JAXAとソフトバンク、HAPS向け太陽電池モジュールの評価技術の確立に向け、共同研究契約を締結

#HAPS #次世代太陽電池 #航空 #宇宙

1. HAPSを支える太陽電池技術

ソフトバンクは、成層圏通信プラットフォーム(High Altitude Platform Station、以下「HAPS」)向けに、超軽量・高効率で、フレキシブルな太陽電池モジュールの要素技術開発を進めています。

HAPSは、高度約20km (65,000 ft) の成層圏を長期間飛行しながら通信サービスを提供することを目指す航空プラットフォームです。長期間の安定飛行には、限られた機体重量の中で十分な電力を確保する必要があり、太陽電池には高い変換効率、軽量性、信頼性が求められます。

ソフトバンクでは、こうした要求に応えるため、ペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池モジュールの開発に取り組んでいます。
成層圏は、地上とは太陽光スペクトルや温度、気圧などの環境条件が異なります。HAPS向け太陽電池モジュールの開発では、宇宙空間における太陽光スペクトルを模擬したAir Mass 0(以下「AM0」)に加え、温度、低圧、放射線、振動などの影響も考慮し、成層圏での運用を想定した総合的な設計・評価を進めることが重要です。

2. JAXAとの共同研究

ソフトバンクは、HAPS向け太陽電池モジュールの研究開発を加速するため、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と2026年4月に共同研究契約を締結しました。

本共同研究には、JAXA宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系の豊田裕之 准教授が参画します。ソフトバンクとJAXAは、HAPSの電力要求や成層圏環境、軽量パネル開発に関する知見と、人工衛星・探査機向け太陽電池の開発・運用を通じて培われた知見、評価技術および試験設備を持ち寄ります。

双方の知見を組み合わせ、HAPS向け太陽電池モジュールの性能向上につながる研究開発に取り組みます。また、JAXAにおいても、大面積フレキシブル太陽電池モジュールの評価技術を蓄積し、将来の科学衛星・探査機などへの応用につなげます。

本共同研究で実施する試験では、JAXAが保有する大面積ロングパルスソーラシミュレーターを活用し、大型太陽電池モジュールについて、AM0スペクトルを模擬した照射環境下での電気出力特性を高精度に測定・評価します。

大面積ロングパルスソーラシミュレーター

図1. 大面積ロングパルスソーラシミュレーター

3. 共同研究で目指すこと

高精度な性能評価による開発サイクルの加速

本共同研究では、太陽電池モジュールをHAPSに搭載する前の開発段階から、温度、低圧、放射線、振動などの運用環境を考慮した設計・試作について、JAXAがこれまでの知見に基づく見解を示します。ソフトバンクは、その見解をセルおよびモジュールの設計・試作に生かします。

試験では、ソーラシミュレーターによる光照射と同期して電流-電圧(I-V)特性を取得するほか、ペロブスカイト太陽電池の特性を踏まえたライトソーキング(一定時間光を照射して特性を安定させる処理)などを実施し、評価精度の向上を図ります。

AM0模擬光下での評価によって得られたデータや知見を、ソフトバンクが設計・試作へ迅速にフィードバックし、HAPS向け太陽電池モジュールの性能向上と開発サイクルの加速につなげます。

宇宙分野の知見を生かした設計・評価手法の高度化

JAXAは、人工衛星や探査機向け太陽電池の開発・運用、ペロブスカイト太陽電池の飛翔実験や宇宙環境での耐性評価などを通じ、太陽電池モジュールの性能評価・環境耐性・信頼性設計・運用に関する幅広い知見を蓄積してきました。

水星磁気圏探査機「みお」の太陽電池モジュール

図2. 水星磁気圏探査機「みお」の太陽電池モジュール

成層圏では、宇宙空間とも地上とも異なる環境条件への対応が求められます。JAXAは、温度、低圧、放射線、振動なども含む設計上の考慮事項について知見に基づく見解を示すとともに、その知見をAM0評価の条件設定や測定結果の解釈に生かします。ソフトバンクは、得られた見解、評価データおよび知見をHAPS向け太陽電池モジュールの設計・試作に活用します。同時にJAXAにおいても、大面積フレキシブル太陽電池モジュールの評価データと評価技術を蓄積し、民生分野で進展する軽量・大面積太陽電池の技術を、将来の科学衛星・探査機などへ応用するための知見につなげます。

4. 担当者のコメント

JAXA宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 准教授
豊田 裕之

JAXA宇宙科学研究所 准教授 豊田 裕之

私は2005年よりJAXA宇宙科学研究所に勤務し、約20年にわたり、宇宙科学の分野で、太陽電池をはじめとする電源技術の研究開発に携わってきました。宇宙科学は、人類の来し方行く末、さらには宇宙の一生に迫る、非常にエキサイティングな分野です。その一方で、日々の暮らしとのつながりを実感しにくい世界でもあります。

