フォーム読み込み中
「Future Stride(フューチャーストライド)」は、ビジネスの「今」と「未来」を発信するブログです。
皆さまのビジネスに「今」すぐ役立つDXなどの最新トレンド、気になる用語解説のほか、AIなどの最先端の技術や新しいビジネスの姿、社会課題解決に向けた取り組みをソフトバンクがお届けします。
世界的な潮流として、企業には多様性がより強く求められています。しかし、日本企業の女性役員比率はG7諸国平均値を大きく下回る状況です。また、AI時代が本格到来しつつある一方で、AIが多様性に欠けることも危険視されています。
そのような中、DE&IとAIの専門家であるソフトバンク 女性取締役2名と専務執行役員の藤長が古坂大魔王氏をお迎えし、AI時代に企業の持続成長を実現させる道筋についてトークライブ形式で語りました。
本記事は、2024年10月3、4日に開催されたSoftBank World 2024での特別講演を再編集したものです。
古坂大魔王 氏
芸人・プロデューサー
佐々木 裕子
ソフトバンク株式会社
取締役
株式会社チェンジウェーブグループ
代表取締役社長
坂本 真樹
ソフトバンク株式会社
取締役
電気通信大学
副学長
藤長 国浩
ソフトバンク株式会社
専務執行役員
DE&I※という言葉を耳にすることはあっても、普段なかなか言葉にすることはないかもしれません。今回は「多様性」と「AI」をキーワードに話していきますと講演がスタートしました。
最初のお題は、「日本企業のDE&Iの現状と迫られる挑戦」として講演がはじまりました。
古坂大魔王氏(以降、古坂氏):「企業の多様性は業績にも影響を与えているという結果が出ています。経営層の多様性スコアが平均値以下の企業は、(ダイバーシティに取り組む企業に比べて)売上高に占めるイノベーションの割合が19%も低いという結果です」
佐々木裕子(以降、佐々木):「資本市場で言うと、経営層が多様な方が企業価値は伸びると言われています。理由は3つあります。
まず1つは優秀な同質の人がいるチームより、優秀さはバラバラかもしれないけど多様な人がいるチームの場合の方が経験則が全く違うので、見えている視界も違って盲点が減るということです。
2つ目は、同質のチームは自分たちのことを過大評価しやすいと言われています。同質のチームだと意思決定する際に、『なるほどいいよね』というようにすぐに相手に考えが伝わります。しかし多様なチームでは、面倒くさいのですが一生懸命説明しなければなりません。その結果、意思決定をするときにしっかり考えるというプロセスが発生します。不祥事などが起きやすいのは同質のチームだと言われるぐらいなので、面倒くさい人が入っていることは結構大事だということです。
3つ目はイノベーションです。イノベーションを野球に例えるとバントで行くかサヨナラホームランで行くかの違いです。バントのような平均的な結果がほしい場合は同質のチームの方がいいのですが、これだけの不確実な時代になるとサヨナラホームランが求められるので、多様なチームの方がよいということです」
このように多様性が求められる現代においても、東証プライムの上場企業のうち役員クラスの女性は約1.7%程度と少ない数字になってしまっていると佐々木は語りました。
古坂氏:「研究というアカデミックな世界でDE&Iはいかがでしょうか」
坂本真樹(以降、坂本):「情報理工学研究科に長く所属しています。少し前のデータになりますが、女性研究者比率の各国比較では、アイスランドやUKはほぼ半分くらいの男女比率なのですが、日本は10%代とかなり少ない状況です(下図左側)。
右側のグラフは、自然科学分野での女性の新規採用比率を表しています。ピンク色は女性を表していますが、特に工学分野は10%代と圧倒的に女性が少ないのです。AIは工学なので、私もAI学会の理事も行ったりしていましたけれど、女性理事が1人で参加したりしていました」
なぜこのような状況になったか、理由は複数あると坂本は続けました。
坂本:「まず分野として男性的なカルチャーがあるところです。男性がもともと多いので、なんとなくその形(男性的なカルチャー)で行われています。また、幼少時の経験や自己効力感の男女差もあると言われています。
