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AIデータセンター GPUクラウドが支えるフィジカルAIの学習ループ
#AI-RAN #フィジカルAI #ロボティクス #AIデータセンター #GPUクラウド
2026.08.03
ソフトバンク株式会社
ロボットが実世界で複雑な作業を行うには、周囲の状況を認識し、状態に応じて動作を判断する「フィジカルAI」が重要です。その導入には、実機データの収集、AIモデルの学習、シミュレーション評価、実機への適用など、複数の工程が必要です。ソフトバンクは、「AIデータセンター GPUクラウド」上で、これらを一元的に実行するフィジカルAI開発支援ツールを開発しました。
関連プレスリリース:ソフトバンクと安川電機、フィジカルAIの開発基盤として「AIデータセンター GPUクラウド」を活用し、柔軟物体ハンドリングシステムを実証(2026年7月13日)
今回、株式会社安川電機およびNVIDIAとの協力の下、このツールを安川電機の柔軟物体ハンドリングシステムへ適用しました。本記事では、学習ループの構成や実行の様子、学習前後のロボット動作を紹介します。
1. フィジカルAIを継続的に改善する学習ループ
今回開発したフィジカルAI開発支援ツールは、「AIデータセンター GPUクラウド」上で動作します。
関連プレスリリース:ネオクラウド事業として、「Infrinia AI Cloud OS」を搭載した「AIデータセンター GPUクラウド」を2026年10月に提供開始(2026年5月25日)
「AIデータセンター GPUクラウド」は、ソフトバンクのAI計算基盤と「Infrinia AI Cloud OS」を組み合わせたクラウドサービスです。AIモデルの学習から推論、データ処理まで、幅広いAIワークロードを実行できる環境として開発されています。
今回のフィジカルAI開発では、このGPUクラウド上に、次の工程をつないだ学習ループを構築しました。
1) ロボット実機から動作データやセンサー情報を収集する
2) 収集したデータを基に合成データを生成する
3) 実機データと合成データを使ってAIモデルを学習する
4) 学習したAIモデルをシミュレーション上で評価する
5) 評価基準を満たしたAIモデルをロボット実機へ適用する
6) 更新したAIモデルでロボットを動かし、新しいデータを収集する
一度AIモデルを学習して終わるのではなく、実機から得たデータを次の学習へ戻すことで、AIモデルを継続的に改善していく構成です。
実機データから合成データを生成
ロボットを実際に動かして収集できるデータには限りがあります。
例えば、柔軟な物体は置かれるたびに形や位置が変わるため、起こり得る全ての状態を実機だけで再現し、データとして収集するには多くの時間がかかります。
そこで今回の学習ループでは、実機から収集したデータを基に、NVIDIA Cosmosを活用して合成データを生成します。元のデータにさまざまなバリエーションを加えることで、実機だけでは十分に収集することが難しいデータを補い、AIモデルの学習に活用します。
学習したAIモデルをシミュレーションで評価
学習したAIモデルを、すぐにロボット実機へ適用するわけではありません。
モデルが期待した動作を行えるか、対象のタスクを完了できるか、基本性能を維持できているかを、事前にシミュレーション上で確認します。
今回の開発支援ツールでは、NVIDIA Omniverseライブラリーと統合されたシミュレーターを使用しています。シミュレーションによる評価を通過したAIモデルを実機へ適用することで、学習と実機検証のサイクルを効率的に進めます。
図1. フィジカルAI学習システムの処理フロー
2. データ収集から実機適用まで、学習ループが動く様子
学習ループの状態は、GPUクラウド上で動作するGUI(Graphical User Interface)から確認できます。
今回のGUIでは、大きく分けて次の情報を表示しています。
データ収集率
画面左上の円形グラフは、学習開始に必要なデータ量に対して、現在どの程度のデータが集まっているかを示しています。
ロボットを動作させると実行データが蓄積され、円形グラフの割合が上昇します。今回のデモでは、データが一定量に達したことを起点として、後続の学習パイプラインを実行します。
学習の進行状況
画面左中央では、AIモデルの学習状況を表示します。
データ拡張が完了すると、収集・生成したデータを使ってAIモデルの学習が始まります。技術者は、学習の進行状況や学習指標の推移を確認しながら、モデルの状態を把握できます。
学習データの拡張
画面右上では、ロボット実機から取得した元データと、それを基に生成した合成データを表示します。
実機で一度取得したデータに対して拡張処理を行い、AIモデルの学習に利用するデータの量とバリエーションを増やします。
学習パイプラインの進行状況
画面下部では、学習パイプラインのどの工程を実行しているかを時系列で表示します。