今回の共同研究では、HAPS向けに開発される太陽電池セルおよびモジュールの試作に対して、JAXAが宇宙分野で培ってきた知見に基づく見解を示します。また、AM0スペクトルを模擬した光の下で電気出力特性を高精度に測定・評価し、その結果を次の試作へフィードバックします。HAPSは、地上の通信網を補完し、防災・減災や国土強靱化に資する通信基盤としての活用が期待されています。本共同研究は、そうした将来の可能性を支える電源技術の研究開発に、JAXAが評価技術と技術的知見の側面から貢献するものです。

また、本共同研究は、宇宙と地上の間に広がる成層圏という領域を切り拓くと同時に、民生分野で進展する軽量・大面積太陽電池の技術を、将来の科学衛星・探査機へつなげるための知見を得る機会でもあります。JAXA宇宙科学研究所は、自由な発想に基づく最先端の研究に加え、産学官の連携によって新しい技術を育て、研究成果を社会へ還元することを重視しています。一つ一つの測定と検証を積み重ね、HAPS用太陽電池の性能向上と、将来の宇宙科学・探査を支える技術の双方に向けた確かな一歩となるよう、全力で取り組んでまいります。

ソフトバンク株式会社
技術統括 プロダクトR&D本部 ユビキタスネットワーク企画統括部
次世代NTN開発部 エネルギーソリューション開発課
西村 悠

ソフトバンク株式会社 西村 悠

幼少期から空や宇宙に憧れを持ち、RCグライダー競技では日本代表としても活動するなど、長く航空分野に関心を持ってきました。ソフトバンク入社後は、クラウド・AIエンジニアとして業務に携わり、その後HAPS関連業務に移りました。現在はR&D部門でエネルギーソリューションの研究開発に取り組んでいます。こうした経緯もあり、HAPSという新たな航空プラットフォームの開発に携われていることを、大変光栄に感じています。

宇宙分野で高度な技術と豊富な知見を持つJAXA宇宙科学研究所の豊田准教授と、研究をご一緒できることも、非常に貴重な機会だと考えています。ソフトバンクでは、HAPSによる通信サービスの実用化に向け、研究開発・実証を進めています。その実現には、長期間の安定飛行を支える高効率・軽量かつ高信頼な電源技術が重要です。

本共同研究で得られる評価データや知見を、太陽電池セル・モジュールの設計・試作に反映し、HAPS向け太陽電池技術のさらなる高度化を目指します。こうした取り組みを通じて、空からネットワークを届ける世界の実現に貢献したいと考えています。

5. HAPSの実用化に向けたソフトバンクの取り組み

ここまで紹介したJAXAとの共同研究とは別に、ソフトバンクではHAPSの実用化に向け、機体、通信システム、電源技術など幅広い研究開発を進めています。太陽電池モジュールについては、HAPSの長時間飛行を支えるため、軽量化、高効率化、信頼性向上に取り組んでおり、将来的にHAPSに適した低コストで重量面密度400g/㎡以下、AM0模擬光下における変換効率30%を目標としています。

また、ソフトバンクは、NEDOで実施中の経済安全保障重要技術育成プログラム(Kプログラム)における「高高度無人機による海洋状況把握技術の開発・実証/高高度無人機の長期航行技術に関する研究開発/HAPS用高エネルギー密度電池パックおよび高効率発電が可能な太陽電池の研究開発」に参画しており、HAPS向け電池パックおよび太陽電池の研究開発を進め、国内の技術基盤の強化を目指します。

ソフトバンクは2017年にHAPSの実現に向けた機体開発の検討を開始し、2020年9月には成層圏での飛行に成功しました。今後も太陽電池を含む各種技術の高度化を進め、HAPSによる持続可能な通信基盤の実現を目指します。

また、HAPS向け太陽電池の研究開発を通じて培った軽量化や高効率化に関する技術・知見については、将来的にデータセンター、無人航空機、電気自動車、船舶など、さまざまな分野への応用も検討していきます。こうした展開を通じて、再生可能エネルギーの活用の幅を広げていきたいと考えています。

さらにソフトバンクは、衛星通信やHAPSなどの非地上系ネットワーク(Non-Terrestrial Network)と地上のモバイルネットワークを融合し、いつでもどこでもつながり続ける世界の実現を目指しています。こうした取り組みを通じて、世界中の人々に新たなイノベーションをもたらす「ユビキタストランスフォーメーション(UTX:Ubiquitous Transformation)」を推進し、HAPSの実用化と持続可能な通信基盤の構築を通じて、社会課題の解決と新たな価値の創出に貢献していきます。

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