加えて注目すべき点は、男性女性はこうあるべきという社会風土がなかなか消えずに根強いということです。面白いデータとして、女性が知的でない方がよいと思う人ほど、『数学といえば男性だよね』というイメージが強いという結果もあったりします。
もう1つは、『かわいい』という日本独特の価値観があります。かわいいことと知的ということが反する形になってしまっているので、例えば思春期に異性からかわいいと思われたいというときに、知的だとあまり好かれないのではと思ってしまうことがあります。私は、知的な女性を応援しようという社会になってほしいと思います」
女性の活躍が叫ばれるようになった一方で、脳の仕組みである「バイアス」との闘いが待っていると佐々木は続けました。
佐々木:「脳は1秒間に1,300万件ぐらいのデータを持っているのですが、全てを処理できるわけではありません。そのため、意識的に処理するのは約1秒間に約40件程度だそうです。それ以外は無意識にパターン認識して、概念処理しています。パターン認識とは、例えば『科学者の絵を書いて』と言ったら眼鏡をかけた男性をイメージするようなものです。CEOやリーダーと言ったら男性をイメージしてしまうのも同じです。こうした概念は6歳ぐらいまでにできあがると言われていて、これがバイアスというものです」
しかも、そういう(バイアスを持つ)人達が生成AIを作ることで、生成AIでも同じような結果が出てくる。生成AIが学習するインターネットにあるような情報もバイアスを持っているので、かなり頑張って叫び続けて事実を変えていかないといけないと議論が白熱しました。
ソフトバンクでは約2万人いる社員のうち、本部長や執行役員を含めて100名ぐらいが経営層と言えるものの、そのうち女性は1名しかいないと藤長は語ります。
藤長国浩(以下、藤長):「恥ずかしながら男性ばかりの経営陣でした。ようやく取り組みをはじめ、意識付けを行う意味であえて『女性』という冠をつけて女性活躍推進委員会を2021年に作り、私が法人部門の責任者をしています。
その中で、『女性が何でも話しやすい場がほしい・女性の悩みを男性上司に相談しにくい』という意見があったことから、組織を超えて、色々な人が集い、お互いを知り、気楽に話せる場所ということで「Terra's」というCo-workingを作り、女性も男性もこのCo-workingをホームベースとして飛躍していけるように、経営アジェンダの1つとしてとして促進しています。
また、働くママ支援策なども拡充していて、子どもが生まれてからも帰ってこられる(きやすい)ソフトバンクにしたいと思って色々な施策を走らせています」
研究者としても、以前よりは育休を取りやすくなったものの、その間にキャリアや業績が減ってしまうため、昇給時の不利になりやすいと坂本は語りました。
坂本:「今までと同様の条件にしてしまうと、悪循環が生まれてしまうのだと思います。これまでの歴史もあり、男性は仕事、女性は家庭という概念を連想してしまう仕組みになっています。
仕事を一生懸命やる方々はハードワークをして、家庭のことはサポートしてくれる人に任せるというモデルになりがちです。もちろん育休取得や家庭と両立してねという風に言うものの、じゃあ登用するかとか、チャレンジングな仕事をさせようと思うと(上司だけでなく本人も)女性は遠慮してしまうみたいなことが起きたりします」
最初からやらせないのではなく、まずはやらせて大変そうだったら周りがサポートするようにすべきであり、最初から遠慮して大変だからやらせないのではなく、ぜひチャンスを渡すべきだと坂本は語り、そのようなコミュニケーションを取りやすい雰囲気を作って仕事につなげていけばよい方向にいくのではと古坂氏は語りました。
古坂氏:「異なる感性を持つ人が集まる社会において、AI開発に求められることとは一体何なのでしょうか。AI開発のジェンダーバランスは現状、だいぶ偏っている状況です。正解不正解がないという多様性に寄り添うためにAIには何が必要でしょうか」
