- 01.HAPSを光でつなぐという挑戦
- 02.成層圏で「光を往復させる」という新しいアプローチ
- 03.なぜ「反射光を受ける」ことが重要なのか
- 04.「光を返す」から「光でつながる」へ
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【解説】世界初、HAPSを地上から追尾してレーザー測距する実証に成功
#HAPS #光通信 #CCR #SLR
2026.09.17
ソフトバンク株式会社
ソフトバンクは、HAPS(High Altitude Platform Station)による次世代通信ネットワークの実現に向け、成層圏での光無線通信技術の開発を進めています。今回、その重要なステップとして、HAPSにCCR(Corner Cube Reflector)を搭載し、地上から送信したレーザー光のリターン取得に成功しました。
地上と成層圏の間で「光を往復させる」という前例のない実証は、将来のHAPS光無線通信に何をもたらすのでしょうか。本記事では、過去の成層圏光通信実験との違いと、今回の成果が持つ技術的な意義を紹介します。
1. HAPSを光でつなぐという挑戦
ソフトバンクは、成層圏通信プラットフォーム「HAPS」を活用した次世代通信ネットワークの実現に向けて、さまざまな研究開発を進めています。その中でも重要な技術の一つが、レーザー光を用いる光無線通信です。
将来のHAPSでは、地上のスマートフォンなどに通信サービスを提供するだけでなく、HAPS自身を地上局や衛星などと高速に接続することが求められます。光無線通信は、大容量化が期待できる一方、非常に細いレーザービームを遠く離れた相手に正確に届ける必要があります。
しかもHAPSは成層圏を飛行しており、その位置や姿勢は刻々と変化します。上空約20kmの飛行体を光学的に捕捉し、その動きを追いながらレーザー光を正確に送信することは、本格的な光無線通信を実現するために乗り越えなければならない重要な課題です。
そこでソフトバンクは、光無線通信装置をHAPSに搭載する次のステップを見据え、CCR(Corner Cube Reflector)を用いた実証に取り組みました。
2. 成層圏で「光を往復させる」という新しいアプローチ
CCRは、入射した光を光源の方向へ反射する特殊な反射鏡です。人工衛星の精密測距などでは、複数のCCRを組み合わせたLRA(Laser Retroreflector Array)が広く利用されています。
今回、ソフトバンクはCCR(LRA)をHAPSに搭載し、地上からレーザー光を送信。HAPSで反射したレーザー光を再び地上で受信する「リターン」の取得に成功しました。
成層圏プラットフォームを対象とした光リンクの実験には、これまでもいくつかの先行事例があります。
代表例が、ドイツ航空宇宙センター(DLR)が実施したSTROPEX(Stratospheric Optical Payload Experiment)です。2005年に高度約22kmの成層圏気球に光通信端末を搭載し、気球から地上の光地上局に向けて最大1.25 Gbit/sの高速な光通信を実証しました。
また2023年には、米国のNaval Information Warfare Center Pacific(NIWC Pacific)がNASA Ames Research Centerなどの協力を得て、SOLD(Stratospheric Optical Link Demonstration)を実施しました。Aerostarの高高度気球に光通信装置を搭載し、地上から成層圏気球への光通信リンクを実証しています。
これらはいずれも成層圏における光通信の重要な先行実験ですが、今回の実証とはアプローチが異なります。
今回ソフトバンクが行ったのは、HAPS側から通信光を送信することでも、地上から送られた通信データをHAPS側で受信することでもありません。HAPSに受動的なCCRを搭載し、地上からレーザーを送信して、同じ光をHAPSから地上へ戻し、その微弱なリターンを捉えるというものです。
