI-RANが通信の信頼性を支える重要な役割を果たすはずです。
AIが通信ネットワークを自律的に最適化することで、これまで人が介入して対応していたような細かな調整もリアルタイムに行えるようになり、社会全体の安心・安全・快適さが大きく前進すると信じています。
世界へ発信する力 ― MWC2025を通じて得たもの
―MWC 2025ではどのような役割を担いましたか。
AI-RAN Allianceの展示エリアに常駐し、展示された複数のデモについて来場者への説明を担当しました。
中でも、NVIDIAのRANエミュレーション基盤「NVIDIA Aerial Research Cloud」を用いた「アップリンクチャネル補間(UL Channel Interpolation)」のデモでは、SNR(信号対雑音比)が低い状況でもAIによってスループットを改善できることを、実機を通じて実演しました。
関連プレスリリース:AI技術によるRANの性能向上効果を実証 ~「AI for RAN」の実現に向けて三つのユースケースを実証~(2025年3月3日)
当初は特定のデモの担当でしたが、最終的にはブース内のすべてのデモについて説明できるようになり、幅広い来場者に向けてAI-RAN技術の魅力を伝えることができました。
MWC2025でAI-RANのデモの説明をする李さん(写真右)
―準備や当日の対応で直面した課題は何でしたか。
ロジスティクス面です。音声解説付きの7分動画を用意していましたが、会場にスピーカーが設置されていないことが前日に判明しました。
急遽PowerPointだけで字幕を6時間で作成し、無音でも内容が伝わる形に仕上げました。
―来場者の反響はいかがでしたか。
「AI-RAN」というキーワードに対して、予想以上に強い関心が寄せられました。技術者だけでなく、一般の来場者からも「このデモ動画はオンラインで見られるのか」「いつ商用化されるのか」といった質問を多くいただきました。
ネットワークをAIが自律的に最適化するという未来像に、多くの人が期待を寄せていることを実感できる機会となりました。
―今回の経験から得た学びを教えてください。
コミュニケーションの重要性を改めて痛感しました。
研究開発は一人では完結せず、多様な専門性を持つ人たちと協力することで前に進んでいきます。
その中で、自分の技術を相手の立場に合わせてわかりやすく伝える力は欠かせないと痛感しました。
技術をわかりやすく翻訳し、相手の立場に合わせて伝える力こそ、グローバルエンジニアに求められる基盤だと感じました。
【コラム】理想のActivatorsとは?
―理想のActivators に最も必要な要素はなんだと思いますか。
「世界とのコミュニケーション」です。
MWCでの経験をはじめ、日々の業務のなかで他社や大学などさまざまなパートナーと連携する中で、コミュニケーションの重要性を何度も実感しました。
どんなに技術力があっても、それを正しく伝えられなければ、プロジェクトは前に進みません。
研究も、社会実装も、加速させるのは結局「人と人とのやりとり」だと思っています。
だからこそ、技術を翻訳し、相手に届く言葉で伝える力が、グローバルなエンジニアには欠かせないと感じています。
その意味で、「世界とのコミュニケーション」という言葉を、理想のActivators像として選びました。