今回のデモでは、次の順番で処理が進みます。
1) データ収集
2) データ拡張
3) AIモデルの学習
4) シミュレーション評価
5) 評価結果の判定
6) ロボット実機への適用
複数の開発工程を一つのGUIで可視化することで、現在どの処理が行われているかを把握しやすくしています。動画では、データの蓄積率が上昇した後、合成データが生成され、AIモデルの学習が進んでいく様子を確認できます。学習が完了すると、モデルはシミュレーション環境へ送られます。そこで対象タスクに対する動作を評価し、基準を満たした場合にロボット実機へ適用します。
このように、今回構築した仕組みでは、単にGPUを使ってAIモデルを学習するだけではなく、前後のデータ処理や評価、実機適用までを一つの学習ループとしてつないでいます。
3.学習によってロボットの動作はどう変わったのか
今回の実証では、柔軟物体のハンドリングタスクとして、ワイヤーハーネスを箱へ収納する作業をロボットで行いました。ワイヤーハーネスは、置かれる位置や形状が作業ごとに変化します。また、たわみや絡まり、折れ曲がりが発生しやすく、どの位置を把持すればよいかを事前に固定することが困難です。
形状や配置があらかじめ決まっていることを前提としたルールベースの制御だけでは、このような柔軟物体を安定して扱うことは容易ではありません。
VLAを活用して対象物の状態を認識
安川電機が開発した柔軟物体ハンドリングシステムでは、カメラなどから得られる視覚情報と作業指示を基に、VLA(Vision-Language-Action)を用いて対象物の状態を認識します。
ロボットは、視覚情報からワイヤーハーネスの位置や形状を捉え、把持・操作に必要な動作を行います。
また、ロボットの全ての動作をAIに置き換えているわけではありません。従来のロボット制御で安定して対応できる動作と、対象物の状態認識や把持位置の判断などフィジカルAIが有効な動作を切り分け、フィジカルAIを既存のロボットシステムに一つの機能モジュールとして組み込んでいます。
学習前後のロボット動作
学習前後のロボットの動作を見比べると、学習前は、アームがワイヤーハーネスへ接近してから把持するまでの動きに調整やためらいが見られます。
一方、学習後は、アームが対象物へスムーズに接近し、ワイヤーハーネスを安定して把持しています。その後も、把持したワイヤーハーネスを持ち上げ、隣の箱まで運んで収納する一連の動作を滑らかに実行しています。
この比較から、学習によって対象物の状態に応じた把持動作が改善され、形状や配置が一定ではない柔軟物体に対しても、より安定したハンドリングが可能になったことを確認できます。
4. 今回の開発・実証における技術的なポイント
今回の取り組みのポイントは、個々のAI技術だけではなく、実機とGPUクラウドをつないだ一連の開発サイクルを構築したことです。
実機データを次の学習へ還元する
ロボットが現場で動作することで、新しい動作データやセンサー情報が得られます。これらをGPUクラウドへ蓄積し、次のAIモデルの学習に利用します。実際の環境で得られたデータを継続的に学習へ戻すことで、対象物や作業条件の変化に対応するためのモデル改善につなげます。
合成データで実機データを補う
実機によるデータ収集は重要ですが、さまざまな条件を実機だけで網羅するには時間がかかります。合成データを組み合わせることで、実機データを起点に学習データのバリエーションを増やし、データ収集にかかる負担を抑えながらモデルの学習を進めます。
シミュレーションを経てから実機へ適用する
学習後のモデルは、実機へ適用する前にシミュレーション上で評価します。対象タスクへの対応だけでなく、複数のタスクに対する動作を確認することで、新しい学習によってモデルの基本性能が失われていないかを検証します。
開発工程を一つの環境でつなぐ
データ収集、データ拡張、学習、シミュレーション評価、実機適用を個別に行うのではなく、「AIデータセンター GPUクラウド」上で一連の工程として管理します。
これにより、学習環境の構築や開発サイクルを効率化するとともに、各企業が現場で得た実機データ、AIモデルの実行データ、合成データを資産として蓄積し、他の業務やロボットへ展開しやすい環境の実現を目指します。
5. 今後の展開
今回の実証では、ワイヤーハーネスを箱へ収納するタスクを通して、実機データの収集、合成データ生成、AIモデルの学習、シミュレーション評価、実機適用までの学習ループを構築しました。
今後は、より高度なタスクへの適用を検証するとともに、対象となる物体や作業条件、ロボットの種類を広げていくことが重要になります。
ソフトバンクは、「AIデータセンター GPUクラウド」を活用したフィジカルAIの検証を拡大し、さまざまなデータを活用したロボット開発の高度化と、フィジカルAI開発基盤の整備を進めていきます。
実機で得たデータを学習へ戻し、評価したAIモデルを再び実機へ適用する。このループを繰り返すことで、現場の変化に対応しながら継続的に改善できるフィジカルAIの実現を目指します。