プレスリリース 2025年
通信業界向け生成AI基盤モデル
「Large Telecom Model」が
国産AIモデルに発展、社内利用を開始
~国産LLM「Sarashina」を活用して、データの学習から運用まで国内で完結する
安全な生成AI基盤モデルを実現~
2025年10月29日
ソフトバンク株式会社
ソフトバンク株式会社(以下「ソフトバンク」)は、通信業界向けの生成AI(人工知能)基盤モデル「Large Telecom Model」(LTM)※1の開発において、SB Intuitions株式会社(以下「SB Intuitions」)が開発を進める日本語性能が高い国産の大規模言語モデル(LLM)「Sarashina(さらしな)」を組み合わせて、データの学習から運用まで日本国内で完結する国産AIモデルに発展させました。ソフトバンクが保有する膨大な通信ネットワークのデータや、長年培ってきた設計・管理・運用ノウハウなどの独自のデータを、国内のデータセンターで学習・推論させることで、安全性・信頼性・主権性を兼ね備えた生成AI基盤モデルを実現しています。
また、ソフトバンクは、モバイルネットワークの運用業務の効率化や高度化を目的に、国産AIモデルに発展させたLTMの社内での利用を開始しました。LTMを活用して大規模イベント開催時における通信品質の予測を行い、イベント当日の実測データと比較したところ、90%以上の精度で予測できることを確認しました。
さらに、強化学習※2の導入によるLTMの高度化も進めており、AIが最適な通信環境を実現するために自律的に学習を行う環境を構築しています。
国産LLM「Sarashina」を活用して、国産AIモデル化を実現
ソフトバンクは、モバイルネットワークの運用業務の効率化や高度化を実現するLTMの開発を、2024年から進めてきました。LTMを活用することで、これまでの手動による、あるいは部分的に自動化していたネットワーク運用プロセスと同等の精度を保ちながら、設定変更などに要する時間を数日から数分へ大幅に短縮することが可能です。これにより、属人化の解消や人為的ミスの防止に加え、作業時間の大幅な削減が期待できます。
従来のLTMは、汎用的なLLMをベースに構築しており、ライセンスの取り扱いが課題となっていました。また、英語データを中心に学習したLLMでは、日本語の複雑なニュアンスや文脈を正確に理解・表現することが難しいという課題もありました。
今回LTMに、SB Intuitionsが開発を進める日本語性能の高い国産LLM「Sarashina」を組み合わせることで、データの学習から運用までを国内で完結させ、機密情報を安全に取り扱うことができる国産AIモデルを実現しました。また、日本語の複雑な文脈や専門用語などを正確に理解し、高度な表現で運用業務を支援することが可能になり、業務効率化や利便性の向上に貢献しています。
さらに、高いセキュリティー環境下で利用できるため、将来的に外部の事業者へのサービス展開を検討することも可能です。
LTMを活用したネットワーク運用業務の効率化・高度化
ソフトバンクは、国産AIモデル化したLTMの社内利用を開始し、さらなる高度化と応用範囲の拡大に向けた取り組みを進めています。特に、基地局の設定の最適化や通信品質の向上を目的としたユースケースの検証を実施しています。
例えば、大規模イベント開催時の基地局の設定を最適化するには、急激に変化する通信状況を事前に予測して、当日の環境を正確に把握することが重要です。こうした要件に対応するため、LTMをファインチューニングし、任意の時点における基地局の通信品質を予測する「通信品質予測特化型モデル」を開発しました。このモデルでは、対象エリアにおいて予想される端末接続数や基地局の周波数、設定変更の対象となるパラメーターなどを入力することで、通信品質の予測結果を生成することができます。
実際の活用事例として、2025年9月27日に東京都北区で開催された「北区花火会」の通信品質予測を行いました。当該エリアはトラフィックが集中しやすく、複数の基地局からの電波が重なるため、基地局の状態を1,000件以上LTMに入力し、各基地局の接続数の変化などを予測しました。当日の実測データと比較したところ、周波数ごとの通信品質を90%以上の精度で予測できることを確認しました。
強化学習の導入によるLTMのさらなる高度化
ソフトバンクは、LTMの高度化に向けて、段階的な思考過程を生成するChain of Thought(CoT)※3と、強化学習の知見を取り入れた推論モデル(Reasoningモデル)へのアップグレードを行いました。Reasoningモデルは、数学的な計算や論理的分析など、従来の非推論モデルが苦手としていた高度な推論が可能です。また、思考過程の可視化により、LTMの判断根拠を人間が確認して分析することも可能になります。
さらに、推論モデル化に使用される強化学習を応用した、新しいLTMのユースケースの創出にも取り組んでいます。その一つとして、電波伝搬シミュレーターから得られた結果を基に強化学習の報酬を設定することで、LTMが最適な電波環境を実現するために自律的に学習を継続する環境を構築しました。これにより、従来の教師あり学習※4による専門家の判断の模倣ではなく、LTM自体が専門家以上の運用高度化を行うことが期待できます。
ソフトバンクは、今後もデータの学習から運用まで日本国内で完結する国産AIモデルによる安全な学習・推論環境を活用しながら、LTMの活用領域をさらに拡大していきます。これにより、ネットワーク運用における属人化の解消や業務負担の軽減、運用効率の向上を図るとともに、社内利用の本格化による高品質なモバイルネットワークの提供を目指します。また、大学や研究機関との連携を深め、最新技術の導入やAIモデルの精度の向上を進めていきます。
ソフトバンクの専務執行役員 兼 CTOの佃英幸は、次のように述べています。
「ソフトバンクが独自開発した生成AI基盤モデル『LTM』は、モバイルネットワークの運用業務の効率化と高度化を実現します。従来も自動最適化を進めてきましたが、運用のエキスパートのノウハウをAIが再現し、より高度な自律運用を可能にすることで、基地局の最適化や通信品質の向上を推進します。今後はLTMの国産AIモデル化により、社内の知見や機微なデータを安全に活用できるようになり、信頼性の高いネットワーク運用をさらに強化していきます」
- [注]
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- ※1「Large Telecom Model」(LTM)の詳細は、2025年3月19日付のプレスリリース「通信業界向けの生成AI基盤モデル『Large Telecom Model』(LTM)を開発」をご覧ください。
- ※2強化学習とは、AIが最適な行動に向けて自律的に学習する手法のこと。行動結果に応じて「報酬」を受け取り、その報酬が最大化されるように学習する。
- ※3Chain of Thought(CoT)とは、AIが最終回答を導き出す前に、途中の思考過程(推論の連鎖)を段階的に生成する手法のこと。
- ※4教師あり学習とは、あらかじめ正解データ(教師データ)を与え、モデルの出力が正解に近づくように学習させる手法のこと。
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- SoftBankおよびソフトバンクの名称、ロゴは、日本国およびその他の国におけるソフトバンクグループ株式会社の登録商標または商標です。
- その他、このプレスリリースに記載されている会社名および製品・サービス名は、各社の登録商標または商標です。
- ソフトバンク 先端技術研究所について
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ソフトバンク 先端技術研究所は「テクノロジーの社会実装」を使命に、次世代社会インフラを支える技術のAI-RANやBeyond 5G/6Gをはじめ、通信、AI、コンピューティング、量子技術、宇宙・エネルギー分野など、さまざまな先端技術の研究開発と事業創出を推進しています。国内外の大学・研究機関との産学連携や、パートナー企業との国際的な協業を通して、グローバルなビジネスの創出と、持続可能な社会の創造に貢献していきます。詳細は公式ウェブサイトをご覧ください。