自治体職員が民間企業に出向して見つけた新しい働き方~生成AI活用編~
2024年3月28日掲載
自治体が抱える複雑な課題に対応し、市民からの期待に応えるためには、働き方改革が欠かせません。このシリーズでは、自治体職員がソフトバンクへの出向を通じて新しい働き方を体験したり、他自治体の先進事例から得た知見を紹介します。自治体職員の”気づき”をもとに、自治体の業務効率化と職員の働きやすさの向上に必要な考え方やアクションを全3回で取り上げていきます。
柔軟なワークスタイル、ペーパーレス化、生成AIの活用など、自治体業務をより効率的に、そして職員が働く環境をより快適なものに変革しようとするこれらの取り組みは、住民サービスの質を高め、地域の持続可能な発展への道を切り開くための重要なステップです。
今やさまざまな分野で活用が広がる生成AI。自治体においても、業務効率化や住民サービス向上のために活用が進みはじめています。しかし一方で、本格導入する上では費用対効果やセキュリティ、人材育成など、解決すべき多くの課題があります。
本記事では、自治体での生成AI活用に向けて職員ができることとすべきことについて、ソフトバンクに出向中の自治体職員のインタビューを通じてご紹介します。
職員に聞く、ソフトバンクと自治体の大きな違いは?
生成AI元年と言われる2023年にソフトバンクでの業務を経験したお二人。自治体との違いをどんなところに感じますか?
奈良県庁Tさん: ソフトバンクは、実行に移すまでのスピードがとにかく速いですね。2023年5月には全従業員2万人が利用できるソフトバンク版AIチャットがリリースされ、私たちもいち早くセキュリティ面で安心・安全な環境にて業務で活用できるようになりました。その後も、営業部門では営業用に最適化された生成AIを利用していたり、それらの活用のための学習コンテンツも充実していたりするなど、積極的に利用することで活用意識を高め、業務効率化や新たな価値創出にチャレンジできる土壌がすでに整っているところに、驚きを感じます。
秋田県庁Rさん: ソフトバンクのスピードに及ばないまでも、全国の自治体でも活用に向けたチャレンジが進んでいます。やはり、日々の業務に課題を持たれてる職員の方がいて、その解決手段として生成AIへの期待が大きいことが表れていると感じますね。ただ一方で、自治体においてはいくつか課題を抱えているのが現状かと思います。
それは一体どんな課題でしょうか?
秋田県庁Rさん: 下図の5つの課題です。特に、①国の方針と⑤回答の正確性の2点は自分たちではどうすることもできない外的要因ですし、ソフトバンクが対策・実践しているような③活用データ、④セキュリティに関しては、確かに予算があればある程度解決できますが、費用対効果が見えない中でそこまで踏み切るのは自治体にとってハードルが高いと思います。
職員が思う「ここを真似したい!」
自治体が持つ課題の解決に向けて、ソフトバンクの取り組みや考え方で真似したい、参考にしたいと思うところはありますか?
奈良県庁Tさん: 先ほどソフトバンクは活用意識を高められる土壌が整っていると話しましたが、自治体においてもやはりまずは職員一人一人の意識を高めていくことが最初のステップになると思います。どれだけ利用環境が整っていても、やはり積極的に活用し、使いこなす人材がいないことには始まりません。この本質的で、かつ長期的な目線で最も重要な課題である「②人材」から手をつけていくことが必要だと思いましたので、ソフトバンク社内の積極利用する姿勢や学習機会の提供というところは参考にできると考えています。
実は派遣された当初、業務の進め方で悩むことがよくありました。自治体職員にありがちかもしれませんが、派遣元では法令や引継書などを見ながら業務を進めており、急によりどころがなく、どう進めていいか分からなくなってしまいました。しかし、生成AIを活用することで業務整理の方法や手順のヒントを得ることができ、悩むことも少なく効率的に業務を進めることができるようになったと感じています。
秋田県Rさん: 私は業務上、Webサイトに記載するキャッチ―な文章の考案や記事制作をすることが多かったのですが、なかなかよいキーワードや文章構成が思いつかないときに重宝しましたね。生成された文章をそのまま使えることはほとんどないですが、自分一人では思いつかないような観点でテキストを生成してくれることがあるので、より速く、質の高いアウトプットができるようになったと実感しています。自治体でもクリエイティブな業務には同じように活用できるのではないでしょうか。
生成AIを自治体で活用するには
自治体で活用を進めるにあたり、まずは職員の活用意識を高めることが重要とのことですが、それは具体的にどのように進めていけばよいと考えますか?