公開されている先行事例を調査した範囲では、成層圏を飛行するHAPSにCCR(LRA)を搭載し、地上からレーザーを送信してそのリターンを取得した実験は確認されていません。(※2026年9月8日時点の公開情報に基づく(ソフトバンク、一橋大学および国立極地研究所調べ。))従来の「通信する」ための光リンクとは異なる方法で、地上と成層圏との間に光の往復経路を成立させた、前例のない試みです。またSLRにおけるビーム照射角、受信追尾角の精度はこれらより1桁高いことが知られています。なぜなら、反射光の角度はCCRブロックのミラーの反射で、拡散せずごく狭い角度で戻ってくるためです。
3. なぜ「反射光を受ける」ことが重要なのか
一見すると、「レーザーを当てて、反射してきた光を受けただけ」と思えるかもしれません。しかし、HAPS光無線通信の実現という観点では、この実験には大きな意味があります。
光無線通信で特に難しい技術の一つが、PAT(Pointing, Acquisition and Tracking:指向・捕捉・追尾)です。
遠距離にあるHAPSがどこにいるのかを予測し、実際に光学的に捕捉し、レーザーを正確に向け、飛行するHAPSを追い続けなければなりません。数十km先の移動体に対してこれらを成立させるためには、位置情報だけでなく、地上局の追尾性能、レーザーの伝搬、大気による揺らぎなど、さまざまな要素を考慮する必要があります。
CCRからリターンを取得できたことは、「地上から成層圏を飛行するHAPSを光で捉え、レーザーを到達させ、その光を再び地上で検出する」という一連のプロセスを実環境で成立させたことを意味します。さらに、CCRは電源を必要としない受動的な光学素子です。このため、本格的な光通信端末を搭載する前の段階でも、HAPSの飛行環境における光学的な捕捉・追尾や伝搬特性を確認できます。
つまり今回の実験は、それ自体を最終目的とするものではなく、将来の光無線通信に向けて技術的な不確実性を一つずつ減らしていくためのステップなのです。
4. 「光を返す」から「光でつながる」へ
次の目標は、この成果を本格的な光無線通信へ発展させることです。
CCRは受けた光を反射する受動的なデバイスですが、光無線通信ではHAPS側にも光送受信機を搭載し、相互に相手を捕捉・追尾しながら、情報を載せたレーザー光を送受信します。求められる技術の難易度は高くなりますが、現在製作している光無線通信機のジンバルは衛星追尾も兼ねたSLRと同じソフトウェア体系となっているため、今回の実験を経て大幅にハードルが下がります。
将来、HAPSと地上、さらにHAPSと低軌道衛星(LEO)を光で結ぶことができれば、地上・成層圏・宇宙を一体化した新しい通信ネットワークへと発展する可能性があります。
例えばHAPSが地上のスマートフォンなどを収容し、その通信を光無線によって衛星へ送り、遠隔地へ伝送する。そうした3次元ネットワークにおいて、光無線通信は大容量データを運ぶバックボーンの役割を担うことが期待されます。
2005年のSTROPEXでは「成層圏から地上へ」、2023年のSOLDでは「地上から成層圏へ」と、成層圏における光通信技術の可能性が実証されてきました。そして今回ソフトバンクは、それらとは異なるアプローチとして、HAPSに搭載したCCRを介して「地上から成層圏へ、そして再び地上へ」という光の往復を実現しました。
「光を届ける」から、「光を返す」へ。そして次は、「光でつながる」へ。
今回の実証で得られた知見を次の光無線通信実証へつなげ、ソフトバンクは地上・成層圏・宇宙をシームレスに結ぶ次世代ネットワークの実現を目指していきます。
図1. SLR(Satellite Laser Ranging)技術を用いたHAPS測距のイメージ*
* 地上のSLR装置から成層圏を飛行するHAPSに短パルスレーザーを高精度に送信し、搭載したCCR(コーナーキューブ)から戻る微弱な反射光を受信望遠鏡で捉えます。
送受信の往復時間からHAPSまでの距離を精密に計測するとともに、飛行するHAPSを高精度に追尾します。また、安全なレーザー運用のため、航空機などの方向を避けて送信・観測を行います。
