Blogsブログ

「デジタルツイン」を活用した自動運転バス運行高度化の取り組み

#自動運転, #デジタルツイン

Scroll

はじめに

ソフトバンク株式会社(以下「ソフトバンク」)と慶應義塾大学SFC研究所(以下「SFC研究所」)は、 5G(第5世代移動通信システム)やBeyond 5G/6Gなどの先端技術を活用した次世代の情報インフラを研究開発する場として、慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(所在地:神奈川県藤沢市、以下「SFC」)に「デジタルツイン・キャンパス ラボ(以下DTCL)」を設立しております。

DTCLを支えているのは5Gの通信基盤とデジタルツイン基盤です。
今回は、各基盤の役割、またデジタルツイン基盤を活用した自動運転バスの運行高度化について紹介します。 

5Gの通信基盤について

キャンパス全域をカバーするため、SFC構内に4か所5G基地局を設置し5G SA(Stand Alone)環境を構築しました。(参考URL:https://www.softbank.jp/corp/technology/research/story-event/004/

5G SAの特長であるMEC(Multi-access Edge Computing)もSFC構内に設置しています。MECを活用することで、キャンパス内で処理を閉じることが可能であり、秘匿性も保たれます。例えば、低遅延性を生かしてローカルで実施していたAI処理をMECにオフロードすることも可能です。また、MECはキャンパス内だけでしかアクセスできないので、現実空間と同期が必要なデジタルツインと非常に相性が良いです。

また、5GコアネットワークにはSBA(Service Based Architecture)を導入しています。外部からコアネットワークの情報取得、制御ができるようAPI化(Enabler)についても開発し、広く学生に5Gコアネットワークを触ってもらえるような構成にしています。例えば、ある端末の接続状態を確認したり、トラフィックの優先度を変えたりすることで、大事な通信を優先して送ることが可能になります。

このように、カスタマイズ可能な5Gの通信基盤を構築しています。

デジタルツイン基盤について

幅広くデータを集約できるように、クラウド環境下にデジタルツインに関するデータを集約するプラットフォーム(DTCLプラットフォーム)を構築しました。キャンパス内の人流、車両をセンシングするため、SFC構内の建物の屋上にLiDARを設置しました。バスや道路上の車両、学生の動き、またバス停で待っている人をセンシングするために6台で広範囲をカバーしています。これらのLiDARからセンシングされた構造データをDTCLプラットフォームで収集し、参加者であれば誰でもデータを取得することが可能です。

キャンパス北側の信号灯火情報を取得するため、見通しの良い建物の屋上にカメラを設置しました。撮影した映像データを基に、DTCLプラットフォーム上で灯火情報へと変換しています。

これらのセンサーデータを集約し、適切な権限を持つ利用者に使いやすい形式で配信を行うのがDTCLプラットフォームの役目です。下の動画は、これらの取得されたデータを地図へとマッピングした例です。(動画は学生を乗せたバスが来た場面)

自動運転バスの運行高度化の取り組み

ここではDTCLの活動として、SFC研究所が神奈川中央交通株式会社と共同研究し運行している自動運転バスの走行システムにデジタルツイン基盤で取得しているセンサー情報を共有し、自動運転バスの運行の高度化を目指した取り組みを紹介いたします。

自動運転バスについて

自動運転レベル 2(部分運転自動化)で運行している、SFC内の看護医療学部発着の循環線です。GNSSやLiDAR によって自己位置を推定し、高精度地図の車線情報により車線維持など必要な制御を行います。運行に関する詳細については、下記のURLをご覧ください。

参考URL:https://www.kri.sfc.keio.ac.jp/ja/wp/wp-content/uploads/2022/05/220509_Kanachu_SFC.pdf

課題と解決策

自動運転バスの課題として、車両のセンサーだけでは見える範囲に限界があります。例えば建物の陰などの視覚外の場所や、逆光の影響を受けるカメラ映像など、場面によって認識精度にばらつきが生じてしまいます。また、良好な条件であっても、車両に設置しているLiDARやカメラの認識距離は、周辺数十メートル程度です。

これらの認識距離の限界や精度のばらつきは、自動運転バスの安全運行においては課題になります。より高度な自動運転を実現し安全性を高めるには、これらの課題を解決する必要があります。

そこで今回は、DTCLプラットフォームに集約されたセンサーデータを自動運転バスに共有することで、車載センサーでは認識できない範囲を認識することが可能となり、信号の前で自動でゆるやかな加減速を行うなどのスムーズな走行、また飛び出し危険予知による一時停止など安全性の向上が期待できます。
今回は自動運転バスの運行高度化について、2つのユースケースをご紹介します。

ユースケース① 右折時の対向車検知

これまでは、交差点の右折において、遠方からの車両が認識できていなかったため、必要に応じて手動運転に切り替える運用を行っていました。今回、SFC内の右折ポイントにおいて、建物の屋上に設置したセンサーから取得した対向直進車の情報をDTCLプラットフォームからリアルタイムに取得することで、自動運転バスのセンサーでは認識できなかった距離からの対向直進車の情報が認識できるようになります。これにより、完全に対向直進車がいなかったら自動で右折を行うような運用に切り替えることができました。また、対向直進車を認識した場合は、バス内のUIで警告を表示し、安全性をより高めています。

右折時に遠方の対向車情報を表示している様子

右折ポイントにおける自動運転バスの映像

ユースケース② 信号機の灯火予測による快適で安全な車両の運行

自動運転バスにおいて、信号機の情報は非常に重要です。例えば、信号機が赤になりそうであれば事前に減速するなど、乗り心地や安全性を改善することができます。一方で、車両に設置したカメラで信号機の灯火情報を検知する場合、逆光などが原因でうまく検知できないなどの課題があります。また、手動運転時においても交差点手前で黄色信号に変わった際の減速など、乗り心地に影響を及ぼします。

今回、SFC周辺の信号機の灯火情報についても、DTCLプラットフォームから取得しています。また、灯火情報を収集し続けることで、過去の灯火情報に基づいた信号サイクルを予測することもできます。これらのサイクルをバス内のUIに表示することで、事前に信号灯火情報を把握でき、急な加減速を防ぐことを実現しました。これにより乗り心地の向上や安全な運行が可能になります。

信号灯火情報を表示している様子

さいごに

「デジタルツイン・キャンパス ラボ」では、このようなデジタルツインの情報を活用した自動運転バスの運行高度化に向けた実証実験を行っていきます。今後もソフトバンクとSFC研究所は、「デジタルツイン・キャンパス ラボ」において、先端技術を活用した次世代情報インフラの研究開発を推進していきます。

プレスリリースはこちら:https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2023/20230531_01/

Research Areas
研究概要