奈良県庁Tさん: 1つ目は活用方法を知ることです。生成AIは便利ですが万能ではなく、得意不得意があるので、それを理解することが重要です。
2つ目はリスクの自覚です。生成AIには、回答の内容に嘘がまぎれている「品質リスク」や差別や不公平を増幅するような有害な回答をする場合もあるという「倫理リスク」、機密情報の入力による「情報漏えいリスク」など、さまざまなリスクが潜んでいるので、活用する上では、このようなリスクの自覚は必須であると言えます。
3つ目は最新情報のキャッチです。2022年にChatGPT3.5がリリースされ、そこからものすごい勢いで多くのサービスが生まれたり、その技術が発展したりしています。急速な進化のスピードにできる限りついていくことで、よりうまく生成AIを使いこなすことができるようになると思います。
秋田県庁Rさん: もう少し具体的なアクションを言いますと下表の3点が挙げられます。ソフトバンクでも社員向けの学習環境が整えられている通り、活用方法やリスクを理解するには体系的に学ぶ機会が必要だと思います。また、学ぶことは活用意識の向上にもつながるので、職員向けの研修は有効だと考えています。さらに、それと同時にリスク回避・軽減のためにも、職員が生成AIを使う上でのガイドラインの策定も進めるべきです。
最後に挙げている無償版の活用ですが、やはり実際に使ってみないことには生成AIの得意不得意、リスクも理解しきれないと思うので、まずは無償版、かつ業務と関係ないことでいいので使ってみることが大事だと思います。使う前から具体的な業務活用方法を考えるのは難しいですが、使ってみることでどんな業務にどう活用できるか、イメージしやすくなるのではないでしょうか。
奈良県庁Tさん: 私たちも出向してから初めて生成AIを使い、日々の業務への活用や自治体でどう使うかを考えるのに苦労したこともありました。ただ、それも使い続けたことでようやく理解してきたことなので、やはり継続して使うことで業務への活用可能性が広がりますし、新しいアイデアも生まれやすくなるのではないかと思います。
「Adobe Firefly」にて生成した画像。「 フリーアドレスできる開放的なオフィスで、ミーティングを行う県庁職員たち。紙は一切机上に置かず、全員が1人1台ラップトップを使いながら、大型モニターで資料を投影して話し合っている。」などと簡単なプロンプトを入力するだけで質の高い画像が生成できるため、自治体においても活用の幅は広がっている。
まとめ
ソフトバンクへの出向にて、生成AIを意識的に業務活用することで、少しずつその使い方やポイントなどを理解したというお二人。自治体職員の目線から考えた生成AIを自治体で取り入れていくためのプロセスや、具体的な活用方法が、今後自治体での新しい働き方を築く一助となれば幸いです。
連載:自治体職員が民間企業に出向して見つけた新しい働き方
本シリーズでは以下2記事を掲載しています。本記事とあわせてぜひご覧ください。
「ペーパーレス編」
ソフトバンクで取り組むペーパーレス化を自治体で取り入れるためにはどうすればよいかを考える
「ソフトバンクの働き方編」
自治体とは大きく異なるソフトバンクのワークスタイルや組織風土に着目
ソフトバンクの自治体ソリューション
自治体DX推進サイト「ぱわふる」
「ぱわふる」は『Power of Furusato(ふるさとにパワーを)』をコンセプトとし、自治体が抱えるさまざまな課題を解決するための自治体ソリューションや自治体導入事例を紹介しています。
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