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ACTIVATORS TALK【社会実証編】データから現場へ――AIで社会に価値を届ける技術者の挑戦

#AI-RAN #その他 #社員紹介 #ActivatorsTalk #AI

先端技術研究所の研究員「Activators」が研究・開発や仕事観を語るシリーズ「Activators Talk」。第9弾は、LTM(Large Telecom Model)の国産AIモデル化や、ロボットを対象としたフィジカルAIの実証など、“実環境でAIを動かす”取り組みに挑む小嶺さんにフォーカスします。大学院時代に取り組んだ少量の実データから学習用データを自動生成して物体検出モデルを構築する研究を原点に、必要なデータを自ら作り、検証し、現場で動かし、さらにプレスリリースとして社会へ届ける——若手でありながら実装と発信を一体で担う、そのリアルな挑戦をお届けします。

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AIが現実世界で直面する課題──実環境とデータ生成にまつわる背景

―まず、大学・大学院時代のお話を聞かせてください。どのような研究に取り組んでいましたか?

大学・大学院では物体検出の研究をしていました。具体的には、自分で撮影した5枚程度の少量の画像から、フォトグラメトリ(Photogrammetry)の技術を用いてアノテーション済みの学習データを大量に生成し、それらのデータを用いて物体検出モデルの構築を行っていました。学習においてデータの量はもちろん重要ですが、それ以上にデータの「質」がモデルの精度に大きく影響します。そのため、いかにより高品質なデータを作成するかを常に意識し、データの生成とモデルの学習・評価を何度も繰り返しながら研究に励んでいました。

―研究を進める中で、特に苦労した点は何でしたか?

一番の課題は、そもそもデータがないことでした。私の研究室は博物館と共同研究をしていたのですが、博物館には学習に使えるようなデータがほとんどありません。展示物を何百枚も撮影し、1枚ずつ展示物名とその位置をアノテーションしていく作業は、対象が増えるほど膨大な作業コストがかかります。そうした背景もあり、どうすれば効率的にデータを作れるのかをずっと考えていました。

―その経験は、今の仕事にもつながっていますか?

はい。データがないなら、必要なデータを自分で作るという考え方は、今の開発スタイルの土台になっています。LTM(Large Telecom Model)の取り組みにおいても、日本語向けの学習データはLLMを活用して自動生成しています。現実世界でAIを動かすためには、まずデータと向き合う必要があると強く感じました。

技術で社会に価値を届けるために──キャリアの選択とLTM国産AIモデル化の実装プロセス

―大学院修了後はソフトバンクに入社されていますが、就職活動ではどのような軸で企業を選んでいたのでしょうか?

就職活動では「社会課題を解決できるかどうか」を一番大事にしていました。そのために、新しい技術を積極的に取り入れていて、スピード感を持って挑戦できる環境を探していました。ベンチャー企業も見ていましたが、当時のソフトバンク社員から“ソフトバンクはベンチャー気質がある”という話を聞いて、そこに惹かれました。

―エンジニアとしての就職を考えていたのですね。

はい。高校や大学院でプログラミングや開発を学び、ものづくりの楽しさを知ったことがきっかけで、エンジニアとして、技術を通じて社会に価値を届けたいという想いを抱くようになりました。

―入社後は、まずはどのような業務に携わっていたのでしょうか?

入社後はまずTU(テクノロジーユニット)に配属され、デバイス技術本部に所属しました。ソフトバンクのIoT機器から取得される大量のログデータを、Splunkというデータ分析プラットフォームを使って可視化するダッシュボードを作成していました。開発担当者から直接ヒアリングを行い、先方の詳細な要件が決まっていない中でも現状の課題に対して今後のアプローチに繋がるような分析ができる可視化ダッシュボードを自ら考えて提案し、実装から提供まで責任を持って対応していました。

―そこから、先端技術研究所へ異動されたのですね。

はい。入社前からAIに関わる仕事がしたいという思いがあり、大学院で研究してきたことにも近い分野に挑戦したいと考え、社内制度を活用して先端技術研究所へ異動しました。

―先端技術研究所に異動後、まず担当したのがLTMの国産AIモデル化だったそうですね。どのような役割を担っていましたか?

LTMでは「Sarashina」モデルの適用を担当しました。もともと英語で進んでいた取り組みを引き継ぎ、日本語対応できるようにデータセットの構築からモデル適用、検証までを担当し、TUに提供するところまでを行いました。

―具体的には、どのような作業を行ったのでしょうか?

数千億規模のパラメータを持つ大規模言語モデルを用いて、日本語の学習データを作成し、それを使って学習させていきました。ただ、日本語が得意ではないモデルも多く、思った以上に苦労しました。

―特に大変だった点は?