佐々木:「まずAIはデータを食べて回答を出すものだということです。データには言語データやヘルスケアのデータなどさまざまありますが、サンプルが偏っているんです。男性と女性、エスニックなどマイノリティーのデータがすごく少なかったりします。さらに、そのデータにはバイアスがくっついています。『女性には家庭』などのように連想する言葉にもバイアスがかかっています。これらのデータをAIに入れて普通に解析してしまうとバイアス製造機になってしまうのがリスクです。
そのため、サンプルデータをどう処理するか、アルゴリズムをどう設計するのかをエンジニアの皆さんが頑張らねばいけないのですが、そこ(エンジニア)にもジェンダーバランスの不平等があると、さらにバイアスが入ってしまうかもしれません」
古坂氏:「僕らの言葉をAIが食べているから、僕らの言葉を変えれば、AIも食べ物が変わるわけなんですね。これを地道に着実に行って撲滅しないといけないですね」
坂本:「AI開発者に女性が少ないことによる問題もいくつかあります。
まずは、アンコンシャスバイアスが含まれたAIシステムができてしまうということです。AIは開発者が設計して必要と思うデータを使ってトレーニングするわけなので、開発者自身の価値観やアンコンシャスバイアスが反映されてしまいます。偏ったデータや視点を学習してしまうと、特定の属性に不利益な判断をしてしまうことがあります。
もう1つは、女性が使いにくい製品、サービスがでてきてしまう点です。女性の視点が反映されないということになります。例えば音声認識システムでは、始まった当初は男性の声に最適化されていて、女性とか子どもの声を全然認識しなかったりしました」
多様性を実現するためにはAIが使えるところもあるのでは、と坂本は続けました。
坂本:「リアルな社会では、例えば管理職に女性が少ないので増やそうとしても、急に育てていくのは難しいし時間かかりますが、AIを使えば、多様性を実現できるのではないかと考えています。
例えば、会議の場がたまたま中堅の男性だけになってしまうと、多様性がない会議での偏った決定になってしまいます。しかし、ここに中堅の女性や高齢男性、若手女性などの役割のAIを設定してあげるわけです。そうすると会議の中でそういう立場で発言してくれるので、さまざまな立場で意見を反映できる可能性が上がるし、何より忖度しないで発言できるのがいいですね」
企業には従業員間のコミュニケーションを促進するにはどうしたらよいかという課題がありますが、この課題に対するAIの活用例が紹介されました。
藤長:「Axross Recipe というAIを利活用するためにはどうすればよいかを学習できるソフトバンクの研修サービスがあります。その Axross Recipe に新しい機能をつけようと開発していまして、本日はその機能を使ったデモンストレーションをさせていただきます」
このあと、6名の役割を持たせたAIにコミュニケーションを活性化させるにはどうしたらいいか質問し、それぞれ異なる立場のAIが回答し会話していくデモンストレーションが行われました。
佐々木:「AIを使った意思決定の多様性の可能性は有りうるなと思いました。(経営層に女性が少ない)既成事実を変えるには時間がかかります。しかし、自分たちの意思決定にバイアスがあるかもしれないということに気付くことができれば、日々の意思決定も変わってくるのではないでしょうか」
藤長:「AIはスマートフォンが出てきた当初のモメンタムを感じています。おそらく10年後には今スマートフォンを使っているのと同じ状況になっているのではと考えています。ソフトバンクとしては、AIで単なる効率化や業務の自動化するだけではなく、経営や現場の意思決定にもAIを活用しながら、皆さまとビジネスを推進してまいります」
AIに役割を持たせたデモンストレーションでは大いに場が盛り上がりました。
現役のエンジニアが、実際のビジネスの現場で取り組んだAI活用事例やそこで得たプログラミングなどのノウハウを教材化し、実践的かつ専門性の高い学習コンテンツをオンラインで提供します。
条件に該当するページがございません