合成データの生成だけでも1週間ほどかかることがあり、英語版と同じ手法がそのまま通用しない点に難しさがありました。日本語では、モデルの出力傾向や生成の安定性が想定と大きく異なることがあり、ログを見ながら原因を切り分けていく必要がありました。特定の設定値そのものというよりも、日本語特有の挙動がどこで発生しているのかを把握し、生成品質や学習効率全体に影響する要因を一つずつ検証していくプロセスが重要だったと感じています。

―今回、実装だけでなくプレスリリースの執筆にも関わったそうですね。

これまでは開発や検証を行い、成果が出たらそこで一区切りという仕事が多かったのでプレスリリースに関わることができるとは思っていませんでした。自身で検証から執筆まで携わったものがプレスリリースされたときには感慨深い気持ちになりました。最初は書き方も分からなかったのですが、書くうちに、自身やチームの検証をどう伝えれば世の中に注目されるのかを考えるようになりました。作って終わるのではなく、技術的な新しい価値を社会へ発信していけるのが先端技術研究所で働くことの楽しさだと思います。

―その経験で、仕事の進め方は変わりましたか?

変わりました。最初は目の前のタスクをこなすことだけを考えていましたが、一度プレスリリースの執筆を経験すると、「最終的に技術としてどんな価値を社会に提供できるのか」と逆算しながら検証内容を考えるようになりました。

関連プレスリリース:通信業界向け生成AI基盤モデル「Large Telecom Model」が国産AIモデルに発展、社内利用を開始(2025年10月29日)

AIを実現場へ──フィジカルAIで見える実世界の論理

―次に、iREX(国際ロボット展)でデモ展示を行ったフィジカルAIの取り組みについて教えてください。

iREXでは、当初は学習データ作成を担当する予定でしたが、プロジェクト途中からVLM(Vision-Language Model)の学習もメインで担当しました。データ準備だけでなく、モデル選定や学習方針の検討にも主体的に関わっています。オープンソースデータを調査・選定し、大規模データでロボット基盤モデルを作った上で、実環境のデータを用いてファインチューニングしています。

―展示会という現場ならではの難しさはありましたか?

技術そのものだけでなく、その価値をどう伝えるかという点でも難しさがありました。iREXの来場者の中には、AIやロボットに詳しくない方も多くいらっしゃいます。その方々に対して、この技術が現場で何に役立つのか、どんな課題を解決できるのかを、専門用語をなるべく使わずに説明する必要がありました。技術的にできることと、来場者が価値として理解できることの間をどう橋渡しするかは、現場ならではの難しさだったと思います。

―実際にデモを動かしてみて、感じたことは?

事前に用意したテストデータでは高い精度が確認できており、その前提のもとでデモは安定して動作していました。一方で、リハーサルの段階では本番環境の照明や周囲条件といった細かな違いによって、想定していなかった挙動が見える場面もありました。実環境では、評価時に想定した条件と完全には一致しない要素が常に存在することを改めて実感しました。

―その経験から、今後取り組みたいことはありますか?

人とロボットがあたりまえに協調する世界を実現し、より便利な社会にしていくためには、実環境で起こりうるさまざまなケースや例外的な状況も想定した、汎用性と運用性の高いモデルを構築していく必要があると感じています。

今回のデモを通じて、事前の評価では見えなかった課題が実環境ではより多く表れることが浮き彫りとなりました。この経験から、実世界での実証実験を繰り返し、現場の状況をフィードバックしていくことが不可欠であると強く実感しました。

また、iREXでさまざまな業界の方と対話したことで、世の中にある課題やロボットへのニーズを、より広い視野で知りたいと思うようになりました。今後は多様な現場に触れながら、実際のニーズに根ざしたフィジカルAIの実装に取り組んでいきたいです。

関連プレスリリース:ソフトバンクと安川電機、AI-RANを活用した「フィジカルAI」の社会実装に向けて協業を開始(2025年12月1日)

課題解決の思考法──若手が挑戦を重ねられる研究所の環境

―仕事を進める上で、大切にしている考え方はありますか?

「目的から逆算する」ことです。スケジュール通りに進まなかったり、途中で方針が変わったりすることも少なくありませんが、最終的に何をアウトプットしたいのか、どんな効果を生み出せるのかを常に意識するようにしています。そのアウトプットを実現するためには、どのようなスケジュールで、どんな開発や検証を進めていけばよいのかを考えながら、常に状況に応じて柔軟に調整していくことが大切だと思っています。

―先端技術研究所の働く環境については、どう感じていますか?

分からないことがあれば、周りの方にすぐ聞ける環境です。皆さん丁寧に教えてくださいますし、風通しがいいと感じています。週2~3日ほど出社していて、出社日はチームで進捗を共有したり、同じ画面でコードやログを見ながら課題に向き合ったり、その場で議論したりしています。出社していると隣の席で気軽に相談できるのも効率的だと感じています。

―若手として挑戦しやすい環境だと感じますか?

はい。課長や部長と意見を交わせる機会も多く、自分がやりたいことを明確に持っていれば、実現できる環境だと思います。

【コラム】理想のActivatorsとは?

―最後に、「理想のActivatorsとは?」という問いに、一言で答えるとしたら?

「AI技術で豊かな生活を」です。面倒なことや、人がやらなくていい業務はどんどん自動化していきたいと思っています。その分、人は本来やるべきことや、より価値のあることに時間を使えるようになる。そうした変化を技術で支えることで、社会に価値を提供し、生活をより豊かなものにしていけたらいいなと思っています。

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